ファウンデーションの近衛師団長に剣で勝ったら目を付けられた件 作:ブルーコスモスへの鎮魂歌
「なんでこんなことに……!!」
突然現れた巨大モビルスーツ。
彼は訳も分からず家族と避難に動いていた。
碌に荷物も持たず、まだ小さな娘を抱えて妻は息子の手を引いて懸命に逃げている。
車で逃げようにも、始まった戦闘で破壊されてしまい、彼らは自分の脚で逃げるしかない。
誰かの車を奪ったり、屋根に乗って逃げようとする者もいるが、その人達は言い争っている間に撃墜されて飛んてきたモビルスーツの破片に潰されたのを見た。
「頑張って! もう少しだからね!」
妻が息切れを起こしている息子を励ます。
もう少し。その言葉をこの短い時間に何度口にしただろう?
思えば、この町がブルーコスモスに占領されてからが転落の始まりだった。
それから少しずつ物流が滞るようになり、生活が辛い物に変わっていった。
それでも彼らは直接住民を撃つような真似はしなかったし、反抗されしなければ、薄氷とはいえ平和が約束されていた。
本音を言えば、軍が一日でも早くテロリスト共を追い出してくれるのを待っていて、それまで出来る限り穏やかな生活を心掛けていたが、まさか急にあんなモビルスーツで暴れ出すとは思わなかった。
避難勧告すら出されずに状況に流されるまま逃げ回っている。
他の住民も早く逃げようと走るが、モビルスーツの攻撃がこっちに来ない事を祈るしかない。
だが、逃げ道には運悪く、撃墜されたのだろう戦闘機が、墜落時に破壊された建物と一緒に道を塞いでいる。
「クソッ! こんな時に!」
どうにか隙間か、よじ登って向こう側にいけないかと通る方法を探すと抱えている娘が空を指差す。
「パパー。なんかくるー」
この場に似つかわしくない暢気な声。
娘が指差す方を見ると、こちらに落ちてくるミサイルが見えた。
「なっ!?」
もう駄目だと、それでも咄嗟に家族を庇うように男は家族を伏せさせて覆い被さる。
(せめて、家族だけでも……!)
飛んでくるのはミサイルだ。自分が盾になったところで家族が助かる訳がないのは理解している。
だが、それでもそうせずにはいられなかった。
ミサイルの爆発音。しかしそれは思ったよりもずっと遠くて。
「あ……」
目も見開いて上を見ると、そこには赤い翼のモビルスーツが自分達を守るように立っていた。
おそらくは撃墜したミサイルの破片が自分達に当たらないように。
そして別のトリコロールカラーのモビルスーツが、墜落して道を塞いでいる戦闘機を持ち上げて退かす。
『戦闘範囲外までもう少しです! 急いでください!』
戦闘機を退かしたモビルスーツからそう檄を飛ばされる。
まだ若い、少女の声だった。
言われた通り、一秒でも早く戦闘から遠ざかる為に走る。
トリコロールカラーのモビルスーツを横切る際に。
「ありがとう……!」
聞こえてないだろうが、そうお礼を言わずにはいられなかった。
その時に助けてくれたモビルスーツが、連合のナチュラルではなく、コンパスに所属するコーディネイターの人達だと知ったのは、この事件の少し後の話。
「くそっ! 好き勝手撃ちやがって、こいつ!」
シンはデストロイの無差別攻撃に苛立っていた。
攻撃を自分に向けさせようと動くが相手はそれを無視して全方位にビームやミサイルをばら撒いている。
ミサイルはフリーダムのように連射と精密射撃に優れた機体ならともかく、一度守りに徹すると武装が大味なデスティニーでは分が悪い。
一気に斬り込んでしまうのが最善と理解していても、その間に出る被害を想像して踏み込めないでいる。
過去、都市を三つも焼いた機体だ。エネルギー切れを狙ってたら、間違いなく町が壊滅する。
しかも、他の戦闘をしているのが連合のモビルスーツで、はっきり言って連合かブルーコスモスかの区別が付きにくい。
デストロイを庇っているモビルスーツをアグネスが優先して潰しているが、地上戦になると通路が狭くて思うように動けていないし、本当にブルーコスモス機だけを撃墜してるのか微妙なところ。
まぁ、評価を気にするアグネスだから、そこは上手くやっているだろうが。
インパルスも住民が速やかに逃げられるように飛んでくる攻撃を防ぎつつ、障害物を排除していた。
「ラビのやつ、なにやってんだ!」
空中でフォビドゥンと交戦しているラビ。
だが、性能差は歴然で、パイロットの腕もそう卓越した物を感じない。
もう撃墜しても良い頃の筈。
なのに、ルドラはフォビドゥンの攻撃を回避してるが、攻撃する事には消極的な動きだった。
もう一人分の援護が有れば、デストロイに斬り込めるのに。
シンはルドラに通信を繋ぐ。
「おいラビ! 早くこっちの援護を────」
『ふっざけんなぁああああぁああっ!!』
ラビの怒声が鼓膜が破れるんじゃないかと思う程に響いた。
「この子、こんなに……!」
