ファウンデーションの近衛師団長に剣で勝ったら目を付けられた件 作:ブルーコスモスへの鎮魂歌
作戦前日、天使の湯で汗を流した後にラビはラフな格好で城の中を歩いていた。
「こういうところ、任務でもないと来れないしねー」
中世を思わせる城の中とかちょっとワクワクする。
観光気分で城内を歩いていると、飛んでいる何かが見えた。
「なんだろ、アレ?」
暗がりでよく見えないが、気になって跡を追いかける。
少し速歩きで移動すると、だんだんとその鳥型のシルエットがハッキリと見え、ピンク色の髪を持つ女性の指に留まった。
「クライン総裁?」
深夜に声を出した事で向こうもラビの存在に気付いたらしく、手招きしてくる。
Uターンして逃げるわけにもいかず、招かれるまま傍に寄った。
「こんばんは。ラビ・トーチス少尉でしたわね」
「は、はい! こんばんはっす……あ、いや、です……」
敬礼をしつついつもの調子で話しそうなのを慌てて直す。
それを察してか、ラクス・クラインはクスリと笑った。
「どうか気を楽にしてください。今は任務中ではありませんので」
「は、はぁ……」
ラクスはそう言うが、ラビからすれば下っ端の自分が突然組織のトップとサシで会っているのだ。
緊張するなと言う方が無理な話である。
ラビはラクスの指に留まる青い鳥を視線を向けた。
「空飛ぶペットロボットなんて初めて見たっす」
子供の頃に見た市販のペットロボットは精々犬猫程度だったが、空を飛ぶのは初めて見た。
「キラが、作ってくれたのですわ」
「へぇ~。器用っすね」
感心していると、青い鳥がラビの頭の上に飛び乗った。
それを見てラクスはあらあらと頬に手を当てる。
「どうやらその子は、あなたのことが気に入ったようですわ」
「そう、なんすかね?」
嬉しそうなラクスはそのままラビに話しかける。
「トーチス少尉はどうしてここに?」
「お風呂上がりの暇潰しに少し散歩を。ほら! こんなところ任務じゃないと絶対来ないじゃないっすかぁ――――観光気分でごめんなさい……」
顔を覆って恥ずかしそうにするラビ。
その感情のアップダウンが好ましく思った。素直さ、と言っても良い。
「お風呂、というと、天使の湯ですわね。わたくしも以前アークエンジェルに乗っていた時に入りました。アレは良い物です。ミレニアムにも是非設置して欲しかったのですが」
懐かしむように語るクライン総裁にラビが質問する。
「ミレニアムには無いんすか?」
「えぇ。維持が大変ですし、宇宙での任務が主なミレニアムでは中々。その予算を別の事に使うべきだと却下されてしまいました」
「あ〜」
確かに無重力の宇宙で浴場を維持するのは色々と大変だろう。
地球での活動が主なアークエンジェルよりずっと。
そこから少しだけ話が弾む。
アークエンジェルの食堂のメニューが豊富で食事が楽しみとか、フラガ隊長に連絡を取るならラミアス艦長に繋いだ方が早いとか。
ラビが話す日常をラクスは楽しそうに聞いていた。
それが十分程続いた後に、一旦会話が止まると、ラクスが憂いた表情で月の浮かぶ空を見る。
「どうすれば、これらすべての悲しみが終わるのでしょう。誰も戦わず、赦し合って生きる事が何故こんなにも難しいのでしょう」
それは疑問というよりも、弱音に近い呟きだった。
コンパスの総裁として世界の治安維持に努めても一向に減る様子のない争い。
それを止めるのは必要な事だと理解しつつも自分達のしている事が本当に意味があるのか疑問に感じてもいた。
それに、これ以上戦い続けて優しい彼が心を壊してしまわないかの不安も。
「赦す必要……あるんすか?」
思考に耽っていると、ラビがそう口にする。
ハッとなって彼女を見ると、ラビも迂闊な発言だと気付き、手で口を覆い隠す。
居心地が悪そうに視線を彷徨わせるラビにラクスは続きを求めた。
「どうか話してください。あなたの意見、聞いてみたいですわ」
促されて、ラビは少し迷いつつも言葉にする。
「あたしの故郷は、地球で初めて
ラビの言葉にラクスは心臓が止まるかと思った。
