世界を滅ぼす存在。前世の知識から得られた情報をもとに出したその結論が、私の人類に対する認識だった。
生きるだけならありふれたものだ。そんな命は掃いて捨てるほどいる。
繁栄するなら優れているだけだ。その程度の命は見飽きている。
だが欲望の赴くままに繁殖し、他の種を食い尽くし、環境を破壊し、四十六億年続いた世界をたったの数万年で覆い尽くし滅ぼさんとする種など、この世界では現れることは無かった。
人類だけが単一の種族で世界を滅ぼしうる可能性を持つ存在だった。
故に私は人類がこの世界に誕生したその時は、必ず滅ぼすと決めていた。
だが人類の誕生を確認した時、私のひび割れた魂の中で感情が叫び出した。
人類の欲望が私の倦怠を、永劫に続くであろう虚無を埋める娯楽を生み出すはずだと。見た限り人類はこの世界ではまともに生き抜くこともできていない。滅ぼすのはいつでもできるたやすいことだ。娯楽を生み出すまで繫栄させてからでも問題ないと。
結局脆い理性は感情に流され、私は人類を滅ぼさずあろうことか繁栄の手助けさえ始めた。より早く娯楽を生み出せるようになれば滅ぼすのも早くなると心の内で己に言い訳をして。
それが今の私。己の感情を理由に自ら定めた使命を果たすこともせず怠惰に生きる、そんな私だ。
「お前にこんな私を知られたくなかった。魂が壊れるその時まで、死と消滅を司る者として、世界の管理者として、お前の片割れとしてふさわしい存在でありたかった。
だが随分と私の魂はすり減った、為さねばならぬことよりも感情を優先してしまうほどに。為すべき使命を果たせぬほどに。
ここにお前の知る〈あまねくおわり〉はいない。いるのは堕落したまがい物だ。お前が、この世界で唯一純粋なドラゴンである存在が会いに来るべき存在はもうここにはいないのだ」
私はそう言って顔をそむけた。私の言葉を聞いた〈かがやくいのち〉はゆったりと私に語り掛ける。
「君の言葉はいつもむずかしいね」
〈かがやくいのち〉はそう言って、過去を思い返すように目を閉じた。
「僕がまだこうやって言葉を話すようになる前のときみたいだね。なにも知らない僕が君にじゃれついて君が僕に話しかけるけれど僕はよくわからなくて、鳴き声を上げながらずっと君に擦りついていたね」
懐かしい話だ。当時の私が今の私を見たならば何と思うだろう。理解できないと困惑するか、情けないと軽蔑するだろうか。
「君に色んなことを教えてもらったよね。土のこと、風のこと、水のこと、火のこと、命のこと。君が教えて、でも僕はうまく創れなくって、何回も創りなおした。今になって思うんだ。新しいことを知って、生み出すときの感覚が"楽しい"っていう感情で、君が喜ぶのを見る感覚が"嬉しい"っていう感情だったんだって」
ああ、無垢なお前が眩しい。私自身の為に無邪気なお前に多くを教え、利用したという事実が後ろめたい。
「君は教えてくれたよね。僕たちドラゴンは感情が希薄な生き物だって。そのせいなのかな、生き物たちの感情も君の心も、僕はずうっと分からなかった。けれどね、君が人間を見守って来たこの千年のあいだに僕も人間を見てきて、少しだけ感情が分かるようになったんだよ」
そういって〈かがやくいのち〉は私をまっすぐに見つめる。私にはその眼差しを弱弱しい視線で見つめ返すことしかできなかった。
「それでやっと解ったんだ。君の魂はずっと、"寂しい"の形をしていたんだって」
「寂しい、だと……?」
〈かがやくいのち〉のその言葉は私にとって受け入れがたいようでいて、けれども自然に私の心に入り込んできた。
「うん。だからここに来たんだ。君の"寂しい"をなくしたいから。かつて君が僕と一緒にいてくれたみたいに、今度は僕が君と一緒にいたいって思ったから」
自分から〈かがやくいのち〉と距離を置いたというのに、私は寂しがっていたのか。だから人間を見つけた時、寂しさを抱えた人間としての人格が同族に滅びてほしくないと思ったのか。こんな単純な感情が私の精神を蝕んでいたのかと思った途端、自分の滑稽さにおかしくなってしまう。
私は〈かがやくいのち〉に話しかける。
「私はお前を利用した。お前に教えたことの全ては私の望みの為であったのだぞ」
「それの何がいけないの?君の望みを叶えることが僕の望みだよ。君の喜びが僕の喜びだ」
〈かがやくいのち〉が一歩、私に近づく。
「私はこの世界を管理し見守らねばならない存在でありながら、私利私欲の為に世界と命に手を出し弄んだのだぞ」
「この世界は僕と君が、僕と君の為に創った世界だよ。君の為に世界を動かすことを、どうしてしてはいけないの?」
〈かがやくいのち〉がまた一歩、私に近づく。
「私が繁栄させた人間は、いずれこの世界を壊してしまうかもしれない」
「この世界は一つの種族に脅かされるほど弱くないし、もしも壊れそうになったら僕が直すよ」
〈かがやくいのち〉がまた一歩、私に近づく。
「私の魂は純粋なドラゴンのそれとは違う。人の魂によって歪んだまがい物だ」
「もしそうだとしても、僕にとってはそれが君だよ。君だけが、僕の一番大切な君なんだ」
〈かがやくいのち〉の脚が私に触れ、翼が私を包んだ。
「君の体は、かたくてつめたいね。あの時からなにも変わらないよ」
久しぶりに感じたぬくもりが私の心に染み込んでいくようで。暖かくて、やわらかくて、心安らぐ感覚に包まれて、私の眼からいつの間にか涙が溢れ出していた。
書きたいものを書けるのが創作の利点だけど書きたいように書けるかどうかは別ということを痛感するばかりですね
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