ファウンデーションの近衛師団長に剣で勝ったら目を付けられた件 作:ブルーコスモスへの鎮魂歌
これはまだ、コンパスが始動したばかりの、ちょっとした日常の話。
「いやーそれにしても補給がちゃんと届くってのは嬉しいモンだねぇ」
届いた物資データを確認しながらムウ・ラ・フラガ大佐は満足そうに頷く。
それにコジロー・マードックが苦笑する。
「そりゃあ、三年前みたいな状況は二度とゴメンですよ大佐」
「だよねぇ……」
懐かしむようにしみじみと視線を天井に向ける。
アークエンジェルがオーブの資源衛星ヘリオポリスから脱出した当初は、ろくに物資も積み込まずにザフトから逃げる羽目になったのを思い出す。
アルテミスに立ち寄るもこれまた補給が出来ず、ザフトに要塞が落とされ、水不足を解消する為にユニウスセブンから墓場泥棒のような真似もした。
ようやく第八艦隊から補給を受け、宇宙からアラスカまで安全に降下出来ると思ったら、ザフトに攻撃されて第八艦隊は壊滅。
アークエンジェルも降下が逸れてザフトの勢力圏の砂漠に放り込まれ、砂漠の虎との激闘。
それからオーブへ秘密裏に滞在し、技術提供を条件に補給と整備を受けた。
そして数々の犠牲を払いアラスカに辿り着いたと思ったら、自軍基地の自爆の為に囮にされる。
もう一度やれと言われたらそいつに酒瓶で頭を殴りつける自信があるくらいにはもうやりたくない旅である。
「あの時は坊主も予備パーツの残りを気にしながら出撃してましたからね」
流石に戦闘中にそこまで考える余裕はなかったろうが、当時の最新鋭機である四機のGATシリーズを奪われ、ストライク一機しかなかったのだ。
その上で予備パーツを切らした整備不良な機体で出撃したら、間違いなく詰んでいた。
そんな過去を振り返っていると、新型機の調整を終えたキラ・ヤマトが今度部下になる二人のパイロットを連れて近付いてくる。
「マードックさん。プログラムの調整終わりました」
「おう! すまねぇな、いつもいつも」
いえいえ、とキラが苦笑すると、後ろにいたシン・アスカが不満というか、釈然としない顔をしている。
「ホントですよ。なんでキラさん……隊長がOSの調整してるんですか」
ミネルバでは、当然OSなどのプログラムの調整もメカニックの仕事だった。
最終確認はするが、基本メカニック班任せ。
なのに、当たり前のように自分でプログラムの機体調整をし始めるキラに、シンもルナマリアも目を丸くした。
「まぁ、僕がやった方が早いしね」
アークエンジェル時代の癖で、自分の機体は自分で調整してしまう。
その方が早いし確実なのはそうなのだが、いつまでもそれではこの先周囲もキラ自身も困る事になるだろう。
これまでの経緯で仕方ないと言えば仕方ないのだが。
そうしていると、シミュレーターから大きな奇声が響く。
「グギィイイイィアァアアッ!!」
最早人間の声なのが野生動物の声なのかも判断出来ない絶叫にコーディネイター組は思わず萎縮し、ムウとマードックはやれやれまたか、と言わんばかりの表情をする。
シミュレーターからは、金髪の、前髪の一部を緑色に染めたシンより少し歳下に見える少女が出てきた。
「フラガ隊長! このシミュレーターの難易度絶対おかしいっすよ!」
キラ達の事が目に入っていない様子でムウに食って掛かる。
「どうした? っていうか、なんだよ今の声?」
「どうしたじゃないっすよ! なんなんすかあのストライク!」
シミュレーターを指差す少女。
指差したシミュレーターにはアークエンジェルのデータから大戦時の戦闘を再現したステージが用意されている。
「反応速度が初期GATシリーズの動きじゃないっすもん! 絶対盛ってるでしょ! そうじゃなかったらこのパイロット頭おかしいっす!」
「頭おかしい……」
少女の言葉にキラが視線を落とす。
その視線に気付かずに少女が憤りのまま捲し立てる。
「なんでPS装甲落ちてるのに
当時のストライクの量産機であるストライクダガー。
それのNPCを三機連れた
なんとかストライクのバッテリーを危険域まで追い込んだらナイフ特攻でコクピットをグサリ、だ。
「極めつけはストライクを無視して母艦を潰しにかかったらアークエンジェルがバレルロールして撃ってくるんすけど! 地上っすよ! ありえないっすもん」
そう言って地団駄を踏む少女。
これ以上は色々とマズイので、ムウが少女をキラ達の方を向けさせる。
ようやくキラ達に気付いた少女は首を傾げる。
「誰っすか? お客さん」
「なんでだよ! 階級章見ろ!」
ムウの言葉に少女が階級章に視線を移すと、「え? 准将? 若っ!?」と驚いた後にサーッと顔を青くする。
「し、失礼したっす……あいや、しました! 自分は大西洋連邦から出向したラビ・トーチス少尉っす……です。はい……」
敬礼してたどたどしい敬語を話すラビ・トーチス少尉。
大西洋連邦と聞いてシンとルナマリアが僅かに警戒する。
前の戦争で散々戦ったし、大西洋連邦はコーディネイターに対する敵対意識が強い印象があるのだ。
それを察してムウがポンポンとラビの頭に手を乗せる。
「安心しろ。コイツはコーディネイターに対する偏見はないぞ。よく知らないってのが正しいか。流石にコンパスの活動内容に関わるからな。採用する人材には気を遣ったぜ? 本人が言うには、給料さえ払ってくれるなら、問題無いそうだ」
「軍学校に入った時の奨学金をさっさと返済したいっす!」
真面目な顔で述べるラビだが、そういう事を口にするのはどうだろう?
「腕は悪くないんだ。むしろ良い。新米とは思えないくらいにな」
期待してろと言うムウにキラは当たり障りのない返事をする。
「トーチス少尉?」
「はいっす!」
姿勢を正すラビにキラは苦笑する。
「僕の階級は身内人事みたいなモノだから。あんまり気にしないで。最低限取り繕ってくれればいいから」
「は、はい……?」
それでいいのかな? と首をかしげるラビ。
そこでムウがラビに話しかける。
「で? シミュレーターでなに暴れてんだよお前は……」
そうだったとラビはムウに向かって憤る。
「そうだったっす! なんでバッテリーが危険域に入ってるのに撤退しないの! 普通その前に母艦に戻るでしょ! つーかPS装甲落ちてからの方が怖いんすけど! それに
「盛ってねぇよ! むしろ、実際のデータより少し易しくしてるくらいだからな!」
「ありえねー……!」
ショックを受けてるラビ。
事実、パターンさえ覚えてしまえばクリア出来るように難易度が調整はされているのだ。
「
ブツブツと失礼な事を呟く新米パイロットにキラはそんなにおかしいことしてたかな? と首をかしげる。
これ以上喋らせると主にキラの精神衛生上良くなさそうなので、シミュレーターに放り込む事にした。
「ほら! さっさと続きやってこい! シミュレータークリアするまで出てくんな!」
「酷い!」
すごすごとシミュレーターの中に戻るラビ。
ちなみにそのステージをクリアすると、今度は連合のオーブ侵攻作戦のステージでフリーダムに瞬殺され続けてまた奇声が上がる事となったのだった。