なんとしてでも元の世界に帰りたい兄妹VSファンタジー 作:酉柄レイム
見た瞬間にエルドラドだとわかると言われたけど、そのエルドラドは未だに現れていない。未だにって言っても、まだ4月で世界が変わった日からそんなに経ってないから、多分会ってないだけなんだろうと思いたい。
俺たちが通う高校は、『異世界立異世界高校』という頭の悪い高校になっていた。校舎は城みたいになっていて、そこに通う生徒はもちろん、教師にもファンタジーっぽい生物がいる。人間もそこそこいるが、俺と麻衣のようにここがどう考えてもおかしい世界だって認識してるわけじゃなくて、元々この世界にいたっていう認識になっている。父さんもそうだったから期待してなかったけど、それに気づいた瞬間俺と麻衣の心に言いようのない孤独感の刃が突き刺さって、ひび割れたのを感じた。
「おはよう、甲斐」
「おう」
幸いだったのは、元の世界でも知っているやつの中で、人間のままのやつもいたということ。
朝、教室に入れば、我が物顔で俺の席に座っているやつがいた。そいつこそが元の世界でもこの世界でも人間である
「聞いてよ。僕が乗ってる電車がかなり遅延しててさ。タクシー使ってきちゃった」
「めちゃくちゃリッチだな」
「いや、運転手はリッチじゃなくてドラゴンだったよ」
「そういうことじゃねぇよ」
この世界、リッチもドラゴンもいるのか……。つーかドラゴンが運転手? 人くらいのサイズってこと? どっちにしろ空飛べよ。ドラゴンが車運転するって生物至上一番意味わかんねぇだろ。
でも、正直ドラゴンは会ってみたい。だってカッコいいし。男の子なら誰もが一度は憧れるだろ、ドラゴン。
俺の席から人志をどかせて席に座り、リュックを横にかける。教室を見渡せば、人間とファンタジーっぽい生物が半々。名簿を見た感じ元の世界にもいたやつはいたけど、俺がまったく知らないやつもいた。そもそも元の世界で知ってたとしても、こっちの世界でファンタジーっぽい生物になってたらそれは知らないやつだと思う。
「そういえば知ってる? 今日転校生くるらしいよ」
「転校生?」
「そう。エルフかマーメイドがいいなぁ」
元の世界でよくある「女の子がいいなぁ」みたいなこと? マーメイドを地上にいさせたら可哀そうだろ。しばらくピチピチして絶命しちまうじゃねぇか。
どっちかって言うとエルフがいい。元の世界でも美しい種族として描かれることが多かったし、ちょっとズレているところはあっても、この世界は俺と麻衣の異世界の認識をベースに作られているから、エルフなら美人なはずだ。とはいっても、女の子って決まったわけじゃないけど。
人志の姉がオークと付き合ったという情報を聞いたところで、予鈴が鳴る。人志の姉の職業は女騎士だって聞いたし、なんかそういう運命にでもあるんだろう。てかなんだよ職業女騎士って。用心棒みたいなことか? ファンタジーっぽい生物がいても社会はほとんど変わらないのに鎧とか着てんのか?
……今度写真見せてもらうか。
「予鈴が鳴ったら座れよー!! そうしねぇと転校生紹介できねぇからなァ!! ハッハッハ、ハーハッハッハッハッハッハッハ!!!!!!」
何も面白くねぇのに笑いながら先生が教室に入ってくる。先生もファンタジーっぽい生物になっていて、元の世界ではくたびれたおっさんだったのにこの世界ではドワーフになっている。しかも勤務中でも知ったことかと一日中酒を飲んでいる化け物で、更に飲んでいる酒は火が付くほどアルコール度数が高い。
「よし、入ってこい!!」
先生の言葉と同時、教室に足を踏み入れたのは。
背中まで届く銀の髪。透き通るような白い肌。出るところは出てひっこむところはひっこんでいる完璧なスタイル。どんな値の張る宝石であろうと蹴散らすほどの美しさを持つ碧の瞳。
彼女の種族はその尖った耳を見れば一目でわかった。
「フィオナ・エイリーンです」
そして、彼女を見た瞬間脳内に『仲良しゲージ』と書かれたゲージが現れる。そのゲージが現れると同時、脳内に声が響いた。
《わっ、なにこれ!?》
《麻衣!? なんで麻衣の声が聞こえるんだ!?》
《兄貴! えっ、魔法でも習得したの?》
《誰が才能アリ主人公だよ》
《ふっふっふ。どうやら、最初のエルドラドとエンカウントしたようだな》
脳内に響いた声は麻衣と、あの神チクショウのもの。神様ならどんな芸当ができようと驚きはしない。
神様によると、エイリーンが最初のエルドラドか。あそこまで綺麗な女の子なら仲良くなれること自体は嬉しいが、ハードルが高そうに見える。エルフって警戒心強いイメージあるし、あの容姿なら男から下心を持って近づかれた経験も多そうだ。ここは麻衣に任せて、そのおこぼれに与る形に……。
いや、俺もやるべきだろう。俺は麻衣の兄貴であり、エイリーンのクラスメイトだ。エルドラド抜きにしたって仲良くした方がいい。
《ところで、この仲良しゲージってのは?》
《お前の質問をかみ砕くに、仲良しゲージが何かを知りたいようだな》
《かみ砕き切って質問しただろうが》
