ファウンデーションの近衛師団長に剣で勝ったら目を付けられた件 作:ブルーコスモスへの鎮魂歌
「いやー快晴快晴! 昨日の嵐が嘘みたいっすね!」
「そうね……」
「魚発見っす! 釣りしましょうよ! 釣り!」
「勝手にやればいいでしょ……」
ラビの高いテンションについて行けず、ルナマリアとアグネスが適当な相槌を打つ。
それにまとめ役のヒルダが息を吐く。
「なんだい。もうちょっとシャキッとしな!」
その言葉にルナマリアが反論する。
「こんななんにも無い島に漂流して無茶言わないでください!」
ミレニアムのブリーフィングルームでキラ・ヤマト准将が今回の任務の説明をしている。
「ここ最近、この近辺で略奪行為を繰り返している武装組織。その偵察任務を行います」
現在ミレニアムが停泊してるとある国では海賊行為が横行していた。
この国自体がまだブレイク・ザ・ワールドのユニウスセブン落下での復興が殆ど進んでおらず、防衛戦力のモビルスーツが連合から払い下げられた初期のストライクダガー十機だけという始末。
それでもようやく最低限の復興と他国との貿易が再開された折に海賊の被害に遭ったのだ。
一応コンパス加盟国にはなっているが、出資金も殆ど払えてなかったりする。
要するにこの国の治安を安定させてコンパスへの出資金の確保が目的な訳だ。
もちろん、この国の人達の平和を守りたい気持ちもある。
「海賊はこの海域周辺に潜んでいると思われます。僕達は小型の飛行船で海賊の拠点を捜すのが今回の任務です。そこで人員の選別を────」
そこでラビが手を上げる。
「はいはーいっ! あたし、偵察してみたいっす!」
元気一杯に志願するラビにキラは困ったような笑みをした。
「スクールの係決めじゃないんだからね? それにしても今回は随分とやる気だけど、なんで?」
「つい最近まで長いお休み貰ってたから、心機一転ちゃんと働こうかなって。それに飛行船に乗りたいっす!」
「
隣に座るルナマリアが呆れた様子で溜息を吐く。
頭は悪くないのに、こういうところで馬鹿になるのがラビなのだ。
「いや、君はさ、ほら……帰って来る時にテロにも巻き込まれたし、もう少しゆっくりしててもいいんだよ?」
言葉を濁して今回は大人しくするように促す。
ただ、そんな気遣いがこの少女に通じる訳もなく。
「大丈夫っす! って言うか、あたしのこと遠ざけようとしてません?」
「……だって君に任せたらなにかトラブルが起きそうだから。最近運が悪いみたいだし」
誘拐事件に始まり、ザフトの新人赤服からの模擬戦での殺人未遂。
休暇でオーブに滞在した際にはカガリ共々誘拐され、帰って来る時にはスペースジャックである。
これが全部半年未満に起きているのだ。
なにか良くない
赤服の殺人未遂はキラにも責任の一旦はあるので強くは言えないのだが。
非科学的だが、ラビが関わるだけで予想外のトラブルが起きそうな気がしてしばらくは大人しくしてて欲しいなと思ってしまう。
そんなヤマト隊長の心配を無視してラビが理由なく自信満々に言う。
「つまり、今年の悪い運は使い果たしたってことっすね。じゃあ問題なしっす」
どういう理屈と自信なのか、心配するのが馬鹿馬鹿しくなるくらいの笑顔でラビは言った。
「ちょーよゆうっすよ」
この後、使えない新人の面倒を見るのに飽きた、というヒルダと、ついでで付き合わされる形でルナマリアとアグネスも同行する事となった。
そして────。
ミラージュコロイドのステルスを利用して低飛行で偵察を行っていたら突如天気が危うくなり、小型の飛行船の操縦を邪魔してくる。
暴雨と暴風に曝されて機体がガタガタ言い始めた。
「なんでこんな急に台風が来るのよ!」
「ぢょっ!? アグネスさん揺らさないで! 機体のバランス取れねぇ!?」
ミレニアムから離れ、ちょうど近距離レーダーから出た辺りで雲行きが怪しくなり、1時間もかからずに暴雨と暴風が襲いかかってきた。
ルナマリアが通信機器を手にする。
「ミレニアム! こちらホーク中尉です! 暴雨と暴風で索敵が困難と判断! 帰還の援護を!」
このまま索敵は無理と判断し、帰還しようと通信した。
しかし。
「なんで通信ができないのよ!」
「ここら辺はNジャマーの電波障害の影響が強いっすからね! 全然復興も進んでないし!」
血のバレンタインの報復で打ち込まれたニュートロンジャマー。
核分裂を抑止するだけでなく、電波も妨害する作用がある。
近年では通信システムの進歩で遠くまで通信を飛ばせるようになったが、復興がまだ進んでない国は未だにレーダーや通信がおぼつかない場所も珍しくない。
つまり、今現在飛んでいる場所がモロに電波障害が強い地域なのだ。
「ヤバいヤバいヤバいっす! だんだんコントロールが利かなくなってきたぁ!?」
