なんとしてでも元の世界に帰りたい兄妹VSファンタジー 作:酉柄レイム
ゲームセンター。クレーンゲームや対戦ゲーム、ガンシューティングなど色々暇を潰せる遊技がある、ほとんどの学生は利用したことのある場所。
しかし、エイリーンはきたことがなかったらしく、ゲーセンに入った瞬間目を丸くして、見るもの見るものを指して「あれはなんですか?」と麻衣とアーサーに聞いている。質問すら俺に飛ばしてこない徹底ぶり、流石だぜ。
「気になるやつからやってみようぜ」
「話しかけるな、コバエが」
「俺はコバエじゃねぇよ。羽ついてねぇだろ」
「もっとコバエじゃないって否定できる要素あると思うけど……」
はしゃいでいるのに俺への嫌悪感は丸だしっていうことは、本格的に嫌われているらしい。
ただ、ゲーセンといえばクレーンゲーム、クレーンゲームといえばかわいいぬいぐるみ、かわいいぬいぐるみといえば、女の子が取れずに「あれほしいのに……」ってなっているところを、颯爽と取ってやってプレゼントすれば好感度が上がる。俺のプランが完璧すぎて反吐が出るな。ん? 反吐が出るっていう表現の場所これであってたっけ?
エイリーンは興味深そうにゲーセンを歩き回って、あるクレーンゲームの前でぴたりと足を止める。ちらと覗いて見れば、人間の頭くらいのサイズの綿毛を模したキャラクターがいた。名前は『ディーデリヒ・ワグナー』というらしい。可愛らしい見た目にはまったくそぐわないカッコいい名前だ。
「その子ほしいんですか?」
「い、いえ……私には似合いませんし……」
「そうか? エイリーン可愛いしめっちゃ似合うけどなぁ」
「……そんなことないです」
アーサーがさらっとエイリーンを褒めると、赤面。オイ、お前人間嫌いって嘘だろ。絶対俺が嫌いなだけだろ。何恋が始まりそうになってんだよ。俺は温厚な方だけど、怒るときは怒るんだぞ? 確かにアーサーは性格がよくてノリがよくて運動もできて顔もスタイルも抜群だが、俺だって負けて……ほら、俺ってよく面白いって言われるから。多分そこは勝ってる。他は負けを認める。こうしてすぐに負けを認めることで潔さでも勝利するっていう寸法だ。
「エイリーンさん、やってみます?」
「……ルークスさんが似合うと言ってくれたなら、やってみます」
「ちなみに、俺も似合うと思うぞ」
「聞いてねぇよ、虫けら」
口調が崩れるくらい俺の好感度は低いらしい。仲良しゲージが-900だから火を見るよりも明らかだ。っていうか今日の朝会った時点で-900だったんだけど。昨日の時点では-800だったから、こいつ家で俺のこと思い出して勝手に嫌いになってやがる。お前の頭ん中で俺がどうだかは知らねぇけど、勝手に嫌ってんじゃねぇよ。
エイリーンがお金を入れて、ディーデリヒ・ワグナーを取りに行く。異世界っぽい世界になったからゲーセンも多少は変わっているかと思ったが、動力が魔力になったくらいで他はそんなに変わっていない。ガンシューティングが魔弾になっていたり、対戦格闘が3D空中戦になっていたりするだけだ。クレーンゲームは元の世界とまったく変わらない。
エイリーンの操るアームが二本のクレーンが、ディーデリヒ・ワグナーをかすめる。当然というべきか、クレーンゲーム初心者のエイリーンはディーデリヒ・ワグナーを獲得することができず、しばらくの沈黙が訪れた。
「もう一回やります?」
「しかし、無駄遣いでは……」
「本気でほしいなら、取るまでにかかる努力は無駄じゃねぇだろ!」
「ルークスさん……」
「そうそう。ほしいっていう気持ちがあれば、その無駄も楽しくなってくるぜ」
「黙れよお前。しょうもない意見ですね」
