「村が包囲されたようですね」
「天使を召喚していることから、恐らくスレイン法国でしょう。狙いは……私でしょうな。国から離れ、単独行動をしているのを好機と見られたのでしょう」
状況を推測したガゼフが語る。それに対しモモンガ、いやアインズは尋ねた。
「魔物の襲撃自体が誘き出すための仕込みだったという可能性は?」
「可能性としてはあり得るかもしれません。しかし生憎とそれが実行可能なのかどうか、私の知識では判断できないのです。申し訳ない」
「そうですか。いえ、知らないのなら仕方ありません」
(アウラのようなテイマーや同じようなことができるアイテムがあるかはわからないか……)
望んだ情報が得られなかったことに少しがっかりするアインズ。
そんな彼の内心を他所にガゼフは彼に頼み事をする。
「ゴウン殿、私は一人で立ち向かうことにする。だからもう一度だけでいい。この村を守っていただけないか?」
「約束しましょう。このアインズ・ウル・ゴウンの名にかけて」
アインズはこれに承諾して、あるアイテムを渡した。それは居場所を入れ替えるアイテムだった。
「くっ」
スレイン法国相手に奮戦するガゼフ。しかし多勢に圧され、力尽きようとしていた。
「そろそろ交代だな」
ガゼフの戦いを観測していたアインズは、彼に渡したアイテムを発動させる。その効果によって、両者の場所が入れ替わった。
「なっ!!?」
狙っていたターゲットであるガゼフが消え、代わりに謎の男が現れたことに動揺するスレイン法国の特殊部隊、陽光聖典の隊長、ニグン・グリッド・ルーイン。
「貴様、何者だ!? ガゼフをどこへやった」
「初めまして、スレイン法国の皆さん。私はアインズ・ウル・ゴウン。ここからは私が相手をしよう」
「くっ、勝手なことを!!」
(ここでガゼフを逃がす訳にはいかん!! 魔物が村を襲撃とする予想外の事態で、労せずして奴を国から引き離せたこのチャンス、無駄にはできんのだ!!)
ニグンは内心で毒づく。この世界の人間種は脆弱で常にその生存圏を脅かされている。彼の暮らすスレイン法国はクズハとスルシャーナという庇護者によって守られていることで安全を保たれているが、もし彼等が失われれば瞬く間に安寧は揺るぎ、人間自体が滅びるだろう。
(新たに現れるプレイヤーがクズハ様やスルシャーナ様と折り合いのいい方であればいい。しかし八欲王のようなものであれば、そしてそれに破滅の竜王や混沌の竜王の襲来が重なれば、神であろうと危うい)
この世界のスレイン法国の者達は六大神とそれ以外のプレイヤーを明確に区別していた。クズハという絶対的な守護者が既に存在するが故に、彼等は「見も知らぬ神」に縋る必要がなかったからだ。現状の安定を崩す可能性がある存在として、六大神以外のプレイヤーには崇拝よりも寧ろ、忌避感を抱いているものの方が多いくらいである。
同時にスレイン法国の国民は神に頼り切らず、自分達で出来る限りなんとかしようという精神を持っていた。
(危機に陥れば評議国の奴等までも動きだすかもしれん!! そのような最悪な状況にならぬために、我等の役目はせめて脅威の一角を抑えること。そのために人類はまとまらなければならないのだ!!)
”八欲王に勝利し”世界の大部分において支配者の立場を辛うじて守った評議国の竜王たちは、人類の生存圏を支配領域とするクズハを目の上のたんこぶとし、攻め入る機会を狙っている。少なくとも法国の人間はそのように考えている。
故に人類も法国も盤石ではない。砂上の楼閣と化さぬために最善をすすめること、それこそが自分達の使命であるとニグンは考えている。
人類を統一に近づける手段として、腐敗した王国を帝国に併合させる。その障害となるガゼフを殺す、更にその障害となるアインズも殺す、それこそが自分の使命だとニグンは決意する。
「その男を殺せ!!」
ニグンはアインズに対しての攻撃の指示を出す。
彼の使命感は立派なもので、しかし相手が悪過ぎた。天使がアインズを貫くが、その攻撃はアインズのパッシブスキルである上位物理無効化によって完全に無力化されてしまう。
そして更にアインズは魔法すら使うことなく、天使を押しつぶした。
「い、一斉に仕掛けろ!!」
アインズの強さにニグンは攻撃のレベルを上げる。
召喚した天使と
圧倒的な実力差。それを悟ったニグンは切り札を切ることを決めた。
「こ、高位天使を召喚する!! 時間を稼げ!!」
(高位天使? どのぐらいのレベルだ? ユグドラシルの基準なら
ニグンの言葉にアインズは少しだけ警戒をする。
「見よ!高位天使の尊き姿を!
