ファウンデーションの近衛師団長に剣で勝ったら目を付けられた件   作:ブルーコスモスへの鎮魂歌

9 / 22
宇宙漂流

『シュラ。お主は決して誰にも負けてはならぬ』

 

 母上からずっと聞かされてきた言葉だ。

 その言葉の通り、俺は誰にも負けなかった。

 剣でもモビルスーツでも。

 それに土を付けた者が現れた。

 まだ十代半ばの少女。

 最初は軽くあしらってやるつもりだった。

 なのに、ただ乱暴に振るわれただけの剣に黒星を付けられたのだ。

 生まれて初めての明確な敗北。

 その事を耳に入れた母上に酷く罵られたが、大して気にならなかった。

 ただ、もう一度あの少女と剣を交えたかった。

 その機会はすぐに訪れる。

 コンパスを歓迎するパーティーを離れてひたすら少女と剣を打ち付け合う時間。

 勝ちたいという欲求とずっとこうして剣を振るっていたいという願いが同時に生まれる矛盾。

 剣を振るいながらふと思う。

 もしかしたら、自分はこの瞬間の為に生まれてきたのではないか? 

 あまりにも充実した時間にそう錯覚してしまう程だった。

 宇宙へ上がった後も持て余した時間をシミュレーションに費やしていたが、他の誰もシュラに勝つ為に挑んではこない。

 ナチュラルの少女が自分を打ち負かした事実を、偶然(マグレ)と決めつけて。

 その事に今まで感じなかった苛立ちのような物が生まれる。

 彼らは正しい。

 誰もシュラには勝てない。

 勝ち続ける為に生み出された。

 そして、デスティニープランとはそういう物だ。

 だからこそふと過ぎる。

 もしも遺伝子上で、自分よりも優れた戦闘資質を持つ者が生まれた時、自分は彼らのように勝つ事を捨てる事が出来るのだろうか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦況は少しずつコンパスに傾きつつある。

 こちらの四機の内、三機がブラックナイツに割いている状況で、護衛はヒルダのゲルググのみ。

 しかし、オーブ軍の介入やターミナル経由で戦場に飛んできたイザーク・ジュール中佐とディアッカ・エルスマン大尉という増援により、ザフトのクーデター派の戦力を抑え込んでくれている。

 ただ、彼らの目的はジャガンナート率いる戦力の説得による投降である為、積極的に攻撃は行わないものの、それでもミレニアムはファウンデーションの掃討に集中出来ていた。

 またプラント内部も既にクーデター軍の制圧に成功しており、ラメント議長が戦闘の停止を呼びかけている。

 これで後は、レクイエムさえ無力化すれば、この事態は終息するだろう。

 そこでマリューの座る艦長席にラクスから通信が届く。

 

『ラミアス艦長。発進の許可を』

 

 それはミレニアムの新兵器であるプラウドディフェンダーに取り付けた外付けのコクピットの中からだった。

 

「ラクスさん?」

 

『これをキラに届けなければ。これは、わたくしがやらなければならないことなのです』

 

 どうするべきかマリューは判断に迷った。

 ラクスを一度は奪還に成功し、彼女の言葉を世界中に届けた。

 その時点でこの戦場でのラクス・クラインの役割は終わったと言える。

 しかし、せっかく連れ戻した彼女を戦場に出すのは躊躇われた。

 もちろん、ミレニアムの中が絶対安全という訳ではないが。

 それにプラウドディフェンダーはまだテストもしていない新兵器だ。それだけでも不安要素が強い。

 難航していたプラウドディフェンダーの開発と調整はマリュー達がユーラシアで生死不明になっている間に開発部やハインラインの手によって終えていた。

 しかし、本来装備予定だったライジングフリーダムがミケール大佐捕獲作戦の時に破棄され、急遽ストライクフリーダム用に再調整する必要があった。

 ブラックナイト用の切り札としてオーブから託された対艦刀"フツノミタマ"も搭載。

 それらは結局、キラがアルテミスに向かうまでに間に合わず、全ての調整を終えたのがつい先程なのだ。

 

『お願いです、艦長。今回だけは行かせてください』

 

 切実に訴えるラクスにハインラインが答える。

 

『総裁。機体は100%の性能を発揮しますが、ドッキングにはマニュアルでの微調整が必要です。私が完璧にサポートします』

 

