なんとしてでも元の世界に帰りたい兄妹VSファンタジー   作:酉柄レイム

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第15話 ゴールデンウィーク (3)

「鬼ごっこ?」

「はい」

 

 飛行魔法が習得できずに拗ねてしまった麻衣の背中をぽんぽん叩きながら、フィオナの提案に首を傾げる。

 正直意外だ。フィオナはどっちかっていうと俺とアーサーがはしゃぎまわって、それを制御する役割だと思っていたから、自分から「こういう遊びがしたい」って言ってくるとは思わなかった。

 

……ははーん。さてはこいつ、今日がめちゃくちゃ楽しみだったんだな?

 

「不快です」

 

 ははーん。さてはこいつ、俺のことがまだ嫌いだな?

 

「いいじゃん鬼ごっこ! ここめちゃくちゃ自然あるし、ぜってぇ楽しいだろ!」

「鬼ごっこなんて久しぶりだなぁ。麻衣から完璧に逃げ切って煽り散らかして以来だぜ」

「大人げないと思いませんか!」

 

 更にへそを曲げてしまうと可哀そうだから麻衣の頭を撫でると、「触れるな、ゴミ」と手を払われた。この威圧感があってなんで飛行魔法習得できねぇんだよ。

 不機嫌そうに鼻を鳴らした麻衣は、フィオナの隣へ移動する。いきなり自分のところにきた麻衣を微笑みで迎えたフィオナは、そのまま頭を優しく撫でた。なんでフィオナはよくて俺はダメなんだ?

 

《畜生が透けて見えるからだろう》

《俺のどこが畜生なんだよ》

《顔》

 

 顔が畜生ってなんだよ。チクショウ!

 

「とはいいましても、ただの鬼ごっこではありません」

「まぁ、ハンデとしてアーサーの片足は切り落とさないとな」

「多分追いつけるぜ?」

「まず片足落とすことに文句言いましょうよ」

 

 この前聞いたけどこいつ、欠損してすぐなら回復魔法で元通り生やせるらしいぞ。だからといって片足を落としていいことにはならねぇだろうが。ふざけてんのか?

 でもふざけてるのはアーサーの方だと思う。さっきやった競争もお話にならないレベルで世紀の大敗北を喫したし、魔法だけじゃなくて素の身体能力もクソ高いんだよな。勇者だからと言われれば納得してしまいそうになるけど、高校生なんだからもうちょっと手加減して勇者してほしい。

 

「試験の範囲でもある探査魔法。これを使いながらの鬼ごっこです」

「試験……?」

「はて……?」

 

 フィオナがどこからともなく弓を取り出し、俺とアーサーに向かって引き絞る。冗談だよ冗談。つか矢を向けられるレベルのボケでもなかっただろうが。俺たちを恐怖で支配しようとしてんのか?

 探査魔法はもちろん知ってる。魔力のうすーい波みたいなのを広げて、自分以外の魔力を探る魔法だ。素人が使えば探査魔法が使われてるってことが相手に気づかれるが、熟練度が上がれば相手に気づかれることなく相手の場所を把握することができる。

 

「そこで伺いますが、探査魔法は使えますか?」

「使えまーす!」

「いいえ?」

「いいえ?」

 

 麻衣が元気よく手を挙げて、俺とアーサーが首を横に振る。感覚派と理論派の違いがモロに出た。

 

「つまり、今からバカどもが探査魔法を使えるようになるために、遊びを交えて頑張ろうということです」

「おいアーサー。どうやらフィオナにはお前が二人に見えているらしい」

「お前が二人に見えてんじゃね?」

「バカどもとは甲斐とアーサーさんのことです。バカども」

 

 俺とアーサーは自分で自分の顔を指すと、フィオナが深く頷いた。ま、まさか俺たちがバカだと……!?

 納得せざるを得ない。探査魔法が試験の範囲内だと知っていた俺とアーサーは、「まぁ感覚で使えるだろ」と楽観的に考えていた結果、アーサーは「使わなくてもなんとなくわかるから、使う気になれねぇ」という理由で、俺は「なんかちまちま探すのって男らしくねぇよな」という理由で探査魔法が使えなかった。

 感覚派はやりたいことなら大体できるが、やりたくないことは大体できない。その魔法を使っている自分を想像できないからだ。飛行魔法は空を飛びたいし、空を飛んでいる自分を想像できたからできただけのこと。

 

「つっても、アーサーはバカ身体能力で頭のワリィごり押しができるんだぞ?」

「走り回ればいつか見つけられるだろうしな!」

「そこで、アーサーさんには目隠しをしてもらいます」

 

 フィオナが取り出したのは真っ黒な布。そ、それは……! なんだ?

 

「ただの布では光が入ってきてしまいますが、この魔法具は目につけると一切の光を遮断し、視界は完全に暗闇になります。これをつけて森の中で鬼ごっこをします」

「いくらアーサーでもあぶねぇだろ」

「でも片足切り落とすよりは安全じゃね?」

「確かに」

 

 アーサーの理知的な発言により、アーサーは目隠しすることが決定した。バカだバカだと言われているが、やはり勇者。理知的な一面が垣間見えた。俺も見習わないとな。

 麻衣が呆れた目で俺たちを見ているのを不思議に思いつつ、フィオナから受け取った目隠しをアーサーに装着する。クソ、こいつ、目が見えてなくてもカッコいいな……。世界は不平等だ。「伊世甲斐は性格がクソだから、見た目は絶世の美少年にして帳尻合わせるか」っていう気遣いくらいしてくれてもいいだろ神様!!