血のバレンタインによる報復で実行されたNジャマーの散布。
今でこそNジャマーキャンセラーの開発と普及によってエネルギー問題が緩和されたが、当初の地球は酷い惨状だったという。
そしてそれを許可したのは他ならぬラクスの父であるシーゲル・クラインだった。
核によって破壊されたユニウスセブン。
その報復として核兵器による攻撃が当時の最高評議会で挙げられたが、妥協案として核分裂を抑止するNジャマーの投下が既決された。
これは、ユニウスセブンが攻撃されたプラント市民の不安を抑える為であり、これからの連合と戦う為の軍備を整える時間稼ぎ。
地球の政府もエネルギーの回復に労力を割く為に、しばらくは大きな軍事行動は取らないだろうと当時の最高評議会は予想していた。
しかし、その思惑に反して連合はコーディネイターに対する反感と敵意を強め、強引な開戦に踏み切った。
当時エネルギー問題に苦しむ市民を無視して。
「突然町中の明かりが消えて。信号機も動かないから交通事故がたくさん起きて。物資の流通が止まって。インフラが崩壊するのに時間はかからなかったっす」
当時を思い出し、ラビは椅子の上で体を丸めた。
「食べ物も届かない中でパパとママはいつもあたし優先で食べ物を持ってきてくれて。でも、だからある日、冷たくなって動かなくなったっす」
栄養失調が原因の凍死だった。
「それからカビたパンを何日も分けて食べたり、もう潰れた店から缶詰とか盗んだりして生き延びてたんすよ。そっから運良く施設に入れたんすけどね」
食料を持っていると大人に暴力を振るわれて奪われた。
あの時期を思い出すと未だに震える。
「パパもママも別にコーディネイターに好意的だった訳じゃないっすけど、特別嫌ってた訳でもなかった。誰かがやったバカな行動のとばっちり」
ユニウスセブンへの核攻撃。
それに比べればマシな報復だったと言われればそうなのだろう。
だがNジャマーの投下がラビの家族を死なせたのは事実だ。
体を丸くしているラビにラクスは少しだけ震える声で訊ねた。
「なら、貴女はコーディネイターを……」
憎んでいるのか。そう問いかけようとするラクスを察して慌てて両手を振るう。
「あぁ、いや!? 違う! 違うっすからね! えぇっと……! もしもあの時の事を自業自得とかざまぁみろとか笑ってくる奴がいたら怒りますけど。あたしにとってはそれだけで充分って言うか。プラントを討ちたいとか、コーディネイターが居なくなればいいとか、そこまで行くとスケールが大きくて引くっていうか……」
父と母が死んだ事をからかう奴が居たら、絶対に反発する。
軍学校に在籍していた頃に自軍がデストロイという大型МSで町や民衆を焼いていったのを知り、それでも連合という組織を心酔出来るほどラビは偏った思想は持っていない。
自分語りになってしまい、話を戻す為にラビは態とらしく咳払いをする。
「だから、その……いきなり赦すとか手を取り合うとか問題を一気に解決するような感じじゃなくて、お互いが不愉快にならない距離感を見つければいいんじゃないっすかね」
ナチュラルとコーディネイター。地球の国々とプラント。
互いが傷付け合わなくて良い距離感を擦り合わせられれば上出来。
「人間なんて生きてるだけで嫌われたり好かれたりする生き物っすよ? それにこの数年色んなことが起き過ぎて。でもいつか、みんなの中で血のバレンタインもブレイク・ザ・ワールドも過去の事件になって。そん時に総裁が言うように手を取り合う機会も訪れるかもだし。あたしらに出来ることって、それまで衝突や摩擦を一つでも減らしていくことだと思うっす。コンパスってそういう組織っす……よね……?」
話している自分は組織のトップ相手に何を語っているのかと羞恥から顔を覆った。
穴があったら入って埋まりたい気分だった。
だが、ラビの言葉にラクスは大きく目を見開く。
少しだけ心の霧が晴れたような気がしたのだ。
デュランダル前議長の示した世界を否定し、その責任を果たすように表舞台で活動を始めた。
想い人が苦悩する姿を見て性急に平和な世界を求めて焦ってはいなかったか?
