ファウンデーションの近衛師団長に剣で勝ったら目を付けられた件 作:ブルーコスモスへの鎮魂歌
「大丈夫か?」
「はい。ありがとうございます」
ラビが立ち去った後に、近くの部屋に拘束されて放り込まれていたメアリーは一時間程して同士の手で解放された。
「コンパスの人間が既にこの基地へ入り込んでいます。おそらくは司令室に。対処をお願いします」
「!? 分かった。君はどうする?」
「私は……」
メアリーは少しだけ考えてから発言する。
「出撃します。あの子の援護に」
「いった〜。指が千切れるかと思ったぁ……」
一応防護用に填めていた分厚い手袋を外して後ろにポイする。
そこでラビの膝に乗っているヒゲの描かれたハロがゼッコーチョー! と鳴く。
ラビはハロの頭を撫でた。
「いやー助かったー。開けてくれてありがとね!」
ルドラとハロを繋いでいるコネクトを外して後ろに置く。
トリィやブルーが主の下へ帰って来るように、ルドラのセンサーが
これは、アスラン達がサイクロプスを止める為に敵基地に侵入している事をコンパス側が知らず、てっきりこの町で身を隠していると思っていたから掛けておいた保険だった。
まさか、
あのタイミングでコクピットが開かなければ、デスティニーが庇っても、ビームの熱の余波でどうなっていたか。
とりあえず、インパルスの手から離れて自分で飛行するルドラ。 すると、仲間から通信が送られてきた。
『なにやってんだ(の)お前(アンタ)はーっ!!』
「ほわっ!?」
と、シン、ルナマリア、アグネスが三人から同時に怒声が飛んできた。
『バカじゃないのバカじゃないの!! こっちの心臓が止まるかと思ったわよ!!』
『アンタ死にたいの! ホントの山猿みたいなことするんじゃないわよ!』
『落ちたらどうするつもりなんだお前はーっ!!』
そんな三人の怒りにラビは頬を掻きつつ答える。
「えー? だってあのままいちいち降下してハッチ開けるより、あたしが跳び乗った方が早いかなーって。すぐに戦闘へ移れるし……あ、来るっすよ?」
ラビの警告を聞くより早く、デストロイからの攻撃に反応して回避行動を取る四人。
胸部三門から発射されたスーパースキュラが空を裂く。
『くそ! おいラビ! これが終わったら覚えてろよ!』
「うっす」
なんか悪役みたいな台詞だなーと思いながら、町の惨状に視線を向ける。
モビルスーツの攻撃によって焼かれた町。
死体が残っていればまだマシ。遺体さえ残らなかった被害者がどれだけ居るのか。
それを思って唇を噛み、操縦桿を握る手に力を込める。
「あたしはヤマト隊長みたいに優しくもないし上手くも出来ないから……だから────すぐにぶっ殺してやるよ!」
ペダルを思いっきり踏み込んでデストロイへと向かった。
アスラン達が侵入した基地の司令部に居たのは十人にも満たない人数だった。
その内の半分以上を撃ち殺し、三人を拘束している。
「メイリン。どれくらいかかる?」
「このまま邪魔が入らなければ三十分程で。完全に起動スイッチを切り離すのは手持ちの機材では難しいので、起動に必要なプロセスを大幅に増やすことにしてます」
メイリンの返しにアスランはそうか、と返して警戒を続ける。
すると、拘束されているここのリーダーであるイワンが口を開いた。
「君らはコンパスか?」
その質問に答えずにいると、イワンが勝手に話を進めた。
「悪いことは言わん。君らもナチュラル……いや、地球に住む者ならば、我々に協力すべきだ!」
話している内に熱くなったのか、イワンの口調に熱が篭もる。
それにアスランは警戒を続けつつ会話に応じる姿勢を見せた。
「貴方は、コーディネイターがそんなに憎いのか?」
なにを今更な質問かもしれない。
だがアスランはイワンの地球に住む者、という言葉が気にかかった。
「正確にはプラントが、だ。憎いというより恐いという方が正しいがね。君は今この地球がどれ程の危険に見舞われているか理解しているか?」
