なんとしてでも元の世界に帰りたい兄妹VSファンタジー 作:酉柄レイム
俺たちの目の前には、なんか大豪邸があった。お屋敷。俺の語彙力がなさすぎてそれ以外に表現の仕方がわからない。勉強した方がいいのか? こういうのを友だちに伝える時に、「えっと、なんかすごかったんだよ! 豪邸だった!」だと「へぇー」で話が終わってしまう。勉強とはコミュニケーション能力を培う要素の一つであると痛感した。ちなみに本気でそう思ってはいない。
「わー! すごい! お金持ち!」
麻衣が目をキラキラさせながらテンションをぶち上げている。この語彙力、やはり俺の妹か……。
ゴールデンウィーク初日。フィオナの家が保有しているダンジョンでキャンプをしよう! という計画を実行するために、俺と麻衣、アーサーはフィオナの家に来ていた。駅で待っていたら黒塗りの高級車が目の前に止まって、そこからフィオナが降りてきたとき、なんならダンジョンを保有しているって聞いた時から金持ちだとは思っていたけど、まさかここまでとは……。
麻衣をにこにこしながら見ているフィオナが言うには、この辺一帯はフィオナの家の敷地内らしい。少なくとも見える範囲にある山とか。
……スケールが違う。サキュバス子はこの家に取り入った方がいいんじゃねぇか?
《そういうことを考えるから邪悪だと言われるんだ》
《黙れ、邪悪》
《どんな兵器よりも強い》
《それはジャーク》
えっちな五歳児の、オカマ三人が出てくる映画のこと知ってんのかよ、神様。趣味合いそうだな。
「それでは、こちらに。甲斐は念のため私たちの後ろにいてください」
「なんで?」
「邪悪だと説明はしましたが、あまりにも邪悪すぎて即刻捕らえられ、打ち首にされる可能性がありますので」
「そういうことはここに到着する前に言ってくれよ」
「大丈夫! そんときは俺が守ってやるって!」
俺の肩に手を置いて、歯を見せてアーサーが笑う。こういう時、勇者が親友でよかったと思うよな。でも勇者だから俺以外に正義があるってわかったら、戸惑いつつも俺の敵になることは容易に想像できる。つまり、俺が誰からどう見ても、百発百中で邪悪であり、世界のためにいなくなった方がいい存在だったならアーサーは俺を殺すだろう。
なんか途中でラスボスになる元味方キャラみたいでカッコよくていいな。殺されたくねぇけど。
フィオナを先頭に、アーサーと麻衣が並んでその後ろを俺が歩く。屋敷の前にはよく手入れされた庭園が広がっており、中央には人魚がツボを掲げ、そこから水が溢れ出している噴水があった。子どもの頃はあぁいうところで水浴びを楽しんだもんだが、すぐに飛び込もうとしなくなったのは成長したなと思う。
《甲斐、服を脱ごうとしているぞ。気をつけろ》
こうしてちゃんと服を脱いで飛び込もうとするくらいには成長した。そして今の俺には神様という頼れる相棒がいる。失敗はありえない。
神様のおかげで大失敗することなく屋敷の前に辿り着く。どう考えてもこんな大きさの扉必要ねぇだろと思わずツッコんでしまいたくなるほど大きな扉を見上げていると、フィオナが扉に手をかざした。
それと同時、淡い緑色の魔法陣が扉に現れる。恐らく、元の世界でいう生体認証とかそういう類のものだろう。現れた魔法陣は七層になっていて、それぞれの層が不規則に回転し、一瞬少しだけ強く光るとひとりでにゆっくりと扉が開いた。
開いた扉の先には、正面に大きな階段が見えた。その前に、騎士甲冑を身に纏ったエルフの美人さんがいる。恐らく、フィオナのお姉さんだろう。
「ようこそお越しくださいました。フィオナから話は伺っています。アーサー・ルークスさん、伊世麻衣さん、伊世甲斐さん。私はフィオナの姉、アイリス・エイリーンと申します」
「アーサー・ルークスです。本日はお招きいただきありがとうございます」
「いっ、伊世麻衣です!」
「伊世甲斐です」
頭を下げると、アイリスさんは柔らかく微笑んでくれた。よかった。どうやら俺が邪悪すぎて捕らえられ、打ち首にされることはないみたいだ。
「ところで、思ったよりも邪悪なのですがなんの冗談ですか?」
打ち首にされそうだ。
「姉さん。確かに甲斐は正気を疑うほど邪悪ですが、悪い方ではありません」
「……いえ、そうですね。失礼いたしました。初対面なのにも関わらず、邪悪だと言ってしまい」
「いえいえ、気にしてないですよ。流石に腕とか千切られたら怒るかなーって思いますけど」
「そこは迷うことなく怒っていいところでしょ」
でもあれじゃん。この世界からしたら俺たちが異物なわけで、この世界にはこの世界の文化があるだろ? そこにお邪魔してる形なら、もしかしたら『邪悪だと判断した者に対しては、腕を引きちぎってもいい』みたいな文化もあるかもしんねぇじゃん。それを知ってて俺が姿を現したのなら、俺も悪いだろ。
《お前、適当なこと言って適当なことを考えているだけだろ》
《やべ、バレた》
俺の思考がころころ変わるのは神様にはバレているらしい。俺の意見が明日になったら変わってることなんかザラにあるからな。そのせいで小さい頃「お兄ちゃんこわい」って麻衣に言われたし。その瞬間パンイチになって脇を鳴らしながら踊り狂って麻衣を笑わせたのは我ながらファインプレーだった。親には病院に連れていかれた。
「重ねて、甲冑でのご挨拶となり申し訳ございません」
「……アーサーさん。甲冑での挨拶って悪いことなんですか?」
「ん? まぁ警戒してますよって言ってるようなもんだからな。俺は全然気にならねぇけど」
「そういうことなら、むしろ甲冑は当然だと思います。妹に変な虫がついていたら速攻切り捨てたいっていう気持ちは理解できますし、そうじゃなくたってお仕事柄そういう……まぁ、邪悪だと評される輩は警戒しないわけにもいかないかなと思うので」
「兄貴にそんな力ないくせに」
「気持ちの話だよ。気持ちの」
あと、お前が俺を攻撃するときは大概照れ隠しだってわかってるからな。兄貴舐めんな。これが俺の勘違いだったら自分がキショすぎて、考えを改めるために僧になろうと思う。この世界って僧っていうジョブあんのかな?
