ファウンデーションの近衛師団長に剣で勝ったら目を付けられた件 作:ブルーコスモスへの鎮魂歌
時期的には前のザフトの新兵がやらかした後のラビが休暇中の話です。
「アスハ代表が誘拐された〜っ!!」
『はい……外食に出ていた際に』
報告を受けてムウ・ラ・フラガ大佐は髪を掻き毟る。
だからもう少し警護に気を使えと言っていたのだ。
傍で聴いているマリューも心配そうに腕を組む。
「なんてこった……それで、捜索や犯人からの声明は?」
『今のところはまだ……それとアスハ代表と一緒に食事を摂る予定だった、コンパスのトーチス少尉も一緒に捕えられているようです』
「は?」
「またかよ! ふっざけんなっ!」
カガリと一緒の部屋に手足に錠をかけられて幽閉されているラビはゴロンゴロンと床を転がる。人生二回目の誘拐に遭って大変御立腹である。
椅子に座っているカガリも申し訳なさそうにしていた。
「悪い。私の危機管理意識が足りなかった」
アスランにまた小言を言われるな、と目を閉じて深く息を吐く。
最近は仕事にも余裕が生まれ、側近達にも自分の国も安全に歩けないでどうする! と言っていたのが完全に裏目に出た。
「カガリさんの所為じゃないっすよ。誘拐した奴らが悪いんす。つーか、コレ外せオラァッ!!」
そんな場合ではないのだが、陸に打ち上げられた魚みたいにピチピチ動くラビがちょっと面白い。
と、現実逃避をやめてカガリはどうするか考える。
「それはそうと、カガリさん。あたしがオーブに移住したいって言ったらどうします?」
「……この状況でなに言ってるんだお前は?」
今まさに誘拐されて監禁されている真っ最中の国に移住したいとか正気か? と訊きたくもなる。
「近年、世界中で誘拐やテロなんて交通事故くらいの確率で起こるんすからね。いちいち気にしないっすよ?」
「流石にそこまで末期じゃない! ……筈だ」
「視線を合わせて言ってくれっす」
翌々考えると、世界中のテロ事件の回数を合わせたら、一国の交通事故くらいの回数はいくかもしれないと考えてしまっただけだ。
咳払いしてから質問を重ねる。
「で? なんでオーブに移住なんて話になったんだ?」
「実はあたし、定住してないんすよ」
「うん。知ってる。フラガ大佐に散々せっつかれてただろ」
「うっす。あたし、基本戦艦暮らしで身内も居ないからそこら辺曖昧にしてたんすよねぇ。私物なんて大きめのスポーツバックに全部入っちゃうし。でも最近、仕送りしてた孤児院も国からの援助が付いた上に、奨学金の返済も終わったんすよ。高給取り最高っすね!」
輝かんばかりの笑顔でそう言うラビにカガリが目を細める。
「まぁ……優秀な人材がオーブに来てくれるのは嬉しいが、お前は少し難しいと思うぞ?」
「そっすねー」
結構馴染んでいるが、ラビは大西洋連邦の軍人だ。
当然住居を構えるならやはりそこに所属してる国が望ましい。
オーブに移住するなら、軍籍も移す必要が出てくる可能性がある。
「まぁ、それはどうでも良いんすけどねー」
「埃が舞うからそれやめろ」
ゴロンゴロンと転がるラビを注意するカガリ。
すると、監禁されている部屋の扉が開く。
褐色肌で赤茶色の短髪に鋭い眼つきが特徴の体格の良い男だった。
年齢はムウと同じくらいだろうか。
「初めましてアスハ代表。私はファウンデーション軍に所属しているブライアン・マッケンジーだ」
その紹介にカガリは眉を動かす。
あの事件で実質ファウンデーション王国の地は核ミサイルにより壊滅的なダメージを受けた。
今では独立国とは程遠く、各国の支援で細々と存在する国。
あんな
「我々は
「ねぇ! ここにレディ扱いされてないかわいそうな女の子が居るんすけど〜っ!」