「嘘でしょっ!?」
「あんたら! 緊急着陸に備えな! 近くにある島に突っ込むよ!」
「なんでこんなことに〜!!」
半泣きになりながらシートベルトを装着する。
その最中もヒルダが指示を飛ばす。
「ラビ! なるべく機体を壊さないように着陸するんだよ!」
「
『いやぁああああぁあああっ!!』
小型飛行船のコクピットでルナマリアとアグネスの悲鳴が仲良く響いた。
「いやー。まさか着陸する前にエンジンがぶっ壊れて海に沈むとは思わなかったすね。パイロットスーツ着てなかったら死んでたっす」
着陸する前にエンジンが火を吹き島に辿り着く目と鼻の先で海に沈んだ。
ヒルダの判断で飛行船から脱出し、なんとか泳いで島まで辿り着いたのだ。
その後、運良く見つけた天然の洞窟で一晩過ごした。
「息が出来なかったら確実に溺れ死んでたわよ!」
「ねぇあんた本当にどっかでお祓いした方がいいんじゃないの!」
「宇宙に人が住める時代にお祓いとかねーっすよー、いひゃいいひゃいっ!?」
あはははーと笑うラビにルナマリアがキリキリと頬を引っ張る。
この状況にあるまじき能天気さにわりと本気でイラッときた。
通信機を弄っているヒルダが舌打ちする。
「駄目だ。ミレニアムに通信が繋がらないね。Nジャマーの影響か、通信機自体がイカれたか……まぁ、捜索は出てる筈だが」
「ミラージュコロイドで姿隠してたから、ちょっと時間かかるかもっす」
引っ張られた頬を撫でながら発言するラビにアグネスが顔を青褪める。
「ちょ、やめてよ! こんなシャワーもないところで何日も過ごしたくないわ!」
「仕方ないでしょう。幸い備え付きの携帯食はあるし、ミレニアムだって運が悪くても丸一日もあれば見つけてくれる筈よ」
ミレニアムからこの小さな無人島までそう距離は離れてない。
モビルスーツでだって数時間飛べば着く距離だ。
偵察した方角は分かっている筈なので、運が良ければ本当に数時間で見つけて貰えるだろう。
「ま、久々のサバイバル訓練だと思って頑張りな」
ヒルダがそう言うと、アグネスが心底うんざりした顔をする。
ラビはヒルダの言葉に疑問を抱いた。
「ザフトにサバイバル訓練なんてあるんすか?」
清潔な
「あるわよ。一応プラントにもなるべく地球の山に似せて作られた山があって────」
そこから語られるザフトの訓練生時代に行われたサバイバル訓練についてルナマリアが話す。
それを聞いたラビの反応は。
「え? なにそれ? ピクニックの話?」
と素で返した。
それに対して説明したルナマリアが失礼ね、と不機嫌そうに眉を動かす。
しかしラビからすればまさにピクニックである。
煩わしい虫や危険な動物も居らず、仲間内でワイワイお菓子交換とか。
話を聞くだけでそれ、訓練になるの? と本気で思った。
まぁ、今はモビルスーツ戦が主力で歩兵の訓練は重要視されてないのかもしれない。
そんな風に納得させていると、アグネスが問いかける。
「そう言うあんたはどうだったのよ?」
「あたしっすか? 20kgの装備を持たされてひたすら山を移動だったっす。それも水や食料は足りないように敢えて調整されてて、自力で水や食料の確保したりしながら目的地まで行くんすけどね」
蛇やら虫やら毒きのこなどを警戒しながら数日の時間制限で目的地まで移動するチームサバイバル。
「一番最悪だったのが、戦争に環境変化でサバイバルに使ってた山に熊が移住してたことっすよ。しかも教官もそれを把握してなくて、その熊に遭遇した時はホント死ぬかと思ったっす。とゆーか、逃げ遅れた仲間が一人喰われたっすからね」
アレはヤバかったと思い出して不機嫌そうに石を蹴る。
「熊の寝蔵に連れてかれた仲間を救出しようとした時にはもう親熊と子熊の餌になってて、こっちも気付かれたんすよ。そん時にあたしが一番脚速いからって囮役やらされて、熊と追いかけっこっす。仲間の中に腕の良い
流石に熊に襲われる事態は教官も予想外だったろうが、ラビの記憶では熊との追いかけっこが一番印象に残っている。
その他にも水や食糧が不足して飢餓状態になり、仲間割れが起きたりと結構散々だった。
そんな話をしていると三人共に顔色が悪くなった。
どう考えても訓練生が経験する事ではないのだ。
悪くなった場の空気を変える為にヒルダが冗談っぽく言う。
「ま、同じ状況ならあたしもあんたを囮役に選ぶわ」
「ヒデー」
拗ねたように頬を膨らませるラビの頭をヒルダが左右へ乱暴に揺らす。
「そんだけあんたを信頼してるってことさ」
納得してないようなラビにやれやれと肩をすくめると、ヒルダは三人に指示を出した。
「取り敢えず、救助がくるまでぼーっとしてんのもアレだ。先ずはこの島を調べるよ!」