次は1週間後の予定。
「人間の領域に戻って来るのも久しぶりだな。平和過ぎて天国に感じるぜ」
「そんなこと言って、ブレイン、また早く冒険に行きたいんじゃないのか? 腕が疼いてるんだろう?」
「まあ、領域外は強くなるにはもってこいだからな。ソラ、お前について行って良かったぜ!」
ブレイン・アングラウスとソラ・アガネイア。人類の最高位ヒヒカネ級の冒険者コンビである二人はトブの大森林を談笑しながら歩いていた。
並の冒険者にとっては気を抜けないこの場所も二人にとっては遊歩道と変わらない。
しかしそこで、そんな彼らに緊張感を走らせる存在が、現れ前に立ち塞がったのである。
「お前達がヒヒカネ級冒険者とやらでありんすね?」
「……あんた人間じゃないな?」
見た目可憐、所謂ゴスロリファッションをした少女。
そんな相手に対してブレインが刀を抜く。
人類の生存圏の外、すなわち亜人や異業種の支配領域を旅した経験が、目の前の相手、シャルティア・ブラッドフォールンが人間では無いことを教えていた。
「要件は?」
一方、ソラの方は警戒体勢を取りながら直ぐには武器に手をかけず、問いかけをする。
その問いかけにシャルティアは素直に答えた。
「至高のお方が、お前達に興味を示してるでありんす」
「至高のお方ねえ。要はその人、人じゃ無いかも知れないけど、その人と会えば良いのかな? 身の安全と解放を約束して貰えるなら考えても良いけど?」
シャルティアの言葉に対し、ソラは条件付きの肯定を返す。
どんな相手にも先ずはコミュニケーションを試みるのがソラのスタンスだ。
しかしそんなソラを嘲るようにシャルティアは笑った。
「ふふ、全くこれだから。お前達のようなゴミが至高のお方の役に立てるというだけで、最高の栄誉だと言うのに。条件をつけようなんて、馬鹿な考えは捨てるでありんす」
完全に馬鹿にしたような口調、当たり前のことを諭すように言うシャルティア。
(この調子では命の保証すら無理か)
相手の反応をみて、言葉は通じるが会話のできない相手だと判断したソラも覚悟を決め、武器を抜いた。
そして相棒に警告を送る。
「ブレイン」
「ああっ、わかってる。最初から全力で行くぞ!」
言葉と共に彼の髪の毛が伸びる。まるで獣の槍を使った時のような変化。本来彼の使う
しかし彼のタレント、集中力の強化は武器に宿る想念へのアクセスを可能としこのような奇跡を起こしていた。
「ああ、手加減無しだ」
一方、ソラは十三英雄のリーダーの子孫。神人であり、その実力はこの世界の人類の枠を超えている。
この二人が力を合わせれば、アダマンタイト級冒険者である「朱の雫」と「蒼の薔薇」の全員をまとめて相手どっても勝利できるだけの強さがある。
そんな二人はシャルティアの強さを感じ取り、彼女に対して一斉に突撃を仕掛けた。
「なるほど、これは確かに他のクソ虫とは違うようでありんすね」
その動きを見て、シャルティアでさえ、その実力を評価する。
「だけど……」
実力を認め、その上で笑みを浮かべるシャルティア。
「私にとっては、誤差でありんす」
シャルティアの強さの物差しは1メートルから。二人の強さは彼女にとって、他の人間とは違うことがわかるという水準には達していたが、それだけだった。
勝負にならないという点では変わらなかったのだ。
「がはっ」
「がっっ」
カウンターで一撃ずつ胴体に槍の腹を受けた二人は、それで昏倒させられた。ソラは覚醒した神人ではあるが、未完成。ユグドラシルの基準でレベル70にすら到達していない。
天才とはいえ只人であるブレインは自身の消滅と引き換えの一撃に武器の力を全て上乗せして、初めて一矢報いることが出来るかどうか。
どちらもシャルティアを相手にするには力不足過ぎた。
「さてと、さっさとこいつらを連れ帰って……」
アインズに褒められるところを想像し、ニヤつくシャルティア。
しかしそこで念のために周囲を警戒させていた配下魔物である
「シャルティア様、ランクの高い装備をした集団が周囲をうろついています」
「ランクの高い装備?」
「はい。その中には確認されたスレイン法国の特殊部隊、漆黒聖典と一致するものも居ました」
スレイン法国の主力上位4強の存在は秘匿される一方、他のメンバーについては他国に適度な圧力をかけるため、わざとその存在を露見させていた。
そのため彼らの情報はナザリックにも入っており、その特徴と配下の吸血鬼が目撃した者達の特徴が一致していたのだ。
