なんとしてでも元の世界に帰りたい兄妹VSファンタジー   作:酉柄レイム

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第10話 異種族

 この世界では、異種族同士が子を成すと、どちらかの種族に寄るか、混ざった形になるからしい。異種族と言っても、例えば人間と人間だったとしても、どちらか片方が異種族の遺伝子情報を持っていれば、その種族として生まれることもある。

 というのを、この前生物の授業で受けたばかりだ。これを隔世異種遺伝というらしい。

 

「私は、隔世異種遺伝で生まれたエルフです」

 

 近くにあった公園、屋根がついているベンチに座ったところで、エイリーンがぽつりと話し始める。

 

「両親は人間でした。そして、生まれた村も人間しかおらず、人間以外の種族を排斥する風習がありました」

「え……そんなところが」

「昔はない話じゃなかったけどなぁ」

 

 単純、知能として人間がもっとも優れているらしい。故に魔法の属性も人間のみすべての属性を扱える可能性があり、人間が上位種として扱われていた歴史がある。それがあったのは数百年前のことらしいから、今は本当に珍しい話なんだろう。知識としてじゃなくて、経験として知っているのは一部の長寿種だけだ。

 

「エルフとして生まれた私は、当たり前のようにひどい扱いを受けました。一日一食あればいい方で、家から出ることも許されず、気に入らなければ暴力を振るわれ。私はそれが当たり前だと思っていたんです。その村は社会から隔離されているといってもいい場所でしたから、私にとっての世界がその村でした」

 

 生まれてからずっとその環境だったのなら、その環境自体がおかしいことに気づけない。扱いから考えると、外の情報も一切見せてもらえなかったんだろう。俺と麻衣が元々この世界で育っていなかったら、異種族がいることに違和感を覚えなかっただろうしな。程度の差はあれ同じことだ。

 怒りに震える麻衣の手を、少しでも落ち着いてくれるようにそっと握る。麻衣は感受性が豊かで、共感能力も高い。俺と兄妹だっていうのが信じられないくらいできた妹だ。この話を聞いて、何も思わないわけがない。

 

「でもある日、政府が村にきたんです。昔、差別があったことは事実ですから、そういったことがもう二度と起きないように、各地を回っているらしく」

「あー、俺の父ちゃんもその仕事してるわ。架橋騎士団だろ?」

「そうなんですね。その節はありがとうございます」

「や、俺は何にもしてねぇから」

 

 頭を下げるエイリーンに、アーサーはいやいやと手を振った。

 架橋騎士団。今エイリーンが言ったように、差別根絶を目指す政府の組織。読んで字のごとく、異種族の架け橋となる組織だ。俺、この世界のことめちゃくちゃ知ってるじゃん。

 

《正しくは、不便がないよう私が知識を植え付けたんだが》

《お前かよ。マジで知りすぎててビビったんだからな?》

 

 数日前目覚めたら、義務教育レベルのこの世界の知識が身についてたのはマジでびっくりした。勉強がめちゃくちゃできる方じゃないから、正直助かってる。

 

「当然、私は架橋騎士団がくること自体知りませんでした。でも、見つけてくれたんです。私を助け出してくれたのは、同じエルフのお姉さんでした。……今は、色々あってその人に保護いただいて、一緒に暮らしています」

 

 エイリーンが大きく息を吸って、細く吐く。きっと、その時のことを思い出して精神的なダメージがあったんだろう。俺からしてみれば、母さんが死んだときのことを思い出して、話してみろって言われてるようなもんだからな。それに、そういうことに関して重い軽いを決めるのはよくないとは思うけど、エイリーンの方がきっと重い。

 

「そういうことがあって、私は人間に対して強い嫌悪感を抱くようになりました。あの村の人たちと他の人たちは違うとわかってはいても、歴史として、事実としてそういう差別があったと知ってしまっている。それをなかったことにして人間と触れ合うなんて、私にはできなかった。でも」

 

 エイリーンが俺を見る。

 

「最近、気が付いたんです。私も、あなたに。伊世さんに、あの人たちと同じようなことをしてしまっていると。人間だからといって強い嫌悪感を抱き、向けるべきではない言葉を向けてしまっていると。ですから」

 

 ごめんなさい。エイリーンは俺に頭を下げた。エイリーンの神が重力に従って下に垂れ、胸に抱えているディーデリヒ・ワグナーが見えなくなる。

 麻衣とアーサーの視線を感じた。まぁ、どう考えても俺の返事待ちだよな。

 

 ……いやでも、ほんとに。

 

「いいよ別に。気にしてねぇし」

「ですが」

「つーか俺の方がごめん。無神経だった。人間が嫌いだっていうのに、嫌われてるってわかってるのに近づいてさ」

「あなたに向けた言葉は、許されるものではありません」

「え、だって俺が許してるからもう許されてるだろ」

 

 エイリーンが顔をあげ、口を開けて珍しく間抜け面を晒す。俺、何も変なこと言ってないと思うけどなぁ。

 もしエイリーンと俺がテレビに出てて、その中でエイリーンが俺を罵倒したっていうなら、まぁ許されるものじゃないっていう理屈もわかる。でも実際の登場人物は俺とエイリーンで、俺が許してたらもう許されてるだろ。当事者間の問題なんだし。

