なんとしてでも元の世界に帰りたい兄妹VSファンタジー   作:酉柄レイム

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第6話 同情

 我ながら完璧なラブレターが書けたと思う。『体育館裏にきてください』なんて男なら誰でもドキドキする一文だろう。自分の才能が怖い。

 

 麻衣もかなり不安だったのか俺が書いたラブレターを読んで、「うわ、キモ……」って言ってくれたし。ちなみに「キモ」っていうのは、あまりにも恋する女の子の解像度が高くてキモかったらしい。つまり褒め言葉だ。

 

 そんな麻衣は、体育館裏に都合よく生えている巨木の裏に隠れている。なんでも、時間がぞろ目になっている時にあの巨木の下で告白すれば、今世どころか来世までも一緒になれるらしい。んなバカな話あるかって切り捨てようにも、神様の存在を知ってるからまぁあるかもなと半分信じている。

 

「あれ? 伊世じゃん」

 

 噂の巨木を眺めて待っていると、ルークスがきた。俺を見て不思議そうな顔をして、きょろきょろと周囲を見渡し、巨木を見て視線がそこで固定される。

 

「あぁ、あっちか」

 

 なんて呟いて、ルークスが目の前から掻き消えた。かと思えば、巨木の裏から「うわっ!!!??」と麻衣の悲鳴が聞こえてくる。

 

 あいつまさか、麻衣の気配を感じ取ってラブレターの送り主を麻衣だって思ったってことか!? クソ、勇者の才能を甘く見ていた! このままじゃイケメン好きの麻衣があっさりとルークスに惚れて、「私、この世界で生きていく!」って決意しちまう!

 

「ちっ、違うんです! ラブレター送ったのは私じゃなくて!」

「え? そうなのか? ワリィ。こんな可愛い子からラブレターもらえたんだって思って、テンション上がっちまった」

「私です」

「待てやコラ!!!」

 

 ものすごい早さで訪れようとしていた恐れていた事態を止めるために全力疾走。なぜか魔力で勝手に身体能力が強化されて、一瞬で二人のところに辿り着き、メスの顔をしている麻衣とルークスの間に入る。

 

「麻衣テメェ、流石に尻軽が過ぎんだろコラ……!!」

「だ、だって! 想像してみてよ! めちゃくちゃいい人でみんなからの人気者で美人で可愛い子が、兄貴から好意向けられてることに対して嬉しいって言ってくれたらどう思う!?」

「当然って思う」

「思い上がるなよ」

 

 とても強い言葉を使われた。おかしいな、思ったことを率直に言っただけなのに。聞いてきたのそっちだろうが。

 

「えーっと、これどういう状況?」

 

 忘れていた。呼び出しておいて、麻衣があまりにもチョロすぎたから放置してしまっていた。

 

 振り向けば、不思議そうに首を傾げている。クソ、顔いいなこいつ。首傾げてもイケメンかよ。そりゃそうか。顔の角度変わっただけだしな。

 

「悪い、ルークス。あのラブレターを書いたのは俺なんだ」

「えっ……!? タンマ! 気持ちは嬉しいけど、俺女の子が好きなんだよ!」

「待て! ラブレター書いたのは俺だけど、告白したいってわけじゃないんだ!」

「嘘つけ! あんなキュンキュンするラブレター、恋してなきゃ書けねぇぞ!」

「わかる」

 

 ルークスの言葉に理解を示す麻衣。どうやら俺の味方はいないらしい。まさか俺のラブレターがラブレターすぎて話がこじれるとは思っていなかった。もうこの道で食っていこうかな。勇者がキュンキュンするならラブレター代行やれば結構儲かるんじゃねぇの?