(法国とか言うアインズ様の敵が居るかもしれない組織。ここで奴等の情報についても入手出来ればアインズ様により褒めていただけるかも……)
スレイン法国との交戦禁止はアインズの勅命であり、シャルティアも流石に心得ている。
同時にアインズが法国の情報を求めていることから、ここで動けば成果に繋がるかもしれないと考える。
「お前達はここでこいつらを見張っているでありんす」
「〈眷属招来〉」
近づき過ぎて気づかれないよう
こうして彼女の尾行が始まったのだった。
「退屈でありんすねえ」
尾行を始めたシャルティアであったが、元々地道な作業を得意としないため直ぐに嫌気を感じてしまっていた。
いっそこちらからちょっかいをかけてやりたい、そんな誘惑に駆られるがアインズの勅命があるため、流石の彼女も自制する。
「おっ?」
とはいえ、このまま尾行を続けても何も成果が無い可能性もある。
後は眷属や配下に任せて帰ろうか、そう考え始めたその時に変化が起きた。
蛇型の魔物が現れ、漆黒聖典に襲いかかったのである。
その魔物の正体はリュラリュース・スペニア・アイ・インダルン。森林の支配者の一体で元はレベル30程度であったにも関わらず、何故か大幅に力をあげ、更に理性を失った状態で漆黒聖典に攻撃を仕掛けてきたのだった。
「ぐっ」
配下と共に襲いかかってきたリュラリュース。
隊員たちは各々交戦に入る。
「きゃあ」
配下達もまとめてパワーアップした集団に、隊員の一人で接近戦を得意としない〈無限魔力〉が押し倒されてしまう。
「あー、もう、何、やってんのよ!」
(ふむ、あの人間は少し強いみたいね)
それをカバーし、即座に魔物を仕留めるクレマンティーヌ。短剣で蛇の急所を貫いて見せた。
その動きを眷属を通して確認したシャルティアは、内心故に何時もの芸者言葉を一部止めた状態で思考する。
そしてクレマンティーヌの実力をソラよりも少し低い程度と判断した。
更に他のメンバーに目を向ける。
(他に目に付くのは、あの二人か)
他よりもよい装備をした、指揮を飛ばしている男と支援魔法をかけている女。その二人に注目する。女は第8位階の魔法を使用し、パーティー全員にバフをかけ、男はリュラリュースを苦も無く仕留めて見せた。
(レベル80が一人、70が一人、60が一人ってとこかしら?後は雑魚でありんすね)
他のメンバーも全員が英雄級、逸脱者級の実力者だったのだがシャルティアの物差しで測るには少し足りないようであった。
そしてそこまで判断を下した所で戦闘が終了。クレマンティーヌがぼやきをあげた。
「全く、何なのよこいつら」
「この森の支配者の魔物の内の一体だ。しかしこれほどの強さは無かった筈。破滅の竜王か混沌の竜王の影響、あるいは新たに現れたプレイヤーが何かしたのかもしれないな」
(アインズ様がそんな下らないことをする筈が無いでありんしょう!!)
隊長が考察した言葉に対し、それを濡れ衣であると怒り燃やすシャルティア。しかし、続く言葉に彼女の怒りは霧散した。
「やはり何か異常が起きている。我らが神、
「まあねー。
「クレマンティーヌは
上位3人の会話、色々と雑談染みた内容も混じっているが、シャルティアにとって重要なのは一箇所である。
(
(やった。デミウルゴスでも得ていない情報を。大手柄でありんす!!)
アインズに褒められる自分を想像し、歓喜するシャルティア。実際、ここで帰還して報告していればそれは実現していただろう。
しかしそこで彼女は余計な気付きを得てしまう。
(んっ、アインズ様は
アインズの言葉は報連相を基本とする日本式に解釈すると「答えが分かったら先ずは俺に報告しろ。そこで改めて指示を出す」になる。
そしてデミウルゴスの言葉は単にその場だけではなく、敵の背後まで考えて、戦略的にナザリックの勝利に繋がる状況で無ければ戦うなということだ。
しかし彼女はそんな言葉の裏を理解せずに、額面通りに受け取ってしまっていた。
(だったらもう手を出していけない理由は無い!!ここでこいつらを殺し、その死体を回収していけばアインズ様にもっと喜んでいただける)
ここで悪かったのは伝えた二人か、受け取ったシャルティアか。いずれにしてもその過ちを正す機会はもう無く、シャルティアは漆黒聖典へと襲いかかってしまったのだった。
ソラ君はラナーの知力をコミュ力に変換したような人物で連れ帰っていた場合、アインズ様の心のATフィールドを突破し、友達になれていました。