「アーサーと同じようなこと言っただろうが」
なんか仲良しゲージ-777になったし。なんなんだこいつ。嫌われすぎて一周回って好きになってきたぞ。まぁ今のままだと告白しても一蹴されるだろうけどな。がはは。
《くっ……ふふっ》
どうやら俺のクソ下らないジョークが神様のツボに入ったらしい。神様との付き合いは今後考えていこうと思う。俺まで同じレベルだと思われる。
エイリーンはその後計五回挑戦したが、ディーデリヒ・ワグナーはころころと転がるだけ。綿毛がころころしているのは可愛らしいが、エイリーンの表情は険しくなっていく。
……ここだな。俺が取ってもいいが、せっかくの初体験なら、自分で取った方が喜びも大きいだろう。一つ助言をして、仲良しゲージを上げに行くか。
「エイリーン。俺から助言なんて聞きたくねぇだろうけど、聞いてくれ」
「……聞いてあげなくもないです」
「ありがとな。クレーンゲームにはコツがあるんだよ」
「コツ?」
「あぁ、コツだ」
「どんなコツが?」
「コツがあるっていうことを教えただけだ。詳しくは知らん」
思いきり足を踏み抜かれた。アーサーは爆笑している。て、テメェ、人が痛い思いしてるってのに……! でもなぜか仲良しゲージが-300になってるから結果オーライか。どうやら俺が伝えたコツがお気に召したらしい。
まぁ、コツがあるっていうことを知るだけでちょっとは違うからな。闇雲にやるより、今まで挑戦した軌跡を見て、どうすれば取れるかを考える。そのきっかけを与えてやったんだ。別に今適当に考えたわけじゃなく、本当にそう思ってたんだぜ? ほんとに。
《本当にって念押しするやつに限って、全然本当じゃないと思うんだが》
《わかるー》
《同調して肩を組んできたところ悪いが、お前のことだぞ》
神様め、失礼なやつだ。今度会った時、膝の上に乗せて頭を撫でてやろう。偉そうにしている神様からすればこの上ない屈辱だろう。
俺の助言を得たエイリーンは、再びクレーンゲームに挑む。どうやら、片側のアームを引っかけて少しずつ移動させる作戦にしたらしい。この分なら、もう助言しなくても取れるだろう。
ディーデリヒ・ワグナーがころころしながら、取り出し口に近づいてくる。ここまでかかった金額は1500円。このサイズのぬいぐるみなら、まぁそれくらいしても許容範囲か。クレーンゲームでの遊技代も含めたら安い方だろ。
取り出し口付近に近づいたディーデリヒ・ワグナーにアームが引っかかって、ころんと転がる。敷き詰められたカラーボールの上をころころ転がっているだけだったディーデリヒ・ワグナーは、アームによって取り出し口に叩き落とされた。
「きっ、消えました!」
「落ち着け。とれたから。下の取り出し口にディーデリヒ・ワグナーがいるから」
「わ、わかってますよ。あなたみたいにふざけてみただけです」
俺に対して珍しくまともな返事をしたエイリーンが取り出し口に腕を伸ばし、綿毛を胸に抱えて可愛らしい笑みを浮かべる。いいな、エルフの美少女と綿毛。森の中に入って遭難して、気絶する直前に見そうな光景だ。ここゲーセンだけど。
「とれました!」
「よかったですね、エイリーンさん! 綿毛ちゃんかわいい! 触ってもいいですか?」
「えぇ、どうぞ」
「わ、ふわふわー!」
エイリーンの胸に抱かれたディーデリヒ・ワグナーを麻衣が触り、その感触にきゃっきゃしている。ふむ……。
「なぁアーサー。触ってもいいか? ってエイリーンに言って胸を触った後、何をしたらセクハラになると思う?」
「なんで胸を触るのはセクハラじゃねぇと思ったんだ?」