 ハインラインはラクスの出撃に賛成している。

 それが戦況を見ての判断なのか、それとも新兵器を実戦に投入したいからなのは定かではないが。

 

「分かりました。出撃を許可します。アスラン君」

 

『……了解しました。ラクスを援護します』

 

 不満そうに了解するアスラン。

 彼からしても、せっかく助け出したラクスを再び戦場に飛び込ませるのは本意ではないのだろう。

 だが、ここからではキラとラビの状況が分からない。

 打てる手は全て出したいのは事実だった。

 

『ありがとう、艦長』

 

 アスランのズゴックが発進した後にラクスが乗るプラウドディフェンダーも発進していく。

 自分達も、自分達の役目を全うしよう。

 

「目標、敵旗艦! ぶつけてでも墜とす!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シュラはラビの乗るルドラを相手をしながら驚愕していた。

 

(どういう肉体をしている! この女は!)

 

 何故連合のモビルスーツの性能が基本、初期GATシリーズであるストライクレベルに留めているのか。

 それはパイロットの肉体の問題が大きい。

 機体のスピードやパワーが上がれば、当然パイロットにかかるGも増す。

 たとえ動体視力や反射神経が優れていても、肉体が耐えられないのでは意味がない。

 もちろん、ストライク以上の性能のモビルスーツのGでも耐えられる者はいる。

 それが連合でのエースパイロット達に分類されていた。

 だからこそ、連合はコーディネイターに対抗する為に大型モビルアーマーや、薬物で人為的に強化した人間を作り出したのだ。

 ブラックナイトスコードシリーズは現状、世界で最も優れた性能を持つモビルスーツだと自負している。

 故に、パイロットにかかる負荷はそこらのモビルスーツより上だし、扱うには相応の肉体がいる。

 なのに、ルドラに乗るナチュラルの少女は、その負荷を物ともせずに扱っていた。

 シュラの中である考えが過ぎる。

 自分達アコードが、遺伝子操作で生まれた究極の人類ならば。

 ラビ・トーチスは、ナチュラルの中で生まれた進化した人類なのではないか? と。

 そんな考えが過ぎっていると、ラビから通信が入る。

 

『随分手がぬるいじゃないっすか! チュートリアルのつもり、かなっ!』

 

 互いの武器をシールドで防ぐ。

 

「ふっ。そうだとも。だが大分その機体に慣れたようだな!」

 

 足から発生したビームソードを下がって避けつつ、左手に持ったビームライフルで応戦してくる。

 

『あーそーっすか! それはどうも! 負けた時の言い訳にしないでよ!』

 

「あぁ。手加減は終わり。ここからが本当の戦いだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キラはカルラとの戦闘で劣勢を強いられていた。

 敵のドラグーンを二機墜とす事に成功したが、こちらは五枚のドラグーンの羽を失った。

 今は残り三枚のドラグーンでバリアを張りながら逃げ回っている。

 しかしそれも限界であり、ドラグーンのエネルギーは既に危険域に到達し、一度戻してエネルギーを補充しなければならない。

 だが、ドラグーンの羽を戻す為に本体の動きを止めるのは自殺行為だと判断。

 それほどまでに敵の攻撃は苛烈だった。

 残った三枚のドラグーンからビームスパイクを出力し、迫りくるミサイルにぶつけて少しでも数を減らす。

 

『何故貴様が邪魔をする! なにも出来ない失敗作のお前が!』

 

 怒声を撒き散らしながら、キラの存在を否定するオルフェ。

 

『のうのうと愛されている! そんな資格も無いくせにっ!』

 

「愛されることに資格なんて必要ない!」

 

 二丁のビームライフルは既に失い、残った手と両腰のレールガンを撃ち続ける。

 三機目のドラグーンの撃破に成功するも、レールガンの弾数が全て底を尽き、カルラに向けて投げると腹部のビーム砲で破壊し、一瞬の目眩ましに使う。

 その隙にビームサーベルを抜き、カルラに接近戦を仕掛ける。

 

『ならばその愛を寄越せ! 彼女は私のモノになる筈だったのだ! それを貴様がっ!』

 

「くっ!」

 