イワンはアスランを見て話し始めた。
「私は第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦の時に、艦長として参戦していた。これでもそこそこ優秀でね。私の指揮した戦艦はナスカ級を二隻撃沈させた。そんな興奮もあの光に見てすぐに冷めたが」
「あの光?」
「ジェネシスだ」
その兵器の名を聞いてアスランは顔をしかめた。
現代で最も最悪な大量破壊兵器。
本来の用途は別だったが、ザフトが兵器として使用してしまった。
「ジェネシスが初めて発射された時、私は近くの隊と連絡を取っていた。あの光に呑み込まれた彼らの死に様を見て思ったのが、私はああならなくて良かったと安堵したよ」
自嘲を堪えるように話を続けるイワン。
「それでもなんとか終戦を迎えて私は転属願を出してこの基地に赴任した。宇宙は肌に合わなかったからな。そしてブレイク・ザ・ワールド。破壊されたユニウスセブンの落下騒ぎだ」
まるで教師が生徒に授業をするように話すが、目の奥に宿る恐怖をアスランは感じ取っていた。
「幸いここら辺はユニウスセブン落下の被害は軽微で済んだ。後の開戦でも小競り合い程度で収まり、前の戦争と違い、短い期間で終わったな。だが火種も多く残り過ぎた。地球を攻撃する火種が」
忌々しいとばかりにギリッと奥歯を噛む。
「ジブリールも中途半端なことをしてくれた。とっとと捕まって処刑されるか、プラントを全て撃ち落とせば良かった物を」
吐き捨てるイワンにアスランは眉間をしかめる。
そしてここからが本題だった。
「現在レクイエムで破壊されたプラントが幾つ在る? それらがユニウスセブンのようにコーディネイターが落下させないとどうして言える。あの偽物の世界を落とすだけで、地球を確実に滅ぼすことが出来るのだぞ」
一部のテロリスト達がユニウスセブンを落下させた。それが再び起きないと何故言えるのかとイワンは訴える。
レクイエムによって破壊されたプラントの撤去作業はほとんど進んでいない。
ユニウスセブン落下を繰り返さない為にプラント側も議題に上げているが、過去の大戦で軍人市民両方に多大な損害が出たプラントには単純に人手が足りないのだ。
破壊されたプラントの完全撤去には冗談抜きで百年近い年月が必要かもしれない。
「ラメント議長は地球との融和を望む人物かもしれない。だがその次は? プラントがいつかジェネシスやそれすら上回る大量破壊兵器を開発しない保証は? いや、そんな兵器を開発せずとも、プラントを全て落下させるだけで地球を滅ぼせるのだ。それがプラントの総意か、一部の暴走かは知らんがね」
地球の喉元には常に切っ先が突き付けられているのだとイワンは告げる。
それが、ナチュラルがやってきた事の自業自得と言われればそうなのだろう。
だが。
「滅ぼさせるのはゴメンだ」
そこに集約されてしまう。
相手側にどんな理由が有れど、撃たれたくないのだ。
「だが、それとラクス・クラインの暗殺にどんな関係がある? 彼女がプラントの人間だからか?」
何故彼らがラクスの暗殺を試みる必要があるのか。
その関係が見えない。
「私としては、彼女の暗殺の成否はどうでも良かったのだかな」
肩をすくめるイワンにアスランの中でパズルのピースが埋まる。
「そうか。貴方はこの基地ごとコンパスの戦力を……! その為のサイクロプスか!」
馬鹿な事を、とアスランは吐き捨てる。
ラクスが狙われれば、コンパス側としても行動せざる得ない。
そうしてコンパスの戦力を誘き寄せ、サイクロプスで自分達ごとボンッ、だ。
「現状、我々を悩ませていたのはコンパスの介入だ。加盟国で行動しても、彼らの介入ですぐに鎮圧される。既にデストロイですら、奴らには時間稼ぎにしか使えん。だからコンパスを壊滅させるにはこうした罠に頼るしかなかった」
大量破壊兵器を恐怖しながらそれに頼る矛盾。
