「まさか、いきなりあんな厄介な相手と遭遇しちゃうなんてな……」
「だけど、最悪な状況って訳でもないんだよな。少なくとも一般人は予想よりも遥かに弱いことがわかったし、やばい勢力とも対立一歩手前で止まれた訳だし」
レベル30程度の実力で王国戦士長という役職をもっているガゼフ、そして対抗勢力だったスレイン法国も大半は雑魚だった。このことから斗和子やくらぎ、
またその例外枠の斗和子もこちらが対抗出来ない程、圧倒的に強い訳ではなかった。
「俺達はこの世界では強い方の筈だ……」
平均レベル1000とかの魔境であったのならば、その時点で引きこもるか媚びを売って生きるしかなかった。しかしこれならばある程度はやっていけるだろうとアインズは考える。
「何よりこの世界には、俺の他にもユグドラシルから来た人が居る可能性が高い」
斗和子達はこの世界を「ゲームではない」と言っていたことをアインズは思い出す。この台詞を自分に対していうのは偶然にしてはあまりに出来過ぎている。自分のようにユグドラシルを経由してこの世界にやってきた者達がいる可能性はかなり高い。
「だったら、ギルドの皆もこの世界に来ているかもしれない」
この世界に仲間が居るのだとしたら何としてでも探したい。アインズはその欲求を抑えることができなかった。
「あの
アインズはそう結論づける。しかし彼は気付いていなかった。デミウルゴスに対し自分が軽口のつもりで語った「世界征服をするのも面白い」という言葉を彼が本気にし、世界征服を計画していることを。
そしてアインズは知らなかった。手打ちにしたことで終わったと思った因縁に対し、アルベドが復讐計画を企てていることを。更にこれがNPC全体へと広まってしまうことを。
「まずは私が勝手に個人で勝手に動いたことを詫びよう。何があったかを説明する。その前に一つ、告げることがある。私は名を変えた。アインズ・ウール・ゴウン、アインズと呼ぶがいい!!!」
ギルドメンバーを見つけやすくするためにギルド名をその名として名乗ることを宣言するアインズ。それにNPC達は反対せず、忠誠を示した。
「では、この世界における我等の方針を説明する。まず、我等はこの世界にも強者が居ることを知った。名は
「あ、アインズ様と!?」
「信ジラレン!?」
アインズの言葉に驚愕するNPC達。彼等の驚愕に対し、アインズは言葉を被せる。
「事実だ。そしてこの世界には他にも同等の強者が存在する可能性がある。取るに足らない力の持ち主も多いが、くれぐれも油断せぬようにせよ。最初はなるべく友好的に接するのだ」(虎の尾をうかつに踏んだら不味いからな)
救援した村、カルネ村でアルベドは人間を露骨に蔑視していた。他のNPCも同じような態度を取ってそれがもとで強者と敵対関係になってはまずいと釘をさしておく。
「我々のやるべきことは3つ。まずはこの
「了解しました」
アルベドが頷く。それを確認し、アインズは次の方針を告げた。
「次に他に強大な存在が居ないかを調査せよ。そして最後のやるべきこと、それはこのアインズ・ウール・ゴウンの名をこの異世界に轟かせることだ!!」(そうすれば、ギルドの皆も俺達のことを見つけてくれる筈だ!!)
