ファウンデーションの近衛師団長に剣で勝ったら目を付けられた件 作:ブルーコスモスへの鎮魂歌
コンパスのモビルスーツ隊のパイロット達はアウラ女帝との謁見を終えた後にイングリット・トラドール国務秘書官に城内を案内されていた。
イングリットの後ろを歩いていると、訓練広場に案内される。
そこではキラ達と同い年くらいの者達が居り、その内の二人が剣での訓練を行っていた。
「彼らが我が国の近衛師団です」
「あれが噂のブラックナイツか」
イングリットの紹介にムウが顎を撫でて観察する。
そこで銀髪の青年がこちらを一瞥した後にまるで示し合わせたかのように赤紫色の青年の剣を打ち上げる。
打ち上げられた剣はキラ達のすぐ近くに突き刺さった。
「やれやれ。やはりシュラには勝てませんね」
しかし、その事に対しては謝罪の一つもなく、会話をするブラックナイツに若干の嫌悪感が浮かぶ。
そこでシュラと呼ばれた青年がこちらに話しかけてきた。
「一手御指南いただけませんか? ヤマト隊長」
「いや、僕は……」
元より正規の訓練を受けていないキラの白兵戦の能力はそう高くない。
剣の使えない隊長と嘲笑するブラックナイツ。
イングリットがそれを咎めるが、彼らが反省しているようには感じない。
そんな相手の態度に腹を立てたシンが前に出る。
「隊長、ここは俺が────」
「あたしがやるー!」
それを遮って一番後ろに居たフラガ隊のラビ・トーチスが刺さった剣を抜いた。
「おい!」
「ダイジョブダイジョーブ。あたしこー見えてけっこーつえーんですから」
シンの意図が伝わってないのか、任せろとばかりに親指を立てる。
いきなり割って入ったラビにキラがやめさせようとするが、ムウが静止する。
ラビがシュラと向かい合う位置に移動する間に疑問を口にした。
「一応聞いておきたいんすけど。これ、あたしが勝っていいんすよね? わざと負けたほーが良さげな感じ?」
その質問にブラックナイツのオレンジ色の髪をした少女が吹き出す。
「もちろんだとも。全力で来るといい」
「りょ〜かーい」
鼻唄をしながらラビはシュラと向かい合った。
(さて。どれ程のものか……)
シュラ・サーペンタイン団長は自分に剣で挑んできた少女を見る。
年齢は十代半ば程。癖っ毛のある金髪に前髪の一部を緑に染めた何処にでも居そうな女学生の雰囲気。
興味本位で首を突っ込んだようだがその無謀さは嫌いではなかった。
「近衛師団長、シュラ・サーペンタイン」
「フラガ隊のラビ・トーチス少尉っす」
互いに名乗ると剣を打ちつけ合う。
シュラは自身の能力でラビの思考を読む。
────喉に突き。
(中々殺意が高いな)
その好戦的な思考に笑みを浮かべつつ繰り出される突きを躱す動作に入る。
「ふっ!」
一息と共に放たれる突き。
(速いっ!?)
身を捻って回避すると同時に剣を振るが、それを易々と防ぐ。
あと僅かに回避動作が遅れていたら、あの剣はシュラの喉に刺さっていただろう。
(面白い……!)
思わぬ強敵に剣を握る手に力が入る。
そこから互いに何度も剣を打ちつけ合うと、次第にシュラが後ろへと下がり始めた。
相手の思考を読んでも躱すのが精一杯という状況。
剣捌きはとても上手いとは言えない。
ただ単純に運動能力が常軌を逸して秀でているのだ。
シュラが防戦一方に回らざる得ない程に。
気がつけば、ヘラヘラ笑っていたブラックナイツの面々も次第に驚きの表情を見せるようになる。
ラビの剣を跳躍して躱し、着地と同時に斬り込もうとするシュラ。
しかし、ラビは跳んで躱されると同時に独楽回りで勢いを付けて剣を振るう。
互いの剣が衝突する。
しかし、剣の腹を狙って振り回したラビの剣は、シュラの剣をパキンと音を立ててへし折った。
「……」
自分が負けるとは思っていなかったのか、唖然とした表情をしている。
剣の峰で肩をトントンと叩きながら、ふーっと息を吐く。
「これ、あたしの勝ちっつーことで……っ!?」
しかしそこで何故か顔を青くするラビ。
「こ、壊れた剣……弁償しないとダメな感じっすかね?」
ガタガタと震えてイングリットに視線を向ける。
驚きから固まっていたイングリットは思考を再起動させた。
「い、いえ。先に失礼な態度を取ったのはこちらですから。どうかお気になさらずに」
イングリットの言葉を聞いて、ラッキーとガッツポーズをする。
そして同じく固まったままのシュラに手を差し出した。
「あははー。まぁその……思ったより強かったっすよ?」
下に見るような台詞にムウが、コラッと頭を小突く。
まだ信じられないと言った様子のシュラだったが差し出された手を取る事なくその場を後にした。