 

 いや、今は商売のことは考えるな。まずルークスの誤解を解いて、エイリーンと仲良くするために協力を取り付けないといけない。麻衣もそれわかってるよな? 何ルークスに同意してんだよ。イケメンの味方かお前は。

 

「まず、経緯を説明させてくれ」

「俺を好きになった経緯……?」

「違うっつってんだろ! 聞け! 俺は最近、お前をじっと見つめていたんだ!」

「何がちげぇんだ……?」

「兄貴、わざとやってる?」

 

 何を? 俺はいつも真面目だぞ。確かに誤解を解こうと必死になっているところはあるけど、何も間違ったことは言っていないはずだ。俺が間違ってないって思ってるだけで周りから見たら間違いだって言われたら、そりゃもうその通りだ。

 

「なんて言えばいいんだ……! あ、そう! 俺はルークスと友だちになりたいんだよ!」

「まずはお友だちからってことか……?」

「だから違うって! ほら、ルークスっていっつも周りに誰かいるだろ? だからこっそり話せる環境がほしかったんだよ」

「別に、友だちになるくらいなら教室で話しかけてくれりゃいいだろ?」

 

 麻衣を見ると、力強く頷いた。ここだ。このタイミングで、エイリーンと仲良くするのに協力してくれって言えば納得してくれるはず。ったく、肝が冷えたぜ。まさか異世界で勇者とのラブストーリーが始まろうとするなんて思いもしなかった。

 

「実は、ルークスに頼みがあるんだ」

「頼み?」

「おう。俺、エイリーンと仲良くなりたいんだよ」

「エイリーンと……あぁ、それでこっそり話したかったのか」

 

 よし! どうやらルークスはバカじゃないらしい。俺がエイリーンにやらかしたから、ルークスとこっそり話したかったっていうのは理解してくれたみたいだ。よかった。ちょっとだけ「エイリーンのことが好きなのか?」みたいな勘違いされると思ってたから。

 

「エイリーンのこと好きなんだな?」

 

 されてんじゃねぇか。

 

 いや、自然な流れか? だって仲良くなりたいだけって結構不自然だ。エイリーンが男ならまだしも、女の子だからそりゃあ男女のあれこれを考えてもおかしくない。これに関しては俺の見積もりが甘かったっていうしかないけど……。

 

 さて、どうしよう。エイリーンとは仲良くなりたいだけで、別に恋人になりたいわけじゃ……ないってはっきり言えない。めっちゃ可愛いし。でも恋人になるのはナシだ。そうなってしまえば、元の世界へ戻りたくなくなってしまう。

 

「いや、好きじゃねぇよ。たださ、えーっと……」

「あれだよね。エイリーンさんが人間嫌いっぽいから、その理由が知りたい、みたいな」

「そう! 俺最初話しかけた時、気安く話しかけるなって言われたんだぜ? 俺に対してだけかと思ったら麻衣にもそうだったし……ちなみにルークスは?」

「ん? あー、流石にそんな言われ方しなかったけど、確かに嫌われてる感じはあったなぁ」

 

 ……あいつもしかして、ルークスがみんなの人気者だからって俺と区別しやがったのか? やっぱり恋人になりたくねぇわ。人間嫌いのくせに人間の中でランク付けしてんじゃねぇぞ。俺を雑に扱ってもいいって思ったってことだよな? マジで許せねぇ。

 

 ただ、ルークス本人が「嫌われてる」って感じるなら、エイリーンの人間嫌いは相当な感じがする。ルークスは底抜けにいいやつだし、嫌われる要素なんて妬みからくるものは別として一切ない。だから、俺と麻衣だけが嫌われてるってことはまずなくなった。

 

「エルフって人間嫌いなのか?」

「いんや? んなことねぇはずだぜ?」

「じゃあエイリーンさんが人間に何かされたとか?」

 

 気づけば三人揃って「うーん」と考え込んでいた。ルークスはお人よしだから、エイリーンの人間嫌いをなんとかしたいって思ってくれたんだろう。傍から見れば余計なお世話かもしれないけど、勇者なんて余計なお世話しかやらないようなもんだ。これは俺の偏見。

 