《まぁ、そのままだな。仲良くなれば数値が高くなり、悪くなれば数値が低くなる。20で知り合い、50で友だち、80でかなり仲良しな友だちといったところか》
《どれくらい仲良しにならなきゃだめなの?》
《80だな》
《待て、80を超えて恋が始まった場合、仲良しゲージじゃなくなって、エルドラドと仲良くなるという条件が満たせなくなる可能性があるんじゃないか?》
《何? 最初のエルドラドは女の子なの?》
《あぁ、美少女エルフだ》
《じゃあ恋が始まる心配ないじゃん。あんまり図に乗らない方がいいよ》
麻衣が冷たい。小さい頃は「あんまり図に乗らない方がいいよ」って言ってきて可愛かったのに。じゃあ変わってねぇな。
容姿的に釣り合いが取れているとは思っていない。ただ、恋だとか愛だとかいうのは、内面で成り立つものだ。確かにぱっと見では図に乗るなと言われても仕方ないが、じゃあ容姿が釣り合っていなければ恋をしてはいけないのかと言われればそうじゃないと思う。
まぁ何にせよ、仲良くならないことには始まらない。先生が朝のホームルームを終え、エイリーンのところに集まり始めたクラスメイトを見て俺も立ち上がった。
《ま、安心しろ。俺が華麗に仲良くなって、お前に友だちとして紹介してやるよ》
《……まぁ、頑張って》
昔からなんだかんだ優しいのは変わっていない。口ではなんと言おうと、近しい人に対して理解と心配をしてくれる子なんだ。微笑ましいやつめ。
エイリーンとの仲良しゲージを上げるために取るべき行動。エイリーンは転校生であり、この学校は新天地。友だちもいないし頼れる人もいない。だからこそ、最初に知り合ったやつがそのままずっと友だちになることが多いはず。まずは気軽に声をかけて、学校を案内して交流を深めればいい。
「俺は
「人間風情が。気安く話しかけるな」
「それで、私のところに逃げてきたってわけ?」
「うっ、うっ……ひどい……俺の心が壊れてしまった……」
城みたいになったうちの学校の敷地はかなり広い。四階から外に出てすぐにある庭園、そのベンチで、俺は麻衣の隣で泣いていた。
エイリーンから底冷えする視線と一緒に投げかけられた言葉に、俺のハートは砕け散った。
だってさ、ひどいぜ? 俺話しかけただけじゃん。だってのになんであんなこと言われなきゃなんねぇんだよ。しかも仲良しゲージが-100になったんだけど。もう絶望的じゃん。俺たちもう一生ここじゃん。
「そんなことより、まさか一人目が人間嫌いのエルフなんてね……」
「俺の心が壊れたことを”そんなこと”で片づけるなよ」
「そもそも、なんで人間嫌いなんだろ」
「そこらへんに転がってる異世界モノでのエルフの扱いが悪いからいけねぇんだよ。大体奴隷にされてるとかそんなんだろ?」
偏見だけど、物語で描かれるエルフは高潔で見た目がよくて、そのせいか奴隷商に狙われているイメージがある。そのイメージが災いして、この世界のエルフは人間嫌いになっているのかもしれない。警戒心が強いってこともありえそうだけど、少なくとも人間以外とは普通に話してた。
「どっちかだよね。エイリーンさんが人間に対して嫌な思い出があるか、エルフ自体が人間を嫌ってるか」
「でもそういうのってさ、こんな人間もいるんだってなるのがお決まりじゃね?」
「ポジティブなのはいいことだけど、信じられないことにここ現実だから」
そう、現実だ。ゴブリン専用車両があろうと、先生がずっと酒を飲んでいようと、義母がサキュバスであろうと現実だ。物語を読んで「いや、こんなうまくいかねぇだろ」って思うのは無粋ってもんだが、いざそれが現実になってみると「いや、こんなうまくいかねぇだろ」って思ってしまう。
「まずは周りからじゃない? エイリーンさんが仲良くなった人と仲良くなって、なんでエイリーンさんが人間嫌いなのか知るのがいいと思う」
「確かに麻衣の言う通り、根気強くエイリーンに話しかけるしかねぇよな」
「そんなこと一言も言ってないけど?」
元の世界に帰れなくてもいいの? と呆れる麻衣に、冗談だよと笑って返す。もう仲良しゲージ-100だから話しかけたところで意味ねぇだろうし、麻衣が言った通りエイリーンの周りのやつと仲良くなって、エイリーンの人となり、いやエルフとなりを聞くのが一番だな。「人間風情が」って言ってたから、人間の”男”だけが嫌いってわけじゃなさそうだし、麻衣がエイリーンに話しかけたとしても、同じような反応をされるだけだろ。
「つーか、神様がいじわるして仲良くなりにくいやつをエルドラドにしてるとかねぇよな?」
《エルドラドは完全にランダムだな。私も楽しみたいから》
「マジでぶっとばしてぇな……」
《華。やれるものならやってみろ》
「なんだよ華って。草みたいなこと?」
《然り。草は神に相応しくない》
「へー。神にも文化ってのがあるんだなぁ」
「神様とそんなに馴染めてるなら、すぐに仲良くできそうじゃん」
確かに。天才すぎる麻衣に誇らしくなり、頭を撫でると「何してやがんだ、テメェ」と凄まれてしまった。やっぱり仲良くできないかもしれない。