なんとしてでも元の世界に帰りたい兄妹VSファンタジー   作:酉柄レイム

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第14話 ゴールデンウィーク (2)

「女の子に対してさ、いくら身内だろうと胸がないとか言うのってマジでデリカシーねぇと思うんだよな」

「遠回しに、私に胸がないって言いたいわけ……?」

 

 バチバチと音が鳴る怒気を振りまき始めた麻衣に土下座する。川に顔がついて息ができねぇ。

 

 荷物を置いて、動物と戯れた後。アーサーの「川があるなら入るしかねぇだろ!」という一言をきっかけに水着に着替えて、川へ突撃することになった。

 そして、やはり水着だ。アーサーが炎の魔法を使えてすぐに乾かせるから、別に服を着たまま入ってもよかったが、水着を着た方が体が重くなくていい。あと普通にフィオナの水着が見たい。

 

 ただ、麻衣はアーサーがいるから自分の体を見られるのが恥ずかしいと思っているようで、だから遠回しに「別に、気にするほどの体でもねぇだろ」とオブラートに包んで言ったつもりの言葉が逆鱗に触れた。緊張がほぐれると思ったんだよ。現に、アーサーが「うおっ、すげぇ魔力!」って言って水着が気になってねぇみたいだし。

 

《それはそれで複雑なの!》

《ハン。イケメンによく思われてぇっていう浅ましい感情が丸見えで愚かだぜ》

《フィオナさんの水着見たいクセに。変態ノンデリクソバカでくの坊》

《悪口の限りを尽くしてんじゃねぇよ》

「つーか、フィオナ遅いな」

「武器準備してましたよ。何かあった時に兄貴を屠れるようにって」

「まだ命の危険があんのかよ」

 

 もしかして俺、フィオナと一緒にいる限り常に命の危険があるのか? マズいな、水着を見たいって強く思ってると、それをフィオナに察知されて殺される可能性がある。たまったもんじゃねぇな。あんな美人の水着を見たいって思うのは男として普通のことだろ。見たくないって思うやつは男じゃねぇよ。

 ……そうか! 川で遊ぶ間、女の子の気持ちを持てば殺されねぇんじゃねぇか!?

 

「麻衣。今から俺のことはお姉ちゃんと呼んでくれ」

「胸出てるけど、いいの? お姉ちゃん」

「きゃあ!」

「キモすぎ……」

 

 お前から振ってきたんだろうが。いや、俺からか? でもアーサーが笑ってるからいいか。

 

「なんでそんなこれから一週間、何も喉が通らなくなるほどキモいこと言い出したの?」

「そんなにキモくはねぇだろ。いや、フィオナの水着を見たいっていうのが邪だって捉えられて殺されねぇように、女の子になろうと思ってさ」

「ハハ! そんくらいで殺されねぇだろ! そんなら俺も殺されちまうだろうしな」

「えぇ! 私の水着姿には全然反応しなかったのに! フィオナさんのは見たいんですか!」

「ん? 麻衣ちゃんめっちゃ可愛いぜ。言ってなかったか。ごめんな」

 

 麻衣が勝ち誇った表情で俺を見てくる。うぜぇんだよ。アーサーは誰にでも言うからな? お前だけが特別じゃねぇんだからな? 「麻衣だから可愛い」じゃなくて「主観的意見と客観的意見を総合して可愛いから可愛い」だからな? 「可愛い」ものに「可愛い」って言ってるだけなんだよ。

 

「ねぇねぇ、私は?」

「ん? 甲斐もかわいいぜ」

「やった!」

「まだそのキモいの続けるの? 絶縁したいんだけど」

「ただのノリにしては代償デカすぎんだろ。やめるわ」

「喜び方があざとい女みたいな感じがしてほんとにキモかった。二度としないで」

 

 麻衣にはめちゃくちゃ不評だ。ちょっときゃぴきゃぴくねくねしただけなのに……。アーサーが笑ってくれるからってあんまり調子に乗るのはやめておいた方がいいか? 麻衣に絶縁されたら、実質麻衣の家族はいなくなっちまうからな。サキュバスに夢中の父さんなんて顔も見たくねぇだろうし。

 

 女の子の気持ちになるのはやめて、フィオナがくるまで適当に遊んでおこうということで忍者漫画で見た水面歩行をアーサーから教えてもらう。

 

「なんか、沈みそうになるのを魔力放出してなんとかするんだよ」

「なるほどな」

「待って、理屈とかは? やり方とか」

「できたわ」

「流石だぜ!」

「もうやだこの兄貴……」

 

 どうやら、俺との才能の差に絶望したらしい。こういう時に俺が声をかけても煽りになるだけだからな。俺のいるステージまで上がってくることを信じて待つことにしよう。

 別に、そんな難しいことじゃないと思うんだけどなぁ。水圧とか表面張力とか、色々計算の上で放出する魔力の量とか調整するんだろうけど、「うわっ、沈みそうだからこれくらい放出しよ!」でなんとかなるだろ。感覚的にはバランスを崩した時、「うわっ、このままじゃこけちゃうからバランス取ろ!」って感じで、腕をばたつかせるのと一緒だ。

 

 ……っ! もしかして、感覚派の天才!?