モビルスーツの性能差だけではく、パイロットの技量としても圧倒的な差をメアリーは見せつけられていた。
さっきからこっちの攻撃を回避され、追い払うように対艦刀の峰打ちや蹴りをしてくる。
コンパスに所属して実戦こそ最大のレベリングとばかりにスクランブルを繰り返してきた。
機体性能だけでなく、パイロットとしての経験値が違い過ぎるのだ。
メアリーが歯噛みするとラビの方から通信を繋いできた。
『そろそろ投降してくれないかな? あたしも忙しいからさ』
涼しい声で投降を呼びかけるラビにメアリーは大鎌を闇雲に振るうが、シールドで引っ掛けるように防がれた。
その余裕がメアリーの癪に障る。
「馬鹿言わないで! 私は……!」
『下、見てみなよ』
冷めた声でラビが対艦刀の刃を下に向けた。
そこには、つい昨日まで取り敢えずとはいえ、平和だったが無惨に破壊され、あちこちで火の手が上がっているのが見える。
「あ……」
それを見て、メアリーの頭が急速に冷静さを取り戻して行く。
『あたしさ。メアリーがクライン総裁を暗殺するって聞いた時も、それはファウンデーションの時のような暴走をあらかじめ食い止める為だと思ってたんだけど』
父の仇討ちやコーディネイターに対する不信感はあったにせよ、メアリーなりに市民を守ろうとして選んだ道だと思っていた。
だが、今暴れてるデストロイを庇って被害を拡大させてどうするつもりなのか。
『最後に聞いておくね。メアリーはなにを守ってるつもりなの?』
「それは……」
自分達が占拠した町。
怯えながらも揉め事を最小限になんとかやってきた。
申し訳なく思いながらもコーディネイターを滅ぼす為にと無理やり納得していた。
それがボロボロと崩れて────。
「だって、仕方ないじゃない……!」
『は?』
「私だって! こうなりたかった訳じゃない! でも、お父さんがあんな訳も分からない連中に殺されて! 復讐しようにももう全部終わってて! またいつコーディネイターが地球を滅ぼそうとするか分からないって言われて!! だからだから!!」
一旦距離を取りながら、曲がるビームを連射して叫ぶ。
「だから私は……!」
『ふっざけんなぁああああぁああっ!!』
鼓膜破らんばかりの怒声を上げるラビ。
数回呼吸をして息を整える。
『ホンッとバカバカしい! あたしにせっつかれた程度で取り乱すくらいの気持ちなら、最初からこんなことすんな!』
同情でも憐憫でもなく、見損なったというメアリーに対する明確な拒絶だった。
コンパスに居ると、過去の戦争の事を断片的に聞く事がある。
凄惨な戦争を経験し、互いの憎しみを知ってもまだ、いつか本当の意味で手を取り合える日を目指し、歯痒いまでに進まない世界で戦っている人達がいる。
その想いと努力を知らぬ存ぜぬと踏み躙る行為をラビには許容出来ない。
『メアリーはパパさんが亡くなった時に、戦いから身を引くべきだったんだよ』
無責任だが、後は時間がメアリーの心を癒しただろうに。
その選択を間違えた事だけは憐れだと思った。
『言った筈だよメアリー。これ以上邪魔するならあたしは撃つって!』
ルドラが急加速し、フォビドゥンに迫る。
「このっ!!」
カウンターで大鎌を振りかぶるもその刃はホログラムを斬り裂くように感触がなく、ルドラの幻影が消えた。
「えっ……あうっ!?」
同時にフォビドゥンが被っていたバックパックに右を取っていたルドラがゲシュマイディッヒ・パンツァー発生装置の右盾を斬る。
『残像だよ』
そのまま左腰のサイドスカートに追加された月の戦闘でシヴァから奪い取ったビームサーベルを逆手で引き抜き、大鎌を手にしている右腕を斬り飛ばす。
フォビドゥンを解体するように斬り捨て、飛行能力を失った状態にして地上へ蹴り落とした。
落下していくフォビドゥンにもう用は無いとばかりに振り返る事なくルドラはデストロイに向かって行った。
『すみません、遅れたっす!』
「お前……」
あのモビルスーツのパイロットと知り合いなのか、と問おうとしたが、その前にラビの方から口を開く。
『デストロイをやるっす!』
そうだ。そんな事より今はデストロイの撃墜が急務だ。
「俺が倒す! ラビは援護だ!」
『了解!』
ラビがデストロイに近づくと、デストロイがルドラを重点的に狙ってくる。
それを回避、もしくはフェムテク装甲で無力化しながら町への被害を抑えようと動く。
口からの砲口が火を噴き、ルドラを撃ち抜くも、それは幻影であり、一瞬の動揺を狙ってデストロイの口にある砲口を対艦刀で貫くと、胸部のスキュラの真ん中まで振り下ろした。
『アスカ大尉!』
「分かってる!」
デスティニーの加速を最大にして突っ込み、デストロイのコクピットに掌の武装であるパルマフィオキーナのビームを直接撃ち込んだ。
サイクロプスが設置されている基地の司令部にブルーコスモスの人員が押しかけてきた時、既に侵入者は去った後だった。
