なんとしてでも元の世界に帰りたい兄妹VSファンタジー 作:酉柄レイム
方針を固めてから麻衣と別れて、教室に戻る。その途中で、既にクラスメイトに囲まれたエイリーンを見つけた。エイリーンも俺に気づいたようで、めちゃくちゃ睨んでくる。
「話しかけるな、人間風情が」
「話しかけてねぇだろうが」
それだけ言って俺から顔を逸らし、教室へ入っていく。なんだあいつ。俺なんかしたか? 俺が人間だからってだけで邪険に扱いすぎじゃね?
納得がいかない理不尽にムカつきながら俺も教室に入って、自分の席に座る。ちら、とエイリーンを見れば、背筋を伸ばして次の授業の準備をしていた。
俺まだ信じらんねぇよ、あんな綺麗なエルフからめちゃくちゃ嫌われてるって。こんな悲しいことがあるか? なんだって家に帰ったら遺産狙いのサキュバスがいて、学校にきたら人間をめちゃくちゃ嫌うエルフがいるんだよ。俺の心は一つしかねぇんだぞ? 気安く蜂の巣にしてんじゃねぇよ。
まぁ、理不尽は今に始まったことじゃないし切り替えよう。確か、次の授業は……。
「はーい席ついてー。授業始めるよー」
重たそうなローブを引きずって、とんがり帽子を被ったどこからどう見ても魔女の恰好をした先生が教壇に立つ。
「それじゃ今から、魔法学の授業を始めます」
ファンタジーっぽい生物が社会の歯車を回していても、ここは異世界。
つまり、魔法も当たり前に存在している。実際に授業を受けるのは初めてだけど、テレビで見るスポーツとかバラエティとかで普通に魔法が使われてたから、その存在は知っていた。現代社会で問題になっていたエネルギー問題も魔力で補えるからほとんど解決してるらしいし、異世界もあんまり捨てたものじゃないかもしれない。
「魔力というのは程度の違いはあれど、ほとんどの種族に宿っています。それを媒介として使用する魔法は、例えば炎だったり水だったり風だったり……生活に便利な魔法もありますが、時に危害を加える凶器になり得ます。ですから学校や自分の家の敷地内など、限られた場所以外での資格なしでの魔法の使用は、法律で禁止されています」
先生の言葉にクラス全員が頷く。もちろん俺は頷けない。
そうだったの? いや、そうか。ここが異世界なら、元の世界と違う法律があって当たり前だ。大丈夫だよな? 俺、知らない間に法律破ったりしてねぇよな?
「当面みなさんに目指してもらうのは魔導師資格。これがあればどこでも魔法の使用が許可されます。魔法を使う職業に就くなら必須の資格ですね」
この学校の位置づけは、学科で言えば魔法科って感じか? やけに異種族が入り混じってると思ったら、どうやらそういう方面専門の学校らしい。確かにちょっと憧れはあったけど、エルドラドと仲良くするっていう目的に加えて、魔法のことまで考えなきゃいけないのは……楽しそうだ!
いや、落ち着け俺。異世界に魅力を感じて元の世界に帰りたくなくなるなんてことになったら終わりだ。この世界には知り合いなんてほとんどいないし、サキュバスの義母がいる。まともな人だったらまだ受け入れられたけど、遺産狙いのサキュバスなんて見たくもない。
「ここまでは、もうみんな知ってることですよね。二年生からの魔法の授業は、より実践的になります! はい!」
先生がパチン、と指を鳴らすと、景色が切り替わる。教室から体育館、というには広すぎる障害物が一切ないただ広いだけの空間に。
「流石マジョ先生だよね。時空間魔法を使えるなんて」
そんな名前だったのかよあの先生。
「時空間魔法?」
「知ってるでしょ? 転移魔法とか、時空を司る魔法。かなり高度な魔法だから、使い手はほとんどいないって言われてる」
人志がペラペラ喋っている内容は、もちろん元の世界では聞き覚えのない内容。物語の中ではあったけど、実際に転移するなんて思いもしなかった。マジであるんだな、魔法。
……クソ、ちゃんと魔法してんじゃねぇよ! ちょっとわくわくしちまうじゃねぇか!