アイリスさんは「邪悪なのに、心が広いんですね」と褒めてくれた。一言余計な気もしたが、とりあえず俺が邪悪に見えるから悪いということで納得する。礼儀正しいフィオナとアイリスさんが邪悪邪悪だって言うから、俺はよっぽど邪悪に見えるんだろう。闇の魔法とかもしかしたら使えたりすんのかな。いいよな、闇。カッコよくていいぜ。
「私は屋敷を空けますが、なにかあればすぐに飛んできますので。ダンジョンは好きに使ってください」
「ありがとうございます!」
それでは、と残し、アイリスさんはその場から消え去った。時空間魔法ってやつだろう。確かに、それが使えるならすぐに飛んでくるな……。マジで殺されないように気を付けよう。気を付けなくたって邪悪だと思われるけど。
「では、行きましょうか」
「よかったな、甲斐! 命があって」
「あぁ。命乞いのために持ってきたねりけしの出番がなくてよかった」
「昨日夜更かししてるなーって思ったら、それ作ってたんだ……」
すげぇだろ、手のひらサイズのねりけし。金持ちならこういうのに触れたことがないと思って作ってきたんだ。
フィオナが興味示してるし、どうやら正解だったらしい。
「うさぎー!」
ダンジョンに入った瞬間、草原が広がっていて、うさぎがいっぱいいた。耳をすませば川の流れる音が聞こえて、空にはどういう原理か太陽がある。原理とか言い始めるとダンジョン内部全部に言えることだけどな。
ダンジョンの見た目は洞窟だったのに、一歩入ればこれだ。興味があってダンジョンについて色々調べたけど、ダンジョン内の空間がどういう魔法で構成されているかはまだ解明されていないらしい。ロマンの塊だ。それでいてダンジョンがいきなり爆発するとか、そういう危ない事故もないらしいし、元の世界に帰ってもあってほしい。
《わかった》
《わかるな》
帰りたいのは元の世界だからな。普通にしてるけど俺と麻衣はほとんど友だちいなくなったんだからな? ダンジョンができたせいで色々世界に影響が起きることもありえる。そこのところ神様ならうまくやれよと思うけど、この世界になって俺たちの友だちがほとんどいなくなった現状を考えれば期待できない。
視界に飛び込んできたうさぎに突撃しに行った麻衣を見て、早速きてよかったなと思わず笑ってしまう。あいつ、動物大好きだからな。この前も「クラスメイトに獣人の子がいるんだけど……その……いいと思う?」って聞かれたし。妹が犯罪者になると困るから止めておいたけど。
《普通に仲良くなってもふもふしてるぞ》
《男?》
《女》
《ならいいか》
相手が男だったら勘違いしかねないからな。いやでも、女の子が相手だとしてももふもふするのってよくないのか? 獣人がどう思うかがわからない。
「なぁフィオナ。俺がもしフィオナをもふもふしたらどう思う?」
「マジでキモい」
マジでキモいらしい。ついでに仲良しゲージが45に下がった。本当にこういう変なことで仲良しゲージを減らすのはやめていきたい。
入った時は草原とか太陽とかの自然に目がいったが、辺りを見渡せばロッジや自炊場がある。見たまま捉えるなら、良質なキャンプ場といった印象だ。マジでゲームとかのダンジョンとはイメージ違うな。普通ゴブリンとかいるもんだろ。
いや、ゴブリンは普通に社会に出てるんだった。専用車両用意されてるくらいだし。
「お、ロッジあるのか!」
「はい。信じられない大きさのお肉もありますよ」
「マジか! 見に行こうぜ!」
「じゃあロッジまで競争な!」
ふっ、勉強ができない代わりに俺は運動が得意なんだ。勇者だとはいえ負けるつもりはない!
秒で負けた。なんだあいつバケモンだろ。