その後にイングリットがうちの隊がすみませんと頭を下げて案内が続行された。
アウラ女帝が用意したパーティーにコンパスの主だったメンバーの殆どが出席していた。
パーティーが始まって少し経った後に、コンパス総裁であるラクスとファウンデーション宰相のオルフェがダンスホールの中央で踊っていた。
周囲の注目を二人が集める中、ラビはパスタを数種類皿に山盛りに載せて周りの目も気にせず食べている。
シンなどもさっきから色んな料理を食べており、それを見たアグネスが「山猿が二匹……」などと呟く。
ムウを始めとするМSパイロット達はアウラ女帝の側で待機しているブラックナイツの話題になる。
「しっかし。あんな坊っちゃん嬢ちゃんが、あのブラックナイツとはね」
「なんなんすかね、あいつら」
「コーディネイターなんじゃない?」
シンの疑問にそう返すルナマリア。
それに、ムウが肩をすくめて小さく話す。
「それはそうだろうが……どうも、マトモな軍隊には見えんって事さ」
そう返すムウの言葉にルナマリアが食べ物に夢中になっているラビに視線を向けた。
「気になってたんだけど……ラビもコーディネイター?」
躊躇いがちな質問。
昼間に見せたあの動き。とてもナチュラルの少女のモノとは思えなかった。
ラビ自身は大西洋連合からの出向、というのはあの勝負の後にムウから聞いている。
だが、連合に志願するコーデイネイターも皆無ではない。
しかし、返ってきたのは意外な返答だった。
「
「ちゃんと食べてから話せよ……」
料理をモグモグさせながら話すラビにムウが大きな息を吐いて注意する。
ゴクンと口の中の物を呑み込んで話す。
「うっす。食い溜めしとこうと思って。生活カツカツなんすよ。あたし」
「はぁ!?」
ラビの言葉にシンが疑問から声を上げた。
コンパスの給与は基本そこらの軍人より高い。
出撃などの危険手当も合わさって、シン達十代でもローンで家が買えるくらいには。
「あたし、奨学金の返済やら、仕送りやらで結構取られるんすよね。コンパスに志願したのも給料高いからだし。だから昼に剣を壊した時は焦ったっすわ〜。弁償を要求されたら、フラガ大佐に泣きつく気だったし」
「おい……」
「今回の特別手当にマジ期待」
気楽に笑うラビに。会話していた一同は、こいつ大丈夫か? と考えを一つにした。
ある程度お腹が膨れたラビはパーティーから席を外していた。
お腹を擦りながら適当に散策する。
何も考えずに歩いていると、昼間に案内された訓練場に着いていた。
「……勝手にふらふら歩くのヤバくね?」
今頃そんなことに気付いてラビは来た道を引き返そうとする。
「こんなところで何をしている?」
振り返ると、そこにはシュラが立っていた。
「あ〜いや、そのぉ……腹ごなしを兼ねて散歩に?」
ラビの言葉にシュラは息を吐く。
「あまり城内を彷徨くのは感心しないな」
「そっすよね〜」
バツが悪そうに愛想笑いをして誤魔化す。
今回合同作戦を持ちかけられたとはいえ、ファウンデーションとコンパスは完全な味方ではないのだ。
コンパスへの参加を希望しているとは聞いているが、それも今回の作戦次第だろう。
ラビの姿がシュラにはどう映ったのか、手を差し出してきた。
「戻ったら一曲どうだい?」
「え? 無理っす。ダンスはからっきしっすから。あぁでも……」
流石のラビもこんな場で盛大に転んで笑われる趣味はない。
手をひらひらさせて断りつつ、シュラの腰に視線を移す。
「それに、あなたとなら、剣を使って踊るほうが楽しそうっすねぇ。そっちのお相手ならOKっすよ?」
リベンジマッチは受け付けると暗に誘うラビ。
大変失礼な態度だが、シュラは口元を嬉しげにつり上げる。
「ならば、一手お願いしよう。今度は負けん……!」
その好戦的で、勝利に対する貪欲な姿勢が本来の彼なのだろう。
剣のもう一振りはすぐに用意され、昼間のように訓練場の中央で向かい合う二人。
「では始めようか」
「来いっす」
それを合図に二人は同時に動いた。
ラビ・トーチス(15)
身体能力と反射神経がおかしいナチュラルのバグ。
フラガ家とは別方面の突然変異。
一応МSに乗れるくらいには頭も良い。
両親はNジャマー投下のエネルギー不足により死亡。
その後は孤児施設で育ち、奨学金で軍学校に入学。
メサイア攻防戦後に軍学校を卒業する。
彼女が言っていた仕送り先は育った孤児施設の事。
給料目当てで強引にコンパスへと志願する。
内心では出撃手当の為にブルーコスモスにはもうしばらく暴れててくんないかなーとか思っている。
搭乗機体はオーブでゴリゴリに魔改造されたウィンダム改