ファウンデーションの近衛師団長に剣で勝ったら目を付けられた件 作:ブルーコスモスへの鎮魂歌
モスクワがレクイエムで撃たれた後、ファウンデーションから全世界に向けて放送が届けられた。
そこには宰相のオルフェ・ラム・タオ閣下が映っている。
『我々は地上を追われた。ナチュラルが放った憎しみの核によって』
始まった演説には自国を核で撃たれた憤りが表れている。
真実を知らなければ、誰もが騙されていたかもしれない。
オルフェの演説は続く。
『我らは国策としてギルバート・デュランダル前議長が提唱したデスティニープランを受け入れた。遺伝子による公平で平等な社会。我らはそれを実行する事で奇跡的な復興を成し遂げてみせた』
それは紛れもない事実だ。
戦後の復興をデスティニープランによる人材の発掘と登用。それを上手く適材適所に当ててファウンデーションは驚異的な復興に成功した。
それだけを見れば、デスティニープランは素晴らしい政策に思える。
『だが、怠惰たる人間達はそれが気に入らないらしい。彼らは進化を否定し、過去の恨みを忘れず、醜い感情のままに互いを殺し合う! 地球という安寧の地に住みながら、強欲にその恩恵を消費する寄生虫に等しい! なぜそのような蒙昧な輩と我らは共に歩まねばならないのか』
オルフェの演説を聞く中でラビは強く自分の腕を掴んだ。
全てが気に入らない。
核を自国に撃ちながら平然と被害者ぶる姿も。
戦後の復興は自分達だけが頑張ったのだと言わんばかりの態度も。
何より、恨みを忘れずだの醜い感情のままなどと言いながら、報復としてモスクワにレクイエムを撃ったのだ。
全てがラビの神経を逆撫でする。
オルフェはプラントのコーディネイターに向けて自分達は貴方がたの味方であり、兄弟だと。
『我らも遺伝子操作操作によって生み出された究極のコーディネイター"アコード"だ! 遺伝子に刻まれたその役割は、調停者として人類を導く者』
アコード、という存在を初めて聞いた一同は困惑しながらもモニター内のオルフェの演説を聞き続ける。
『我らはその為に生を受けた。君達の指導者である、ラクス・クライン総裁も我らの同胞なのだ!』
突然突きつけられた情報にさっきまでとは比にならない動揺が広がった。
オルフェはラクスが自分達と共に居る事を告げる。
『我らの意志は彼女の意志でもあり、我らの願いは彼女の願いでもある』
ラクスの名前が出たところでラビはキラの方に視線を移す。
「あれ?」
しかし、いつの間にか部屋から出ていたのか、キラの姿は見当たらなかった。
そこからオルフェはプラントへ自分達に賛同するように呼びかけ、各国にデスティニープランを承認、実行するように脅迫する。従わなければレクイエムを撃つと。
態々ラクス・クラインの名を使って。
演説を終えると全員が困惑を隠せずにいた。
情報を整理する意味も兼ねてラビが小さく挙手をして話す。
「あの……クライン総裁がアコードとか。それが
前回の戦争の時も、オーブでカガリと共にメディアに出演した際に当時のデュランダル議長に対して懐疑的な言葉を世間に投げかけた。
メサイア攻防戦の後も、デスティニープランに対して肯定的発言は無かったと記憶している。
「だから、前の戦争の時もデュランダル前議長と敵対したんでしょう?」
ラビの認識にマリューが補足を入れる。
「確かにラクスさんはプランに対しては否定的だけど、デュランダル議長と敵対したのは、レクイエムを撃った事が大きいわ」
ラクスのデスティニープランに対する姿勢は自分は賛成しないが、その人がそれを選ぶのなら邪魔もしない、というスタンスだ。
但し、それを暴力や恐怖によって強制するのなら抗うし、止める為に動く。
「だが、ラクスの本心とは無関係にプラントの人々は彼女の名前を出せば従ってしまう者は多いだろうな」
「なんでですか!?」
アスランの意見にシンが驚きと共に質問する。
「それだけ彼女の影響力はプラントの市民にとって大きいんだ。ラクス・クラインがそう言うのなら、間違いはないと思ってしまう程に」
過去に起こった二度の大戦。
それを終結の立役者となった女性。
ラクス自身は一人一人が自ら考え、答えを出す事を望んでいるが、人々はラクス・クラインが決めて、導いてくれる事を望んでいる。
理由は簡単。考えたくないから。間違えたくないから。