 カルラの右手にある対艦刀をビームシールドで受け止めつつ、左手の対艦刀でトドメを刺そうとするも、その前にフリーダムがビームサーベルを斬り上げ、左手の対艦刀を破壊した。

 

『貴様っ!』

 

 カルラが胸部のビーム砲を撃とうとするも同時にフリーダムも腹部のビーム砲を撃つ。

 やはりカルラのビーム砲が威力が勝っており、押し出されるフリーダム。

 腹部のビーム砲が焼け付き、使用不可になる。

 月の地表に叩きつけられたフリーダムにミサイルの雨が降り注ごうと────。

 

『キラァッ!!』

 

 ミサイルの雨から守るようにズゴックが飛び込んできた。

 フリーダムの代わりに全てのミサイルを受け止めるズゴック。

 

「アスランッ!?」

 

 ミサイルの攻撃により、装甲が剥がれるズゴック。

 ボロボロになったその姿から機体が爆発すると、中から真紅のモビルスーツ、ジャスティスが現れた。

 キャバリアーからストライカーパック、フォランテスが射出され、ジャスティスとドッキングすると、ビームサーベルでカルラに斬りかかる。

 

『大丈夫か?』

 

 アスランが無事だった事に安堵していると、通信で別の声が届く。

 

『キラッ!』

 

「ラクスッ!?」

 

 接近してくる白と金の翼。

 それをラクスが届けてくれた事を察し、背中の翼を捨てて飛ぶ。

 カルラを抑えるジャスティスだが、後方からこちらを撃ってくる大型ドラグーンであるジグラートの火力がフリーダムのドッキングを狙って撃ってきた。

 全ての砲火がフリーダムに集中する。

 

『キラッ!?』

 

 アスランが叫ぶ。

 あれ程の火力を受けてただのモビルスーツが無事でいる筈がない。

 しかし。

 爆煙が晴れると、そこには金色の粒子がフリーダムを中心に舞い、頭部の横にはラクスが佇んでいた。

 ラクスがフリーダムのコクピットに入る。

 

「ラクス、どうして」

 

 こんな危険な事を、と訊こうすると、彼女は微笑んで答えた。

 

「わたくしの意志は、あなたと共にあります。幾久しく、よろしくお願いしますわ」

 

「行くよ」

 

「はい」

 

 ラクスがサブシートに腰掛けると、キラはアスランと話す。

 

「アスランはレクイエムをお願い」

 

『だがキラ……』

 

「大丈夫。僕は……僕達は負けない」

 

 かつてデュランダル議長に言った僕は戦う、という言葉。

 だが、独りじゃない事を自覚したキラは意識して僕達と言った。

 隣には愛する人がいる。

 こうして、一緒に戦ってくれる仲間がいる。

 だから、今はお互いに出来る事を。

 

「アスランはオーブを……カガリを守って」

 

 本当は自分がレクイエムを破壊するつもりだったが、オルフェとの決着は自分がつけなくてはならない。

 

「……わかった」

 

 機体を翻してジャスティスはレクイエムへと向かった。

 キラとアスランが会話してる間に、ジグラートから放たれた巨大なビーム砲が迫るも、それを全て金色の粒子が吸収する。

 続いて迫りくる超高速ミサイル。

 

「これはわたくしが」

 

 ラクスが右手を横薙ぎに振るうと、迫るミサイルとドラグーンが全てロックオンされる。

 すると、フリーダムを中心に電撃が放たれた。

 ディフェンダーから放出されたナノ粒子が敵のビームを吸収し、電撃に変えてドラグーンやミサイルを無力化していく。

 

「ディスラプターを使う。キラ・ヤマト准将。ディスラプター使用を申請」

 

「総裁ラクス・クライン。ディスラプター使用を承認します」

 

 ラクスがモニターを操作してディスラプターの使用を許可する。

 隣にラクスが居る事や状況が状況なのでスムーズに使用許可が降りたが、本来ならこうは行かない。

 ディスラプターはキラ自身が使用条件に制限をかける程の威力を持っていた。

 

「敵はメサイアの陰に居ます。わたくしの意識とリンクを」

 

 すると、メサイアの後ろに居るジグラートの存在を知覚する。

 フリーダムの額部分が開き、ディスラプターの砲口が出現した。

 

「ディスラプター! 出力80%!」

 