 

《絶世の美少年にお前のような性格など、片腹痛すぎて片腹なくなるわ》

《大丈夫か?》

《なんとかな。私が神様じゃなかったらヤバかった》

 

 よかった、神様が神様で。いくら神様だとはいえ、片腹が無くなるのは可哀そうだ。

 

「甲斐は探査魔法を一切使えない無能で身体能力も人よりはいいという程度ですので、何もつけなくて大丈夫です」

「”何もつけなくて大丈夫です”だけでいいだろうが。なんでわざわざ俺をけちょんけちょんにすんだよ」

「そうですよ。流石に言い過ぎです、フィオナさん」

「甲斐は無能」

「言いすぎな部分だけ残してんじゃねぇよ」

 

 失礼、と上品に口に手を当ててフィオナが笑う。「失礼」って言って笑うやつ初めて見たし、本当に失礼なこと言って「失礼」って言って笑うやつも初めて見たぞ。ということは俺は今日二つのことを同時に初めて見たことになる。やったぜ! 普段の行いか、いいことは訪れるもんだな。やっぱり神様は見てるってことか。

 

《見てるぞ》

《テメェの話じゃねぇよ》

《私、神様なんだけど……》

 

 神様は神様だけど、俺が言ってる神様はもっと慈愛に満ち溢れてる、常に笑顔の素晴らしい神様だ。こいつみたいに悪意に満ち溢れて、常に嘲笑のクソみたいな神様じゃない。言い過ぎた。ごめん。

 あぶねぇ……謝るのがもう少し遅れていたら、寿命が七千年延びるところだった。寿命が縮むよりも怖い。どんどん親しい人たちが死んでいくのを見なきゃいけないからな。きっとそれが嫌で、途中から一人で生きていくことを選ぶものの、アーサーみたいな底抜けに明るいやつが俺を引っ張り出して、本当の”生”を教えてくれるんだ。一体何の話をしてるんだ?

 

「そして、必死で習得してもらうために制限時間を設けます。制限時間を迎え、最後に鬼だった方には罰ゲームを与えます」

「一日俺と過ごすとかか?」

「じゃあ私毎日罰ゲームなんだけど」

「甲斐と過ごせるって罰ゲームじゃなくね?」

「親友」

「モチ!」

 

 俺と一日過ごすことを罰ゲームだと肯定した実の妹にあっかんべーをしてから、アーサーと握手を交わす。こいつ、目隠ししてるのに正確に握手しやがった……!

 才能の塊め。ムカつくから俺も目隠ししようかな? 必要に駆られた方が使えるようになる気がするし、自分を追い込むのもいいかもしれない。特に俺みたいな人間は、ギリギリにならないと何もやらないからな。カスめ。

 

「で、罰ゲームって?」

「このダンジョンにはロッジがありますが、一人だけテントを張ってそこで寝てもらいます」

「……!!」

「……!!」

「フィオナさん。男どもがワクワクしてるから罰ゲームにならないと思います」

「わかりました。甲斐かアーサーさんが負けた場合は、ご飯抜きです」

「そんな!?」

「人の心がねぇのかよ!」

「エルフです」

 

 だから細かいことはいいんだよ!

 クソ、飯抜きだと!? みんなで協力して作り上げる+ロケーションで最高のうまい飯ができるってのに、それが抜き!?

 どうやら、フィオナも本気らしい。多分麻衣もフィオナもアーサーも優しいから、なんだかんだで飯をくれるのは目に見えているが、だからといって手を抜いていいことにはならない。あとこういう時かわいらしい罰ゲームを提案してくるのってマジでいいやつだよな、フィオナ。悪役になり切れてない。

 

「制限時間は30分。範囲は先ほど森に結界を張ったので、その結界内。それでは、じゃんけんで最初の鬼を決めましょう」

「よし、アーサーが見えてねぇから、アーサーが負けたってことにしようぜ」

「そういう相談は俺が聞こえてねぇところでしてくんね?」

「聞こえてなかったらいいっていうわけじゃないと思いますけど……」

 

 冗談で言ったんだよ。俺がそんな邪悪なことをするように見えるか?

 

《そんなことしかしないだろ》

 

 そんなことしかしないらしい。俺をずっと見ている神様が言うんだから本当にそうなのかもしれない。俺は、卑怯者なのか……?

 

「それでは、いきますよ。最初は──」

 

 

 

 

 

 男らしい拳のグーで勝利をもぎ取った俺は、木の上で辺りを見渡していた。鬼はアーサー。目が見えないあいつは音を頼りにするはず。だったら、ばったりぶつからない木の上で、音を立てずにじっとしているのが一番だ。天才すぎて困るな。

 

《真面目にやろうという気はないのか?》

《これ以上ないくらい真面目に勝ちにいってるだろ》

《探査魔法の話だ。アレの習得が目的だろう》

《本当に必要になったら頑張るわ》

 

 理屈が理解できないんだから、今必死になってやろうとしてもできるわけがない。火事場のバカ力を期待して、今は木の上でゆっくりしよう。

 

 そんな俺の肌に、魔力が触れた感覚があった。それと同時、確実にものすごい速さで俺の方に何かが向かってくる音が聞こえる。

 

《知っているとは思うが、探査魔法に引っかからないようにする技術もあってだな》

《教えて! 殺される!》

 

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