自己の判断を丸投げしてしまう。
ラクスも一人の人間であり、迷ったり悩んだり、間違える事もあるのだという事実を置き去りにして。
「だから奴らはラクスを確保したんだろう。ラミアス艦長、すぐに情報の共有とファウンデーションへの対策を考えましょう」
再びレクリエーションルームに集まった一同。
アスランが自分の持っている情報を開示した。
「遺伝子による適性で役割を与えるデスティニープラン。デュランダルとアウラはその仕組みを管理し、導く者を創った。それがアコードだ」
遺伝子を基準に行われる計画に対してもっとも優秀な遺伝子操作を受けたコーディネイターが管理する。
当時のギルバート・デュランダルがどこまで想定していたかは定かではないが。
「そして、その計画に一番重要なのがオルフェ・ラム・タオ。そしてラクスだ」
「え?」
突然ラクスの名が出て呆けた表情で伏していた顔を上げるキラ。
「だから彼らはラクスを拐った。彼らの計画に必要だったから」
アスランの断言にシンとマリューが気遣わしげな視線をキラに送る。
そして更にアスランは現在のプラントの状況を話す。
「ターミナル経由で知った情報だが、現在プラントでは軍によるクーデターが発生している」
「えぇ!?」
「このタイミングって事は、ザフトの誰かがファウンデーションと繋がってたってことっすか?」
「おそらくはな。詳細は分からないが、議長以下評議会議員との連絡が取れていない」
血のバレンタインに始まり、プラントは軍人も市民も多くの命を失っている。
はっきり言って今クーデターを起こしても更に人口の減少を招くだけにしか思えないが。
だが、ファウンデーションが核を撃たれたというまやかしの事実は想像以上にプラントの住民の共感を呼ぶ。
ましてやラクスが彼らと一緒に居るのなら尚の事。
そこでヒルダがファウンデーションに協力しているのは、ジャガンナート中佐だろうとの事。
彼は、未だにナチュラル排斥を声高に叫んでいる人物で、ファウンデーションに協力してもおかしくない。
「だが、現状あたしらは動きようがない。モビルスーツも
使えるモビルスーツはアスランのズゴックとパーツの共喰いで直したアグネスのギャンだけだ。
ここには世界でも指折りの人材が揃って居るが、相応の武器が無ければ対応出来ないのも事実。
「つまり、私達は死人も同然ということね」
マリューも暗い表情で呟く。
奴らがレクイエムを押さえている以上、下手に動けばオーブが撃たれる可能性が高い。だから少なくとも今は動きようがないのだ。
「これは推測だが、アコードは俺達の心が読める。おそらく、人の精神にまで影響を及ぼすことが出来るようだ」
「それで隊長が……っ!」
突然、居もしないミケール大佐を追いかけてユーラシア領内に突っ切ったフリーダム。
もしもそれがアコードが幻を見せていたのならあのらしくない暴走も納得出来る。
本当に彼らが人の精神に干渉出来るとすればだが。
それにそんな物をどう対処すれば良いのか。
「ラクスを救出しよう。それしか方法がない。プラントを止めるには、彼女の言葉が必要だ」
しかし、やはりその為にはブラックナイツに対抗出来るMSと戦艦が居る。堂々巡りになってしまう。
それはどうするのかとラビが訊こうとすると、キラが呟く。
「……無駄だよ」
「キラ君?」
「どうせ同じだ。僕らがなにをやったところで……」
疲れたようにキラは続ける。
「結局また繰り返しだ。あれだけ苦しんで……迷って……戦って戦って戦って! でも、なにも変わらない。それは、僕が間違っているからなのか?」
前回の大戦でデュランダルが言ったように、どれだけ凄惨な戦争を終わらせても、人々はその悲劇を忘れてすぐに争いを始める。
デスティニープランを否定したのも、結局はキラ個人の独り善がりな我儘だったのではないか?
どんな形でも戦争が無くなるなら、それだけで充分なのではないか?
たとえそれが、なんの自由の無い世界だったとしても。
「だから、ラクスは僕を捨てて、彼を選んだ!」
結局、自分にはなにも変えられない。
溜め込んでいた無力感が溢れ出してくる。
「僕じゃ駄目なんだ! ラクスが望むものを、何一つあげられない! 平和どころか、彼女を笑わせることも出来ない! 僕には幸せに出来ない!!」
心の底から笑うラクスを最後に見たのはいつだっただろう?
