ファウンデーションの近衛師団長に剣で勝ったら目を付けられた件 作:ブルーコスモスへの鎮魂歌
「あーもう! なんでロボット乗るのにこんな覚えること多いかなー!」
「ロボットじゃなくてモビルスーツ」
「どっちも同じようなもんじゃん!」
教科書とにらめっこしながら歯軋りして机に突っ伏すラビに同室のメアリーが呆れて息を吐く。
「っていうか、モビルスーツの前に戦闘機の免許取得義務とか時間がいくら有っても足りねー!」
ラビの地頭は悪くないのだが、如何せん、基礎学力が圧倒的に足りてなかった。
反面、運動関係は突出しており、この間も三つ四つ年上の訓練兵の少年を格闘技の訓練で投げ飛ばしたり、サバイバル演習では敵チームを一人で撹乱したり。
実は運動能力に特化したコーディネイターなのではないかと噂されている。
ナチュラルとコーディネイターの戦争で多くの兵を失い、軍人も人手不足。
その影響で軍学校に入学出来る敷居が大分低くなっていた。
「メアリー! ここ教えて!」
「あ~はいはい。ここは────」
そんな、簡単に思い出せるくらい少し昔の話。
サイクロプスが設置されている基地まで半日。交代で車を運転し、移動していた。
「アルテミスの時みたいに、モビルスーツのミラージュコロイドで侵入して破壊って訳にはいかないんすか?」
「サイクロプスを設置してある基地が山の中だからな。下手にモビルスーツで攻撃すると山が崩れて大規模な被害に発展する可能性がある。というか、間違いなく山崩れが起きる。だから内部から起動システムをロックする必要があるんだ」
「なるほど」
あの後、そこらに居たブルーコスモスの構成員の意識を刈って無断拝借した銃の弾数を確認しながら納得する。
アスランとメイリンが予めあの町で入手していた基地内部の地図を見ながら簡単な打ち合わせをする。
「先ずは私がモニターの映像を異常のない録画の物とループするように入れ替えるね。そうすればしばらくはこっちの侵入を誤魔化せると思う」
「通路の広さからしても、警備が居たとして一箇所に三、四人ってところっすかね? 突き当たりの距離から考えても無力化するだけなら十秒要らねっす」
「そうして俺達は、サイクロプスを起動させる司令室を制圧し、起動出来なくする。そうすれば、近くいるコンパスか、連合だけでも対処出来る筈だ」
アスランがそう締め括ると、ラビが疑問を口にする。
「外部からサイクロプスの起動させる可能性は? アラスカでは、偉い人達はいち早く離れてから起動させてザフトの戦力を奪ったって聞いてるんすけど」
そうなったら、この作戦自体かなり難易度が高くなる。
「元々、サイクロプスの配備が中途半端に終わって放置された関係で外部からの起動プログラムまでは作られなかったらしい。だからこれから向かう基地のサイクロプスは内部からしか起動出来ないんだ。それに、ここら一帯のブルーコスモスを纏め上げているイワンという男も今はその基地に居る」
アスランの説明にラビは首をかしげる。
「なら、サイクロプスの発動する可能性は低いんじゃ。自爆しか出来ないし」
「だが、彼らも追い詰められたら敵諸共と起動させる可能性は有る。だから俺達がサイクロプスを無力化させる必要があるんだ」
人間は使命感で死の恐怖を誤魔化す事の出来る生物だ。
ブルーコスモスがコーディネイター殲滅の為なら自分の命すら投げ出す集団なのは、アスランは経験から知っている。
基地に近づくと車を乗り捨て、地下通路を使って侵入する。
人手不足のお陰で見回りに穴があるので比較的容易だった。
「ほわちゃー」
気のないかけ声とは裏腹に見回りの顎へ雷槌のように鋭い拳で打ち抜き意識を奪う。
それから適当な紐で手を後ろにして縛り、放置する。
「本当に十秒かからなかった……」
四人居た警備の人間を不意打ちとはいえアスランとラビの二人であっという間に無力化したのをメイリンは頬を少々引きつらせながら配線から
「メイリン。あとどれくらいかかる」
「二分以内に終わらせます」
「早っ!?」
ラビもメイリンのハッキングの早さに驚愕してるのだが。
基地内のカメラを全て異常の無い録画データとループさせて端末との接続を外す。
「これでしばらくは気付かれない筈です」
「よし。ここからは最短距離で司令室まで移動しよう。もちろん警備兵を避けながらだが」
「了解っす! 行きましょ」
そこから本格的に内部へと侵入を開始する。
前情報通り、やはり人手不足と監視カメラ頼りのお陰で、一度侵入してしまえば敵兵との遭遇はほとんどない。
司令室までの距離を半分まで進んだところに彼女は居た。
「ラビッ!!」
背後から撃たず、態々銃を向けて声をかけてきたのはラビとルームメイトだったメアリーだった。
