なんとしてでも元の世界に帰りたい兄妹VSファンタジー   作:酉柄レイム

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第12話 勉強、挫折

「中間試験の前にさ、ゴールデンウィークってやつがあるんだよ。それ終わってからにしね? 勉強会」

「挫折が早すぎませんか」

 

 まだ喋れることを褒めてほしい。アーサーなんか机に突っ伏して死んでるぞ。

 

 勉強会。放課後、学校の自習室で行うことになったそれを実行し、見事撃沈。自ら勉強を進んで行うという意味のわからない行動をとってしまった俺とアーサーは、面白いくらいに手も足もでなかった。なんだよxだとかyだとかしゃらくせぇ。最初っから数字にしろやまどろこっしいんだよカス。もっとこう☆とか♡とかにしろよ。そうした方が可愛くて楽しくていいじゃねぇか。

 

「なんで私と同じ遺伝子なのに勉強できないの?」

「なんで俺と同じ遺伝子なのに勉強できるんだ?」

「だって、教科書に解き方書いてるから」

「おいアーサー、俺の妹がおかしなこと言ってるぞ」

「教科書には文字しか書いてねぇっていうのにな」

「それが解き方だって言ってるんです」

 

 どうやら麻衣には俺たちの言葉が通じないらしい。アーサーと目を合わせて肩を竦めると、ムカつくという理由で麻衣に叩かれた。俺だけが。

 

 中間試験まで一か月あるっていうのに、この学校は勉強熱心なのか自習室を利用している生徒が多い。聞くに、この学校は有名な進学校らしく、試験の難易度も高いとのこと。単位を取るための試験ではなく、ちゃんと実践的な試験、みたいな。勝手に難しくしてんじゃねぇよ神様。そのせいで俺だけじゃなくてアーサーまで頭抱えてんだろうが。

 

 実際、この世界でいい成績を取ったとして、元の世界に戻った時にどうなるんだろう。成績がそのまま反映されるんだったら頑張る気も起きるが、そうじゃないなら別に赤点取っても補習を乗り切ればいいだけだから、別にいいんじゃねぇか?

 

「……勉強会を開こうと言った時は、塵芥でもまともなことを言うのかと見直したんですが」

「本当に俺のことを塵芥だと思ってんなら、そもそもこうして喋って動いてる時点で褒めてくれよ」

「その程度で褒められる人間でいいのなら、いくらでも褒めてあげますが」

「え、マジ? やったぜ。褒められるのって自己肯定感上がるから好きなんだよな。さぁ褒めろ」

「あなたは本当に不快感を煽るのが上手ですね」

「サンキュー」

 

 不快感を煽るのが上手ってことは、相手が不快に思うことがなにかわかるってことだ。裏を返せば、相手を不快にさせない立ち回りもできるっていうこと。まさか俺にそんな能力があるなんてな。人間関係うまくいきそうだし、勉強いらねぇんじゃね? そもそも数学なんざ、思考能力を養うだとかなんだとか言ってるけど、別にバカだってうまくやっていけるって。大事なのは人と関わる力だろ。「昨日の方程式見た?」っていう会話したことあんのか? ねぇだろうが。

 脳内で数学に対して文句を言う俺を無視して、フィオナが俺の隣に立ち、ノートと教材を覗き込む。俺的ドキッとする女の子の仕草である『耳に髪をかける』をやりながらのそれにやはりドキッとすると、「本気で訴えますよ」と睨まれた。俺だけ罪のラインおかしいだろうが。

 

「見たところ、甲斐は問題が解けないようには見えないんですが……問題に対して使用する方程式は間違えていませんし、考え方も合っています」

「なんか、与えられたもんで解くってカッコ悪くね? って思っていつも独自の解き方編み出そうとしてんだけど、うまくいかねぇんだよな」

「それをする必要がないように方程式が存在するんだよ」

 

 麻衣はまだ敷かれたレールの上を走りたいお年頃らしい。安定の道を選ぶのも悪くはないが、俺みたいなスマートな男になるためには敷かれたレールの上を走るのはナンセンスだ。あ、でも麻衣は女の子だからいいか。

 しかし、やり方合ってんのか。正直授業まったく聞いてねぇし、教科書チラ見してるくらいだから、問題見て「なんか教科書にこういうの書いてたな」って思って記憶から方程式引っ張り出してきて、じゃあこれってどうやって使うんだ? って悩んで時間が過ぎてくんだよな。もっとわかりやすくしろよ。

 

「なんか、教科書から俺たちに問題を解いてほしいっていう誠意が伝わってこないんだよな」

「わかる! つめてぇよな、教科書」

「百歩譲って教師に対して言うのはわかりますが……」

「文字とか図形とかに誠意もなにもないでしょ」

「わかってねぇなぁ。例えばさ、ただの図形を見せられて、じゃあここの角度を求めてくださいって言われたらムカつくだろ? でもさ、好きに星を結んでオリジナルの星座を作って、その上で角度を求めてくださいって言われたら、そりゃあ自分の作った星座だから角度知りたい! ってなるじゃん」

「わかる!」

「フィオナさん、わかります?」

「……少し」

 

 麻衣が「兄貴に毒されてる……」と呟いた瞬間、フィオナが心底嫌そうな顔をした。そんな顔をしても綺麗なんだから、やっぱりフィオナはめちゃくちゃ容姿が整ってるんだなと再認識する。