しかし、この基地を犠牲にしてコンパスを壊滅させれば、ブルーコスモスの活動は活発化し、いずれはプラントを滅ぼせるかもしれない。
「コンパスを呼んだ連合の司令も私達からサイクロプスを取り上げるのは不可能だと判断し。色々と情報を回してきたがね」
連合からしたら発動自体は許容範囲だが、それによって失われる戦力が惜しかった。
なにより、市民や人の住む町や村に被害が出れば、自分達への追及は免れない。
しかし、コンパスが介入する事で、彼らが余計な藪を突いたせいでテロリストがサイクロプスを起動させたという言い訳が成り立つ。
マスコミや市民への非難もある程度は抑えられるのだ。
「馬鹿なことを……そんなことをしても、なにも根本的解決になりはしないのに……!」
このイワンという男も連合も、今の世界がどれだけ危ういバランスの上で成り立っているのかまるで理解していない。
プラントだって馬鹿なお人好しじゃない。
自分達への攻撃には当然反撃するし、それが続けばイワンの言うように本当に地球を滅ぼしてでもプラントの安全を確保しようとするかもしれない。
そうなれば、報復に次ぐ報復で、地球もプラントも共倒れになるだけなのだ。
互いの不満や憎悪をコンパスが矢面に立ってテロリストを鎮圧し続ける事でなんとかバランスを保っている。
今コンパスを壊滅させるのは、また大戦への引き金になりかねない。
「どうやら私もまだ運に見放されてなかったようだな」
イワンがそう笑うと、司令室に音声だけの通信が入る。
『侵入者に告ぐ! 司令部は既に包囲されている! 大人しく投降せよ!』
「メイリン!」
「待ってください! まだ……!」
イワンの目論見を聞いた以上、サイクロプスの無力化は絶対だ。
流石に遠い基地にいるミレニアムまでは範囲外だが、デストロイを止める為に出撃したシンやルナマリア達は確実に巻き込まれる。
そう判断してメイリンもここを離れる訳にはいかなかった。
「えぇい!」
警戒だけをしていられる状況ではなく、アスランも司令部の端末を操作し始めた。
「この! デタラメに撃ってきて! これじゃ避けられないじゃん!」
片腕を失ったとはいえ、デストロイの火力は健在だ。
いい加減に撃ってくるミサイルやビームが容赦なく町を焼いてくる。
まだ生きている人達を少しでも助けようとして盾になり、デストロイに近づけずにいる。
この戦場に居る連合とブルーコスモスの混戦に巻き込まれている生身の人達を守ろうとすれば余計にだ。
シンもデストロイに近づこうとするが、ラビと同じように生身の人間が気になって攻めきれずにいる。
デストロイを手早く片付けるのが最善と理解していても。
そこでルドラに通信が入った。
それは、デストロイからだった。
『このクソアマァアアアッと!! さっさと死ねよぉおおおおおっ!!』
「なに!?」
突然絶叫のような聞き覚えのある声が届くと同時にビームが飛んでくる。
フェムテク装甲頼りに受け止めつつ、高度を上げた。
「この声……あの人か!?」
『姉さんを泣かした罪を償えぇえええぇええっ!!』
「知るかボケェ!!」
イラッとしてもうとっととデストロイを無力化しようと急ぐラビに、更に上空から襲いかかるモビルスーツがあった。
そのモビルスーツは手にした大鎌をルドラに振り下ろす。
「フォビドゥンッ!? こんな物まで……!」
大鎌をシールドで受け止めて流し、横に回るとフォビドゥンのパイロットが通信を繋いでくる。
『ラビ!』
「メアリー!? それに乗ってるの!?」
それに答えず、プラズマビーム砲を撃ってくる。
「ビームが曲がって!? そういえば、ゲシュマイディッヒ搭載してるんだっけぇ……!」
フェムテク装甲なら避けるまでもなく防げるが、鬱陶しいなと舌打ちする。
しかも時間差でレールガンも撃ってきていた。
再びフォビドゥンが接近し、大鎌を振るってくる。
『ラビ! これ以上邪魔をするなら私が……私が貴女を討つ!』
次回でこの話も終わりです。