サトーとセンパイは怪異対策組織・ムラクモに所属する特殊公務員(非常勤)である 作:不知東西屋
夜、それも真夜中である。
満月が炯々と輝き、地上の者どもの輪郭を黒々と浮かび上がらせている。
腐れた死体の這いまわる恐るべき町の中、ある屋敷の小部屋にサトーとセンパイの姿があった。
「あの、一応聞いておきますけど、センパイがいま持っているのはなんですか?」
尋ねたのはサトーである。
「……、丸太だな。」
答えは丸太である。
太く真っすぐに伸び、断面には年輪も黒々と浮かびあがっている。
「念のため確認しますけど、私達が現在進行形で相手にしているのは?」
サトーはキレかけていた。いつもは一応年功序列を意識はしているが、今や下剋上の勢いであった。
「高位の吸血鬼に率いられた
対するセンパイは正座であった。
彼にも悪いことをしたら申し訳なく思う程度の心はあったのである。
「そうですよね。それで、センパイ今持っているのは」
再度、尋ねたのはサトーである。
「……、丸太だ。」
再度、答えは丸太である。
「………。」
「正直、すまんかった。」
センパイは頭を下げた。
「馬鹿なんですか?」
「いや、出動前のブリーフィングで相手は吸血鬼の可能性があるって聞いて、支給可能武器のリストを確認したら一番下に載っててな。見た瞬間、『みんな、丸太は持ったな!?』ってやりたい!!ってなって、……気がついたら丸太を受け取っていたんだ。」
言い訳だった。
「馬鹿野郎」
通じなかった。
「おま、仮にも先輩に」
「クソ馬鹿野郎」
「ちょ、ひどくなった」
手が出なかっただけ、有情である。
「ただでさえヤバい相手なのに、武器が丸太ってなんなんですか。これがクソ馬鹿じゃなきゃ逆に何だよ。アァン!?」
でも、キレた。命の危機だからね、仕方ないね。
「ふぁ~、ついに敬語でもなくなった。」
君のせいだからね、仕方ないね。
「ハァ~、敬語だあ?甘えたこといってんじゃねぇ~すよ。アンタがろくな武器持ってきてなかったせいで、火力不足で完全にじり貧。やっとこさ逃げ込んだこの小部屋にもいつ喰屍鬼がなだれ込んでくるかも分からない。この期に及んで後生大事に丸太を抱えている辺りが一周まわってかんに障るんだよなぁ!?」
サトーの口調が荒ぶっている。
微妙な巻き舌に元ヤン疑惑が発生する。
「まあまあ、落ち着いてくれよ。丸太に罪はないし、な、これでも一応武器だし、捨てるわけにも行かないじゃん。この状況じゃたとえ丸太でも大事にしないとさ。」
センパイ、常にない猫なで声である。
が、それでサトーの機嫌がよくなるとは限らない。
「ぶき~?武器ならその丸太で喰屍鬼と吸血鬼をぶっ倒してきてくださいよ。」
サトーの圧。
「え~、喰屍鬼の群れに丸太で突貫とか、ストレートに自殺じゃん。」
センパイは受け流そうとした。
「いける、いけるって!!だって、丸太は武器。さっき自分でも言ってたじゃん!!あ、それMA・RU・TA!!MA・RU・TA!!MA・RU・TA!!MA・RU・TA!!凸るぞー!!」
サトーの圧。サトーは小声で絶叫し始めた。
小声でやるあたり、喰屍鬼から隠れていることは忘れていなかったらしい。
「いや、本当、俺が悪かった。謝るから落ち着いて」
センパイの謝罪。
しかし、効果がなかった。
「MA・RU・TA!!MA・RU・TA!!MA・RU・TA!!MA・RU・TA!!」
サトーの圧。
「おち、オチツイテ…、」
「MA・RU・TA!!MA・RU・TA!!MA・RU・TA!!MA・RU・TA!!」
サトーの圧。
その時、耐えかねたセンパイの中で何かが弾ける音がした。
「…、ぅうおおおおおおおおおおおおおおおおお!!吸血鬼がなんぼのもんじゃーい!!」
「MA・RU・TA!!MA・RU、え、センパイ!?」
サトーは正気に戻った。
「やっってやる。やぁってやるぜえええええええええ!!」
センパイはくるっている。
「ふぁ、ふぁ~、センパイが壊れた。追い込みすぎちまった。」
サトーは後悔した。
しかし、時すでに遅し。
「みんな、丸太はもったな!?」
「センパイ?」
「うおおおおおおおおおお!!次回作にご期待くださああああああああいッ!!」
「センパイ!?ちょっと!?」
明日も投稿します。