「よし! そんじゃあエイリーンがなんで人間嫌いなのか、一緒に聞きに行こうぜ!」

「えっ、今から!? 待てって! 俺めっちゃ嫌われてんだよ!」

「仲良くなりてぇんだろ? 遠くからエイリーンのこと探ってて、それをエイリーンに知られたらもっと嫌われんじゃね?」

「……確かに」

 

 そうだな、そりゃそうだ。やっぱり俺が最初冗談で言った通り、根気強く話しかけるしかないんだ。俺はエイリーンが嫌いな人間とは違うってことを、時間をかけて証明するしかない。

 

「いってらっしゃーい」

 

 ルークスに手を掴まれて連行される俺を、麻衣が手を振って見送ろうとした。それに対して首を傾げたのはルークス。元気よく動かしていた足を止めて麻衣を見たかと思えば、「麻衣ちゃんも行くんだろ?」と人の妹を勝手に名前呼びしやがった。

 

「はっ、はい! いきます!」

「麻衣、人は顔じゃねぇんだぞ?」

「ルークスさん、中身もいいじゃん」

「ぐぅ」

 

 正論をぶつけられたが、辛うじてぐぅの音は出た。

 

 

 

 

 

 ルークスを先頭に、教室へと突撃する。教室中の注目が集まったことを気にもせず、ルークスはずんずんとエイリーンのところへ歩いていって、気軽に声をかけた。

 

「エイリーン! 一緒に飯食おうぜ!」

「申し出は嬉しいですが、お断りさせていただきます」

 

 嬉しい……? 俺に対しては人間風情がとかいうやつが、嬉しいだと? 同じ人間だぞ? どうなってんだこの世界は! 不公平だ!

 いやでも、ルークスに対してすぐに断りの言葉が出たということは、程度の差はあれ人間嫌いは間違いなさそうだ。表情を見れば嫌そうな顔をしているし、俺を見てもっと嫌そうな顔になったし。テメェ、喧嘩売ってんなら買うぞ? 多分負けるけど。

 

 ま、このままルークスだけに任せるわけにもいかない。仲良くなりたいって頼んだのは俺なんだ。俺も何か言わないとルークスに申し訳ない。

 

「まぁまぁ、そんなこと言わずにさ」

「口を開くなドブカスが。あなたの顔なんて見たくもないので、即刻立ち去っていただけませんか? 私のことをいやらしい目で見るばかりか、無縁慮に話しかけて気分を害すなんて見上げた害虫根性ですね」

「めっちゃ喋ってくれるじゃん。これは仲良くできそうだな」

「行き過ぎたポジティブ……」

 

 なぜか麻衣が引いて、エイリーンが目を丸くしてびっくりしている。ルークスは爆笑していた。よしよし、よくわからないけど感触はいいみたいだ。なぜか仲良しゲージ上がったし。

 

 好きの反対は無関心とはよく言ったもので、まだこうして喋ってくれるだけマシだと思う。それに、ちゃんとした暴言を吐いてくれるならもっとマシだ。俺のために頭を回して、罵倒を考えてくれたってことだからな。本当に嫌いで興味がないなら無視でいいはずだ。

 

「あの、大変ですね……」

 

 俺が一人納得して頷いていると、エイリーンが麻衣を見て同情していた。なぜだ?

 

「まぁ、大変です……」

「人間だからと敬遠しすぎました。お話くらいであれば努力します」

「お、やったぜ!」

「あなたには言っていません」

 

 俺には言っていないらしい。まぁ、麻衣が仲良くなれるなら俺も自動的に仲良くなれるだろ。なんせ俺と麻衣は兄妹だからな。同じ遺伝子を持っているなら当然だ。

 同情から話が繋がって、エイリーンと麻衣が話し始める。ルークスはそっとエイリーンから離れて、取り残された俺に近づいてきた。

 

「幸先よさそうじゃん!」

「だな。ありがとうルークス」

「いいって!」

 

 気にすんな! という意図で俺の肩を叩いたルークス。直後、ルークスの力が強すぎて俺は床をのたうち回った。ひ、人殺し!

 

 

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