彼女はたった一人でここに立っている。
アスランがメアリーを無力化しようとするのをラビが手で制する。
もしもやるなら自分が、という意味を込めて。
「大丈夫っす。メアリー、こっちに居たんだ」
「貴女が町から逃げたって報告があって。ならコンパスに戻るか、こっちに来るかの二択だから」
コンパスに戻るならメアリーには手の出しようもないが、こっちに来るならと侵入ルートを割り出したのだ。
メアリーはラビと一緒にいるアスランとメイリンがコンパスのメンバーだと仮定して話す。
「ラビ。もう一度言うわ。こっちに付きなさい」
「付かないよ。そっちこそ、早めに降伏するした方が身の為だよ。今なら同期の誼で、裁判で弁護くらいはしてあげるけど?」
時間はかけられない。
応援が来たらここまでの工作が無駄になる。
動こうとするラビにメアリーがアスランとメイリンを一瞥してから話す。
「遅かれ早かれよ。自分が言ったことを忘れた? 貴女、ラクス・クラインが暴走したら、自分が撃つって言ったじゃない」
どうせいつかラクス・クラインは暴走すると、断言するメアリー。
それを聞いてアスランとメイリンがラビを見る。
もしかしなくても、メアリーはこの場での仲間割れを望んでいるのかもしれない。
人間なんてどんな理由で歯止めが壊れるか分からない。
例えば、今回のラビのようにキラ・ヤマト准将が誘拐されて悲惨な殺され方をした時に、彼を愛するラクスが正気で居られるという保証はない。
もしくは、いつまでも平和にならない世界に嫌気が差し、全てを壊そうと動くかもしれない。
未来が不確定な以上、その可能性は誰にも否定出来ないのだ。
だけど。
「目を覚ましてラビ! 貴女だってコーディネイターのせいで両親を失ったんでしょう! あいつらは結局、ナチュラルの事なんてどうなったって構わないのよ!」
メアリーはアスランとメイリンがラビに対して疑心暗鬼になる事でこちらに引き込めないかと最後の悪足掻きをしている。
「だからこそでしょ?」
ラビは拳銃をメアリーに向けた。
「悲劇なんて結局、やられた側からにしかその苦痛は理解出来ないよ」
核やレクイエムで破壊されたプラント。
文字通り突然世界を破壊される恐怖は味わったプラントの人間にしか理解し得ないだろう。
ラビだって想像はしても、その憤りや悲しみ。そして憎悪を理解出来るなんて思わない。
だけど、突然ニュートロンジャマーを埋め込まれ、当たり前の生活を壊された地球。
飢えと寒さでじわじわと衰弱していった両親。
腐っていく家族の死体を見ていたラビの心情など、コンパスの誰にも測れない筈だ。
子供が独り、庇護する者の居ない中でアテもなく食料を探し求めて彷徨う辛さも。
「ねぇメアリー。あたし達は簡単に人を殺せる武器と技術を与えられた軍人だよ? それが自分の感情で好き勝手に力を使って、一番とばっちりを喰らうのは武器を持ってない人達なんだよ」
コンパスの一員としてそんな光景を何度も見てきた。
モビルスーツになす術もなく奪われていく生命を。
戦火を鎮めても、先の見えない生活を強いられる人達を。
「あたしからすれば、本当に暴走するかも判らないクライン総裁より、今暴走してるそっちの方が止める対象になるに決まってんでしょうが! これ以上邪魔するならメアリー。あたしがあんたを撃つ……!」
サイクロプスを無力化する為にこれ以上時間はかけられない。
拳銃の引き金を引こうと指に力を込める。
すると、メアリーの通信機に連絡が入る。
「はい……えっ!? ヴィンセッドが!! なんで!!」
本当に焦った様子のメアリー。
その隙を突いてラビがメアリーの拳銃を撃ち落とす。
「あうっ!?」
無防備になったメアリーの腕を後ろに捻り上げて壁に押し付けた。
「なにがあったの?」
「ヴィンセッド……私達で保護してたエクステンデッドが……デストロイで、無断出撃して……」
「デストロイィ!?」
そんな物まで用意してたのかとラビは頭が痛くなった。
「今それが、町で暴れて……なんで……!」
「……っ!? この馬鹿っ!!」
それがメアリー個人に対してなのか、それともブルーコスモスに対しての物なのかはラビにも分からない。
ただ、あの町にはブルーコスモスだけではなく、元から住んでいた住民も居たという。
「くそっ!」
メアリーから手を放して走るラビ。
「おい!?」
「サイクロプスを頼みます! ここのモビルスーツで戻るっす!」
止める間もなく走って行く。
デストロイが出たなら、コンパスも戦闘に介入するだろうが、それまでに町や村が被害に遭う可能性が高い。
(せめて、足留めだけでもやっとかないと……!)