支配者ムーブを最大限に発揮したその言葉にNPC達から歓声があがる。
「他に何か変更があれば、その時に告げる。細かなことはお前たちに任せよう。それと何があったか細かいことはアルベドから聞くがいい」(その方が俺なんかが説明するより、ずっと上手くやってくれるだろう。それにもう休みたい。未だちょっと痛いし)
方針のみを告げ、後は丸投げをするアインズ。
それは自分を過小評価するが故に、あまり頭の良くない自分が考えるよりも頭の良いNPC達に任せた方がいい、そしてあまりしゃべり過ぎるとボロが出ると思っての判断だった。しかしこれが過ちだったのである。
アインズが去り、そこにはガンガルチュアとヴィクティムを除く階層守護者とセバス・チャンが残される。
「それではアルベド、詳しい話を聞かせてもらえますか?」
「ええ」
デミウルゴスの問いかけにアルベドは苦々しい顔をして、カルネ村周辺であった出来事を全て語る。話を聞き終えた時、NPC達は皆、憤慨した表情を浮かべていた。
「アインズ様に対して、なんということなの!!」
「無礼です!!」
「アルベド、あなたが付いていながらなんという体たらくでありんす。ああ、私が傍についていれば!!」
そんな中、デミウルゴスは一人沈黙し、何かを考え込んでいたようだった。
そして少しして考えがまとまったように口を開く。
「アルベド、アインズ様とそのクズハとかいう女のやり取り、貴方はどうお考えですか?」
「……意地悪な質問ね。デミウルゴス」
シャルティアの非難に対しては半ば受け流していたアルベドがその問いかけに眉をひそめる。しかしデミウルゴスは追及の手を緩めなかった。
「お聞かせ願いたい」
「……ふう、わかったわ」
それにアルベドは観念したとばかりに溜息をつき、話しだした。
そしてその内容は守護者たちにとって、衝撃的なものだったのである。
「認めがたいことだけど、あの場においてアインズ様とクズハの立場は拮抗していた、そう考えざるを得ないでしょうね」
「そんな!!」
「マサカ!?」
信じられないとばかりに声をあげる守護者たち。そんな中、デミウルゴスは一人、得心したとばかりに頷いた。
「アインズ様と同等の強者。大げさに言われたのだとばかり思っていましたが、あながち嘘ではないようですね」
「ええ、でも……」
「わかっています。アインズ様とクズハとかいう女が対等だったのは、あくまでその場のみ、そういう話でしょう?」
注釈を付け加えようとするアルベドに先回りして答えるデミウルゴス。頷くアルベド。それに対し、他のメンバーは今一つ要領を得ないようだった。
「どういうことでしょう。申し訳ないですが、もう少しわかりやすく説明していただけないでしょうか?」
「ええ、勿論です」
セバスの要求にデミウルゴスが頷き、そして彼は説明を始めた。
「まず大前提として、我々は突如、異世界に飛ばされるという大災害に見舞われた。これは至高の御方ですら予測出来なかった事態、不可抗力と言っていいでしょう。このトラブルによって、我々は態勢を崩され、不利な状況に陥ってしまった。そしてその態勢が整う前にクズハという女は奇襲を仕掛けてきた」
「何て、卑怯な奴でありんす!!」
「許サレナイコトダ」
半ば成り行きとはいえ、アインズが先にスレイン法国にちょっかいをかけたことを棚において憤慨する守護者たち。
そこでマーレが口を開いた。
「つまり不利な状況だったから、アインズ様でも、その、負けそうになっちゃったってことですか?」
言いづらそうに言う。アインズ達、創造主を至高の存在と認識する彼等にとって、たとえ不利な状況でも、彼等が負けるというのは認めがたい話なのだ。
しかしそこでデミウルゴスは首を振った。
「いや、そう考えるには不可解な部分がある。それはクズハという女が手打ちを要求してきたことだ。自分が有利な状況、そして僅かとはいえ身内に被害がでているにもかかわらず相手に何も要求しないというのは通常あり得ないことなんだよ。つまりクズハという女は、有利な状況であるにもかかわらず、アインズ様を恐れたと考えられる。上から目線の態度も、恐らくはそれを隠すための虚勢だったのだろう」