 フリーダムの額から撃たれた光線。

 それがメサイアとその後ろに居たジグラート三隻を両断した。

 その威力にキラは息を呑むが、すぐに残されたカルラに意識を向ける。

 さぁ、決着の時だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 インパルスは二振りあった対艦刀の一振りをビームライフルで破壊された。

 

「えぇい!」

 

 歯噛みしてフラッシュエッジをリデラードのルドラに投げると同時にソードシルエットをパージ。フォースシルエットとドッキングした。

 しかし、エネルギーは既に危険域に近づきつつある。

 デスティニーにはデュートリオンビーム送電システムが搭載されているが、向こうはブラックナイトスコード三機を相手にしている。

 こっちは二人がかりで一機も墜とせていない。

 ルナマリアの補給の為にシンに危険を冒すのは避けたかった。

 

「せめて、コイツだけでもっ!」

 

 左手に対艦刀。右手にレールガンを持ってルドラに突撃するルナマリア。

 

『そんな大振りでっ!』

 

 対艦刀の振り下ろしを回避するルドラ。

 

『当たるわけないでしょっ!!』

 

 逆にインパルスの懐に迫り、コクピットに対艦刀を横に振るってきた。

 

『え……っ?』

 

 リデラードの視界からインパルスの姿が消え、振るった対艦刀が空を斬る。

 呆けたのは一瞬。

 すぐに状況を理解して視線を上に向けたがもう遅い。

 上半身のみのインパルスがレールガンの銃口をリデラードに向けていた。

 かつてシンがフリーダムとの戦いに使った戦法。

 それをこの土壇場で再現する。

 ルドラにレールガンの弾を叩き込む。

 衝撃でバランスを崩すルドラ。

 姿勢制御する暇など与えない。

 そしてその先には。

 

『やるじゃない、ルナマリア!』

 

 待ち構えていたアグネスのギャン。

 円形のシールドからギザギザのビーム刃が出力され、高速回転させる。

 ビームのチェーンソーとなったギャンの盾。

 アコードとして心が読めるからこそ、自分がどうなるのか、リデラードは理解してしまった。

 コクピットに当てられたビームの刃がルドラの装甲を削り焼く。

 

『た……たすけておね────っ』

 

 全てを言い切る前に、リデラードの肉体はこの世から消滅した。

 同時に、インパルスのVPS装甲が落ち、灰色へと変化する。

 ルナマリアはコクピットの中で大きく息を吐いた。

 敵の攻撃がコクピットを狙った時に、シンがフリーダムを撃墜したあの戦いが頭を過ぎって反射的に上半身と下半身をパージした。

 そんなギリギリだったからアコードも読み切れなかったのだろう。

 狙ってやったのではなく偶然。

 もしくは過去の経験から無意識に打開策が提示されたのか。

 アグネスから通信が入る。

 

『シンがあいつら墜とすまで守ってあげるわ。感謝してよね』

 

「お互い様でしょ。誰のおかげでアコードを撃墜出来たと思ってるのよ」

 

 恩着せがましいアグネスにそう返す。

 ルナマリアはシンの方へ視線を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リデルが……!」

 

 あり得ない。二人がかりとはいえ、アコードが撃墜されるなど。

 なのに何故、自分達は未だにデスティニーなどという旧式一機を墜とせていないのか。

 

『そんな寝ぼけた分身が、通用するかぁ!!』

 

 デスティニーを捉え、攻撃を加えるも、全て残像。

 当たる事なくすり抜けていく。

 

『分身は、こうやるんだぁっ!!』

 

 現れたのは、数十体のデスティニー。

 それが全て三機のルドラに突進する。

 どれを撃てば良いのか分からず、判断を鈍らせる。

 その迷いが動きに反映され、動きを止めたルドラに対艦刀を全速力で突っ込んで突き刺す。

 別のルドラは、フラッシュエッジを投げつけ、斬りつけた箇所にビーム砲を零距離射撃で撃ち墜とす。

 そして三機目。

 コクピットに掌のビーム砲であるパルマフィオキーナを叩き込んだ。

 三機がまるで同時に撃破されたかのように、爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 三機のブラックナイトスコードを撃墜したシンはすぐに視線をインパルスに向ける。

 