 

《ただの考え無しのクソバカなだけだろう》

《そこまで言わなくてもよくね?》

 

 ちょっとくらい調子に乗らせてもらってもいいと思う。

 

 それから、水面歩行で悪戦苦闘する麻衣に、「こう、ふわーって放出するんだよ!」「水を愛しい存在だと思え」とアーサーと一緒に指導していると、足音が近づいてきた。

 フィオナだと確信し、邪な感情が出ないように心がけ、ゆっくりと足音の方に目を向ける。

 

 なにかものすごくごつい弓を背負ったフィオナが、薄い緑のビキニを着て登場した。明らかに俺の命を刈り取るためのものだろ、アレ。

 

「お待たせいたしました」

「わ、フィオナさん綺麗!」

「おう、フィオナ! 弓カッケェな!」

「み、水着はどうですか?」

「かわいいぜ!」

「そんなごつい弓背負っておいて、水着の感想聞くの厚かまし俺も似合ってると思うぜ!」

 

 思ったことを言ったら弓を引かれ、咄嗟に水着を褒めると矢が放たれた。魔力で形成された矢は流石に俺に向かって放たれず、威嚇射撃のように空へと向かい、小さな爆発を起こす。あれを俺に向かって撃たれてたら確実に死んでたな。

 でも俺悪くねぇだろ。どう考えても殺すための弓を背負ってるくせにもじもじして水着の感想聞いてんじゃねぇよ。むしろ俺が水着の形状と色までわかったの奇跡だからな? 普通弓ばっか気になって水着気になんねぇからな?

 

 いやでも、俺の考えすぎかもしれねぇ。俺を始末するために武器を準備してたっていうのも麻衣の冗談かもしれないし、別の理由があるはずだ。

 

「ところでフィオナ。その弓はなんのために使うんだ?」

「その身をもって知りたいということですか?」

 

 どうやら冗談じゃなかったらしい。俺は両手をあげて降参した。

 

「失礼かとは思いましたが、警戒して当然かと思いましたので」

「うーん……フィオナさん。せっかく遊ぶのにそんな大きいの背負ってたら、思いきり遊べないですよ?」

「問題ありません。鍛えていますから」

「確かに、いい体してるもんな」

 

 俺に矢が向けられる。いやいやいやいやいや!!

 

「違うって! どう考えても今のは『鍛えてる』って言葉に対しての感想だろうが!」

「……そうですか。確かに、邪な感情は感じませんでした。申し訳ございません」

「いや、わかってくれたならいい。だからその弓は置いてくれ」

「そうですね。冗談で持ってきただけですし」

 

 冗談にしては本気の殺意だったような……。でも、仲良しゲージはなぜか60まで上がってるから、本当に冗談なんだろう。よかった。マイナスのままここにきてたら本当に死んでいたところだった。というかまずアイリスさんに会った時点で屠られてた。

 フィオナが弓を置いて一安心したところで、麻衣が水面歩行を再開する。全員集まったから遊び始めてもいいとは思うけど、一度やり始めたらできるまでやるっていうのは麻衣らしい。

 

「水面歩行ですか?」

「おう。俺はすんなりできたんだけど、麻衣が苦戦しててな」

「俺たちも必死で教えてるんだけど、どうもうまくいかねぇんだよ」

「感覚派のあなたたちが教えても、麻衣さんは理解できないでしょう。私に任せてください」

 

 頼もしく、心なしか胸を張ったフィオナが麻衣に近づいていく。フィオナは麻衣を可愛がってくれているから、お姉ちゃんぶりたいのもあるんだろう。人間嫌いで勇者でもないのに、麻衣はフィオナと距離を縮めるのが早かったし、なんなら麻衣は仲良しゲージが75らしいから、それはもうめちゃくちゃ仲良しだ。

 

「麻衣さん、少しいいですか?」

「もしかして教えてくれるんですか?」

「はい。麻衣さんがよろしければですが」

「もちろん! ありがとうございます!」

「アーサー。これから俺たちの頭が痛むような言葉が出てくるだろうから、離れておこうぜ」

「おう。まだ死にたくねぇからな」

 

 感覚でできることを理屈で説明されたら、そのせいで難しく考えてしまってできなくなりそうだし。俺は自分のことを単純なバカだと思ってるから、そういう些細なことでもめちゃくちゃ影響されそうなんだよな。

 それに、麻衣は優秀だからちゃんと教えてもらったらできるようになるだろうし、それで俺ができなくなってたらめちゃくちゃ煽られそうで嫌だ。喧嘩しても多分負けるし。なんだよあの怒気。パンチで山削れるくらいの威圧感あったぞ。

 

「つーかさ、甲斐ってマジで俺と同じくらい感覚派だよな」

「同じくらい頭ワリィしな」

「いやー仲間ができて嬉しいぜ! 大体の魔法はやってみたらできるから、変な目で見られるからさ」

「つっても、俺そんなに魔法使ってねぇから水面歩行だけかもしれねぇぞ?」

「じゃあさ、飛行魔法やってみようぜ!」

 

 飛行魔法は難易度が高いらしい。この前先生が言っていたのは、三年生になったら一部できるようになる人がいるとかなんとか。努力どうこうでやっとなんとかなるけど、そもそも才能がないと無理とかそういうレベルのやつだ。

 アーサーは軽く浮いてみせて、「こうやるんだよ!」と言ってくる。なるほど、感覚派の説明って傍から聞くとマジで意味わかんねぇな。

 

「これで飛べたらマジで天才だよな、俺」

「もう飛べてるぜ、天才」

「なんか飛んでみたいなーって思ったらいけたわ」

「わかる! 俺も最初そうやって飛んでた!」

 

 もしかしたら俺も勇者なのかもしれない。「私も飛ぶ!!!!!」と言って水面を跳ね、悔しさをあらわにする麻衣をフィオナが宥める姿を見ながら、極上の優越感に浸った。

 

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