その思いで全力疾走した。
それを見送ったアスランが完璧に想定が狂ってガシガシと頭を掻く。
「あぁもう!!」
「アスランさん。この子、どうします」
メイリンがメアリーを指差す。
少女は怯えと警戒心を剥き出しで二人を見ている。
それから考えなくてはいけない事にアスランはしかめっ面を深くした。
頭に入れていた地図を頼りにモビルスーツの格納庫へと辿り着いたラビ。
そこでとある問題に突き当たっていた。
「空飛べる機体が
整備の関係か。ダガー系は全てストライカーパックが外されている。
レイダーなどの最初から飛べる機体は見当たらない。
モビルスーツとはいえ、地上を走らせて移動していたら、ここが山の中の基地という事もあり、時間がかかる。
「空飛べる機体って言ったらー……」
隠れながら、少し離れた位置にあるそれを見る。
スカイグラスパー。
戦闘機だが、ストライカーパックを装着出来るという点でモビルスーツへの機種転換を嫌がる少数派のパイロットなどの要望も有り、少数だが生産が続いていた。
「しかもこれだけエールストライカーが装着されてるし……」
せめてもう少しマシな機体を頂戴したいが、探してる余裕がない。
「仕方ないかー。戦闘機なんて、免許取得した時以来だよもー」
ぶつくさと文句を言っていると、基地の整備兵がラビを発見した。
「誰だお前はっ!」
「やばっ!?」
騒がれる前に全力のドロップキックを喰らわせて黙らせる。
「贅沢言ってる場合じゃないか!」
そのままスカイグラスパーに乗った。
途中で他の人間にも気付かれたが、構わず発進した。
『それじゃ行ってきます! 隊長』
「うん。そっちは任せるね、シン。ルナマリアやアグネスも気をつけて」
デストロイの出現に、連合の司令から出撃要請が来た。
それに対してシンとルナマリアにアグネスの三人を出撃させる。
ブリッジで三人を見送ると、ヒルダが問いかける。
「で? 隊長は出なくていいのかい?」
これまで、真っ先に戦場に向かっていたキラが今回は自ら待機を選んだ。
「ラクスが狙われてるなら、僕はこっちに残った方が良いかなって。周りにももう少し下が育つように采配してくれって言われてましたし」
苦笑気味にキラが答える。
これは良いと思った、というよりも、キラがラクスの傍を離れるのが不安というのが本音だった。
シン達の実力なら、デストロイが一機どころか数体現れても問題無いという信頼有りきの判断だが。
「となると、今一番の懸念材料は向こうにいるラビの奴だね」
「そうですね。アスランが一緒なら大丈夫だとは思いますけど。それに、一応保険は掛けておきましたから」
そう言ってキラはシン達が飛んで行った方角を見つめた。
「うわ……」
デストロイの出現した町まで飛んで来たが、現場は混乱していた。
近隣を含めて見張りをしていた連合のモビルスーツが出撃し、食い止めようとしてくれているが、まったく相手にならずに蹂躙されている。
通信を傍受した感じ、ブルーコスモス側も何故デストロイが出撃しようとしたのか理解して無いらしく、パイロットを説得しているようだが、それを煩わしいとばかりに味方も攻撃していた。
その攻撃で足留めにされている町が破壊される
「無茶苦茶だよ……!」
ラビは両翼に搭載されたミサイルを撃つ。
モビルアーマー形態のデストロイに直撃すると、こちらを認識したのか、腕部を飛ばして十本の指のビームで襲いかかってくる。
「あーもう! 全天周囲モニターに慣れちゃってたから! 視界が狭いったら!」
文句を言いつつ指から撃ってくるビームを回避し続ける。
こちらも攻撃をしてみるが、デストロイ相手だと陽電子リフレクターに守られてダメージになってない。
腕部が戻ると、今度はミサイルを撃ってくる。
「くそ! ふざけ……っ!」
出来る限りスカイグラスパーの武装で撃ち落とそうと試みるが、全然間に合わない。
連合やここを拠点の一つにしているブルーコスモスもミサイルの迎撃に加わっているが、互いに敵同士なのは変わりなく、モビルスーツ同士で応戦もしていた。
それだけ逃したミサイルが町に落ち、吹き飛ばされる誰かが見えた。
「これじゃ、何の為に飛んできたんだか……!」
広がっていく被害に歯噛みしながらデストロイの攻撃を回避し続ける。
しかし、再び襲った飛んでくる腕部とそこから発射される指のビームの網に、エールストライカーが撃ち抜かれた。
「やばっ!」