冗談だよ冗談。ちょうど麻衣とエイリーンがディーデリヒ・ワグナーに夢中だから、男同士じゃないと言えない冗談を言いたくなったんだ。
《私は女だぞ》
《わかってる。そんなに綺麗で可愛いんだから》
《きゅん……》
神様がチョロすぎて不安になる。この神様が俺たちの世界を管理しているなら、悪いやつに騙されたらそいつの思い通りになるんじゃないだろうか。元々、ただの一般人である俺たちの脳内を勝手に覗いて、勝手に願ってもない願いを叶えたようなやつだし……。まぁかわいいからいいか。
「よかったなエイリーン! やっぱり似合うぜ」
「あ、ありがとうございます」
アーサーが下心なくストレートに祝福すると、エイリーンはディーデリヒ・ワグナーをぎゅっと抱いて俯き、頬を赤くする。なるほど、あぁやるのか。
「よかったなエイリーン。可愛いぜ」
「麻衣さん。お手洗いはどこでしょうか」
「ゲボ吐くくらい不快だったってこと?」
俺の目を見てエイリーンがしっかりと頷いた。正直者は嫌いじゃないぜ。
あの後、色んなゲームで遊んで、なんやかんやあって仲良しゲージを-300でキープすることに成功した。マジで順調だ。やっぱり麻衣が「プリクラ撮りましょ!」と言った時、「じゃあ俺が撮ってやるよ」と冗談で言ったのがお気に召したらしい。噴き出してたしな。どっちかっていうと嘲笑っぽく聞こえたから、俺を下に見すぎてて「こいつ、プリクラも知らねぇのかよ」みたいな笑いだった気もするけど。
「その……今日はありがとうございました。あなたには言っていません」
「俺が何かアクション起こす前に封じるのやめてくれない?」
「すみません、声も聞きたくないので」
「なら仕方ねぇか」
「ルークスさん。兄貴って病院に連れて行った方がいい精神状態だと思います?」
「ただおもしれぇだけだと思うぜ」
いや、これが仲良しゲージもない状態だったら俺もカチンときてると思うけど、-300だってわかってるからな。嫌いなやつの声を聞きたくないっていうのは理解できる。だから仕方ない。俺は何か変なことを言っているか?
「今日は楽しかったです。麻衣さん、ルークスさん」
「私も! エイリーンさん可愛かったので満足です」
「麻衣ちゃんも可愛かったけどな! 甲斐が羨ましいぜ」
「お前も心底エイリーンから嫌われてみるか?」
「多分精神性は甲斐とほぼ一緒だから、問題ねぇと思うんだよ」
「確かに」
アーサーと肩を組んで「あっはっは!」とバカ笑い。でもお前、エイリーンを前にして嫌われることに対して「問題ない」はデリカシーないぞ。エイリーンが今の俺たちを見て優しく笑ってくれるいい子だからよかったけど。
待て、優しく笑ってくれる? 俺がいるのに? 俺が視界に入ってたら笑うことなんてないはずだ。もしかして仲良しゲージが……-300だ。変わってない。
「……あなたは、これだけ私に嫌われているのに全然変わりませんね」
「ん? 他人にどう思われるかで自分を変える意味がねぇだろ」
「あります」
話しかけるなとか黙れとか、そういう言葉以外で俺に話しかけてきたのは初めてかもしれない。内心驚きながら返事をすれば、強い語気で返される。
エイリーンはディーデリヒ・ワグナーをぎゅっと抱きしめた。
「……ここまでよくしていただいて、話さないのは不誠実かと、思いますので。聞いてくれますか。人間嫌いの理由」
「話したくないなら無理に言う必要ねぇぞ?」
「待てアーサー。話してくれるって勇気出して言ってくれたんだ。聞かない選択肢ねぇだろ」
「マジで俺と一緒に勇者やらね?」
「アリ」
軽い調子で言葉を交わす俺とアーサーを見て、エイリーンがくすりと笑った。