なんとしてでも元の世界に帰りたい兄妹VSファンタジー 作:酉柄レイム
「ちょっといいか?」
「いきなりワリィな」
ヴラドのことは俺たちに任せろ! と麻衣に言って、翌日。日傘をさして門を出ようとするヴラドの前にアーサーと二人で立ち塞がり、行く手を阻む。
「なんだ?」
「なんだ? じゃねぇよ。先輩に対する口の利き方がなってねぇな」
「そういうことを言ってくる相手に払う敬意などない。尊敬できるところが見えれば使ってやろう」
「おい!! 伊世!! ルークス!! 補習から逃げるな!!」
「ヤベェ!! 逃げるぞ甲斐!!」
「ヴラドもこい!!」
「えっ、あっ、ちょっと待て!!」
もちろん補習は脱走してきた。補習が嫌とかじゃなくて、補習より麻衣の方が大事だからな!!
「で、なんなんだお前らは!!」
「もう一度言うが、先輩に対する口の利き方がなってねぇな」
「なら俺ももう一度言うが、尊敬できるところが見えれば使ってやるよ!!」
ヴラドを連れて先生から逃げて、近くのカラオケ。多種多様な種族が利用するからか、このカラオケには水槽みたいになっている部屋があるらしい。人魚の歌声とかリアルで聴いてみてぇな。ちょくちょくここにきてみるか。
俺たちがいる部屋は元の世界と何ら変わりない部屋だ。異世界になったって言っても変わらないところはやっぱりある。こういうの見るとめちゃくちゃ安心するんだよな。安心して元の世界に戻らないってなったらダメだから、元の世界と変わらないものを見たらひっそりキレることにしてるけど。なんで元の世界と変わんねぇんだよ!! ふざけてんじゃねぇぞ!!
「まぁいいじゃねぇか敬語くらい。甲斐も別に気にしてねぇだろ?」
「後輩にタメ口利かれたら俺がしょうもねぇ人間みたいに思われるだろうが!」
「実際そうだろう。出会って数分だが、お前がゴミ人間であることはわかった」
「え、もしかして、俺って特別なのか……?」
「やったなぁ甲斐! 俺は元々特別だって思ってたけどな!」
「ゴミ人間をポジティブに捉えるな!! どう考えても蔑称だろう!!」
だってゴミ人間ってオンリーワンって感じするじゃん。ゴミって言われたら俺はゴミじゃねぇってなるけど、ゴミ人間ならゴミの力を持った人間ってことだろ? なんかすごそうだ。異能力系バトルものだったら、そういう変な力持ったやつは大体強いって相場は決まってるしな。だから俺は補習を受けなくてもいい。先生に補習のことで詰められたら、「でも一年のヴラドが俺のことゴミ人間って言ってましたよ」って言おう。それで先生も許してくれるはずだ。
「というか、本当に何の用なんだ。お前たちのような人間に恨みを買うようなことをした覚えはないぞ」
「本当にそうか? 自分の胸に手を当てて撫でおろしてみろ」
「安心しかしないな」
「それはちげぇだろヴラド。胸を撫でおろしたから安心するんじゃなくて、安心したから胸を撫でおろすんだぜ?」
「ごちゃごちゃうるさいな!! 早く用件を言え!!」
「ったく、これだから最近の若者は」
「同世代だろ!!」
アーサーを見る。どうやらアーサーもヴラドを『面白いやつ』だと思ったらしい。あといいやつだ。普通ならいきなり拉致してきたやつらに対応しようとは思わない。だけどヴラドはちゃんとツッコんでくれる。あと同世代なのか。ヴァンパイアだから人間とは世代とかそういうのも違うと思ったけど、どうやら同じらしい。
ヴラドがいいやつだからとは言っても、これ以上いつものノリで適当を言っていると帰られてしまう。そろそろ本題に入っていいか。
「俺は伊世甲斐。ヴラドと同じクラスの伊世麻衣の兄貴だ」
「俺はアーサー・ルークス! 甲斐と麻衣ちゃんの友だちだ!」
「……伊世さんの」
「さん?」
随分丁寧なんだな。俺たちに対する口調を聞いた感じ、同級生なら呼び捨てにしてそうなのに。紳士的なのか、尊敬できる相手なら丁寧になるのか。ただどっちにしろ、麻衣との仲良しゲージが60だとはいえ、ちょっと距離はありそうだ。ちなみに俺の仲良しゲージは30だから、やっぱりいいやつ……ん? 40に上がってる? 同級生の身内で、身元がわかったからか? 警戒心が薄れた的な……。
いや、別の可能性がある。男と女なら無視できない可能性だ。
「単刀直入に聞くぞ。お前、麻衣のことが好きなのか?」
「ハァ!? 俺が!? なぜ!? ふ、ふん。そんなわけがないだろう。確かに、ヴァンパイアである俺は若い女の血が好みだが、それだけだ。伊世麻衣個人を好んでいるなどありえん」
「麻衣がお前と話したいって言ってたんだけど、場所セッティングしてやろうか?」
「私はいつでも空いていますが、いいのですか?」
「よかったな、尊敬してくれたみてぇで」
「俺、こいつわかりやすくて大好きだ」
仲良しゲージも60まで上がったし。チョロくて最高……だけど、一つ問題がある。
