学園都市キヴォトス
──全く、なんでこうなったのやら。
そう言って俺を問い掛かるのは真正面にて座る子供……つまり生徒が一人、その両脇居るのは黒い長髪でエルフの様な長い耳の子と、常に笑顔を浮かべながらもこちらを品定めするかのような目線を飛ばしてくる桃色の髪の子の二人。
三人とも見事に特徴がバラバラだが共通している点が二つ、一つは全員が女である事、これはまぁいい。
二つ目は全員の頭に例外なく模様の様な物が浮かんでいる事……形はそれぞれ違うみたいだけど。
「アンタは、何しにキヴォトスに来た」
──いやホント、なんでこうなったのかね……
「直接出迎えに行くんですか⁉︎」
「仕方ねえだろ、駅からここまで何気に遠いんだから」
「だからといって何もあなたが直接出向かなくても……」
「まぁまぁ、2〜30分もすれば戻るから、宜しく」
「はぁ……(今度思いっきり殴ってやりましょうか、効かないでしょうけど)」
全くリンは小言が長くていけないねぇ、もう少しカヤのように柔軟に考えを持たないとって口酸っぱく言ってるはずなんだが、まぁあの真面目さは長所だし特に口出しする気もねぇけど、まぁ逆にカヤは柔軟すぎて時折トンチキな事抜かすから割とバランスは取れてる……のか?
まぁいいか、こっから駅までは
「そうもいかねえか」
『お゛ぉ゛あ゛ぁ゛ばぁ゛ん゛』
──なんで此処に湧いてんだよ、結界が緩んでんのか?
「百鬼夜行から漏れたにせよ見かけたからには消しとかねえとな」
駅に到着するとソイツは居た、ちゃんと時間通り……いや寧ろ少々早いまである、時間を守れる人間は好感が持てる。
「くくっ居たな、こうまで正確だと笑えてくるな」
“えっと……君は?”
第一印象はひ弱な生物、いやまぁ成人男性且つ筋肉のつき方からそれなりに体力はあるんだろうがそれでも弱い、これがキヴォトスの外の……ヘイローも何も持たない唯の人間か。
「……人に物を尋ねる時はまずは自分からだろう」
なのでちょっとだけ意地悪に振る舞ってみようか。
“あぁごめんね、私は──”
「私は神将マコラ、年齢18歳、今回の一件でアンタの案内をする者だ」
“君から名乗るんだね⁉︎”
「クックック……冗談だよ、アンタのことは事前にとある人物から聞いてた、書類もある事だしな、だからまぁここで聞きたいのは事実確認みたいな物だ」
“えぇ……私は透情蒼記、多分君が言ったその人物に頼まれて、ここに来た”
「OK、今はそれでいい、詳しくは生徒会にて聞こう」
なんとも掴めない子だ、18との事だが精神があまりにも達観しているというか、大人過ぎるというか……なんとも年相応では無い雰囲気だ。
「ここから少し歩くが何か質問があるか?可能な限り答えていくつもりだが」
簡単な質疑応答の時間に入ったようなので今の内に聞きたいことは全部聞いとこうか、既に聞きたい事が山程あるんだ。
“あぁ、じゃあ遠慮なく聞くけど君のその頭のやつ何?天使の輪?私死んだつもりはないんだけど”
「安心しろ、アンタはまだ生きてるよ、コイツはヘイローと呼ばれる物でな、まぁ此処に住んでる生徒には基本備わってる物だ、原理や仕組みは知らん、そういう物として認識しろ」
“そっか、じゃあ次は……ロボットや動物が二足歩行で歩いててしかも会話してる様に見えるんだけど目の錯覚じゃないよね?”
「アンタの目は正常だぜ、アレは歴とした住民だよ、人みたいに感情があるし腹が減ったら飯も食う……ちゃんと排泄もするぞ」
“うん最後の情報は別に要らなかったかな”
ロボも排泄する時代かぁ……
“さっき述べてた生徒の事なんだけど……”
「どうした、小子趣味か?マズイな……それは想定してなかった」
“断じて違うが?”
とんでもない疑惑が向けられそうになった。
「そうか、ならよかった……出会って数秒で警察に突き出す羽目になるかと」
“嫌でも目に入るし敢えてスルーしてたけどそろそろ限界だから聞くんだけども、何でみんな銃を持って武装してるの?”
「それが
“マジ?”