自分をちっぽけな一人の人間だと認識しながら"ラクス・クライン"ならそれが出来ると心の何処かで思い上がってはいなかったか?
ラビの言葉に自分を見つめ直すきっかけを貰った気がした。
「そうかもしれませんわね」
肩の力が少しだけ抜けた気がした。
そこで、二人とは別の声が届く。
「ですが、世界も人も、そう悠長ではありません。そうでしょう? 姫」
「オルフェ閣下……」
宰相閣下が突然現れて、ラビは慌てて座っていた椅子から降り、敬礼する。
内心で、敬礼が様になってきたかなぁ、と現実逃避する。
オルフェ閣下はそんなラビを気にも留めずにラクスの横に座る。
「世界は今、戦いによって失われた悲劇に疲れ、平和と安寧を望んでいる。そんな人々を導く者が必要です。そうは思いませんか?」
「それは……」
オルフェがラクスの手に触れる。
そこで、ラビの頭の上に乗っている青い鳥がブルー、と鳴いた。
ペットロボットに、そんな感情は無い筈だが、ラビにはその鳴き声が二人を引き離すように言ってる気がした。
「あのっ!!」
突然大きな声を上げるラビに二人が驚いた表情でラビを見る。
「あ、明日は早いっすぅ……ですから! そろそろ休んだ方が良いと思います、です。はい! 寝不足で打ち合わせに出たら大変っす、から」
自分、間違ったこと言ってないよね? と心の中で汗をだらだら流しながら表情を取り繕う。
それを渡船とばかりにラクスも立ち上がった。
「そうですわね。オルフェ閣下。貴重なお話をありがとうございます。明日はよろしくお願いしますわ」
「ミレニアムまで安全にお連れするっす」
「えぇ。お願いします」
「あ……」
オルフェが手を伸ばすが、ラクスは一礼してその場を離れた。
すると、ラビの頭に居たブルーがラクスの肩に移動した。
歩いている途中でラビはラクスに質問する。
「総裁とタオ閣下って昔からのお知り合いだったりするっすか?」
「? いいえ。どうしてそう思うのですか?」
「タオ閣下の距離の詰め方とか。じゃあアレっすかね。あの人、実はとんでもなく
そんな事を真剣な表情で呟くラビにラクスは笑いを堪えられなかった。
「こいつらいったいっ!?」
シンは襲いかかってくるブラックナイツの攻撃を防ぐのに精一杯の状況だった。
突然隊長であるキラの暴走にラクスによる攻撃許可。
次いで核ミサイルの発射だ。
既に状況はミケール大佐の捕縛どころではなくなってきている。
ムウのムラサメはアークエンジェルの方へ飛び、アグネスとヒルダのギャンはファウンデーション機に足留めを喰らっていた。
特にヒルダ機はシールドを持っていた左腕を失い、アグネスがそのカバーに入っている。
『マーズ!? ヘルベルト!?』
ヒルダの声で彼女の部下である二機のゲルググが撃墜されたのを見えた。
階級は自分の方が上だったが、先達の軍人としてルナマリア共々世話を焼いてくれた先輩。
護衛機だったゲルググが落とされた事でアークエンジェルは次々と武装やエンジンを破壊されていく。
地面に不時着したアークエンジェルをブラックナイツの一機がブリッジを破壊する。
それと連動してミサイルの雨がアークエンジェルに降り注いだ。
駆けつけたムウのムラサメがビームライフルを撃つが、当たらず、逆に損傷を受けて、谷底へと墜ちていった。
「アークエンジェルが……っ!?」
かつて敵対していた艦が沈んでいく光景にシンは自分でも意外な程に衝撃を受けた。
だが、アークエンジェルの撃墜に気を取られていると、頭の中に声が響いた。
『よそ見してんじゃねぇよ!』
意識を逸らした僅かな間にブラックナイツが接近し、対艦刀でコクピットを狙ってきた。
とっさに機体を上昇させて直撃は避けたが、上半身と下半身が真っ二つにされてしまう。
