ファウンデーションの近衛師団長に剣で勝ったら目を付けられた件 作:ブルーコスモスへの鎮魂歌
「クソ! なんなんだよコイツはぁ!!」
彼は今期、ザフトのアカデミーを赤服で卒業したエリートだ。
実戦経験こそまだ無いものの、モビルスーツの操縦には自信がある。
いや、あった。
「ナチュラルのくせに! ナチュラルのくせにぃ!!」
モビルスーツの模擬戦で対峙しているパイロットはナチュラルの筈だ。
なのに、こちらの射撃を容易く回避して接近してくる。
有り得ない有り得ない有り得ない!
低能なナチュラル如きが
接近してきたナチュラルの女が乗るザクがこちらが持っているビームライフルを蹴り飛ばす。
「ひっ!?」
『
驚きから停止していた思考が復活するよりも速く、敵のザクがトマホークをコクピットに振り下ろした。
「それじゃあ今日のブリーフィングを始めます」
キラの言葉と共に尉官以上。もしくはミレニアム内で何らかの役職に就いている面々の会議が始まった。
内容としては、ここ最近のブルーコスモスを始めとする反コーディネイター思想のテロや逆に反ナチュラル派のテロが減少傾向にあること。
これを機に、コンパスとしても協力してくれている各国との連携や、非加盟国だった国とも少しずつでも理解してもらえるように交渉を重ねるつもりなこと。
それと、テロが減少傾向にあるとはいえ、ミレニアム一隻で地球と宇宙を往復し続けるのも限界がある。その為、アークエンジェルのように地球で活動出来る戦艦を用意する旨。
一応新造予定だが、今は間に合わせで既存の戦艦を改修中との事。
そこまで話が進むと、キラが端末で資料を見ながら話を変える。
「それで一週間後なんだけど、今期のザフトのアカデミー卒業生の赤服全員と、コンパスのパイロット三名で模擬戦を行うことになりました」
キラの言葉にシンが戸惑った様子で繰り返す。
「模擬戦、ですか……」
「うん。ジュール中佐からの提案でね」
大戦前は五名だった赤服もシン達の世代では十名に広がった。
と、そんな話を聞きながらラビは集中を少しだけ下げる。
(プラントの催しならあたし関係なさそうだし)
出るのは三人という話。大尉のシンかヒルダをまとめ役にルナマリアとアグネスが出場、といったところだろう。
休暇取れないかなー、と考えているとキラがパイロットを指名した。
「ルナマリアとアグネス。それからラビ、お願いね」
「ほよ?」
名前を呼ばれて姿勢を正す。
それからいくつかの注意事項が話される。
「モビルスーツは向こうがザクを用意してくれるらしいから。なにか質問は────」
「はい! はい! はーい!!」
「いやそれバンザイ」
両手上げて質問をしようとするラビに隣に座っていたルナマリアがツッコミを入れる。
キラの方は予想していたのか、ラビの質問を受け付ける。
「あの、なんであたし? ここはアスカ大尉かハーケン大尉の出番では?」
「うん。普通ならね。でも今回はジュール中佐からの指名でさ」
そこでラビはジュール中佐って誰だっけと記憶から掘り起こす。
数秒後にポンと手を叩いた。
「あ〜。あの顔が綺麗な銀髪オカップアッ!?」
あんまりにも失礼な覚え方にルナマリアが足を踏んで手の甲を抓ってくる。
本人が聞いたら雷が落ちたのではないだろうか?