「マジ、さぁ着いたぞ、此処で面談を行う、下手打つと拒否られるから頑張れよ」
デカいビルに入ると長い金髪で黒い翼が生えた子が迎えてくれた、翼が生えた生徒もいるのか、もうなんでもありだな。
「あ、お疲れ様です、マコラさん……その人が?」
「おう、直ぐに始める、リンとカヤは?」
「既に待機しています、あとはお二人だけです」
「良し」
二人の態度を見るに結構上の方の立場っぽいね、マコラは。
「入るぞ」
そう言うとマコラはドアを開けて我が物顔で部屋に入って行った、ノックしろよ。
“いやノックはしろよ”
「
部屋に入ると既に二人の人物が待機していた、この二人がさっき言ってたリンとカヤという人物なんだろう……何故かもっと言ってやれという表情をしているが。
「さて、ざっくりと紹介しようか、こっちの硬い表情の黒髪が
「んでこっちの開いてんのか閉じてんのかわからん目をしてるピンク髪が
なん……って適当な紹介なんだ、二人とは今聞いた名前しか知らん程の初対面だが今二人が言いたいことは分かる、もうちょっとマシな紹介はなかったのかと、そう目線で訴えている。
「んで私が神将マコラ、失踪した前任に変わり仮とは言え連邦生徒会長の席に収まっちまってる者だ」
“あ、君が頭なんだね”
「おう、似合わんだろ」
“うん”
「はっきり言うねぇ」
だってマジに似合わないだもん、ていうか……
“組織のトップ直々に案内したの?”
あ、二人がわかるって表情してる、やっぱり他の人が来るなりする手筈だったんだ、苦労してんだなぁ……
“君達二人、苦労させられてんだね”
「「そうなんですよ」」
「おい」
“んで、失踪した前任ってのは?”
「その件はいまは流そう、今重要なのはあんたの合否についてだ、面談を始めようか、掛けてくれ」
そうやって椅子に掛けて面談が始まった。
そういやこんな流れだったな。
“先生として働く為の面談……ってのが答えじゃなさそうだね”
「正解、アンタが先生に就いてその先に何を求めるのかがこの面談の肝だ、納得のいかん答えを述べよう物なら突き返すからそのつもりでな」
うーん、下手な答えは出来ないねこれ……しかもこれ椅子に座るよう指示されたけどこれ逆に言えば動きを封じられたとも言える、その上で確信はないけど部屋にいるのは俺を入れて四人だけど、多分どこかに気配を消して潜ませてるね、下手に動こうとすれば即座に制圧されるとみていいかな。
“答えも理由も何も……単純に頼まれたから此処に来て先生をやるだけだよ、本当にそれ以上は無い”
「話聞いてたか?それで納得すると思ってんのかアンタ」
“助けを求められたからな”
──コイツ、マジに言ってやがる、偽りも打算も無く大マジにそれだけでここに来やがった、とは言えそれじゃここにいる奴等が納得しねぇんだよ
「ちょうどいい機会だ、教えてやるよ、キヴォトスの生徒の在り方って奴を」
そう言ってマコラは拳銃を取り出した、何するつもりだ。
「コイツはキヴォトスで流通してる銃の中でも威力が低い、これを……」
そう言ってマコラは自身に銃身を向けた。
“おい‼︎何やって──‼︎”
俺の言葉が紡がれるより先に弾丸が放たれる、然し俺が想像していた事象にはならず、実際には肉体に阻まれひしゃげた弾丸のみがそこにあった。
「──これがキヴォトスの生徒の実態だ、どれだけ威力を上げようと並大抵の弾丸じゃ肉体を貫くには至らず、軽い怪我程度だ済む、だがなキヴォトスの外からきた……つまりヘイローを持たないアンタは別だ、このハナクソみたいな威力しか出せない銃の弾丸一発でもアンタの肉体を貫き、死に至らしめる事ができる、そんな物が飛び交うのがキヴォトスの日常だ」
“映画も真っ青な設定な世界だな、だけど”
「そう、此処は現実だ、映画やアニメの世界では無い、加えて言うならばアンタはここに来るまでの道中で生徒達の目線が気にならなかったか?」
“あぁ、やけに警戒されてたね、何かした覚えは無いんだけども”
ここにくる道中の生徒、そしてさっき入り口であった子とこの二人もそう、そのすべての生徒に警戒色の強い視線を送られたはなんとなく理解していた、理由は知らん、マジに身に覚えがないし。
「それはな、
“……続けて?”
