なんとしてでも元の世界に帰りたい兄妹VSファンタジー   作:酉柄レイム

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第16話 二人目のエルドラド

 試験当日。ゴールデンウィークで実技に出てくる魔法の訓練をした(ただし、実技に出てくる魔法は習得できず、出てこない魔法ばかり習得できた)。筆記の方もフィオナに教えてもらった(ただし、一つも理解できなかった)。控えめに言って盤石だと言っていい。フィオナ以来エルドラドも出てきていないから、補習に行ってエルドラド探しができないなんてことにならないよう、試験は確実に突破する必要がある。

 

「それでは、試験を開始する」

 

 が、今の俺には余裕だ!! 軽々しく試験を突破してやるぜ!!

 

 

 

 

 

《で、補習?》

《おかしいな……答案用紙は全部埋めたんだけど》

《一応言っておくけど、試験って識字率チェックじゃないから》

 

 試験から数日後。試験結果が返ってきて、兄貴は案の定補習を言い渡されたらしい。アーサーさんも補習で、フィオナさんはもちろん補習じゃない。むしろ成績トップだったそうだ。流石フィオナさん。うちのゴミとは違う。

 今は5月下旬。エルドラドは合計七人で、まだフィオナさんしか見つけられていない。ということはあと六人見つける必要があって、タイムリミットは一年間。単純計算でひと月半に一人と仲良くなる必要がある。それなのにうちのカスは……。

 

《まぁ、補習なのは仕方ないか。私はなんとかしてエルドラド探しておくから、頑張ってね。カス》

《わかった。ところで俺のことをナチュラルにカスと呼んだのはどういうことだ?》

《気のせいじゃない? お兄ちゃん》

《キモ》

《死ね》

 

 誤魔化すためにぶりっ子したら聞き捨てならないことを言われて、思わず強い言葉を使ってしまった。あんまり強い言葉を使うとモテないから気を付けないと。ただでさえアレが兄だっていう弱点を抱えてるんだから、他でカバーしないと。

 帰り支度をしながらどうしようかなと首を傾げる。エルドラドを探すって言ったって、探し方がわからない。神様の話だとイベント的な感じで出会うらしいけど、それを待つだけなのはストレスだし……。どうせなら美形なファンタジー生物と運命的な出会いをして、奇跡的にエルドラドで、仲良し以上になれたらいいのに。

 

 なんて考えながら教室を出ると、軽い衝撃。誰かにぶつかられた衝撃で倒れそうになったところを、優しく抱きかかえられる。えっ、もしかして……!!

 

「おっと、ごめんね。大丈夫?

 

 私を抱きかかえたのは、金髪赤目で超美形のヴァンパイア、ヴラド・フロルヴェインくんだった。あと仲良しゲージが出てきた。都合がよすぎる!!!!!

 マズい、エルドラドだったらいいなーとは思ってたけど、私は美形に弱い。アーサーさんみたいにある程度仲良くなってるならまだしも、そうじゃないならうまく話せる自信がない。兄貴とフィオナさんみたいに最低なコミュニケーションは取らないようにしないと……!!

 

「い、いいにおい、するね」

 

 

 

 

 

「それで、ドン引きされたからここまで逃げてきた、と」

「うぅ、ひどい……!! あんまりだ……!!」

「そうだよなぁ。麻衣ちゃんは褒めただけなのに」

「甲斐。麻衣さんが気色の悪い態度で気色の悪いセリフを吐いてしまったのはあなたの責任では?」

「それは甘んじて受け入れるけど、ひでぇ言い方してやんなよ」

 

 フィオナの毒舌を受けて、麻衣が「その通りだけど……!」と言いながら血反吐を吐いた。どうやらファンタジー世界では精神的ダメージで血反吐を吐くようになっているらしい。

 突然仲良しゲージが現れたかと思えば、麻衣から「大失敗した。相談したい」と短い連絡がきて、一緒に補習を受けていたアーサーと、俺とアーサーに勉強を教えたのにも関わらず、補習となってしまった俺たちに対してブチギレて、俺たちが帰る瞬間を狙って殺そうとしていたフィオナと一緒に麻衣に指定された公園に行くと、麻衣が咽び泣いていた。

 

 経緯としては、同じクラスのヴァンパイア、ヴラド・フロルヴェインくんが二人目のヴァールハイト(ここはアーサーとフィオナには伏せている)だったらしく、仲良くしようとしたら「い、いいにおい、するね」と気色の悪いセリフを吐いてしまったことでドン引きされた、とのことだ。もちろん仲良しゲージは60になって……ん? 高くねぇか? んだよ麻衣がかわいいからってか!? 性的に見てんじゃねぇぞ蚊ごときが!!

 

「どうせ私は醜悪なゴミ女なんだ……!!」

「そうだな。それよりも今はどうやって関係を修復するかが重要だ」

「あっさり肯定しないでよ!! 私がこうなったの兄貴のせいだから!!」

「そうやって他責しようとするとより醜悪に見えるぞ」

「血も涙もねぇな、この兄貴」

「どうにかして麻衣さんを保護しないと……」

 

 関係の修復が重要とは言ったものの、ブラドの麻衣に対する仲良しゲージは60だ。どんだけ美形でも、やっぱり麻衣がかわいいからかそう簡単には好感度は落ちないらしい。だから、別にそんな気にする必要もないと思うんだけどなぁ……。まぁ、乙女心ってやつか。でも麻衣は俺の妹だから悉く失敗する気がする。ごめん、俺の妹として生まれさせちゃって。

 

「でも、明確に嫌われたってわけじゃねぇんだろ? 大丈夫だって! 麻衣ちゃんかわいいし!」

「確かに私はすばらしくかわいいですけど……」

「図々しい形容詞つけてんじゃねぇよ」

「しかし、ヴァンパイアであれば若い女性は避けられるでしょうね」

 

 え? と首を傾げてフィオナを見れば、「私が教えた勉強は無意味だったようですね」と睨まれた。マズい、麻衣の件でうやむやになった怒りが再燃してる!!

