サトーとセンパイは怪異対策組織・ムラクモに所属する特殊公務員(非常勤)である   作:不知東西屋

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サトーとセンパイはどちらもサラリーマンですが、性別とかは各々で好きに決めていただければ


第1話:サトーとセンパイ

 この世には、正しい(ことわり)からはずれた闇の住人たちがいる。

 奴らは時として牙をむき、人々に襲いかかってくる。

 彼らは、そんな奴らから皆を守るため、地獄の底からやってきた。

 正義の使者……、なのかもしれない……

 

 

(……以下、本編。)

 

 

 片側一車線、長年補修がされず痛みの激しい道路の上を小型4WD(ジ〇ニー)が走っていく。

 峠の向こうの目的地に向けて、道は蛇行した上り坂。

 道の酷さに車体がガタガタ揺れて、ダッシュボードの上では、ハワイ土産のフラダンス人形がゆらゆら腰を振っていた。

 

 車中には2人の人物。

 本作の主人公達、サトーとセンパイである。

 

 どちらも地味なスーツを着用している。

 ハンドルを握っているのがサトー。年の頃、20代前半に見える。

 助手席をグッと後ろに倒してダラダラしているのがセンパイ。こちらは30前後に見える。

 

 おもむろにセンパイが口を開いた。

 

「ちょっと思ったんだけどさ。バランス、悪くない?」

 内容、タイミングともにやや唐突な問いかけだが、センパイが妙なことを口走るのはいつものこと。

 

 サトーは特に戸惑うこともなく応じる。

「今度は一体どんなくだらないことを思いついたんですか。」

 

 目上の人物に向けるにしては辛辣な言葉だが、センパイ気にした様子はない。

「週休二日制って、バランスおかしくね?」

 

「おかしくないでしょう。平日働いて、土日に休む。普通じゃないですか。」

 きわめて常識的に応えると、相手はヤレヤレと肩をすくめた。

 

「いやいや、サトーお前だまされてるぞ。」

「だまされてるってなんですか」

 また妙なことを言い出した。と、サトーは小さくため息をついた。

 

 そんな後輩の冷めた態度など気にならないのか。センパイは一層熱を込めて言う。

「いや、だまされてる。常識とか、普通とか、みんなやってるからダイジョウブとか言われて、さもそれが正しいことなんだと知らず知らずに教育されているんだ。つまり、人類は滅亡する!!」

「な、なんだってー!?」

 

「…、ノッてくれてありがとう」

「いえ、私もちょっと楽しかったので。」

 サトー、甘やかすからつけあがんねんで。

 

「で、話戻すけど、考えてみろよ。働く日と休む日の割合が5:2だぞ?おかしいだろ、明らかにバランスがとれてない。」

「あ~、ナルホド。いつもの発作(仕事アレルギー)ですか。」

 連勤が続くと妙な理屈で働きたくないと訴えてくるのはいつものことであった。

 

「だってよ。労働と休息に2倍以上の差があるんだぞ。平日に24時間労働してるわけじゃないにしても、明らかにWLB(ワークライフバランス)が崩壊している。」

 

「まあ、賛同は出来かねますが、言いたいことは分かります。」

 サトーは一部、理解を示した。

 

「そう、せめて週休3日はないとバランスがとれない。」

「ですが、センパイ」

「なんだ、サトー」

 

「並のフリーランス以上にスーパーフレキシブルかつ成果主義なウチの職場で言っても説得力ないです。普通の職場に転職してからお願いします。」

 

 そう、サトーとセンパイの2人に定休日など存在しない。

 怪異対策組織・ムラクモは、構成員の自発的な取り組みを妨げないアットホームな職場であった。

 

「それな~」

「そうです」

 

「転職か~。どこにすっかな~。」

「いや、センパイが働ける職場なんてそうそうないでしょ。」

 サトーが無情なツッコミを入れる。

 

「それなぁあ~」

 ムラクモのことは履歴書に書けない上に、一般企業で役立つようなスキルが身につくわけでもない。

 はっきり言って全くツブしが効かないのだった。

 

 そんな話をしている間に、道は峠の頂上を越え、下りへと変わっている。

 目的地が間近に迫ってきて、センパイが話題を切り替えた。

 

「はあ~、しょうがない。働くとしますか。サトー、報告書には目を通してあるよな。」

 もちろん、と応える代わりにサトーは今回の仕事の概略を口にした。

 

 事の起こりは4日前、警察に届けられた1件の相談だった。

「サークルの仲間と旅行に行った娘が帰ってこない。」

 

 夏季休暇の時期だ。

 大学生が解放感で金のなくなるまで遊び惚けているなんてことはよくあることで。

 この相談は警察の情熱を全くもって掻き立てはしなかった。

 

 しかし、異なる判断基準をもつ怪異対策機関・ムラクモの注意を引くことは出来た。

 ムラクモがわずかに興味を持った一点。それは、旅行参加者8人の内、誰一人として連絡がつかないということだった。

 

 SNSに最後の投稿がされた〇×町に調査員が向かったのが2日前。

 調査員からの定時報告が途絶えたのが昨夜の話だった。

 

「これで調査員は運悪く交通事故に遭っただけ。大学生はバカンスを延長してバカ騒ぎしてるってんなら、ありがたいんだけどなぁ」

「まったく可能性を感じてないことを言わないでくださいよ。」

 

 話している間に木々が減り、視界が開ける。

 前方に、まばゆい夏の海が日差しを受けてきらきらと輝いているのが見えた。

 

 緑の山と輝く海の間の狭いスペースに日焼けた印象の家々が立ち並んでいる。

 行方不明の大学生たちの旅行先、〇×町だ。

 

「まずは調査員が拠点にしていたビジネスホテル。それから大学生たちの足跡を追うってことでいいんですよね。」

 

「ああ、とりあえずその予定だ。途中でなにか展開があったらその都度修正。」

「つまりはいつも通りですね。了解しました。」

 

 街の端っこに設置された「ようこそ、潮騒のまち〇×町へ」というアーチを潜り抜けた時だった。

 

 カカカカカカカカカカカカカカッ!!

 

 それまでダッシュボードの上でユラユラと腰を揺らしているだけだったフラダンス人形が突如として高速で腰を振り始め、甲高い音を発していた。

 

「おいおいおいおい、反応してるじゃん。瘴気センサーがさあぁあああ」

 盛大なため息とともそう嘆いたのはセンパイ。

 

 何を隠そう、このフラダンス人形は単なるハワイ土産にあらず。

 周囲の瘴気を感知して、危険を知らせる警報機なのである。

 

「街に入った途端これですか。残念ながら、大学生が羽目を外してただけって線はなさそうですね。」

 サトーも小さく嘆息してから、信号待ちのタイミングでフラダンス人形のスイッチを切った。

 放っておくと瘴気の薄い場所に行くまで激しく踊り続けてうるさいのだ。

 

 センパイの方はそれまで倒していたシートを起こすと、パワーウィンドを操作して窓を半分ほど開けた。

 真夏の暑い空気が流れ込んでくる。

 

「ハワイとか、バカンス行きてえなあ…。」

 人の夢と書いて、儚い。

 先輩のつぶやきは、激しい蝉しぐれとジ〇ニーのエンジン音にかき消された。




明日も投稿します。
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