玲はその日を楽しみにしていた。それが自分の元に来る日を。
自分で考えた。プレビュー機能で何度も見て、その出来に満足していた。
だが舐めていた、考えが足りなかった。それが実在するという事を、甘く考えていたのだ。
駄目だった、抑えられなかった。それを見た瞬間、玲は感情が爆発した。
「おじーちゃんっだぁいすきーっ」
オリジナルモンスターボールがやってきたのだっ。
玲は祖父に抱き着いた。祖父の鼻の孔は盛大に広がっていた。
玲はこの日、五歳になった。ポケモンを捕まえることが出来るようになったのだ。現在の時刻は午後六時、もう遅いので明日までお授けだが。そこはしょうがない、祖父も仕事があったのだ。
目の前にあるものを見る。ボールが十個入った、特別製のビニール袋。中からボールを一つ手に取り、穴が開くほど見て頷く。完璧だ。
形は原作とそんなに変わらない、必要な機能を考えたらこの形なるのかなと思う。
色は白一色。タイプマーク十八個を、重ならないように彫ってある。
水滴型のタイプ色の石を、開閉口の溝に沿ってグラデーションで上下に配置。
ポケモンが飛び出た時のエフェクトは星。
玲は全てのタイプのポケモンを使っていきたい思っているが、そのポケモンに似合わないボールにはしたくない。
タイプ別にボールを用意する案もあったが、何を出すか予想されやすいのは問題がある。時間もお金もかかるし。
なので、どのポケモンが入っていても変ではない。この条件で玲は妄想を爆発させた。
そしてこれだけでは終わらない、祖父はもう一つ荷物を持っていたのだ。
専用タブレット。ポケモンの管理、転送何でも御座れの凄い奴。ちなみにポケモンを長く入れておくことは出来ない。セーフティが起動して、一定時間でボールが出てきてしまうらしい。
この二つには勝てねえよ…、同時に来るんだもの思考も飛ぶって。
「ほら、これで明日になったら使える」
「うんっ、ありがとうおじいちゃん!」
「おぉ、大事にするんだぞ」
祖父がタブレットを操作しテーブルに置く。どうやらアプリの初回起動に時間がかかるみたいだ。仕方がない、聞いただけでとんでもないと思うような機能があるのだ。機械に詳しくないが、そういうものなのだろう。
待ち遠しい。早く終わってほしい思いもあるが、見てるだけでもワクワクする。
銀一色のタブレット、この先どうカスタマイズするか。シールを張ったりのデコレーションは前世ではしなかったが、そういう楽しみもありかなと思う。遅々として進まない画面上のバーを見つめながら、待ってる時間を玲は楽しんでいた。
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転生とはなんなのだろう、どういう理屈なのだろうか。妄想の産物だった、体験するまで信じていなかった。こんなことなら考察でも何でもしておけばよかった。たとえ覚えてられなかったとしても、それでも今目の前で起こっている事態に何か答えが出せたのかもしれないのに。
朝起きて、専用タブレットの電源を入れた。待ち遠しかったので、早く起きたのだ。まだ誰も起きていなくて、渡邊さんもまだ来ていない。そんな静かなリビングで一人、電源を入れていたのだ。
初回起動は上手くできていて、玲は安心した。不具合があってやり直しなんて、頭がどうにかなってしまう。小さい手で画面を操作し進めていく。これでも中身は成人男性、こんな操作はお手の物。所々見慣れない記述があって止まったりもしながらも、画面をすすめていった。使用者登録も終わり、いよいよこれで始められる。
そう思いながらアプリを操作していたら、そこで見つけてしまったのだ。よくわからない、その文字列を。
何かは分かる、はるか昔によく見ていた。覚えている、それ関係の文字は忘れていないのだ。しかし何故そこにあるのかが、道具欄にあるのかが分からなかった。アシレーヌ、ウーラオス、他にも十何匹ものポケモンの名前が五十音順に並んでいたのだ。
もしかしてと思う、自分と一緒にこの世界に来たのかと。ゲームからというのが自分と違うが、転生自体が意味不明なのだ。考えても仕方がない。
それより早く確認しなくては、出してみようと考えすぐ思いとどまる。ここで出して大丈夫なのか、出して危険はないのかと。