「ルナ! デュートリオンビームを! このままレクイエムへ向かう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラビのルドラとシュラのシヴァの戦闘は続いていた。

 

「だぁ! この機体、武装がシンプル過ぎっ!」

 

 せめてビームサーベル。もしくはアーマーシュナイダーでも良いから欲しかった。

 振るわれるヒートソードを避けると同時にスライディングをするが、シヴァはそれを跳躍して躱す。

 交差する瞬間に対艦刀とヒートソードがぶつかり火花が散った。

 

『楽しいなぁ、ラビ・トーチス! そうだ! 俺はこれを求めていた!』

 

「喜んで貰えてなによりだよ! だけど、勝つのあたしだぁっ!!」

 

『そうこなくては!』

 

 姿勢を直し、再びぶつかる二機。

 

(とはいえ、このままだと……!)

 

 少しずつ機体の傷が増えていくルドラに対して、シヴァはほぼ無傷な状態。

 嵐のような斬撃にもコクピットを守っている事で辛うじて撃墜を免れていた。

 

「だからって負けられないよね!」

 

 ルドラとシヴァが動き、交差し、反転して鍔迫り合いになる。

 機体が離れるとシヴァのシールドに内蔵されたアンカーが射出され、対艦刀を弾き飛ばされる。

 

「しまっ!?」

 

『終わりだ! ラビ・トーチスッ!!』

 

 ヒートソードが体勢を崩したルドラのコクピットに襲いかかる。

 

(あ。これ死んだわ……)

 

 人間、死ぬ直前になると、全てが遅く感じるというのは真実だったらしい。

 迫るヒートソードの回避は不可能。

 コクピットを貫かれる未来しか想像出来ない。

 結局、アコードに勝つ事なんて夢物語だったのか。

 

(あたしが殺されたら、またヤマト隊長とかがウジウジすんのかなー)

 

 あれだけラビが危険を冒すのに反対していた人だ。

 ラビが死んだのは自分のせいだと思いかねない。

 

(他の人はどうだろう?)

 

 フラガ隊長やラミアス艦長。

 短い間だったが一緒に過ごしたコンパスの人達。

 ちょっと話しただけだが、クライン総裁とかも悲しむのだろうか? 

 思い返せば、軍隊とは思えないくらい人の良いメンツが集まってたなと思う。

 次第に死ぬ事が怖くなり、身体が冷たくなっていく気がする。

 意識をシヴァに戻す。

 今自分の生命を刈り取ろうとする死神。

 それを見て、今度はなんだか怒りが込み上げてきた。

 

(なんであたしがこんな大量虐殺した奴に殺されなきゃなんないの?)

 

 自国やユーラシアをあんな風にした。

 絶対に許せないのだ。

 軍人のくせに市民を見捨てたこいつらが。

 今も、ヘラヘラと戦いを楽しんでいる。

 

「……ざ……けん、な……」

 

 そんな奴に殺される為に、両親はラビを生かした訳じゃない。

 

「死、ねるかぁっ!!」

 

 頭の中で何かが弾けた気がした。

 意識が急激にクリアになり、シヴァの動きがさっきよりも正確に捉えられる。

 上半身を沈ませて左肩でヒートソードを受け止める。

 

『やるなっ!』

 

 感心したような声を上げるが直ぐ様ビームソードを出力した足の斬撃が迫る。

 この距離でシールドを失ったラビにやり過ごす術はない。

 そう。さっきまでは。

 

『なにぃ!?』

 

 ラビはルドラを飛ばし、横向けで寝るような体勢で宙に停滞する。

 スラスターの角度が僅かでも狂えば、そのままシヴァに衝突するか、停滞自体出来ずにビームソードの餌食になるか。

 シヴァの蹴りはルドラの左脚部を斬り裂く。

 

「こんのぉ……!」

 

 シュラが驚いている内にリアスカートに取り付けてあるレールガンの弾丸をシヴァの胸の装甲に撃ち込み、反動で距離を取った。

 ゴロンゴロンと月の地表を転がり、弾かれた対艦刀の近くで止まる。

 

「ぐへぇ……あっぶなぁ……今のは死ぬかと思った……」

 

 対艦刀を拾い直し、膝立ちの状態で構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 レールガンを撃たれたシヴァは信じられない物を見るようにルドラを見る。

 

(なんだ今のは!)