それは、ヴラドと俺たちを繋げているのが、『ヴラドの麻衣に対する好意』ってところだ。元の世界に帰るためにはエルドラド全員の仲良しゲージを80に保つ必要がある。ってなると、少なくとも帰るまでは『ヴラドの麻衣に対する好意』を保つ必要があるってことで、付き合って別れたなんてことになったらそれはほぼ不可能になる。一番いいのは、そんな心配がないように『好きだけど一歩踏み出せないじれったい関係』を続けてもらうことか……。
だけど、そういうのは当人同士の意思が大事だしなぁ。あんま口出すことじゃねぇか。あんま口出すことじゃねぇけど、付き合ったりしたら麻衣が元の世界に帰りたがらなさそうだから、やっぱり何としてでも邪魔しつつ、仲良しゲージを保つ方向で行こう。こいつチョロそうだしいけるだろ。
「じゃあいつ空いてる? 俺たちはいつでもいいぜ」
「さっき先生に追いかけられていましたが、気のせいですか?」
「あぁ、あれは俺たちは補習じゃないのに、補習があると思い込んでる先生なんだよ」
「お兄様がそう仰るのであればそうなのでしょうね」
こいつ、好きな子の兄貴だからって全肯定しはじめやがった……!! 最高だ。仲良しゲージも変動してないし、心の底から肯定してやがる。やりやすいどころの騒ぎじゃない。
「私はいつでも。何としてでもご都合に合わせます」
「おっけー。麻衣の予定確認しとくわ」
《麻衣。ヴラドが会ってくれるってよ。いつ空いてる?》
《えっ!? どんな脅迫したの!?》
《そんなこと言うなら会わせてやんねぇ》
《あ、ごめんごめんうそうそうそ。大好きだよ、おにーちゃん!》
《ゲボかよ》
《かわいい妹からの精一杯の愛をゲボって……》
聞けば、最近魔法戦技部に入ったらしく、練習の前か後なら、とのことだった。あいつ、部活とかには真面目なタイプだからサボって会うとかはしねぇんだろうなぁ。俺なら絶対サボって会うのに。だって顔面が好み過ぎる異性と会えるってんだろ? 飛びつくに決まってんだろ。舐めてんのか。
「部活の前か後なら大丈夫だってよ」
「なるほど、承知しました。ところで、お兄様は念話と使えるのですか?」
「念話?」
「なんかそういう魔法があるらしいぜ? 気合いで意思を届けるみてぇな」
「正確にはちゃんとした論理があるのですが……」
「へー。いや、麻衣としかできねぇな」
《私は?》
《言わない方がいいだろ》
《さびしい……》
どうやら、俺たちと話しているうちに人間味を身につけたらしい。なんだこの神様かわいすぎだろ。末っ子としてうちにきてくれねぇかな。サキュバスの母親が生えてきたし、神様の妹がいてもいいだろ。ついでに神様もエルドラドだったりしねぇかな。仲良しゲージ80以上の自信あるし。
「念話って高度なのか?」
「えぇ。自身の意思、言葉を魔力の信号に変換し、それを相手に届け、言葉に再変換する必要がありますので」
「あんまり難しいこと言うなよ」
「そんなに難しいことは言っていない」
敬語じゃなくなった。どうやら俺がアホすぎて尊敬できなくなったらしい。見限るの早すぎだろこいつ。切り替え早いやつは嫌いじゃないぜ?
にしても、念話は高度なのか。なんかめちゃくちゃラフにできるイメージがあったけど、そういえばこの世界でも普通にスマホ使って連絡取り合ってるし、家に固定電話もあった。それくらい一般的じゃないってことか。
《私たちは念話よりも高度なことを私がしているから話せているのだがな》
《へぇ》
《すごい》
《もういい! あっちいけ!》
《いや、神様ならそれくらいできて当然だろって思ってさ。やっぱすごいんだな》
《そうだろう? ふふん》
この神様、ヴラドよりもチョロいな。多分唆したら俺が世界の支配者になれる。よく考えたらチョロい神様って一番ダメだろ。よかった、神様と話せるのが俺と麻衣で。俺たち兄妹は清廉潔白で文武両道で温故知新だからな。温故知新ってどういう意味だっけ。
温故知新の意味はあとで調べておくとして、ヴラドと連絡先を交換する。ヴラドは念話を使えるらしいけど、俺たちが使えねぇしな。アーサーなら気合いでなんとかしそうだけど、「俺、念話使えるようになったら夜んなっても嬉しくて喋りかけちゃうからやめた方がいいよな?」って言ってるから多分習得しない。でも俺が「それ楽しそうだな」って言ったら習得する。いいやつだからな。
「よし、こっちの用は終わったし、せっかくカラオケにきたから歌うか!」
「いや、俺は帰らせてもらう。用事があるからな」
「マジ? んじゃあまた時間あるとき行こうぜ! 歌うまそうだし!」
「当たり前だ。俺は何に対しても隙を与えん」
「麻衣には好きを与えるのにな」
「ジジイ臭いぞ、貴様」
自分の臭いを嗅いでみる。自分ではわからないもんだな……。アーサーも嗅いでみるか? 何? いい匂い? サンキュー。いつもサキュバス子が綺麗に洗濯してくれるからな。本当にサキュバスで遺産狙いであること以外はいい母親なんだよ。