「キヴォトスの大人ってのは酷い物でな、金欲馬鹿、権力馬鹿、高慢馬鹿、ただの馬鹿、平たく言えば腐ったミカンのバーゲンセールだよ、だけどそいつらは基本的に武力面では生徒より弱い、真正面からヨーイドンで殴り合ったらこの二人でも勝てる、書類仕事が主なこの二人にもだぞ?」
“だから知略面で絡んでくると”
「そう、武力じゃ勝てない奴ってのは無駄に頭を働かせる、そうして生徒の知識の外から凡ゆる手段を用いて生徒達を嵌める、特に立場の弱い生徒が標的になりやすいな、違法な取引や低賃金重労働なら御の字、運が悪いと違法実験や死ぬまでこき使わされて骨の髄まで搾り取られるなんてのはザラだ、そんな大人が蔓延ってるのがこのキヴォトスだ」
“ドス黒過ぎでしょ、大丈夫なのキヴォトス”
「普通にヤバい、無論いい大人が居るってのも知ってるさ、だがアンタはどうだ、
“……”
「そんなすぐに死ぬかもしれない世界でアンタは、『
“『
“正直に言うと、なんで
「……その理由は?」
“ここの生徒は皆立派だよ、正直キヴォトスの外にいる大人よりも大人な子がちらほらいると思う、学園都市っつうくらいだからな、多分学校の運営も生徒がやってんだと思うわ”
「概ね、その通りだな」
“さっきの話を聞いた限りだと基本的に子供は大人を頼らない、頼れない、だって後で何を請求されるかわかったモンじゃ無いからな、だけどな、子供が進む道を迷った時どうすればいいかわからなくなった時、そんな時に頼りたくなるのが大人の存在なんだよ、
「……それで?」
“頼れる人間がいないと人間ってのは全部一人で抱え込む、だけど人間一人じゃ抱え込める量ってのは決まってるからその量の重さで潰れるんだよ、そりゃそうだよな、他に頼れる人間がいないんだから、『信頼が無い?』『警戒されてる?』そんなモン当たり前だろ、だからって歩み寄らない理由にはならないし此処に居る大人が生徒に寄り添う事をしなかったからこそ俺だけは生徒の側に寄り添ってその重みを背負ってやりたい、それが俺が考える大人の役目だ”
「その結果死ぬ事になってもか?」
“俺がどう死ぬかは正直知らんし興味も無い。けど生き様で後悔はしたくねぇんだわ、後悔は……もう沢山なんだよ、それに”
「それに?」
“人や生徒を助けるに当たって俺は深く考えたく無い、
「お前、それマジに言ってんのか、そんな理由の為に、自分の命を賭けれると?」
“おう、二言は無い”
俺の言葉を最後に、室内を静寂が包んだ、それは一分か、十分か、もっと短いかもしれないし長かったかもしれない、だけど終わりは唐突だった。
「くくっ……ハッハッハッハ‼︎」
マコラが唐突にゲラゲラと大笑いし始めた、何かツボでも入ったのかな。
「良いなお前‼︎最ッ高にイカれた野郎だ‼︎だがお前みたいなのは嫌いじゃない、寧ろ好みだ」
“お褒めに預かりドーモ”
「リン、
「ッ‼︎それでは」
マコラがリンに向かって指示を飛ばし再びこちらに視線を寄越しニヤリと笑う。
「合格だ、ようこそ学園都市キヴォトスへ」
「どう思う?カヤ」
「まぁ悪い人では無いと思いますよ?前連邦生徒会長が選出した人ですから無能では無いと思いますし、あの言葉も本心でしょうしね」
「それとだが、アイツ薄々とではあるだろうが、
「ッ‼︎それは」
「流石に人数と位置までは把握してなかっただろうが、
まだまだ修練不足って事にするにはちょっと難しいかもな、兎も狐もSRTの生徒の中でも優秀な生徒で組まれたチームだ、多少気配の漏れがあったとしてもズブのど素人に気づけたり勘付けるほどやわな鍛え方はしてないしさせて無い、余程アイツの視野が広いのか勘が鋭いのか或いはその両方か……
「まぁ、此処は素直に流石はあの女が選んだだけの事はあるって事にしておこう……だからそこまで怯えなくていいからなお前ら、次はねえけど」
辺りから安心した様な気配がした、直接指導したろかこいつら。
言質取ったり、はい縛り。
このやりとりを見て少なくともリンとカヤはドン引きしてる、この二人は呪術的取引のやり方を前任含めてマコラから聞かされてるんでね。
リンとカヤの立ち位置は大方七海さんと伊地知さん、苦労人枠とも言う。