誤字報告もありがとうございます、大変助かりました
これからもよろしくお願いします
今日はいつもより長いです
玲は今、応援していた。膝の間にユキメノコを入れ抱きしめながら、心の中で必死に応援していた。
視線の先には数人の子供、どの子も不安そうに周りを見渡している。彼らはまだ相棒を選べていない、どの子を選べばいいか聞ける相手を探しているのだろう。
玲は思う、大丈夫だよと。どの子もみんな可愛いと、強く育ってくれるよと。玲は知っているのだ、目の前にいるポケモン達の力を。どの子もみんなうまく育てれば、戦い方の違いはあるが強くなる子達なのだ。
そのポケモン達も、子供につられて不安そうにしている。
見ていられない、だがどうにも出来ない。ここで動いたとしても、ろくなことにならない。その子が自分の想いで選ばなければ、絶対後で後悔する。ポケモンも主人になる子に選ばれたいはずだ。
どうにも出来ない状況に、ため息をつきそうになる。そんな時に玲は、一人の少女に話しかけられた。
「だいじょーぶー?」
「え?なにー?」
「いたいのー?」
人形のように可愛らしい少女がこちらを見ていた。プラチナブロンドのふわふわロング、染めていなさそうな髪のその少女に、玲の思考が一瞬止まる。
アニメか何かにいそうな、妄想の産物のようなその姿。現実にこのような少女がいるとは思わなかった。玲は六歳の少女に少し見惚れてしまった。
しかし少女の言葉を思い出し、玲の思考が戻ってくる。どうやら少女は玲の苦しそうな顔を見て、心配して声をかけてくれたようだ。見ればユキメノコも心配そうに、膝の間からこちらを見上げていた。先程まで新しいボールに喜んでいたのに今は曇り顔だ。
どうやらあの子達への心配が、顔に出てしまっていたらしい。
「ありがとー、だいじょうぶだよ。ユキメノコもありがとうね」
「ワラララ」
「そっかー、よかったー」
難しい顔をしていては、彼女達に心配をかけてしまう。相棒を見つけたであろう子供達にも悪い、楽しい空気がぶち壊しだ。笑顔で大丈夫だと伝えたら、彼女達は安心して微笑んでくれた。
「ボク白雪玲って言うの、きみは?」
「わたし音瀬紗更、よろしくねー」
「よろしくね、ササラちゃんって呼んでいい?」
「いいよー、わたしもレイくんってよぶねー」
おとせささら、どうやら彼女は祖母がフランス人のようだ。髪が綺麗だと言ったら教えてくれた。
しかし幼馴染イベントとはいえ、ガツガツ行き過ぎたか。やりすぎては嫌われてしまうかもしれない、玲は少し反省した。
「かわいいこだねー、わたしも見せてあげる」
「プクプク」
彼女が出したのはピンプクだった、膝の上に乗り甘えている。聞けば女の子らしい。かわいい少女達のツーショット、玲の動悸が激しくなる。
玲の心の中は気持ち悪いことになっているが、顔がいいのでとても絵になる。周りも大人も少年少女たちの、微笑ましい姿に微笑んでいた。両親に感謝だ。
「えー、よわそー」
「え…」
「プク…」
しかし、そこで無粋な高い声が響く。見れば、そこには少年とそのポケモンが立っている。どうやら少年は自分の相棒を自慢したいのか、胸を張って誇らし気にしていた。
相手は小学生だ、目くじらを立てることもない。見ればそのポケモンはとても綺麗で、少年が自慢したい気持ちもわかる。
だが玲には少女たちが傷ついている姿を見て、何も言わないなんて出来なかった。
「そんなことないよ。この子すごいんだよ」
「何だお前!なにがすごいんだ!」
それは少年…あのピンクの悪魔と言われたお姿になるお方だぞ?