 

 ラビに出来るとは思えない超絶技巧。

 それを実際に可能にした。

 

(壁を超えたというのか)

 

 あの一瞬で、偶然とはいえ、絶体絶命の状況を覆した。

 本当に思い通りにいかない。

 だが何故か悪い気はしない。

 むしろ、こちらも壁を超えてみたいと闘志が滾ってくる。

 

『なんか楽しそうなところ悪いんすけど。こっちは機体が限界なんすよ。だから次で終わりにするっす』

 

「まだ勝つつもりか」

 

 諦めないラビに呆れと嬉しさが込み上げる。

 一撃を入れたが、以前として有利なのはシュラだ。

 なのに、満身創痍な機体でまだ勝利する気でいる。

 

『勝つっす。絶対に』

 

 その意地に、自分達アコードに足りない何かを見た気がした。

 

『行くっす』

 

 ただ真っ直ぐと全速力で突進してくるラビ。

 満身創痍の機体では小手先に頼る余裕がないのだろう。

 だがそれは悪手だ。

 カウンターで逆に対艦刀の刃を中心から破壊しようするが、直前に刃の軌道が変わり、ヒートソードにぶつけて互いの得物が破壊される。

 すぐに足のビームソードで追撃しようとする。

 

『だ、あぁあああぁっ!!』

 

 獣のような咆哮でラビは中折れした対艦刀を向かってくる右脚の膝に振り下ろしてきた。

 それは、斬るというより、叩きつけるという方が正しい。

 シヴァの右膝を破壊し、ルドラの対艦刀は完全に砕けた。

 

「まだだ……!」

 

 体勢は崩したが、ルドラにはもう手持ちの武器はない。

 だからこの勝負。

 

「俺の勝ちだ!」

 

 ビームサーベルを引き抜こうと右腕を動かす。

 しかしそれは、対艦刀を捨てて手を伸ばしたルドラに阻止される。

 

「なにっ!?」

 

 ルドラはシヴァよりも先に腰にマウントされているビームサーベルに手をかけて奪い取ってきたのだ。

 機体だけではなく武器までも。

 だがまだ、反撃の手は有った。

 シヴァの胸部に搭載された一度限りの切り札。

 地上でも使ったそれを使えば勝てる。

 その引き金を引こうとする指に躊躇いが生まれた。

 

(また、あんな勝ち方をするのか?)

 

 地上で切り札を使い、抱えた後味の悪さを思い出す。

 そんな勝ち方を自分は望んでいるのか? 

 僅かな迷い。

 しかしそれが明確に勝敗を分けた。

 ルドラが奪い取ったビームサーベルで、胴体を横から突き刺す。

 一拍遅れてシヴァは爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オルフェ! シュラが!?」

 

 イングリットに言われて、オルフェもシュラの意識が閉ざされたのを感じた。

 まさか、敗れたというのか? あのシュラが。ナチュラルの小娘に。

 信じられない思いを抱えていると、フリーダムから通信が届く。

 

『オルフェ。イングリット。もうやめましょう』

 

「貴女は自分より劣っているから、その男を選んだのだ! 劣った者達に囲まれ、崇拝されるのがそんなに心地良いか!」

 

 子供の癇癪のように叫ぶオルフェ。

 

「馬鹿共が殺し合い滅びようがどうでも良いということか! なんと身勝手で冷たい女だ!」

 

 自らの使命を拒絶し、望むままに生きようとする。

 そんな自由は、自分達には無かったのに。

 ラクスはまるで教師が小さな子供に諭すように話す。

 生命に優れている劣っているで全て価値が決まる訳ではないと。

 誰かに必要とされている。愛されている。それだけで人は価値ある存在なのだと。

 たとえそれが、現在(いま)ではなかったとしても。

 

「未来などどうでもいい! 私は今貴女が欲しい!」

 

 母であるアウラは本当の意味で自分達を愛してくれなかった。

 役割を全うする道具としてしか。

 なのに同じアコードである貴女はどうして違う答えを導き出せたのか。

 

「人の愚かさ故に我らは生まれた。平和だ平等だの口にしながら、他者に変わることを要求し、決して自ら変わろうとしない! 導く者が必要なのだ!」

 