「「「「「「おー!!!!!!!」」」」」
認めがたい結論を否定し、代わりにアインズの強大さを語ったデミウルゴスの言葉。その言葉に沈んだ雰囲気だった守護者たちは一気に盛り上がり、歓喜の声をあげた。
「やはり、アインズ様は至高。無敵の御方という訳でありんすね」
しかし調子にのる彼等に今度はアルベドが冷や水をかける。
「いえ、残念ながら話はそんな単純なものではないわ。デミウルゴスの推測通りだったとして、アインズ様がそんな虚勢を見破れない訳はないもの」
「にもかかわらずアインズ様は手打ちを受け入れた。アルベド、冷静さを取り戻した君ならばその意味は理解しているだろう?」
「ええ、だから言ったのよ「意地悪な質問ね」と」
またもや二人だけで通じる会話をするデミウルゴスとアルベドにイラつき、アウラが叫ぶ。
「ちょっと、わかるように言いなさいよ!!」
「……勝利を確信できなかったのはアインズ様も同じだったということよ。あの場で交戦したならば、負ける可能性があった。もしくは勝ったとしても無視できない大きな被害を負っていた。……そう判断なされたとしか考えられないわ」
三度驚愕の表情を浮かべる守護者たち。
それに対し、デミウルゴスが言葉を続けた。
「当たり前のことではあるが、はっきりさせておこう。あくまで上なのはアインズ様だ。それでもあの御方が窮地を感じる程に迫られたのは事実。だからこそ手打ちを受け入れた。そして一度ひいて万全な状態を作れば確実に勝てる、そうあの御方は考えたのでしょう」
こうして出た最終的な結論は創造主を絶対視するNPC達にもギリギリ受け入れられる範疇で、皆、納得したような表情を浮かべた。
「なるほど、そういうことでありんすね」
「納得シタ」
「あれ、でもそれじゃあ、アルベドさんの行動って?」
納得するシャルティアとコキュートスをよそに、あることに気付いたマーレ。その呟きにアルベドはギクリとした表情を浮かべて、観念したように口を開いた。
「そうよ。私はあの御方のそういった熟慮に気付けず、怒りのまま相手に飛び掛かってしまいかけた。もしアインズ様の制止が間に合わなければ、ナザリックは取り返しの付かない被害を負っていたかもしれないわ」
虚勢であったとしても、少なくとも相手にはレベル90以上の戦力が複数存在していたことは確定しているのだ。決して空手形ではなく、最低限の力は持っていた。そして力がある以上、一度戦線が開かれれば相手も覚悟を決めて、交戦に入っていただろう。その結果、ナザリックにも被害が出た可能性は高く、取り返しの付かない失態を演じるところだったとアルベドは心底、悔やんでいた。
「本当にとんでも無い失態だ。だがアインズ様がこの件を叱責されなかったということは、君が自分でその過ちに気付けると信じていただけたのだろう。しかし失態を繰り返されれば、寛大なあの御方とはいえ、我々を見放す可能性はある」
「ええ、このような失態、二度と繰り返しはしないわ」
デミウルゴスの忠告にアルベドが決意を述べる。
それを確認したデミウルゴスはそれ以上の説教は控え、今度は他の守護者たちに向き合った。
「これはアルベドだけの問題ではない。この世界にはアインズ様ですら油断のできないレベルの敵が存在する。あの御方にとってすらそれなのだ。我々ならば猶更だ。くれぐれも気を抜かず、交戦の際は確実に勝てる状況を作ることが大切といえるだろう。敗北し、ナザリックの栄誉を汚すようなことがあってはならないからね」
デミウルゴスの言葉に全員が真剣な表情になって頷く。
それに満足そうな表情を浮かべると、ニヤリとした笑みを浮かべ、急に口調を変えると付け加える口を開いた。
「ところでこれはアインズ様が口にしたことなのだが、『世界征服をするのも面白い』あの御方はそうおっしゃった。我々の役目は情報収集な訳ですが、あの御方の望み、一刻も早く叶えるために並行して動くべきだとは思いませんか?」
こうして歯車がずれたまま、この世界の歴史は動きだすのであった。
NPCは思考回路に確実にバグが設定されている。