床に転がされているラビが左右にゴロンゴロンしながら抗議する。
それをブライアンは冷たい目で見下ろす。
「訓練を受けた男八人のうち、三人を即沈めるような奴を女の子とは言わん。殺されないだけありがたく思え」
誘拐された時に八人の男に囲まれたが、ラビが即座に動いた。
一人目は銃を持っていた右腕に関節を極めて肘と肩を破壊し、二人目は奪った銃で腕と脚を撃ち。三人目はそこから飛び蹴りを喰らわせて押し倒すと腰に提げてたナイフを奪って手の甲に突き刺す。
そこでカガリが人質に取られて両手を挙げたのだ。
負傷した誘拐犯は見捨てられ、今頃オーブの警察に掴まっているだろう。
本当にその場で殺されなかったのが奇跡に近い。
「ハッハッハッ! この拘束が外れたら覚えとけよテメー」
「挑発するな!」
何故か誘拐犯を挑発するラビをカガリが制する。
「随分と躾のなってない護衛ですな」
「彼女は個人的な友人だ。あまり手荒なことはしないでくれ」
軽く咳を入れて真面目に話し合いに入る。
「それで。貴官の目的を聞きたい。まさか、オーブに対する嫌がらせ目的でもないだろう?」
ファウンデーションの軍は各国によって解体されており、他国の兵が在住している。
つまりファウンデーションの軍はもう存在しない。
そして、彼らがファウンデーション事件でアウラ達と行動を共にしてなかったという事は、その時に切られた可能性が高い。
ブライアンは眉間のシワを深くして要求を口にした。
「我々の目的はシュラ・サーペンタイン団長を含む、ファウンデーションの者達の解放だ」
「……」
予想は、ついていた。
彼らがわざわざカガリを誘拐する理由など、それくらいしか思いつかない。
問題はその理由だ。
「彼らを解放したとして、どうするつもりだ? まさか怨みを晴らそうなんて話じゃないだろうな?」
見捨てられた彼らが収容された彼らに危害を加える理由は充分だ。
しかしブライアンはカガリの予想を裏切る。
「我々が再び独立を勝ち取る為に、サーペンタイン団長のお力が必要なのだ」
ブライアンの言葉にカガリは眉をつり上げた。
現状、ファウンデーション王国がまだ存在しているのは、各国の温情だ。
本来ならあの事件の後に近隣諸国から蹂躙されてもおかしくないのだ。
特にレクイエムを撃たれたユーラシアからの怨みは凄まじい。
それでもファウンデーション王国がそうなっていないのは、残された国民がアコードから見捨てられた民という認識が強いのと、単純に落ちぶれて侵略する旨味もない国に軍を向かわせる余裕が無いからだ。
「我々はもう一度独立を勝ち取り、国を再建するのだ」
彼らは夢を見ているのだろう。
ブレイク・ザ・ワールドから端を発したあの戦争後、ファウンデーション王国は目覚ましい復興と発展を成し遂げた。
その時の栄華を忘れられないのだろう。
かつてオーブも、大西洋連邦からの理不尽な侵略により主権を奪われ、建国以来最大の屈辱と評されるまでの酷い扱いを受けた。
ユニウス条約により主権は取り戻したオーブの代表であるカガリには彼らの言い分も一定の理解はあるつもりだ。
もしかしたら、カガリが知らないだけでファウンデーションの国民が非道な扱いを受けているのかもしれない。
それらを踏まえた上で相手の要求に対してカガリの答えは────。
「断る」
断固拒否の姿勢だった。
「私の一存で決められることではないし、そんな要求を受けて彼らを解放すればオーブは各国の信頼を失うことになるだろう。たとえここで私が殺されようとも、そんなリスクは負えない」
ブライアンを真っ直ぐに見つめてそう返す。
オーブに収監されている者達は明確な犯罪者だ。
自国を核で焼き、モスクワをレクイエムで撃ったのは事実。
それは戦争ですらない最低な虐殺行為。