「遅かったな。彼らはサイクロプスの起動システムに細工をして既に去って行ったぞ」
「そんな!? す、すぐに捜索を!」
部下の進言に拘束を解かれたイワンは首を横に振る。
「いや。我々は無事な者達を集めてこの基地を捨て、別の部隊と合流しよう」
「な、何故ですか!?」
「サイクロプスの起動システムに細工をされた以上、近くの連合か、コンパスの部隊はすぐにここを取り返そうと動くだろう。デストロイもエクステンデッドの出来損ないも失った以上、ここに逗まれば、捕まるか殺されるかだ。動ける者を集めてすぐに移動するぞ!」
イワンの命令を聞いて、部下達は敬礼をするとすぐに動く。
「まだだ。地球の安寧を守る為に私はまだ戦い続けるぞ……!」
本隊の連合所属モビルスーツ部隊が到着し、生き残ったテロリストを拘束していく。
その中には、フォビドゥンから無理やり引きずり出されたメアリーも居て。
手錠を後ろにかけられて連れて行かれるメアリーにコクピットから降りたラビが呼びかける。
「メアリー!」
彼女を連れて行く連合兵共々足を止める。
振り向いたメアリーにラビは小さく手を振って。
「またね」
とだけ告げた。
その一言にメアリーはグッと泣くのを堪えるようにラビから視線を外した。
「ごめんね……」
そう呟いて連行されて行った。
ルドラのコクピットに戻ろうとすると、シン達が声をかける。
「いいのかよ。知り合いなんじゃないのか?」
「軍学校時代のルームメイトっすけど。いいんじゃないっすかね? 生きてればいつかは会えるし。それより、早くミレニアムに戻りたいっす。お腹空いた〜」
お腹を撫でるラビにルナマリアが両頬を引っ張る。
「あんたね〜。あたし達がどれだけ心配したか理解してるの!」
「ほへんははひ!? ほへんははひ!?」
「今回の事はきっちり報告するわよ! あんたのせいであたしのスケジュールにしわ寄せが来たんだから! 覚えてなさいよ」
アグネスの言葉に頬を解放されたラビはえ〜っという態度で返す。
「とりあえず、ここに居ても邪魔になるから、帰投するぞ」
シンの指示に自分の機体に戻る。
その途中でメアリーが連れて行かれた方角を見たが、すぐに視線を戻した。
「大体貴様はいつもいつも注意が足らんのだ!」
ミレニアムに戻ってきたラビに待っていたのは、コンパス上層部からのお説教だった。
椅子があるのに何故か正座させられ、この場にラクスとキラ。コノエとハインラインに絶賛お説教タイム。
(今回あたし被害者だよね?)
既に小一時間ハインラインのお説教を聞いているラビ。
ラビからすれば旧友がテロリストに転職してるなんて思わなかったし、部隊を危険に晒したのは悪いと思っているが、いい加減疲労で眠くなってきた。
「なにか言うことはあるか、少尉?」
一段落ついたのか、ハインラインのお説教が止まる。
それに対してラビの返答は。
「ハッ! そろそろご飯食べに行ってもよろしいでありますか! もう一日半くらい何も食べてないであります!」
過去最大にキリッとした表情でふざけた返答をするラビ。
それにラクスとコノエが笑いを堪え、キラは顔を押さえて息を吐いた。
ハインラインの額に血管が浮かびお説教の第二幕が幕を開けようとした時。
「そこまでにしましょう。これ以上時間を取られれば、業務に支障をきたしますわ」
ラクスがやんわりとお説教を中断させた。
これから後処理が残っており、ラビのお説教に時間を費やせる程、コンパスは暇ではないのだ。
決してハインラインのお説教を聞き続けるのに飽きた訳ではない。
「……分かりました。少尉。二日以内に報告書を提出しろ。いいな!」
「了解っす。サー!」
敬礼をしつつ適当な返しをするラビに、ハインラインはなにか言おうとしたが、これ以上は無駄だと判断したのか、コノエと共に総裁の執務室を退出する。
ラビも退出しようとすると、ラクスからストップがかかる。
「ラビはもう少し残ってください。まだ話がありますので」
「ラクス?」
「キラも、まだ仕事が残ってますでしょう? ここは大丈夫ですので」
珍しくまるで追い出すようにラクスはキラへ退室を促す。
仕事が残っているのは本当なので、躊躇いつつも部屋から出ていく。
二人っきりになった部屋でラクスが机の引き出しからクッキーを取り出す。
「とりあえず、これをどうぞ。あ、もう椅子に座って構いませんよ」
「はぁ……」
言われた通りクッキーから受け取ってから椅子に座り、袋に入ったクッキーを一枚口に入れる。
ようやく食べ物を口に入れて若干頬を緩ませる。
ラクスから話を切り出した。
「アスランからわたくし個人に連絡が届きました」
「はい?」
「わたくしがもしも暴走した場合の話です」
二枚目のクッキーを食べようとした手が止まる。
(そういえばあの時、一佐居たじゃん……!)
