裏切れなかった少女の話   作:息抜きのもなか

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先生に対するアンチ・ヘイト発言がございます。
ご注意ください。


11.先生

 雷帝どころか、連邦生徒会長も蒸発した。

 代わりにやってきたシャーレという機関に配属された大人が活躍している。

 百合園セイアの襲撃を終えて一つずつ計画を進めていた段階での暗雲に、アリウス内でも不安の声がちらほらと上がってきた。

 

「監督官、計画は大丈夫なんだろうな?」

「ええ、ティーパーティーの臨時ホストである桐藤ナギサがエデン条約を進める準備をしているようですので、少し時期は後ろ倒しになるかもしれませんがこのまま準備を進めます」

 

 聖園ミカの接触は予想外であったものの、彼女のおかげで百合園セイアの排除をゼロ被害で達成できたことは大きい。次なる桐藤ナギサ襲撃と大本命の調印式に割ける人数が倍以上になったのだから、その作戦貢献度は計り知れない。

 一度ナナカも聖園ミカと顔を合わせたことがあるが、御しやすいなというのが正直な感想だ。

 自分とよく似ている、というと聖園ミカに失礼かもしれないが、かつて自分がマダムにやられたようなことを彼女に行っているので、その感情の揺れ方が手に取るようにわかる。

 その感情の逃げ先を誘導してあげれば簡単に彼女の中で行動した理由とすり替わってしまったようで、ゲヘナともアリウスとも仲良くしたいと言っていた少女が今やゲヘナ憎しと昏い目をして躍起になっていた。約束のために動いていた自分も人のことは言えたものではないと思いながら、ナナカは聖園ミカに憐れみの情を抱いていた。

 

万魔殿(パンデモニウム・ソサエティ)との交渉も順調に進んでいます。恐らく年内には調印式が行われるでしょう」

「襲撃にはお前も参加するらしいな、監督官」

 

 ナナカはいつの間にか生徒としては最年長になっていた。多くいたはずの先輩方も脱走の(ペナルティ)か危険な任務の過程で命を落としたため、危険な任務をあまり回されなかった彼女が生き残った。

 そこに思うところは在れど、もうそれに対して自責を行うほど子供でもない。

 ただ割り切って淡々と日々を過ごしていくのみである。

 そして最年長になった結果設けられた役職が、儀式の準備で忙しくなり始めたマダムに代わってアリウス生を統率する監督官という役割だった。正直重要な内容は直接マダムに確認しろと言いつけてあるのであまり機能している気はしなかったものの、マダムとの通信権限を持たない生徒たちからは中間管理職のように扱われ些事の確認をされることが多かった。

 

「調印式の方はそうですね。桐藤ナギサの件はアズサさんとレミリさんたちにお任せしています」

「そのままアズサにやらせる気かよ。監督官もマダムも、百合園セイアの件について知らないわけじゃあないだろう?」

 

 外に出ていた部隊が発見した、蒼森ミネの姿。

 鬼気迫る様子だったために手は出さなかったが、百合園セイアと共に行方不明となったはずのその人物の目撃情報があったことで計画が失敗に終わっていた可能性が囁かれ始めていた。

 

「もともとスクワッドは不確定要素です。アズサさんは特に。百合園セイアには戦線離脱していただければそれで構わないですが、聖園ミカに生存の報だけは聞かれないようにお願いしますね」

「わかっている。アズサが裏切っても、聖園ミカとアリウス生半数で押し切れば目的は果たせる。そういう魂胆だな?」

「その認識で問題ありません」

 

 実際は桐藤ナギサの襲撃もそこまでアリウスにとって重要度は高くない。

 聖園ミカに対するポーズと実戦経験の少ない年少組に作戦行動の練習をさせるためのものでしかないが、それでも十二分に過剰戦力のはずである。主力部隊を出さず、現状の足手まといや作戦未経験の中等部生、初等部生が中心の数だけの部隊とはいえ、そこらの治安維持部隊と比べても遜色ない戦いができる練度は有している。

 聖園ミカを引き返せないところまで突き落とし、傀儡にすることができれば万々歳と言えるだろうが、彼女はそこまで愚かではないだろうなとナナカは思う。

 自分とは違って聖園ミカは、自らの意思でトリニティを裏切っている。結果だけ見れば似通っているが、彼女は自分の目的のためならアリウスすらも裏切る覚悟があるはずだ。それこそ、百合園セイアの生存を知ったら正気に戻るぐらいには。

 

「監督官は、シャーレの先生についても調査に行ってたな。監督官から見て、先生とやらはどうだったよ?」

 

 聞かれて、連邦生徒会長と入れ替わるように現れた連邦捜査部の大人についての調査のことを思い出す。

 そのナナカの眼が昏い色に変わったのを見て、彼女に質問した生徒の顔が強張った。

 

「ああ、おぞましい人間だったよ」

 

 彼女がD.U.の土地を訪れた時、先生はヴァルキューレの生徒と話していた。近くには捕らえられ連行される不良たちの姿があったために何があったのかは一目瞭然だったのだが、その光景に違和感を感じたことを覚えている。

 それから何日か観察を続けていたら、シャーレの建物に出入りする生徒の多いこと多いこと。特別な関係になっている生徒こそいないようだったが、ゲヘナの風紀委員会の生徒に対してはあからさまにおかしな言動をしていたり、不特定多数の生徒に勘違いされるような言動をしたり、『教師』としての立場の人間としては疑問を覚える行動も多く見受けられた。

