なんとしてでも元の世界に帰りたい兄妹VSファンタジー 作:酉柄レイム
エイリーンの人間嫌いを克服すると約束してから、一週間が経過した。麻衣は結構仲良くなったみたいで、仲良しゲージは40を突破したらしい。人間嫌いとは言っていたが、麻衣の仲良しゲージの上がり幅を見る限り偏見のようなものなんだろう。本当に人間嫌いなら、一週間で二倍にならないはずだしな。
かくいう俺も順調で、-500をキープしている。これで順調だと言わざるを得ない体たらく。ただ、減っていないだけマシだと思う。仲良しゲージが減らないということは、距離感をうまく保てているということだ。
「でも、距離感うまく保ってても、仲良くならねぇと意味ねぇよなぁ。エイリーンが俺に膝枕してくれて、よちよちしてくれるようになるにはどうすればいいと思う?」
「そんな性癖が透けて見える気持ちの悪いこと、エイリーンさんがいる前で言うことじゃないよ」
俺、麻衣、ルークス、エイリーンで学校から帰っている中で放り投げた俺の相談は、どうやらここでするものじゃなかったらしい。せっかく保っていた-500の仲良しゲージが、一気に-777まで下がってしまった。前も-777までいったから、もしかして-777が最低ラインか? 縁起がよくていいな。
エイリーンは心底気持ち悪い物を見る目で俺を見下し、ルークスは「わか……セクハラはよくねぇぞ?」と俺に注意する。一瞬「わかる」って言いかけてたなこいつ。なんか最近俺に影響されて俺のノリに近づいてきてるんだよな、ルークス。そろそろルークスの両親に謝る準備をしておいた方がいいかもしれない。
しかし、本格的に嫌われてるなぁ。なぜだ?
「私が人間嫌いというのもありますが、ゴミの元々の性格を考えれば、嫌う方が正常だと思えてきました」
なんか俺の呼び方が『ゴミ』で固定されてるし。
「エイリーンさん。気持ちはわかりますけど、ゴミって呼ぶのはよくないですよ?」
「気持ちはわかるのかよ。まぁゴミってカラスに人気だし、カラスってカッケーからよく考えれば悪くねぇか」
「兄貴がポジティブすぎてフォローのしがいがない……!!」
「いいじゃんポジティブ! 一緒にいておもしれぇし!」
涙をこらえるように顔を抑える麻衣の方に、エイリーンの手がそっと添えられる。俺はルークスに肩を組まれて、力が強すぎて万力かと勘違いしたのに、なんだこの違いは。麻衣はイケメンが好きだから麻衣にやってやれ、ルークス。
……あと、多分エイリーンって楽しいっていうか、笑えるのが好きだよな。今のやり取りで俺の仲良しゲージが-500まで上がったし。そう考えたら、クソほど罵倒されていても可愛いなと思える。よかったな、俺のメンタルが鋼で。一般人ならとっくにくじけてたぞ。
《一般人とチンパンジーって似ていると思わないか?》
《は? 黙れ》
《ちょっとお茶目をした神になんて仕打ちを……》
くだらないことを抜かした神様を黙らせて、いつもの分かれ道でエイリーンと別れる。「麻衣さん、ルークスさん、また明日。ゴミは二度とそのツラ見せるな」と微笑むエイリーンにウィンクすると、仲良しゲージが-800になった。-777が限界じゃなかったことがここに証明された。
「うーん……私はともかく、兄貴とは全然だね」
「そうか? 言葉はともかく、ちゃんと俺に対しても声かけてくれてるし、全然順調だと思うけどなぁ」
「な! 甲斐はおもしれぇし、エイリーンもそこは気に入ってると思うぜ!」
「ポジティブお化け二人に挟まれると、自分がおかしい気がしてくる……」
「後ろ向きに考えたって仕方ないくらい嫌われてるからな」
麻衣が無言で俺を撫でてくれた。優しさが沁みるぜ。
でも、そろそろ本格的にどうにかしないとマズいとも思っている。今は4月中旬で、仲良しゲージが-800まで下がってしまっている。このペースで行くと、エイリーンと仲良くなれるのが俺だけ一年以上かかりそうだ。その頃にはこの世界に馴染んでしまっている。
ただ、もしも次のエルドラドがエイリーンを攻略しなくても現れるのなら、エイリーンは時間をかけて仲良くなっても問題ない。同時に複数のエルドラドと仲良くなるのは難しい気もするが、まぁなんとかなるだろ。
《そこんところどうなんだ?》
《黙れって言われたから黙ってまーす》
《じゃあいいや》
《えっ、あっ、その、ゲームみたいに仲良しイベントが起きたらエルドラドだってわかるぞ!》
神様がチョロくて助かる。仲良しイベントっていうと、エイリーンとは心当たりがありすぎるな。その悉くで失敗した心当たりもある。
逆にいうと、ルークスはエルドラドじゃないってことか。もしかしたらルークス個人のイベントじゃないからっていうこともあるかもしれないが、可能性は薄いだろう。残念だ。ルークスとはもう仲良しゲージ80いってるくらい仲良しだと思ってるのに。
「しっかしなぁ。エイリーンの人間嫌いって別にそこまででもねぇと思うんだよなぁ。甲斐はしょんべんちびりきるくらい嫌われてるけど、俺と麻衣ちゃんはそうでもねぇし」
「ちびりきるってなんだよ誰が残尿お化けだよ舐めてんじゃねぇぞテメェ」
