ファウンデーションの近衛師団長に剣で勝ったら目を付けられた件   作:ブルーコスモスへの鎮魂歌

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ミケール大佐捕縛作戦開始

 キンッ、と鉄と鉄のぶつかり合う音がする。

 ラビとシュラは言葉を交わすことなくただ剣を振るう。

 もしもパーティーの余興としてこれが披露されたのなら、観客の目を引いていただろう。

 

(あと一歩が届かん!)

 

 剣を振るいながらシュラは奥歯をギリッと噛む。

 思考を読み、ラビの挙動から動きを予測してもシュラの剣は紙一重で届かない。

 もはや相手が今回の作戦の協力者である事や、怪我をさせる心配などは既に頭の中から消え去っている。

 しかも、昼間では拙かったラビの剣筋は振るう度にその鋭さを増していく。

 慣れてきたのだろう。

 紙一重が少しずつ厚くなるのを感じて焦りを生む。

 その隙を突くようにラビは全力でシュラの剣を打ち上げた。

 剣を手にした腕を強制的に上げられ、隙だらけになった体に押し出すような蹴りを鳩尾に打ち込んだ。

 

「ガハッ!?」

 

 その苦痛と衝撃に唾液を垂らしながら倒れるシュラ。

 息を荒くしたラビがポイッと手にしている剣を床に落とす。

 

「しゅ〜りょ〜……流石にもう体力的に限界っすわ」

 

 汗だくの気持ち悪さからラビは制服の首回りのボタンを外す。

 しかしシュラは立ち上がる。

 

「まだだ……!」

 

「いや、こっちが限界なんすよ。これ以上は明日の作戦に響くし。ほら、もうパーティーも終わってるじゃないっすか」

 

 それを言われたらシュラも黙るしかない。

 確かに既にアウラ女帝が用意したパーティーは終わり、それぞれの場所に帰っている時間だ。

 勝てなかった。

 生まれて初めて芽生えた屈辱の感情。

 しかしそれ以上に楽しいと思ったのだ。

 自分より強い相手に挑む時間が永遠に続いてほしいと思える程に。

 名残惜しい気持ちを察したのか、ラビは困ったように笑う。

 

「え……と。ファウンデーションも今回の作戦が成功したらコンパスに参加してくれるらしいっすし。またこうする機会もありますって。次を楽しみにしてるっす」

 

 そう言って昼間のように何の躊躇もなく差し出された手。

 今度はその手を握り返す。

 強き者は美しい。

 それはシュラが本心から思っている価値観だ。

 強い者。優秀な者こそ世界を統べる資格を持つ。

 シュラは自分の肩くらいの身長の少女をこの時、心の底から美しいと思ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぃ〜。なんとか間に合ったぁ〜」

 

 アークエンジェルにある天使の湯の大浴場でラビは顎まで湯に浸かって休んでいた。

 シュラとの勝負を切り上げたのは入浴時間を考慮しての事だった。

 時間ギリギリな事もあり、今貸し切り状態なのもラビの寛げている理由だった。

 だったが、貸し切り状態だった天使の湯に新たな客が入ってきた。

 

「あら?」

 

「かんちょ〜? どもっす〜」

 

 ふやけ切った表情で湯に浸かるラビにマリューは瞬きする。

 というか、もはや力を抜き過ぎて湯に溶けるのではないかと心配になるほどの脱力っぷり。

 マリューは身体を洗うと湯に浸かる。

 数分間お互いに沈黙が続いたが、ラビから口を開く。

 

天使の湯(これ)があるだけでコンパスに志願して良かった〜って思うっす〜」

 

 くへーと大浴場を堪能しているラビ。

 その様子に苦笑しながらマリューは気になっていた事を訊く。

 

「そういえば。途中から姿が見えなかったけど、何処へ行っていたの?」

 

 協力要請を受けているとはいえ、お客様である自分達があまりファウンデーション内をウロつくのは好ましくない。

 咎めるつもりはないが、説明がほしかった。

 

「あ〜はい〜。サーペンタイン団長さんと一緒にいたっす〜」

 

 湯でふやけたまま答える。

 ムウに昼間ブラックナイツとのいざこざは聞いた。

 どうして止めなかったのかと声を荒らげる事になったが、もしや何かトラブルが起こったのか。

 それを聞く前にラビがべらべらと話し始める。

 

「あの人、しつこかったっす〜。こっちがへとへとなのに、(剣を)激しく振ってくるんすもん」

 