すっかり忘れていた事実にラビは冷や汗を掻く。
(これはクビかなぁ)
もしもとはいえ、ラクスが暴走したら殺すと断言したのだ。
そんな奴を手元に置きたくはないだろう。
もしかしたら、このクッキーが手切れ金になるかもしれない。
「ザラ一佐はなんて?」
「貴女に気をつけるように、と。それでラビ・トーチス少尉」
「はい!」
クビ宣告を覚悟して姿勢を正す。
しかし、ラクスの口から出た言葉はまったくの予想外だった。
「その時は、どうぞよろしくお願いしますわ」
「はい?」
ラクスは今、もしも自分が暴走したら一思いに殺せと言ったに等しい。
それとも、アスランの告げた内容に誤りがあるのか。
「コンパスに、そのような権限はありませんが、わたくしも一つの組織のトップとして、暴走しないという保証は何処にもありません。その時に、止めてくれる誰かが必要です」
人生にはそれでもがついて回る。
かつてのパトリック・ザラのように失った深い悲しみから狂わないという保証はない。
もしくはいつまでも終わらない争いに嫌気が差して、ギルバート・デュランダルのように自分の答えを押し付けないとも限らない。
もしくは変わらぬ世界にアコードが正しかったと思う日が来るかもしれない。
「もちろん、わたくし自身そうならないように自らを律するつもりですが、絶対はありません。矛盾するようですが、ラビ。貴女は変わらずその志のまま、わたくしを見定めてください」
自分は変わるかもしれないが、ラビには変わらずにいろと言う。
「もしもわたくしが人々に害なす存在になったら、ラビは無辜の人々を守る為にわたくしを撃ってください。それが貴女の正義なら」
真っ直ぐとそう頼むラクスにラビは敬礼する。
「分かりました。もしも総裁が暴走したら、あたしが撃ちます」
そう口にした以上、それはラビの責任だった。
「まぁ、そうならないのが一番っすけど……」
「そうですわね」
ラクスが苦笑し、張り詰めていた空気が弛緩する。
もう話は終わりかな、と思っていると、ラクスが思い出したように、クローゼットの中に手を伸ばす。
「忘れてましたが、この任務が終わったら、貴女に渡すようカガリさんに言われていたのです」
「アスハ代表から?」
「はい。シュラ・サーペンタイン元団長から、ラビへ誕生日プレゼントだそうです?」
「……あの人が?」
マメだな、と思いつつ、ラビは首を傾げる。
「あの人、今服役中っすよね? よくそんな許可が……」
なにかまた取引でもしたのだろうかと邪推する。
ラクスがそれを取り出してラビに渡した。
「あ。何が入ってるのか大体想像ついたっす」
外れてたらいいな〜っと思いつつ、包装を剥がし、細長い箱に入ったそれを取り出した。
「oh……Japanese Blade……!」
俗に言う日本刀だった。
新品なのか鞘から抜くと汚れやシミ一つない刀身が輝く。
(本当にどうやって通したんだろ?)
疑問だが、考えないようにした。
最近は木剣を振るうのも楽しくなってきたが、断じて真剣が欲しいと思っていない。
かと言って返品するのも面倒な気がする。
刀身を鞘に納めて、息を吐く。
「とりあえず、次に会ったらあの人に飛び込んで、一息で九連撃を叩き込めるようにしておこ」
そう決めた。
この約一年後。大規模な改装を実施されるミレニアムが、旧ザラ派のコーディネイターに占拠される事件が発生した。
その際に、日本刀を持った一人の少女が数多くのテロリストの指や腱を斬って再起不能にする大立ち回りを見せたとか見せなかったとか。
※冒頭でインパルスが退かした戦闘機は、ラビが乗り捨てたスカイグラスパーです。