「それ、本人に言わないでね? それでジュール中佐だけど、今回の模擬戦にラビ・トーチス少尉を参加させてくれって」
「いやなんで?」
素の口調になっているラビにこの場の数名が眉を顰める。
苦笑しつつキラが説明を続けた。
プラントは慢性的な人手不足である。
戦争で多くの兵士や民間人を失い、出生率も低い。
失った人材はすぐには補充出来ず、より質が求められるのだ。
特にザフトは。
大戦初期はジン一機でメビウス五機は撃墜出来る計算でようやく膠着状態。
だがもしも今戦争になったら、ザク一機で最低でも連合のモビルスーツを十機は墜としてもらわないとキツい。
それくらい今のザフトは切迫していた。
なのにアカデミーからの卒業生の質は年々落ちてきている。
これは資質云々より、緊張感の問題だろう。
イザーク達がアカデミーに入学した頃は、血のバレンタインによるユニウスセブンへの核攻撃があり、今より戦争がずっと身近だった。
だが現在はテロ自体は多くても平和な時期。
それは素晴らしいが、兵士の質を落として良い理由にはならない。
だから前線で戦うパイロットと自分達の力量差を実感し、向上心を刺激したいのだと言う。
「え〜と……それなら尚更ヤマト隊長やアスカ大尉の出番では?」
「僕やシンじゃあ、ネームバリューが高過ぎるって」
フリーダムのパイロットとして多大な戦果を上げたキラ。
そのフリーダムを撃墜し、デュランダル前議長にFAITHへと任命されたシン。
そんな二人に負けても、向上心の刺激という本来の目的の効果は薄いと思われる。
「今はモビルスーツ戦が主力だし。優秀なパイロットでも油断してたらすぐに墜とされるって理解させたいみたい。そこでラビに話がきた」
今期のアカデミー卒業生と年齢が近く、実戦経験がそれなりに豊富で腕も立つ。
なによりナチュラルだ。
コーディネイターだから死なない。負ける訳が無いという幻想を打ち砕くにはうってつけだった。
もしも今回敗れてザフトを去るのならそれも仕方ない。
その程度で辞めるのなら長続きもしないだろう。
「そんな訳でさ。事後承諾になるけと、頼めるかな?」
元々疑問はあっても異論があった訳で無し。ラビは敬礼で返した
「了解っす。卒業したてで一人前づらしてる新人の鼻っ柱をへし折ってくるっす!」
「いや言い方っ!」
ルナマリアがラビの頭をスパンと叩いた。
「おい聞いたか? 今度の模擬戦の話」
「あぁ。コンパスのパイロットとの模擬戦だろ?」
「マジかよ。フリーダムなんて俺らが相手になんのか?」
「いや、今回はどうやら違うらしい」
赤服の一人が入手した情報を開示する。
「月光のワルキューレじゃん! やっべ! 俺ファンなんだよな! サインとか貰えねぇかな!」
「フリーダムキラーは今回参加しないの? ならチャンスはあるかな」
模擬戦の相手は、自分達のような新人でも知っているベテランパイロット。
自分達はどこまで戦えるのか。もしかしたら勝てるかもしれない。
そんな期待を胸に膨らませながら模擬戦相手の情報を見る。
「ねぇこの子ナチュラルって表記されてるけど」
「あぁ。今回の模擬戦に参加するらしいな」
「はぁ? どう考えても足手まといだろ」
小馬鹿にするように鼻を鳴らす。
いくらモビルスーツのパイロットとはいえ、ナチュラルなんて群れなきゃ戦えない数任せの無能だ。
赤服としてアカデミーを卒業した自分達に勝てる訳がない。
「ミレニアムのパイロットつっても、ただの数増しの援護要員だろ。どうせヤマト准将やアスカ大尉の後ろに隠れてるだけの」
「あ、コイツ、二ヶ月くらい前にブルーコスモスに取っ捕まってるじゃん」
「ならむしろ、こいつコンパスの足引っ張ってるんじゃね?」
そんな風に今度の模擬戦相手のナチュラルを下に見る彼ら。
今期卒業生の中にはかつてレクイエムによって故郷のプラントを破壊された者も居る。
だから連合から出張してるナチュラルに好意を持てる筈もない。
そこで赤服の一人が悪そうな笑みを浮かべた。
「ならさ」
そこから話される悪巧みに、大半の赤服が口元をつり上げた。
「情報省のイザーク・ジュール中佐だ。今回の協力に感謝する」
ジュール中佐とエルスマン大尉などの部下数名。
それと、今回模擬戦を行う赤服十名を連れてとあるプラントで顔を合わせていた。
ルナマリア達を連れたキラも敬礼で返し、質問する。
「いえ。それよりこちらが使う機体は?」
「既に搬入は済ませている。模擬戦は二時間後だ。それまでに調整を済ませてほしい」
「分かりました。あまり時間も無いですし、早速取り掛かりますね」
ルナマリアとアグネスはともかく、ラビが使うザクにはナチュラル用のOSが必要になる。