そんな彼らを安易に解放するなど、誰にとっても良い結果にはならないだろう。
「なるほど。ただの温室育ちの小娘かと思いきや、中々に肝が座っていらっしゃる。ですが、貴女を撃つ前に大事な御友人が血を流すことになりますよ?」
そう言ってブライアンはラビに銃を向ける。
当然カガリもそれは予想していた。しかし答えを変える訳にはいかない。
奥歯を鳴らしてブライアンを睨む。
数秒の膠着の後に、ブライアンは銃を下ろした。
「三十分だけ猶予をあげます。サーペンタイン団長以下、ファウンデーションの者達を解放する言葉を考えておいていただきたい。意地を張るなら、そこの小娘が代わりに悲鳴を上げることになるでしょう」
それだけ告げてブライアンはこの部屋から出ていった。
「大人しくしてたら、あたし拷問でもされそうっすね。あーそろそろそろそろっと!」
カチッと小さな音が鳴るとラビにかけられていた手錠が外れる。
「ピッキングなんてやったの久し振りだったから手こずったっす」
言いながら隠し持っていた道具で足にかけられた錠も外す。
「しっかし……意外と人望あったんすね。
言いながらカガリの手錠を外す。
「ファウンデーション王国の独立時にブラックナイツの活躍は目覚ましかったと聞くからな。シンパはそれなりに居るだろうさ」
「そんなもんすか」
武器の類は当然持っておらず、丸腰で行動しないといけない。
オーブ政府は当然もう誘拐に気付いて手を打ってくれてるだろうが、流石に後三十分で助けは来ないだろう。
「と、なると……一芝居打ちますか」
そこでラビは外に聴こえないようカガリに耳打ちする。
内容を聞いてカガリも分かったと頷く。
ラビがドア付近に移動すると、大声を出す。
「もー!! アスハ代表のせいっすよ! そんな立場で護衛も付けないとかありえねーっしょっ!」
「うるさいな! お前だって護衛なんて堅苦しいのは必要ないとか言ってただろ!」
突然大声で罵り合う二人。
数分それが続くと、見張りをしていた男が怒鳴りつけてくる。
「うるせぇぞ! ちょっとは静かに────ぐはっ!?」
ラビが鼻っ面に一発入れてよろけたところを部屋の中に引き摺り込んで首を絞めて意識を落とす。
「よし!」
泡を吹いて意識を落としたのを確認し、装備を奪い取る。
「手慣れ過ぎてて怖いな」
「これくらい普通っすよ。普通」
普通な訳あるか! とツッコミたいのをぐっと堪えた。
ナイフと拳銃を奪うと、見張りの男に自分がかけられていた手錠をかけた。
「とりあえず、外の連中を片付けてくるっす。カガリさんはここで待ってて」
ここが何処なのか確認する必要もあるだろう。
カガリを危険な目に遭わせる訳にもいかない。
しかし、カガリ本人はそれを拒否する。
「そんな訳に行くか! 大体、お前一人でどうにかなると思ってるのか!」
「……ファウンデーションの事件でクライン総裁が連れ去られた件で、ずっと思ってたことがあるんすよね」
「?」
「一緒に連れ去られたのがマオ秘書官じゃなくてあたしだったら、ヤマト隊長達が助けに来る前に、アルテミスの連中を始末して脱出できたのにな〜って」
ヘラ〜と笑いながらそんな事を言うラビ。
その自信はどこから来るのか。しかも本人が本気で出来ると思ってるので反応に困る。
カガリは見張りが持っていたライフルを手にする。
「とにかく、私も行くぞ! 二人で逃げた方が早いしな!」
「カガリさん……」
「忘れたのか? 私は昔、バギーでザフトのバクゥに挑んだ女だぞ」
当然ながら、監禁されていた部屋から出てすぐに脱走がバレた。
銃弾を避けながら遮蔽物のある場所まで移動する。
「そういえば、ここが何処だが分かります? オーブ国内なのは間違いないと思うんすけど」