「二人とも、道の真ん中でおしっこの話するのやめて」
「じゃあ今度おしっこの最中に道の真ん中の話でもするか。それで帳尻合うだろ」
「甲斐、お前よく天才だって言われね?」
ほら。仲良しゲージ80いってないとこんなやり取りできないだろ。おしっこでここまで会話を広げられるのは、仲良しじゃないとできない。その代わり麻衣からの評価がぐんぐん落ちているのを感じるが、家族だから別にいい。エイリーンがここにいたら終わってたな。
でも、もしエイリーンが下ネタ好きなら恋をする自信があるから、試してみる価値もあるかもしれない。まぁ、そんなことのために女の子を嫌な気持ちにさせるのはダメだからやんねぇけど。スカート捲りは、アレだ。俺の意思じゃない。
《それは嘘だろう。魔法には意思が宿る。お前にその気が一切なければ、あんなことは起こらなかった》
《そりゃエイリーンは誰がどう見ても可愛いし美人だからな。その気がないって言ったら流石に嘘だろ》
《お前、なんでそういうところは男らしいんだ》
《兄貴は正直なだけだから。普通美徳になるはずなんだけど……》
《なんでそこで言葉を切ったんだ?》
《それがわからないなら、一生美徳にはならなさそうだな》
《そういえばさ、神様ってマジで美人だよな》
《これは美徳》
多分、神様とも仲良しゲージ80いってると思う。神様楽しくてかわいい。麻衣はなんか可愛いって思いながらもなんか警戒してるけど、今更神様を警戒したところで仕方ないと思うんだよなぁ。世界丸ごと変える力持ってるなら、俺たちが逆立ちしたってどうにかできるとは思えねぇし。それならせっかく神様が可愛いんだから、仲良くしときゃよくね? と思ってしまう。
ちなみに、この楽観的な思考を持っている俺を兄に持つ麻衣を哀れに思ったのか、エイリーンがよく麻衣を慰めている姿を見かける。もしかして俺、改めた方がいいのか……?
「……うーん」
「どうした、ルークス。ところでもうアーサーって呼んでいいか?」
「お、いいぜ! いやさぁ」
神様との付き合い方について悩んでいると、アーサーが俺と麻衣を見て、腕を組んで首を傾げていた。悩み方一ついちいち絵になる男だな、こいつ。面食いの麻衣が見惚れてるじゃねぇか。普通にマズいんだよな。この世界、なんか顔面偏差値クソ高いし、麻衣が誘惑に負けて「もうこの世界のままでよくない?」って言い出す日も近いかもしれない。俺は麻衣がいいならそれでいいけど。
アーサーは珍しく何かを言いづらそうに口をもごもごさせた後、「あのさぁ」と言い淀んだ。
「二人とも、時々誰かと話してねぇか?」
「あぁ、神様と話してる」
「ちょっ、兄貴! 言っていいの!?」
「神様と話してんのか! すげぇなぁ」
「言ってよさそうだ……」
別に、アーサーに話したところで何もないだろ。めちゃくちゃな宗教家とか、神様に関わる人に言うと嘘だとか冒涜だとか言われるかもしれないけど、アーサーはいいやつだからな。普通に気になっただけなんだろう。
「なんか、時々二人から悪そうな気配したから、変なのに絡まれてんじゃねぇかって心配だったんだよ! 神様ならよかったぜ」
《こいつ! 私を変なのって言った! 悪そうだって言った!》
《そういうのを気にせず許せるのが、神様のいいところだよな》
《だろう? 別に気にしていないからな。怒るパフォーマンスを見せただけだ》
本当に扱いやすくて助かる。よく考えれば、神様も俺たちが喜ぶと思ってサプライズ的に世界を変えただけかもしれないし、悪いやつじゃないからな。アーサーと会わせてもいいかもしれない。
……でも、悪そうな気配、か。アーサーが感じられるなら、エイリーンもやっぱり感じられるんだろう。神様の醜悪な気配を。マズいな、神様と仲良くしたいのに、そのせいでエイリーンと仲良くできないなんて。どうすればどっちとも仲良くできるんだ?
……そうか、エイリーンが神様のことを醜悪だって思ってるなら、神様と会ってもらえばいいんだ。そして神様が醜悪じゃないって思ってもらえばいい。醜悪だって思ったままでも、醜悪な中でもまだマシな方だなって思ってくれればいいんだ。
《神様、エイリーンと会ってくれないか?》
《彼女を親に会わせる時みたいな頼み方するな。あと答えはノーだ。本当にムリという時まで、私は手助けをせん》
《まぁ、仲良しゲージ-800は本当にムリってわけじゃないもんな》
《本当にムリだと思うけど……》
まったく、麻衣は後ろ向きなやつだぜ。
神様と会ってもらうのが無理なら、根気強くエイリーンと向き合うしかない。人間嫌いだって言っても、麻衣と仲良くできてる時点で俺が仲良くできない理由がない。
「どうすればエイリーンと仲良くなれるか……プレゼントとかどうだ?」
「ゴミって呼ばれてるのに?」
「ゴミ漁ってていいもの出てきたら嬉しいだろ」
「そ、れは、そうだけど、そういうことじゃなくて」
「でもいきなりプレゼントって意味わかんねぇから、あれだ! まずは一緒に遊ばね? ゲーセンとか!」
「いいな! 明日誘うか!」
「ちょ、止まらないこの二人!」
いいな、「止まらないこの二人!」って。煽り分みたいでカッコいいぜ。