シンはコクピットのハッチを開き、パイロット用のスラスターを掴んで飛び降りる。
敵МSがシンを逃がすまいと追ってくると、ヒルダのギャンが鞭で敵機の腕を絡め取った。
『アグネス、拾え!!』
『ああもう! なんであたしがっ!』
ヒルダのギャンがミサイルでジャスティスを爆破し、目眩まししている間にアグネスがシンを回収する。
「悪いっ!」
「アンタって本当に情けないわね!」
『逃げるぞ! 核が来る!』
ヒルダがそう指示を出すが、アークエンジェルのクルーやキラ達はどうするのか。
「変なところ触ったら蹴り落とすわよ!」
問いかける前にアグネスのギャンが核ミサイルから逃れる為に全力で加速した。
キラのフリーダムとシュラのシヴァの戦闘はまだ続いていた。
フリーダムはシールドブーメランと左翼を失いつつもビームサーベルでシヴァと斬り結んでいた。
しかし、敵の嵐のような攻勢に防戦一方を強いられている。
敵はキラの動きを完璧に読んでいるかのように撃つ直前の腰のレールガンを斬り捨てて見せた。
既にエネルギーが危険域に近づいている。
頭には敵の声が響く。
『貴様は勝てない』
「なにを……!」
『それが────』
『そこのバカ二人っ!!』
フリーダムとシヴァの間にラビのウィンダムがビームサーベルを手に割って入る。
「ラビッ!?」
『いつまで遊んでるんすか! 核ミサイルがこっちにも飛んできてるんすよ! 早く逃げないと……っ!?』
そこで、シヴァがラビのウィンダムに斬りかかる。
大型のヒートソードをウィンダムのシールドで受け止めるがすぐに斬られると判断して捨てた。
『良い判断だ。だが
シヴァがウィンダムに襲いかかる。
「ラビ下がれ!」
『冗談! ヤマト隊長をほっぽり出して逃げたら、総裁になんて報告させる気っすか!?』
シヴァの猛攻を両手のビームサーベルで捌くラビ。
(リミッターを外してる!)
ラビのウィンダムにはリミッターが設けられており、それを外すとインパルスなどのセカンドステージ並の反応速度と機動力。そして運動性が向上する。
だが、機体への負荷が大きい為、保って数分であり、いざという時の保険程度の意味合いでシステムをキラが組んだ。
『クソ! あんたファウンデーションの軍人っしょ!? そっちにも核が飛んでるのに、ヤマト隊長に構ってる場合っすか!!』
確かにそうだ。
キラがやったユーラシアへの軍事境界線を越えたのは大問題だが、ファウンデーションには核が飛んで行ったのだ。
なのに彼らはそれらに構う事なくコンパスを攻撃している。
何故? と疑問が駆け巡る中でシュラが今気付いたかのように声を出した。
『そうだな。だが、あの国はもう必要無い。核を撃たれた方が好都合だからな』
「は?」
彼らは何を言っているのか。
理解出来ないでいると、通信越しにラビの怒声が響いた。
『それが……それが軍人の言うことかぁっ!!』
ウィンダムは両手のビームサーベルを捨てて、シュラの両腕を掴む。
『これなら、避けようがないだろ!』
"オオタカ"がウィンダムから飛び立つと旋回し、自機の背中から迫る。
自分の機体ごとシヴァを撃墜しようとする捨て身の攻撃。
「ラ────」
フリーダムが止めに入ろうとするも、シヴァの胸部が開き、中から無数の針が飛び出した。
至近距離からその針がウィンダムの装甲を突き破る。
すべての針を出し終えたシヴァの支えを失ったウィンダムが倒れる。
自由になったシヴァは向かって来ていた"オオタカ"を斬り捨てた。
「あ、あぁ……っ!?」
かつて、自分を助ける為にスカイグラスパーでイージスに立ち向かい、命を散らした親友の姿がキラの脳裏にフラッシュバックした。
裏話。
オルフェは最初、女性同士の会話だからと話に割って入るタイミングを見計らって話しかけました。
そんな空気の読めるオルフェくんです。