 オルフェの叫びにラクス・クラインもキラ・ヤマトから伝わるのは同調でも敵意でもなく、憐れみという感情。

 それが余計にオルフェを苛立たせる。

 

「この分断と流血の歴史を終わらせる! それが我らの生まれた意味だ!」

 

『人は必要から生まれるのではありません。愛から生まれるのです』

 

 フリーダムが実体剣とビームサーベルの二刀流で向かってくる。

 迎撃しようとしたオルフェの剣はビームシールドによって防がれ、コクピットを実体剣が貫いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスランはアカツキに乗ったムウと合流していた。

 

「フラガ大佐っ!!」

 

『悪い! ここから先は頼めるか!』

 

「はい!」

 

 ゼウスシルエット。

 本来はデスティニー用のシルエットであり、シェルター諸共撃ち抜く威力のある砲持つ装備。

 その威力故に核動力機以外での使用は難しい装備だった。

 フォランテスをキャバリアーに戻し、代わりにゼウスシルエットを装備する。

 

(とはいえ……!)

 

 レクイエムの周囲にはまだ多くの敵機が残されている。

 アカツキは既に戦闘出来る状態ではなく、キャバリアーの援護だけでゼウスシルエットの砲身を庇いつつ、レクイエムに到達するのはアスランといえど困難だった。

 それでもやるしかないとスラスターを噴射させると、多数のザクがジャスティスを狙う。

 舌打ちして回避行動を取ろうとすると、ビーム砲の横薙ぎが複数のザクを撃墜する。

 

「シンッ!」

 

『なにやってんですか、アスラン! 早くレクイエムの破壊を!』

 

「あぁ! 援護を頼む!」

 

『分かってますよ!』

 

 シンの返しに、なんでキラにミレニアムを頼まれた時とこんなに反応が違うんだ? と釈然としない思いを抱えながらレクイエムまで脇目も振らずに加速する。

 周りの敵は全て仲間が蹴散らしてくれると信じて。

 ミーティアを装備したインパルスが周囲の敵に弾幕を撒き散らす。

 そんな中で、戦艦の一隻がジャスティスを狙う。

 

『邪魔よっ!!』

 

 それを即座にアグネスのギャンがブリッジをビームアックスで叩き潰す。

 

『ザラ一佐! お早く!』

 

「あぁ、ありがとう! 助かった!」

 

『はい! お気をつけて!』

 

 アグネスはアグネスでそう接点もないのに、やたら嬉しそうなのが気になったが、今はそれどころではなかった。

 

「でやぁああっ!!」

 

 メサイア攻防戦の時と同じ。

 ビームシールドを発生させた盾を前に力押しで陽電子リフレクターを突破する。

 

「今度こそ……!」

 

 もう二度とこの兵器がオーブを狙えないように、完全に破壊する。

 その願いを込めてアスランは引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼッコーチョー!」

 

 シュラが目を覚ましたのはそんな声からだった。

 目を開けると、バイザーに応急処置用のテープが貼られているらしく、視界が限定されていた。

 

「あー。目ぇ覚めたっすか?」

 

 コクピットの座席に座り、行儀悪くコンソールに脚を乗せて、お腹にハロを抱えたラビが居た。

 

「なぜ……俺は生きている?」

 

 確かに機体は爆発し、死んだと思った。

 なのにこうして生きている。

 

「偶然っすよ。そっちの機体の胴体を刺したけど、コクピット部分からは外れてたし、エンジンの爆発が大分小規模だったおかげっすね。んで、一応確認したら、あなたが生きてたんで、ヒビが入ってたバイザーを応急処置してこっちのコクピットに引っ張ってきたんすよ。あのまま放置してたら死んじゃうっすもん」

 

 機体は爆発で穴だらけ。パイロットスーツも破損していたのだ。

 死んだと思ったのは爆発の衝撃でそう勘違いしただけらしい。

 もちろんラビが助けなければ死んでいただろうが。

 

「ならば何故、こんなところで休んでいる戦闘はどうなった?」

 

 シュラの質問にラビが言いづらそうにハロを強く抱えた。

 

「いやー。月の重力を突破出来たまでは良かったんすけどねー。そこから機体が動かなくなっちゃったっす」

 

 操縦桿を動かすがルドラはまったく反応しない。

 