 当番という形でシャーレの仕事を手伝わせているようだったが、そこに規則性は見つからない。初めは各校の影響力を持つ者たちを優遇して政治を行っているのかと思えば、ミレニアムのゲーム部だったりトリニティのスイーツ部だったりと全く権力からは離れた位置にいる生徒たちも当番に呼ばれていて混乱させれたものだ。

 それでも一つ気付いたことがあるとすれば、当番の生徒たちは先生に対して少なからず()()()()()()()()ということ。そしてそれは逆もまた(しか)りで、当番の来る生徒に対しては先生の態度が他の生徒に向けるものより遥かに丁寧で繊細だった。

 

「自分のお気に入りには態度を変える。人間としては普通のことですが、『先生』という立場から考えれば褒められたものではありませんね」

 

 最初の一週間の観察を終えて彼女が抱いたのは、そんな感想だった。

 戦闘の指揮能力は彼女の眼から見ても拙い。だがそれを受けた生徒たちが普段とは及びつかないような能力を発揮して押し切ってしまって、ナナカはそのやり方に困惑した。そのやり方はシャーレという寄せ集めの人間たちで戦うには適しているのかもしれないが、アリウスで統率の取れた戦いを学んできたナナカにとっては見れたものではなかった。

 また、本人はあのシッテムの箱とやらで守られていて危険に晒されないため、実際危険な目に遭っているのは戦っている生徒だけ。まるで自分も戦場にいるかのように振る舞いながら、安全圏から指示だけ出しているのその姿勢も好きになれそうにない。

 当番の人選と戦闘指揮。その二つだけでも正直好きになれる要素がなく、お腹いっぱいだった。

 ナナカには何故あんな人間が慕われているのか、理解ができそうにない。

 

「犯人確保にご助力いただき感謝します。またよろしくお願いします、先生」

 

 ヴァルキューレの局長と話している先生の姿を見て、ナナカは違和感に気が付いた。隣にいる生徒に向けて視線を向けた時、その視線を下に向けたように見えたのだ。

 ヴァルキューレの局長の隣にいた生徒は、()()()()()()()()()()()()()()

 それを見た初めはセクハラまがいの行動で胸や腰回りに目を向けているのかと思ったが、先生を見る限りどうやらそんな様子はない。注意深く見ていけば、ヴァルキューレの局長以外のヴァルキューレ生を見るときに、不自然に一定の高さに目線を向けているように感じられた。

 彼の警察学校に入学する生徒にも当たり前だが個人差があり、背の高いものもいれば低いものもいる。なのにもかかわらずあの先生が見ているのは平均的な身長ぐらいの位置。相手の背が高かろうが低かろうが変わらない。

 そしてそれはヴァルキューレ生だけではなく、不良生徒にも、ヘルメット団にも、ミレニアムの生徒にも、どの学園の生徒にも適用されるようで、先生が名前を呼ぶ以外の生徒はみな同じぐらいの高さに視線が固定されている。

 それに気付いている生徒も少なくないのだろう。身長の高い生徒が先生の前に行って目線を合わせられず、小さくなって去っていくというのを何度か見かけた。

 

「自分が取るに足らないモブだと突き付けられて傷付いていることを知らないのでしょうね」

 

 何が先生。何が生徒すべての味方だ。

 自分が気に掛ける者たち以外のことなど、眼中にないくせに。

 

 怒りを潜めてシャーレに戻ろうとする先生の前に姿を現してみることにした。なぜか自分が先生の眼中にない確信があって、であれば顔を晒しても問題ないだろうと判断したのだ。モブの生徒が全員同じように見えているなら、顔なんてわからないだろうから。

 案の定、視線が下を向いた。図らずも胸に視線を向けられたような形になって、虫唾が奔る。

 銃を突きつけたい。シッテムの箱の弾避けが効かないぐらいのゼロ距離からこの無防備な腹に銃弾をぶち込んでやりたい。

 その気持ちをなんとか堪えて、挨拶をする。

 

「はじめまして先生。お会いできて光栄です」

 

 自分の軽率な行動で皆を巻き込むわけにはいかない。

 ここで先生を殺せる保証もない。もし殺せても、自分がアリウス生だとバレたら捜査が入って芋蔓式に計画が見つかってしまうかもしれない。皆の努力を水泡に帰するような真似はできない。

 

「えっと、どこの生徒さんかな? 知らない制服だね」

「いつか会えますよ」

 

 先生とはいつか、敵対する気がするんです。そんなことを口走りそうになって、口を塞いだ。

 今日は挨拶だけで失礼しますと頭を下げてその場を辞して、泊まっていたホテルのトイレで胃を空にする勢いで吐いた。

 自分にあんなに感情が残っていたなんて知らなかった。

 生理的に無理という言葉の意味を初めて理解する。次に顔を合わせたら、我慢できずに殺してしまうかもしれない。叩き均されたはずの感情が荒れ狂うのを感じた。

 この時点でナナカには嫌な予感があったのだ。

 個の力で優れる彼女たちが、先生の指揮という強化を受けてアリウスに攻め入るのではないか。

 いつか思い描いた最悪の未来が迫っているような気がして、ナナカは眠るのが恐ろしくなった。




私なりのモブに対する解釈。全員同じ見た目なんてことは現実に考えてないわけで。
記号化といったらそれまでですが、本当に先生からはゲーム内描写のように見えているとしたら、という仮定のもとお楽しみください。
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