「たぶん、今は封鎖されている原子力発電所だ」
ニュートロンジャマーが地球にばら撒かれた時に、地球全土が核によるエネルギー供給がストップした。
幸いオーブは地熱発電その他でエネルギーを生み出す技術を有していた為に他国よりはエネルギー問題が深刻化しなかった。
「ニュートロンジャマーキャンセラーの情報が各国に回ってきた際に、また原子力発電が止められたら敵わないからな。最低限の稼動だけで済ませて、余分な施設は閉鎖してたんだ。実際プラントでは核を強制的に爆発させる兵器を開発してたしな。それらの施設は今も解体されずに残ったままで立ち入り禁止になってたんだ」
オーブも復興が優先で、使わなくなった施設にまで手が回らなかった。
「今は何処もそんなもんすよね。それより、突っ込んで二人仕留めて来ますんで、援護よろしくっす!」
「馬鹿待てっ!!」
カガリが止める前に突っ込んで行くラビ。
人質にするカガリに当てない為か、向こうもサブマシンガン等の強力な銃は撃ってこない。
それでも、拳銃を避けながら近付くのは難しい。
カガリも銃で援護してもだ。
(やっぱり鈍ってるな……!)
オーブの代表としての生活を中心にしていてもトレーニングは欠かさなかったつもりだが、昔程動けてない気がする。
(鍛え直しだな。ってこれじゃあ年寄りみたいじゃないか!)
そんな事を考えていると、ラビは敵の銃弾を避けながら近付き、最後の一射の弾をナイフで叩き落とす。
そのデタラメさに敵が一瞬呆気を取られた隙に、銃を持っている手の指を斬り落とし、もう一人の敵の太腿を撃ち抜いて怯んだ隙に銃を奪う。
敵を行動不能にすると、カガリが近付く。
「あまり無茶するな! それにしてもデタラメだなお前」
「あたしが白兵戦で死ぬと思ったのは、訓練兵時代に雪山で熊と遭遇した時くらいっす」
「……遭遇したのか? 熊と?」
「はい。あの時は班員全員が全力疾走で逃げたけど足の遅い子が捕まって巣に連れ去られてくれたおかげでなんとか生き延びたっす」
あれは恐かったと息を吐くラビ。
「それより、ここ二階っすよね? ならそこの窓から飛び降りて、車とかかっぱらって逃げた方が早そうっすね!」
そう言って近くの窓を開けて飛び降りようとする。
「ま、待て!」
二階と言っても、普通のマンションの三階くらいの高さがある。
下手をしたら大怪我だ。
なのに当の本人は躊躇う事なく窓からジャンプして飛び降りる。
焦ったカガリが下を見ると、ラビは平然と着地して手を振って待っていた。
カガリは非常用の梯子を垂らして降りる。
そこから敵の車を奪って逃走。
道路交通法なんてクソ喰らえと言わんばかりにペダルを踏む。
「敵の人数が思ったより少なくて助かったな。おかげで脱出出来た」
「後はオーブ政府に保護してもらって……流石にモビルスーツまでは持ち込んで────」
そんな話をしていると、空からこちらを追い越す機影があった。
車の外を見ると、二機のモビルスーツがこちらを近付いて来ていた。
その機体を見て、カガリは目を大きく見開く。
「ハァッ!? なんでアレがっ!? 何処から持ってきた!!」
カガリにとってその二機はとても見覚えがあった。
一機は白と黒を基調とした青い翼を背負った機体。
もう一機は、背に巨大なリフターを背負った赤い機体。
それは、C.E.71年の大戦で最高の性能を持ったモビルスーツ。
「フリーダムとジャスティス!?」
フリーダムが車の前方。ジャスティスが後方に着地する。
前後を取られた事で車を停止される。
外部スピーカーを通してパイロットの声が届く。
『じゃじゃ馬が過ぎますな。カガリ・ユラ・アスハ代表殿』
フリーダムの銃口がゆっくりとこちらに向けられた。