「え?」

 

「おかげで、制服に(汗や砂埃の)汚れが付いちゃって洗濯待ちなんすよ〜」

 

 浴槽に浸かってリラックスし過ぎた影響か、大事な部分を端折って説明するラビ。

 元々説明下手なのは否定しないが。

 

「こっちが降参してるのに、ムキになって帰してくんなかったんすよぉ。どーおもいますぅ?」

 

「……」

 

 当然正確な情報がマリューに伝わる訳もなく、勘違いしたまま受け取られる。

 まぁ、これは数年前に艦内で起きた男女間のトラブルも原因かもしれないが。

 

「……ちょっと詳しく説明してもらいましょうか。ラビ・トーチス少尉」

 

 こんなところでそういうトラブルはゴメンだとマリューはラビの肩を掴んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、コンパス総裁や指揮官組がユーラシアやファウンデーションとミーティングを行なっている間に、パイロットは自分の機体の最終調整に入っていた。

 パイロットスーツに着替えたラビも整備班班長であるマードックと隊長であるムウと話している。

 

「フラガ隊長。今回、オーブからの新装備、本当にあたしが使っていいんすか?」

 

「分類的にはストライカーパックだからな。ムラサメじゃあ装備出来ねぇし、シミュレーションでは問題なかったんだろ?」

 

「そうなんすけど。オーブの装備ですよ?」

 

「新装備つっても、元々あったもんをウィンダム用に改修しただけだしな。アークエンジェルはムラサメが基本運用で、データを取る機会がなかったからちょうど良かったのさ」

 

「そういうことなら……」

 

 そこでマードックの方がラビに話しかける。

 

「それで、お前さんのウィンダムの反応速度はどうだ?」

 

「この間、ヤマト准将が調整してくれたおかげで大分マシになったっす。それでも遅く感じるっすけど」

 

「これ以上反応速度を上げんなら、機体を新造した方が早いからな」

 

「ですよね〜」

 

 オルドリン自治区での戦闘後にラビのウィンダムをヤマト准将の親切で調整してもらった結果、反応速度が20%程向上した。

 アークエンジェル所属になった際にモルゲンレーテでも中身を改造されており、見た目は碧色のウィンダムだが、中身は魔改造機である。

 マードックが言うように、これ以上は新造した方が早いのだが、兵士としてもМSのパイロットとしても新米のラビにそんな優遇措置が取られる筈もない。

 

「それにしても、ミレニアムの人達と一緒に戦闘って初めてじゃないっすか? いつもアークエンジェルが到着する頃にはヤマト隊の人達が戦闘を終わらせてるし」

 

「……そうだな」

 

 ブルーコスモスその他のテロリストが暴れてる現場では、早々にヤマト隊が敵部隊を無力化し、アークエンジェルが後始末、という流れが出来上がっていた。

 

「おかげで、МSを使った災害救助がめっちゃ上達したっす!」

 

 ストライカーパック仕様ウィンダムのおかげで、消火や壊れた建物の撤去などの救助活動。それらが装備換装で大分スムーズに済んでいた。

 実際に、アークエンジェルが主にやった戦闘はヤマト隊の休暇中くらいである。

 

 そろそろパイロットは機体に搭乗するよう、アナウンスが流れた。

 ムウがポンポンとラビの頭を撫でる。

 

「とにかく、今回の戦闘は今までの小競り合いとは訳が違う。死ぬなよ」

 

「了解っす」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の機体に乗り込んでシステムを立ち上げる。

 その間に用意されていたストライカーパックが装備されていく。

 "オオタカ"。

 ラビは知らない事だが、これは前の大戦でインフィニットジャスティスの装備だったファトゥム01を改修したストライカーパックである。

 最大の違いはジャスティスの核動力よりエネルギー供給するシステムから内部バッテリー式に変更。

 ウィンダムに装着出来るように規格を調整してある。

 だから、本来バックパックであるオオタカだけがPS装甲というチグハグな出来になっていた。

 

(基本的な使い方はジェットストライカーと変わんないし)

 

 余談だがラビのウィンダムはブルーコスモスが使う同機体と区別する為に全体を碧色に塗装してある。

 ムウを始め、数機のムラサメが発進し、ラビの番が回ってきた。

 

「ラビ・トーチス。発進するっす」

 

 出撃時のGがかかり、アークエンジェルの外の光景が画面に映る。

 そこにはユーラシアの大地が広がっていた。

 

 

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