即座にストライカーパックをパージする。
すると反対の腕がラビの乗るスカイグラスパーを狙っていて。
しかし、その腕は、突如飛んできたビームブーメランに斬り落とされた。
「どこから!?」
周囲を見回すと、スカイグラスパーより上の高度から、連合とは別の、見慣れた機体が飛んでいた。
「デスティニー。ギャンにインパルス! それに……!」
インパルスが抱えているそれを見て、ラビは機体を旋回させた。
通信機越しに、シンの声が届く。
『こちら、世界平和監視機構コンパス! 今すぐに戦闘を停止しろ!』
その間にラビはインパルスに向かいながら通信を繋げる。
「ホーク中尉!」
『ラビ!? その戦闘機に乗ってるの!?』
ルナマリアの安堵と驚きが混じった声。
それに構わずにラビは叫ぶ。
「そこで停止しててっ!」
『は?』
「跳び乗るっす!!」
『え? ちょっ!!』
困惑しているルナマリアを無視してラビはインパルスに近付くにつれて減速する。
チャンスは一度。失敗したら機体が衝突して潰れるか、地上に落ちてグチャっとなるか、だ。
全神経を集中させる。
すると、いつもよりも感覚が鋭くなるのを感じた。
(あぁ、この感じ……月でサーペンタイン団長と戦った時と同じ……)
全ての計器や状況が手に取るように分かる。
スカイグラスパーの減速出来るギリギリの速度を肌で理解出来る。
どのタイミングで跳べるかも。
『ラビ! やめなさい!!』
ルナマリアがそう警告するのとは裏腹に、ラビはスカイグラスパーのハッチを開き、斜めに傾けつつ機体の前を横切る瞬間を見計らって、インパンスが抱えるモビルスーツ。ブラックナイトスコード・ルドラに向かって跳んだ。
「あぁああああああああぁああっ!!」
伸ばした腕の指が胴体部の装甲に引っ掛けて取り付く。
乗り手の失ったスカイグラスパーはそのまま地上へと落下していった。
「ぐえぇっ!? あ〜くそ! 失敗した! ハッチ開放のボタン逆じゃん!」
取り付きに成功したは良いが、コクピットを開ける為のボタンが逆側だったのだ。
ラビらルドラの胴体を体に取り付いた虫のように這って移動する。
だが、ラビがハッチを開ける前に、ルドラのコクピットハッチが自動で開いた。
「うそ! なんで!」
しかし、それを疑問に感じている余裕はなく、そのままコクピットの中へ滑り込んだ。
「どこだどこだ! あの女はぁっ!!」
ヴィンセッドはデストロイのコクピットの中で自分を殴り飛ばした少女の存在を探し続ける。
元々エクステンデッドの研究の失敗作の生き残りである彼は、ブルーコスモスに保護された時に回収された薬物で禁断症状を抑えていた。
しかし、その薬物も既に残り少なく、ここの者達には同じ薬を作るのも不可能。
精神肉体共に不安定になっていくヴィンセッド。
メアリーという姉に代わる存在を見つけても、先は長くない青年。
パイロットとして使えるのは一度だけ。
その為に飼われていたエクステンデッド。
まともな思考能力を削られていった彼は、ただ姉を哀しませ、自分に危害を加えた女を消す事だけを目的に動いていた。
ブルーコスモスの思惑や作戦など、既に彼には知った事ではなかったから。
邪魔をするモビルスーツは敵味方問わず排除する。
あの女を消さない限り彼の中にある不快感は決して消えないからだ。
そこで彼は、自分を邪魔する為に現れたコンパスのモビルスーツに目を向けた。
そこで見つけた。
姉を哀しませ、自分を殴った女を。
その女は何故かモビルスーツに取り付いて這いずっているが、そんな疑問はどうでも良かった。
あの女を撃てば自分の苛立ちと不快感は消え、姉が泣くのを止める事が出来る。
「そこかぁっ!!」
モビルアーマー形態に変形し、巨大な二門のビーム砲を向けた。
「キヒャ……死ねぇええええぇええっ!!」
トリガーを引き、ビーム砲が火を噴く。
ビームの光に一瞬目を焼かれたが、彼は満足そうに笑った。
「ザマァみろ!! これでこれでこれでぇ!!」
渡されていた薬を取り出し一気に飲み干す。
少しだけ取り戻した彼は撃ち落とした機体を見る為に視点を戻す。
「あぁん?」
現れた機体は一機足りとも撃墜されてはいなかった。
インパルスとルドラを守るようにデスティニーがビームシールドを展開して盾になっていたから。
インパルスに抱えられていたルドラは手を放されると、ビームマントを展開して空を飛ぶ。
黒衣の騎士は、背負った