そして召喚された天使を見てアインズは呆れ、落胆した。
(おいおい、まさかドミニオンかよ。高位じゃなくて中位じゃないか)
ユグドラシルではレベル60くらいの雑魚魔物を切り札として召喚してきたことにこの世界のレベルは本気で低そうだと考え始める。
自身の切り札を見ても余裕を全く崩さないアインズを見て、動揺しつつニグンは天使を操り攻撃を放った。
「〈
何故か第七位階にもかかわらず、極撃と大げさな言葉のついた魔法を放つ。その一撃はアインズに突き刺さり、明確なダメージを与えた。
「はははっ、これがダメージを負う感覚か。痛みか」
ただしそれは苦しみというには程遠く、寧ろ新しい経験をさせてくれたという喜びを与える程度のものだったが。
「今度はこちらの番だな。絶望を知れ。〈
一撃、アインズの放ったたった一撃の魔法で天使は消滅した。
「ば、馬鹿な……」
「せめてもの慈悲だ。楽に殺してやろう」
最早勝敗は決した。脆弱な人間は後は無慈悲に命を狩られるのみ。その場の誰もがそう思った。
しかしその時だった。
「んっ?」
急に視界が曇ってきたと思ったら、瞬く間に周囲に霧が立ち込める。数メートル先も見えない程の濃い霧。
「そこまでにしていただけるかしら」
そしてその霧の中から、黒い長髪の女がその場に現れ、その手に持った巨大な鎌をアインズに向かって振るったのだった。
(なっ!?)
驚愕するアインズ。敵のあまりの弱さに気を抜いていた部分はあったし、霧で視界は閉ざされていた。しかしそれ等を考慮しても、相手は自分に気付かれず接近してみせたのだ。明らかにこれまでとはレベルの違う相手の登場に彼は激しく動揺し、しかもそれでも反射的に回避行動を取る。
そのおかげか、あるいは最初から直撃させる気はなかったのか。女の鎌はアインズの胸の部分をかすめるだけとなった。
(危な……)
「うぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!」
危機を回避した、そう考えたアインズは次の瞬間、凄まじい痛みに支配者の演技も忘れみっともなく叫んでしまう。
先程のダメージの感覚などとは次元の違う、本物の苦痛。それをアインズは感じていた。
「ア、アインズ様!?」
叫ぶアインズに駆け寄るアルベド。それを見下ろしながら、女は語る。
「ふふふっ、言っておくけどこれは貴方たちにこの世界はゲームではない事を理解してもらうために加減したものなのよ。”わからせ”と言うのだったかしら?」
ゲームの力を再現したプレイヤーの力は強大といえるだろう。技量に関してもトッププレイヤーは侮れないものを持っている。弱点である精神面も異業種の場合は精神変容や精神耐性のスキルである程度補われてしまっている。
しかし穴が無い訳ではない。女の持っている武器はその穴をついた武器だった。ゲームであるユグドラシルにはリアルな痛みなど再現されていない。そんなゲームは誰もやりたがらないからだ。だからプレイヤーは痛みに慣れていないし、ゲームとしても痛み耐性など存在しない。そこをついて、ダメージよりも苦痛を与えることを優先した武器を白面は産み出したのだった。霊体を蝕み、神経の無い生物にも確実に痛みを与える武器を。
「この下等生物があああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
女の言葉に激昂したアルベドが絶叫する。
女に飛び掛かり、女はそれを迎え撃つ体勢をとった。
非公式魔王の配下と白面の配下、<