 

 いいと思うんだけどなぁ。だって発想も鍛えられるじゃん。道歩いててさ、「今から電柱に向かって歩いて行って、目の前まで行った瞬間『え!?』って叫んで、誰が一番電柱を初めて見たかのようなリアクションできるか選手権しようぜ」とか、そういう発想ができるようになるかもしんねぇじゃん。それが何の役に立つかって聞かれると、まぁ俺がそういうやつを友だちにしたいっていうだけだ。俺のために世界が回れ。

 

「アー……まぁ、文句言うのはこれくらいにして、フィオナが教えてくれてんだから頑張るか」

「だな。フィオナの時間貰っといて、俺たちがやる気出さねぇってのは意味わかんねぇし」

「……いつも気になっているんですが、甲斐はなぜその精神性で邪悪なのですか?」

「俺が知りてぇよ」

 

 心当たりはあるっつーか十中八九神様のせいなんだろうけど。だって神様のせいじゃないとしたら、俺が邪悪に見える意味がわからない。アーサーもはっきり神様のことを「よくない」って言ってたしな。そもそも神様がいなかったらもっとスムーズにフィオナと仲良くなれてたんじゃねぇのか?

 ……いや、神様がいなかったら会えてすらなかったのか。

 

「やる気を出していただけるのはありがたいですが、やりたくないことを無理にやっても意味はありません。試験まで一か月あることですし、どうしますか? 毎日コツコツするか、一、二週間前に集中して勉強するか」

「よし、ゴールデンウィークどうする?」

「キャンプしようぜ、キャンプ!」

「もう……すみません、フィオナさん」

「いえ。いいですね、キャンプ」

 

 フィオナは話がわかるやつだ。見習えよ、麻衣。いつまでも俺を「仕方がないダメ兄貴だな」みたいなスタンスでいやがって。その通りだぜ。ごめんな、俺が仕方がないダメ兄貴で。

 勉強会は早すぎたな。普段勉強しねぇやつが、約一か月先の試験のための勉強なんてできるわけがなかったんだ。危機感ねぇし。そんなことより一度しかない学生生活をいかに楽しく過ごすかを考えるべきだ。

 

 それに、この世界は異世界らしくダンジョンもある。つっても魔物とかがいるわけじゃなくて、地上とは異なる四季のダンジョンだったり、オーロラが見えたり。ダンジョン固有の特別な空間があるっていうだけだ。”だけ”で片づけられるもんでもないけど。

 だから、キャンプ場としてダンジョン内の空間を貸し出していたりもする。ずっと春とかずっと夏とかのダンジョンもあるから、それぞれの気候に適した作物を育てたり、ゲームだと魔物とかお宝とかそういうイメージのダンジョンは、この世界じゃ経済の一部だ。

 

「キャンプでしたら、私の家が保有しているダンジョンがありますので、それを利用できるかと」

「マジ? 超金持ちじゃん」

「大自然でペットを飼いたいから買ったらしいです」

「え、わんちゃんとか猫ちゃんとかいるんですか?」

「はい。いますよ」

「兄貴、いきたい!」

「未だにそういうのを俺に確認取るところ可愛いよな」

「キッッッッッッモ」

「そんなにキモがられるようなこと言ったか?」

 

 確かにキモいって言われても仕方ねぇようなことは言ったけど、そんなに溜めて言わなくてもいいだろ。「キッッモ」が適正だと思う。

 でも本当にちっちゃい子みたいで微笑ましいんだよな。麻衣はずっと俺が見てたから、俺に確認とるのがクセになってるんだと思うと、随分しっかりしてきた麻衣がその瞬間だけ昔のちっちゃくて可愛い麻衣に見えてほんわかしちゃうんだよ。その麻衣からキモがられてるけど。マジで泣いていいか?

 

「でもいいのか? ダンジョン使わせてもらって」

「はい。姉さんにはあなたたちのことは話しています。一人邪悪ですが、みなさんいい方だと」

 

 その場合俺だけ弾かれそうな気がするんだけど。

 

「アーサーさんは他のお友だちと予定とかないんですか?」

「ん? んー、ねぇかな。付き合いクソ短いけど甲斐が一番の親友だと思ってるし、甲斐優先だ」

「お、嬉しいじゃねぇか。よっしゃ、寝るとき恋バナするフリしようぜ」

「するわけじゃないんだ……」

「恋してねぇしな。俺に恋される相手が可哀そうだろ」

「自覚あるんですね」

 

 冗談で言ったのに……。俺には恋をする権利がないのか? あったっていいだろ。俺多分顔は悪くねぇぞ。アーサーと並んだら百人が百人アーサーの方がイケメンだって言うだけで、悪くないはずなんだ。悪くないよな? だって同じ遺伝子の麻衣が可愛いし。

 

「それでは、ゴールデンウィークにダンジョンを使わせてもらえるか聞いておきますね」

「おう。ありがとな、フィオナ」

「俺新しい剣持ってくわ!」

「新しい水着みたいに言うなよ」

「兄貴兄貴。新しい服ほしい。動きやすいやつ」

「わかった。父さんを騙して金貰うか」

「正面から頼んではどうですか?」

 

 その手があったか! やっぱり俺自身が邪悪なのかもしれない。

 

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