「たぶん、ナチュラル用のOSに無理やり書き換えたのと、さっきの戦闘のダメージが原因だと思うんすけどね。だからヤマト隊長に助けてもらおうと思ってSOS送ったんすよ。そしたら……」

 

 乾いた笑いをするラビ。

 

「無視してどっか行きやがったよ、あのヤロー」

 

「ゼッコーチョー!」

 

 原因は定かではないが、ルドラから発したSOSはフリーダムに届かなかったらしく、戦闘が終わると地球に進路を取ってミレニアムからも離れて行った。

 だから今は救援待ちだという。

 

「……そっちの旗艦も撃墜されたし。タオ閣下はヤマト隊長が墜としたみたいだし。他のブラックナイツの人達は判んないっすけど。たぶん……」

 

 旗艦が撃墜されたのなら、他のアコードも死んだ可能性が高いとラビは言う。

 

「そうか」

 

 家族の死に、思った以上のショックは受けなかった。

 それを察したのか、ラビが後ろに居るシュラに振り向かないまま言う。

 

「今は実感が湧かなくても、いつかじんわりと悲しくなってくるっすよ。あたしはパパとママが死んだ時はそうだったっす」

 

 シュラはラビの両親が居ない事に驚く。

 そして、そういえば、自分はラビの事を何も知らなかったのだな、とも。

 

「訊いてもいいっすか?」

 

「なんだ?」

 

「最後の地上で使った針バラ撒くやつを使えばそっちの勝ちだったっすよね? なんで使わなかったんすか?」

 

「……直前に喰らったレールガンのせいで不具合が起きた」

 

「あーなるほどー」

 

 納得するラビ。

 最後に使うのを躊躇った、などとは言い訳じみてるし、ラビの勝利に難癖付けてるようで口にはしなかった。

 そこから特に会話もせずに救助を待つ。

 元々会話が弾むような関係でもないのだから仕方ない。

 すると、シュラが突然口を開く。

 

「もしも……」

 

「はい?」

 

「このまま助けが来ずに朽ち果てるのなら、それはそれで悪くない。そう思った」

 

 自分は勝ち続けられなかった。

 その時点で役目を果たせなかったのだ。

 だから、自分に勝った者と最期を迎えるのなら、悪くないと思ったのだ。

 シュラを見ていなかったラビがそこでヘルメット越しにシュラの頬を張った。

 

「今の台詞……ほんとうに最低っす」

 

 何故そんな事を言われたのか、理解出来ずに茫然とした。

 

「ファウンデーションの人達は核を撃たれて。モスクワはレクイエム撃たれて。この戦闘でもたくさんの人が死んだんすよ。それを勝手に納得して満足してここで死ぬとかありえねーっすからね?」

 

 胸ぐらを掴んで震える声でそう告げる。

 

「あなたは絶対にファウンデーションに帰して、その責任は取って貰うっすから。そうじゃないと、あたしが許さないっすから」

 

 涙ぐんでそう訴えるラビ。

 シュラがなにも言えずにいると、音声通信が入る。

 

『おーい! 生きてるかー! このバカ娘ー!』

 

「フラガ隊長っ!!」

 

 今の涙はどこへやら。シュラから体を離して通信機に齧りつく。

 

「生きてまーすっ! 助けてくれっす隊長ーっ!」

 

『あー。分かってるよ。そこを動くなよ!』

 

「動きたくても動かないんすよこれ! だから早く助けてっす! 酸素の残りが不安なんすからー!」

 

 そしてシュラの方へ向く。

 

「ほら! 人間、案外そう簡単に死なせてもらえないもんっすよ! だから、まだ生きなきゃっす! ね?」

 

 救助される事が本当に嬉しいのだろう。屈託なく笑うラビ。

 その笑顔は強さとは何の関係もない。

 だが、その笑顔をシュラは本心から綺麗だと思った。

 

 

 ゆっくりと近付いてきたアカツキが、ルドラを抱きかかえた。

 

 




次回、エピローグで完結です。
ラビ、ガンダムに乗る。
カガリ様登場。
ラビがキラへちょっとした報復。
の要素が含まれます。

インジャがゼウスシルエットを装備出来るとか当然オリ設定です。
アカツキが出来るんだから出来んじゃね?とは思ったので。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。