いつの頃からか、顔を合わせても互いに気遣うような態度と表情が多くなったような気がする。
還してあげたかった。
平和な世界で、ラクスが心のままに歌える世界に。
だけどそれは、自分には最初から無理な事だったのだ。
この世界が平和になるヴィジョンも思い描けない自分には。
「だからラクスは、僕を裏切ったんだ!!」
そこまで言い切ったところで、キラに近づいて胸ぐらを掴んだアスランが頬を殴る。
床を転がったキラにアスランは怒鳴りつけた。
「くだらない泣き言はやめろ! 自分が自分がばっかりで、彼女の気持ちなんかひとつも考えてないだろ、お前は! もういい! そんなに戦うのが嫌ならそこでイジイジ腐ってろ!」
そう吐き捨てたアスランにキラは頭に血を昇らせながら立ち上がる。
「なにも分からないくせに……君にそんなこと、言われたくないっ!」
殴りかかるも、瞬発力は悪くないのだが、素人のキラの動きに対してアスランは打ってくる拳を捌きつつ、容赦なく軍隊格闘を叩き込む。
顎を打って蹴り飛ばすがキラも倒れる事なく着地する。
「自分だけが戦っているつもりか!」
「仕方ないだろ! 君らが弱いから!」
ずっとずっと心の奥底に押し込めていた気持ちが吐き出される。
自分が戦わなければみんなが死んでしまう。
だから守らないといけない。
払拭される事なく染み付いてしまった強迫観念。
死なせたくないという優しさと、自分にしか出来ないというある意味での傲慢さ。ぐちゃぐちゃになって余裕のない精神状態から絞り出される。
しかし、アスランはその考えを否定した。
「ふざけるな! そうやって全てを自分で背負った気になって、思い通りにならなきゃ放り出すのか! 大したヒーローだな!」
「違う!」
キラは再びアスランに向かっていく。
それにハッとなったシンが止めようと動いた。
「やめろアスラン! 隊長は────っ!?」
しかし、アスランの拳をキラが避けるとそのままシンにヒットし、キラが振るった拳をアスランが下がって躱すとまたシンの顔にヒットして倒す。
流れるようなダウンだが、シンも立ち上がって再び止めようと動くが、ラビがシンの首根っこを後ろから掴んで止める。
「まぁまぁ、アスカ大尉。また殴られるだけっすよ。それに今回は流石にヤマト隊長が悪いっしょ。一佐が准将を殴って良いかを除けば」
方法はともかく、ファウンデーションを止めなきゃいけないのは明白なのに、水を差すような事を言うのだ。それも個人の色恋沙汰も含めて。
「それに、腑抜けた野郎を修正してやるのが友達ってもんだ」
腕を組んで頷くヒルダと困った様子で手で顔を覆うマリュー。
そんな周囲を気に留める事なく二人の喧嘩は続いている。
「僕がやらなきゃダメなんだ! 嫌だけど、必死で……!」
前の戦争でデスティニープランを否定したのは自分。
デュランダル議長に覚悟はあると言ったのも自分。
だから、その責任を果たさないと────。
「なんで言わない! 頼まない! 誰かに! お前独りでなにが出来る!」
強烈な拳がキラの頬を打ち、壁に背中を打ち付ける。
今度立ち上がらずに居ると、ポタポタとキラの手に涙が伝い落ちる。
「ラクスに、会いたい……」
自分の一番の望みを想い起こすようにキラが呟く。
「ラクス……ただ隣で笑っていてほしいだけなのに……僕にはもう、どうしたらいいのか分からないっ!!」
自分が悩んでいる間、その姿を見て、ラクスはどう思っていたのだろう?