ゲームと同じ子だとは限らない、違ったら危険なんてものではない。もし同じ子だとしても、ゲーム同様なついているとは限らない。なついていても今まで出してやれなかった、怒っている可能性もある。
可能性を考えたらきりがないが、ここには家族がいるのだ危ない橋は渡れない。
家族に相談するべきかと考え、やめておく。相談なんてしたら、タブレットを取り上げられてしまう。そんなことになったら、中の子達がどうなってしまうか分からない。もし玲の育てた子達だとして、大事な子達に何か起こってしまうことを考えたら怖くて相談できない。
そこで玲は思いつく。
上手くいく保障ない。だが誰にも見られないという条件じゃ、他の案は思い浮かばない。いつまでも閉じ込めているみたいな状態でいさせたくないし、出来るだけ早く出してあげたい。
だがもう少し時間がたたないと始められない。
玲は時計の針を睨む。
―――朝十時。
外に人が少ない時間とはいつだろう、分からないのでこの時間に庭に出ていた。一人ではない、作戦の要のバウちゃんもいる。
玲の作戦はシンプルだ。バウちゃんにこちらが見えないように建物の陰で待っててもらい、道路や窓から見られない場所でポケモン出す。話しかけて、玲の子でなかったらバウちゃんを呼ぶ。玲の子なら手持ちになってもらう。怒っていたら、全身全霊で謝る。
危ないのは分かっている、しかし他に思いつかなかった。バウちゃんも危険だか、一人で出すことなんて出来ない。他のポケモンを捕まえて育ててから挑むのも、育つのに何年かかるか分からない。もしあの子だとしたら、早く出してあげたい。
上手くいってくれと願いながら、頭の中で何度も繰り返した行動を開始する。
皆好きで育てたポケモンだし愛着がある、だがどの子を選ぶかは悩まなかった。
ポケモンを好きなことを思い出させてくれた相棒を。二十何年かぶりに始めて、一目ぼれで決めた相棒を。
真新しい専用タブレット、そこに出ているその子の名前。指で触れた瞬間、光があふれだした。
「―――…」
「ひさしぶり…。えっと、わかる…かな」
マスカーニャ。
目が合った瞬間、確信する。この子は自分の相棒だと。玲の瞳が涙に濡れる、再会できた嬉しさと、しかしそれ以上の悲しさに。この子は今までどんな気持ちだったのだろう。顔を俯かせるその姿を見て玲のほほに涙が流れる。
「ごめんっね、いなくなってっ」
「ッ―――」
怒ってるよね、許せないよね。それでも一回だけ、一回だけチャンスが欲しい。そばにいるから、ずっと一緒にいて離さないから。震えながら、つっかえながら言葉を絞り出す。
「カニャーン」
「ありがとっ、ずっと一緒にいるからっ」
相棒が玲の体を抱きしめる、もう離さないという様に、強く優しく力をこめて。
玲も相棒を抱きしめ返す。二度と寂しい思いはさせない、そう心に誓いながら。
「ボワオッ」
「ごっごめんバウちゃん、だいじょうぶだよ」
どうやら、声で気付いたようだ。見慣れないポケモンに抱き着かれた家族の姿に、バウちゃんが吠える。心配してくれてありがとう、大丈夫だよ。
ちょっと離れてねマスカーニャ…だっ大丈夫いなくなったりしないよ、本当にちょっとだけだからッ。心配しなくて大丈夫だからッ。
なかなか離れてくれない相棒に説明する、ボールに入ってもらうだけだからと。大事な子に入ってもらう特別なボールだよと。相棒は快くボールに入ってくれた。嬉しそうなその顔を見て、玲の心に喜びがあふれだす。
マスカーニャは相棒だった、自分の好きになったあの子だった。他の子も育てた大事な子達だったのだ。玲は他の子も今すぐ出してやりたくなった。しかし玲は思い止まる、焦りすぎだと。ゲーム時代とは違うのだ、急にポケモンが増えるのは家族も困るだろう。
いずれは全員出すつもりだが、家族と相談しながら増やしていくべきだ。まずは今いる大好きなこの子を、家族に紹介しなくてはと玲は歩き出す。
それにしてもボールを持って来ていてよかった、まさか生身のまま出てくるとは。原作ボールが出てくると思っていたので、交換するため持って来ていたのだ。
そして玲は思った。確認ボタンも出なかったし、不親切だなと。
こんな使い方は、製作者も想定していません―――
最初の手持ちはマスカーニャでした