 

「ヴァンパイアの食事は血液。古くは人間に友好的な生物ではなく、人間を食事の対象と捉えていました。ですが、異種族すべてが手を取り合って社会を形成する法、『異種族共生社会基本法』が制定され、ヴァンパイアが同意なく人間を吸血するのは禁止されました。吸血には同意書が必要ですし、それを結んでいるわけでもない麻衣さんは、存在しているだけで誘惑しているようなものですからね」

「ゆ、誘惑……? そんなにいやらしいかな、私」

「ハッハッハ!! ハッハッハッハッハ!!」

 

 あまりにも面白くて爆笑したら、麻衣にぶん殴られて尻置きにされた。いや、俺が麻衣をいやらしいって言う方が問題だろうが!! 兄貴として正常な反応だっただろ!!

 

《正常であってもムカつくことに変わりはないだろう》

《黙れ》

《えっ、ごめん……》

 

 割り込んできた神様がムカついたから黙れって言ったら、普通にショックを受けてしまった。あとでおかしあげよう。

 

 そういえば、麻衣と一緒に超特急ムゲンザハンズに行った時にも麻衣が言ってたか。吸血は法律で禁止されてるわけじゃないけど、人間の血がヴァンパイアにとって一番おいしくて中毒性があるって。フィオナの口ぶり的には、若い女の子の血が一番おいしいんだろう。ってことは、ヴラドにとって麻衣は焼き立ての高級ステーキが歩いてるようなもんってことか。

 

「よし、麻衣。首差し出して吸血していいよって言ってこい。男でヴァンパイアならそれでイチコロだろ」

「やだ! 今日かわいい下着じゃないし」

「十分にいやらしいじゃねぇか。そういうことじゃねぇよ。ちょっくら食事になってこいって言ってるだけだ」

「妹をヴァンパイアに差し出すって倫理観どうなってるんですか?」

「いきなり吸血してって言われても、また引かれるだけだと思うぜ?」

 

 そうか……。麻衣は身内びいき抜きにしてもかわいいからいけると思ったんだけどなぁ。俺からすれば、フィオナが「一緒に寝ませんか……?」って言ってくれるようなもんだし。ヴァンパイアにとって吸血がどんなもんか知らねぇけど、食欲と性欲同時に満たせるようなもんだろ? 最高じゃん。断る理由ねぇだろ。それで引くのは真っ当すぎる倫理観を持ったアーサーとかフィオナとかくらいのもんだ。麻衣も嫌だって言った理由が『やられたくないから』じゃなくて『かわいい下着じゃないから』だし。流石俺の妹だ。あと妹の下着事情を聞かされるの普通に気まずいからやめてくれ。

 

《私が履いている下着は知りたいか?》

《教えてくれ、って言ったら?》

《ふふ。二人きりの時に教えてあげる》

《ねぇ、暇だからって適当なこと喋んないで》

《えっ、ごめん……》

 

 神様とふざけていたら麻衣に怒られてしまった。あとでおかしと一緒にジュースも持っていこう。神様も相手いねぇし、暇だから仕方ねぇのにな。かわいそうに。

 

 さて。吸血してって誘惑すんのが無理だとすると、普通に距離を縮める必要がある。麻衣なら別に難しくねぇとは思うけど、こいつは美形に弱いし一度自信を砕かれるとずるずる引きずるクセがある。俺に似てたくましいけど、俺に似ず打たれ弱い。

 

「……しゃあねぇなぁ。ここは俺が一肌脱いでやるか」

「えっ、兄貴が吸血されるってこと?」

「そういう意味で肌脱ぐって言ってんじゃねぇよ。俺がなんとかしてやるってこと」

「俺も協力すっか?」

「おう。アーサーはいいやつだから、警戒解くのに最適だからな」

「私も協力しますよ」

「フィオナは大人しくしておいてくれ」

 

 俺にかけられる体重が増えた。いや、だってお前、俺への態度終わってたじゃんか……!! あとアーサーはなんで俺が尻置きにされてんのに何も言わねぇんだよ。「仲いいなぁ」じゃねぇよ俺が死にそうにしてんのが見えてねぇのか? 俺が普通に喋れてるのがダメなのか?

 まぁ、尻置きにされようと俺は麻衣の兄貴だ。妹がやらかした時の尻ぬぐいくらいやってやんねぇとな。

 

 ……あとは、やっぱり麻衣がやらかしたのに仲良しゲージが60ってのが気になる。変な目で見てねぇだろうなマジで。変な目で見てたらアーサーっていう最大戦力が相手になってやるぞ。俺は無理。人間がヴァンパイア様に勝てるわけねぇだろうが。

 

「ですが、補習期間中はヴラドさんと会えないのでは? 時間が合いませんし……」

「「あ」」

 

 フィオナの鋭い指摘に、俺とアーサーは舌をぺろりと出して「いっけなーい。私ったらほんとドジ☆」とお茶らけてみせた。俺だけ殴られた。おかしいだろうが!! 不平等だ!!

 

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