「さて、それじゃあ……伊世くん!」
「えっ、はい」
先生……マジョ先生に手招きされて、のこのこ近づいてみんなの前に立つ。何だ? 「これからみんなの魔法を見たいから、あなたは的ね」ってこと? 「サッカーしようぜ! ボールお前な!」の異世界版? 失望したぜ。この世界にもいじめってやつはあるんだな……。
「種族によって得意な属性はわかれています。エルフなら風、ドワーフなら土といったように。ですが人族はすべての属性魔法の適性があります。伊世くんは確か、全属性の魔法が使えたわよね?」
「え?」
まったく心当たりがない。魔力なんて感じたこともないし、当然魔法を使ったこともない。神がそういう設定にしたってことか? 無双とかそういうのいいからエルドラドと仲良くなりたいんだけど。
「今から的を用意するから、全属性の魔法、一つずつ撃ってもらっていい? 失敗してもいいから!」
「え?」
神の設定のせいで晒し物になることが決定した。マジョ先生が手をかざせば、10メートルほど離れた位置に巨大な魔法陣が現れて、そこから巨大な機械的なゴーレムが現れる。
「あれなんですか、先生」
「何って、一年生の時も見たことあるでしょう? 絶対破壊ゴーレムくんよ」
「的の割には名前の殺意高くないですか? 俺破壊されませんよね?」
「あはは!」
……どっち? 「面白いこと言うわね!」の「あはは!」か、「されるわよ!」の「あはは!」か。身の安全を保障してくれよ。先生なら生徒を破壊するようなことしないって思ってても、ここは異世界だから元の世界の常識が通用するわけじゃねぇんだから。
「それじゃあまずは風から! 魔法に大切なのはイメージです。風に吹かれたことは誰だって一度はある。その風を掌握するイメージ」
魔力の感じ方教えてもらえません? そもそも魔力がどこにあるのかもわかんないんですけど。先生が言ってるイメージをちょっとやってみたけど、胸がなんかあったかくなったなぁってくらいで。
絶対これじゃねぇか。
それじゃあ、恥をかいてもいいから、とりあえずやってみよう。絶対破壊ゴーレムくんにぶつけるなら、多少強い風の方がいい。それなら、地下鉄の風をイメージしよう。なんか異様に風強いんだよな。あれのメカニズムってなんなんだ? 電車通ったらめっちゃ強い風吹いて、スカート履いてる人から咄嗟に目ぇ逸らして首痛めたりするし。
「きゃっ!」
地下鉄の風をイメージすると、突風が巻き起こった。しかしそれは絶対破壊ゴーレムくんを破壊することなく、ただ突風が吹いただけに留まった。
ていうか、きゃっ! って?
何か嫌な予感がして、後ろを向く。そこには、スカートを抑えて俺を睨みつけるエイリーン。
……スカートのことイメージしたから、とか? そんなバカな。あはは。
「あのね、伊世くん? いくらエイリーンさんが可愛いからって、スカート狙い撃ちするのはみっともないわよ?」
しかもエイリーンだけかよ。おいおい、終わったぜ俺。仲良しゲージ-200になってるもん。ごめんなぁ麻衣。ダメなお兄ちゃんで……。
「……ろす」
「え?」
「殺す」
《助けてくれ! 休み時間になる度にエイリーンが俺の命を狙ってくる!》
《命のやり取りなんて異世界ではよくあることだろう》
《元の世界は平和な日本だったんだよ! はいそうですかって受け入れられるわけねぇだろ!!》
信じられるか? 休み時間になる度に、ぐりんって俺の方を向いて、ゆらりと立ち上がって全力疾走だぜ? もう俺休み時間になった瞬間教室飛び出してるからな。なんなら授業始まる瞬間「先生! 俺、命を狙われてるので授業終わった瞬間教室を出ますが、気にしないでください!」って言ってるからな。
今は、掃除用具入れに入ってなんとかやり過ごしている。インディーズのホラゲーでよくある隠れ方みたいなことになるなんて思ってもいなかった。あと休み時間になる度に仲良しゲージがぐんぐん下がっていっている。もう終わった。俺たちは一生元の世界に戻れないんだ。
《クソ、なんで俺がこんな目に!》
《いきなり前途多難で華咲き誇る》
《草生えるみたいなこと? うるせぇよ!》
いやでも、ポジティブに考えろ。命を狙われてるってことはエイリーンは俺に夢中ってことで、ここから仲直りすれば距離を縮めることは可能なはず。問題なのは距離じゃなくて寿命が縮むどころか殺害される可能性があるってことだ。
この世界になってから散々だ。義母がサキュバスになってるし、エルドラドのエイリーンには何もしてないのに嫌われて、事故で更に嫌われて、泣きっ面に蜂からのマシンガンじゃねぇか。もう原型留めてねぇよ俺。
《そうだ! 人質を用意すればいいのか!》
《よくそんな非人道的なことを名案のように言えるな》
《向こうが俺の命を狙ってんだからお相子だろうが!》
《しかし、人質といってもどうするんだ? 向こうはまだ親しい仲の者はいないだろう》
《確かに、友だちならまだしも家族を人質にとるのはな……》
《友だちでもダメだろう》
うるせぇ! 人間、自分の身に危険が及んでねぇときはいくらでも綺麗ごとを吐けるが、いざ危険が及べばこうなるんだよ! あと元凶はお前だろうが!
さっきから麻衣は全然反応してくれねぇし……やっぱり「エルフ美少女のスカートを、風の魔法でめくったら命を狙われるようになった」って正直に言ったのがマズかったか? よく考えたら幻滅するに決まってるもんな。ところで、なんでこの程度のことをよく考えなきゃわかんねぇんだ?
《麻衣にも嫌われたし、家にはわけわかんねぇサキュバスがいるし、父さんはサキュバスに夢中だし、一人になったんだ、俺は……》
《私がいるだろう?》
《まぁ確かにお前めっちゃ綺麗だしなぁ。悪くねぇか》
《えっ、キュン……》
《ドキ……》
追い詰められすぎて、憎いはずの神様と冗談を言い合う始末だ。でもこの神様、結構ノリよくて話しやすいんだよな。もしかしたら俺も神なのかもしれない。
《冗談は置いといて、妹のところにエイリーンが現れたぞ》
《そういうことは早く言えよ!》
《今現れたんだ》
《そうか、ありがとう》
《いいよ》
やっぱり、変なことをするっていうだけでいいやつなのかもしれない。俺は麻衣を助けるべく、掃除用具箱から飛び出した。周りの人にめっちゃ見られた。