 

「それに、さっきの今でめちゃくちゃ申し訳ねぇけど、やっぱりめっちゃ仲良くなりたいな、エイリーン。だってそんなことがあって人間が嫌いだったってのに、麻衣とは仲良くしてくれてるし、アーサーとも仲良くしてるし、俺がちょっと他の人より邪悪だったってだけじゃん。なんも悪くねぇよ。いいやつだよお前。すげぇ偉い。尊敬する。マジで好き」

「え、あ、え……?」

「兄貴、ストップ。兄貴好みのめちゃくちゃいい人だっていうのはわかるけど、落ち着いて」

「悪い、興奮した。あ、性的にじゃなくて」

「付け足した一言がえげつないくらいキモい」

「とりあえず好きというのはごめんなさい」

「おい、なんか俺フラれてんじゃねぇか」

「ドンマイ!」

 

 そういうつもりで言ったんじゃねぇのに。人間として、いや、エルフとして? 好きって言っただけで、異性としては……まぁ好きか嫌いかで言ったら好きだけど。そういうレベルだ。告白したいと思ったり、カップルになってこういうデートしたいとか想像したりとかそういうのじゃない。

 だとしてもとりあえずでフラれたのは傷つくぞ。混乱しながらもそれだけは確実に断りたかったってことか? 上等じゃねぇか。

 

「ま、そういうことがあったんなら適切な距離保つようにするわ。やっちゃいけないこととか、言われたくないこととか、麻衣かアーサー経由でもいいから教えてくれ」

「では、私に対して可愛いとか好きだとか、吐き気がするほど気持ちの悪いセリフを吐かないでください」

「お前、さっき俺に謝罪したやつとほんとに同一人物か?」

「同一エルフです」

「細かいことはいいんだよ」

 

 俺の隣でアーサーが爆笑し、麻衣が微笑んでいて、エイリーンがくすりと笑う。なんで俺はこんなに笑われてんだ。笑わせるのと笑われるのじゃ随分違いがあるんだぞ? わかるんだぞ俺は。笑いの種類の違いってやつが。

 エイリーンは「失礼しました」と言った後、ふわりと微笑んだ。

 

「あなたには気を遣わなくてもいいと、他でもないあなたが思わせてくれましたので」

「そうですよ。兄貴はメンタルが異常なくらい強くて異常なくらいポジティブなんですから。気にするだけ無駄です」

「言っとくけど俺だって傷つくからな? 例えば、ほら。さっきだってエイリーンにフラれて傷ついたし」

「え、私のことが本当に好きなんですか……?」

「いや、異性としては好きじゃねぇよ」

「本当にごめんなさい」

「好きじゃねぇっつってんだろうが」

「ふふっ。はい、すみません」

 

 ったく。いくら美人で可愛くて声が綺麗で可愛くてスタイルがいいからって、自意識過剰……自意識過剰なくらいでちょうどいいわ。なんだこの国宝級の美は。正式に保護されるべきだろ。いや、正式に保護されてるんだったか。

 でも、実際すごいやつだよな。そんなことがあったっていうのに、人間嫌いの克服を頼んできたんだぜ? 普通できねぇよそんなこと。人間と関わらない生活を選んだって誰にも責められねぇのに。マジで無神経なことしちまったなぁ。申し訳ない。

 

「よっしゃ、エイリーンが嫌なじゃきゃこの際名前で呼び合おうぜ!」

「はい、わかりました。麻衣さん、アーサーさん、伊世」

「苗字な上に呼び捨てかよ。何もわかってねぇじゃねぇか」

 

 アーサーの提案に快く頷いたかと思いきや、思いきり俺と二人を区別しやがった。伊世って麻衣の苗字でもあるからな? 麻衣を呼び捨てしてるのと一緒だからな? いや、まぁゴミとかカスとかよりは断然マシだけど。普通に寂しいじゃねぇか。周りから見てどう思うよ? 仲良さげに三人が名前で呼び合ってるのに、俺だけエイリーンから苗字で呼び捨てにされてるって。思いきりハブられてんじゃねぇか。

 

「ま、なんでもいいや。エイリーンとは徐々に仲良くなって、いつか名前で呼んでもらえれば」

「フィオナ」

「ん?」

「フィオナです。甲斐」

 

 むっとした表情で俺を睨むエイリーン……フィオナ。なんだこいつ、なんでこんないきなり可愛くなったんだ?

 仲良しゲージを見てみる。ごっ、50!? マイナスじゃない!? どうなってやがる!? 仲良しゲージがあてにならないと、気の操作を覚えるくらいには信じられねぇ!!

 

《七つ集めたら願いが叶う玉はないぞ》

《知ってるわ!!》

 

 しかも名前で呼んでくれたし……。何がそんなお気に召してくれたんだ? やっぱり面白いからか? よかった、俺が面白くて。小中学校のとき笑いものになっていただけはあるぜ。笑いものかよ。

 ……名前で呼んでくれたなら、俺も名前で呼ぶべきか。

 

「わかった、よろしくな。フィオナ」

「気安く名前で呼ぶな」

「なんでだよ!!」

 

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