ラクスが自分に本当は何を望んでいたのか、どうして一度でも確認しようとしなかったのか。
「しばらく会わないうちに、ラクスは随分変わったんだな」
「え?」
「こうしてやらないと幸せになれないとか。出来ないと駄目とか。俺の知っているラクスはそんなこと言わなかった筈だ」
その言葉に対して周囲がどよめくとアスランが睨み返す。
周りが視線を逸らす中で、アスランとラクスが元婚約者だと知らないラビだけは不思議そうに首をかしげていたが。
「ラクスは……世界が平和になるように望んでた……」
「でも、誰かにポンと平和をプレゼントしてほしかった訳じゃないでしょう?」
「そこへ向かって、共に歩む相手を望んでたんじゃないのか? 一歩一歩、たとえ小さくとも」
「今も、そう思ってるかな? ラクスは?」
「不安なら会って訊いてみろよ」
そう言ってアスランはキラに手を差し出す。
「行こう、キラ。ラクスを助けよう、俺達で。言葉にしないと伝えられない事もあるから」
「うん……!」
キラはアスランの手を取って立ち上がった。
ラクス救出の作戦を話し合いで、メイリンがターミナルとオーブからの情報を総合して現在のファウンデーションが居る場所を推測する。
そして出たのは。
「アルテミス要塞。厄介ね」
「トリィとブルーの量子ネットワークを使えば、ラクスの位置は特定出来る」
「近づきさえすれば、居場所が分かるのね?」
「まだ、ラクスが持っていてくれればだけど……」
本当にラクスがアルテミスに居るかは確定していないが、それ以前にクリアしなければいけない問題がある。
「でも、宇宙へ行く為の戦艦はどうするんですか? こっちにはまともに戦えるモビルスーツも限られてるし」
そう。先ずは宇宙へ上がる為の戦艦を用意しなければならない。
それもファウンデーションと戦えるだけの。
MSも同様だ。
このまま宇宙へ上がっても、また敗けるだけ。
「戦艦を調達する事は出来るかもね。まぁ、ちょっと荒っぽい方法だけど」
苦笑いを浮かべて答えるマリュー。
エリカも続く。
「モビルスーツの方は、こっちでなんとか出来るかも」
コンパスの軍服に着替え、エリカ・シモンズに案内されるままに移動する途中でラビがキラに話しかける。
「ヤマト隊長。少し、いいっすか?」
「えっと……なに?」
さっきは色々と情けない姿を見せたせいで少しだけバツが悪い。
普通なら怒っても仕方のない事も言ったと思う。
「あたしが言っていいのか判んないっすけど、一応。クライン総裁とは作戦の前日に少し話して。ミレニアムに送る時に言ってたっす。ヤマト隊長を戦場から離したいって」
「ラクスが?」
「うっす。これ以上戦い続けたら、ヤマト隊長が壊れるからって。あたしに話したっていうより、独り言みたいな感じでしたけど」
ミケール捕獲する作戦の前日。
ラクスが呟いていた事を伝えるラビ。
「だから、自信を持って助けに行ったらいいと思うっす。さっきみたいな滅入った顔で会いに行ったら、総裁も助けられて良いのか困るでしょ?」
「そう、だね……」
ラビの言葉に若干口元が引きつる。
落ち込んでいたとはいえ、中々に酷い事を言っていた自覚はある。
穴があったら入りたいくらいに。
「それにしても、前からヤマト隊長って、いつも難しい顔してて、ちょっとなに考えてるのか分かんない時があったっすけど。案外色々とかわいい人だったんすね」
「かわ……」
歳下の女の子にキラは狼狽する。
アスランとメイリンが口を押さえてプルプル震えて明後日の方に顔を向けている。
好きな人の為に世界を平和にしたい。
中々に自己中心的で人間臭い理由だと思う。
「少なくとも、結果的に戦争が無くなるからとか。自分達は無条件で正しいから、何をやってもいいんだ。なんて理屈よりずっといい」
自分の正しさに酔って暴走する人間の怖さをラビは知っている。
それは軍人として武器を持つ以上、戒めなければいけない。
だから────。
雑談をしている間に目的の場所に着く。
暗かった部屋に明かりが点くと、そこには三機のモビルスーツが佇んでいた。
その機体を見て、キラは目を丸くし、シンを嬉しそうにその名を呼ぶ。
「デスティニー!」
「フリーダム……」
それは、前回の戦争で二人が乗っていた機体だった。
「アスハ代表に頼まれて、新型融合炉や新武装の性能評価実験に使っていたの。武装や駆動系はそのままだけど、操縦系は最新にアップデートしてあるわ。ブラックナイツに対抗するには、心許ないでしょうけど」
「いや。これさえあれば、あんな奴らなんかに……」
シンが両拳を握りしめて、自信満々にデスティニーを見上げる。
そこでラビがエリカに問う。
「シモンズ女史。あたしにはー?」
フリーダムにはキラ。
デスティニーにはシン。
インパルスにはヒルダが乗るとして、ラビが乗る機体の余りはない。
「ごめんなさい。オーブのことを考えるとムラサメを配備するのも難しいかも」
これからやろうとしている事を考えると、オーブの正式機体であるムラサメを乗らせるのは難しい。
「ウィンダムを壊しちゃったのは痛かったなぁ」
ボヤくとアグネスが呆れた声で言う。
「ウィンダムなんて大した機体じゃないじゃない」
その発言にラビが食ってかかる。
「なんてこと言うんすか、中尉! 数ヶ月でボンポン新型がロールアウトされるザフトと違って、ウィンダムは連合ではまだまだ現役の機体なんすよ!」
キシャーと小動物みたいに凄むがアグネスははいはいとやり過ごす。
一通り騒いだ後に、ラビは仕方なさそうに呟いた。
「無いならしょうがないっすねー。なら、有る所から
次回、機体乗り換えイベント。