一応予めナチュラル用のOSを組み込むように頼んではいたが、問題は無いか確認しておきたい。
そこでイザークの後ろに居た赤服の少女が嘲笑混じりに発言する。
「その子、本当にパイロットなんですか〜? モビルスーツを動かせないのをこっちのせいにしたりしません?」
その発言に何人かがニヤニヤとラビを嗤う。
それをイザークが叱り飛ばす。
「馬鹿者! 新兵の貴様達の為に時間を割いてくれている先達になんだその態度は! そんな振る舞いをしろと誰が教えた!」
「パイロットがナチュラルでも同じ機体に乗ってるんだぜ。油断してたらあっという間に撃墜されちまうぞ」
ディアッカも、気を緩めないようにやんわりと釘を差す。
しかし、新人の赤服達は不服そうな態度だ。
それを見てキラは今回ラビを呼んだ理由を成程と納得する。
もちろん、部下を馬鹿にする態度には少しばかり不快感を持ったが。
それから調整がありますので、とザクのところへ場を移動する。
移動途中でルナマリアがラビに話しかける。
「悪いわね。気を悪くしたでしょ?」
「別に。こっちでのあたしの扱いなんていつもこんなモンっすよ」
ナチュラル。連合兵。
それだけでラビに見下す態度で接する者は多い。
ミレニアムがプラントに停泊してる間で接してくるコーディネイターは大体あんな感じだ。もちろん全員ではないが。
「ごめんね。気付かなくて」
「いえいえ。だから今回あたしとしても実力を見せる良い機会だなーって」
プラントは実力主義。
新人とはいえ、ザフトの赤服を撃墜出来る実力だと理解させれば少しは態度が変わるかもしれない。
それと、ナチュラルだからと無条件でなめられるのもいい加減うんざりしていたところだ。
「たっのしみだなー」
以前ラクスに例の目覚まし時計を渡した時と同じ笑顔をするラビ。
それにルナマリアは若干の不安を感じた。
「ま、頑張りなさい。アンタなら大丈夫でしょ────ってなによその顔」
アグネスの発言に驚いた顔をする三人。
「いや、アンタがそんなこと言うなんて珍しいなーって?」
「あたしだってこの子のことはそれなりに評価してるわよ!」
仮にも一年近く一緒に戦った仲だ。
アグネスなりにラビのモビルスーツ操縦技術は認めていた。
少なくとも今期の赤服よりは背中を任せられる。
そうして会話している間に三人が使うザクの所へ到着した。
すぐにコクピットで確認作業に入る。
「全員がブレイズウィザード。ミサイル搭載は無し。うん。ちゃんとナチュラル用のOSを搭載してる」
今回の模擬戦でミサイルは推力や爆発の威力が小さい物を使う予定だったが、パイロット三人から必要ないと最初から搭載されていない。それよりも少しでも軽くして機動力を上げたいからだ
ビームライフルもザクの装甲を貫けない威力に抑えられているし、トマホークもコクピットを破壊出来ないように熱振動が発生しないようにロックされていた。
「こっちの要望は全部通ってる。問題無しだ。そろそろ時間だし、僕はジュール中佐の近くで観戦するね。三人共、油断しないように」
頑張って、と機体から離れる。
三人の腕は信頼しているが、相手は十機。
模擬戦とはいえ、身内に勝ってほしいと思うのが人情だろう。
開始時間十五分前になり、コクピットで出撃時間まで待つ。
『打ち合わせ通りアグネスとラビが前衛であたしが援護。ってことで良いわね?』
『えぇ。任せたわよ』
「了解っす」
これはラビとアグネスは接近戦が得意で、ルナマリアが万能型のパイロットだからだ。
この一週間、シミュレーターでフォーメーションの訓練もした。
時間になり、プラントの外へ発進する。
敵側のザクも既に発進していて、三、三、四でフォーメーションを編隊している。
ちなみに敵味方の区別を付ける為に、赤服側のザクは右肩を赤色に塗装されている。
『来るわよ!』
ルナマリアが告げたように、一番前に出ている三機のザクからミサイルが発射される。
『バラバラにして各個撃破しようってわけね!』
当然ね、とアグネスが面白そうに鼻を鳴らしてミサイルを回避する。
ラビとルナマリアも。
しかし、ルナマリアはある違和感を覚えた。
『ミサイルの速度がおかしくない?』
安全を考慮して速度を落としてある筈のミサイルが実戦そのままの速度で突っ込んでくる。
当然回避すると、宇宙に漂っていた
その爆発は、実戦で使うミサイルと遜色ない威力をしていた。
ミサイルの爆発に気を取られている間に近付いてきた敵のザクがビームライフルを撃つ。
ビームをシールドで受けるラビ。
それで確信する。
(これ、威力抑えられてないじゃん!)
そうこうしてる内にラビは四機のザク囲まれた。