これは言うことが出来ない。だが黙ったままという訳にもいかない、玲は口を開く。
「まもったり、ちいさくなったり、あと可愛い」
「それがなんだ!」
「こえがかわいい、あまえるのかわいい、あと可愛い」
「かわいいばっかり言うな!」
何だ少年、可愛いは重要だぞ。
見ればピンプクは可愛いと言われたことで照れている。紗更も相棒が褒められて嬉しそうだ。
「そんなにすごいなら、ボクとたたかえ!」
「え、あっ…やだー…」
「ピンプクー…」
「だめだよ、かわいそうだよ」
「なんだよおまえ!」
怖がる彼女達の姿に玲は少年を止める、しかしそれが気に入らないようで火に油を注いでしまった。
玲は困ってしまった、怒らせるつもりはなかったのだ。学校でのポケモンバトル相手だ、出来れば仲良くしていきたい。
「いいよおまえで、こい!」
「えー…」
ユキメノコを見れば、歯をむき出しにして少年を見ている。向こうのポケモンのポニータは、怖がっていて逃げたそうだ。これではあべこべだ。
周りを見れば、大人の皆さんは静観するようだ。
玲は不思議に思う、普通子供が争っていたら親は止めに入るだろうと。他の家庭の事は分からないが、うちの両親なら間違いなく止める。なのに両親は止めようとせず心配そうに見守っている。
教員の表情を見て、玲は思った。こういう事態も想定していたのだなと、親にも事前に通達していたのだなと。
子供にポケモンを与えるのだ、気が大きくなってしまうのも不思議ではない。こういう事も何回もあったのだと思う。見ればポケモンをいつでも出せるようにボールを手にしている、安全対策に問題はないのだろう。
おそらくこの後に起こる事を、子供への教訓にするつもりなのだ。生命を扱うのだ、いい加減には出来ない。それを大人が見守っている安全な状態で、子供に学ばせるつもりなのだろう。
玲は悩む、育成状況が分からないのが怖い。ステータスの差もあるし、タイプ相性もある。最初に与えられるポケモンなのだ、そんなに育っていないだろう。だがもし火なんか出されたらそこで終わる。
初めてのバトルなのだ、手心を加えた内容であって欲しい。おい少年、なに得意げな顔をしている。ホップを見習え、恥を知れ。
「ユキメノコ」
「ワラッワララ」
こんなにやる気を出して。主人を馬鹿にされたと思い、怒ってくれているのだろう。優しい子なのだ、出来れば痛い思いはして欲しくない。
トレーナーになるなら必要なのは分かる。だがどうしても思ってしまうのだ、怪我をして欲しくないと。
しかしいつまでも言ってても仕方がない、自分にできる全力でこの子を支えよう。負けたとしても、いっぱい抱きしめよう。
いつかやらなくてはいけないのなら、大人が見ていて安全なうちに経験しておこう。そう思うことにした。
「わかったよ、やろうか」
「やっとか!おそいぞ!」
「ごめんねー、レイくん…」
「プク…」
「だいじょうぶだよ」
玲は笑顔を浮かべる、彼女達に安心してもらえるようにように。大丈夫だよ、こんなの問題ないよと。彼女達に悪い所なんてなかったのだから、笑っていて欲しい。
どうやら玲の顔を見て、安心したようだ。その顔に笑顔が戻って来ている。ピンプクも嬉しいのか、玲の足に笑顔で両手を当てていた。
「こっちに来てね」
「あの、まってください」
やっと教師が来たかと思ったら、どうやら試合場に連れていかれるみたいだ。やはり既定路線、案内によどみがない。
だが待ってほしい、やらなくてはいけない事がある。
「なんだよ、おまえ!」
少年の前に立つ、玲はポニータの事が気になっていたのだ。ポニータは少年の後ろで、震えながら不安そうにこちらを見ている。その姿を見て玲は確信した、この子は戦いたくないのだと。
ここは現実でゲームとは違う、性格はステータスや味の好みに影響するだけではない。戦いたくない子だっていて当たり前なのだ。
「この子かっこいいねっ」
「え?あ、そうだろ!かっこいいだろ!」
「うんっ、それにきれいだし、すごいね。さわっていい?」
「すこしだけな!」
だが気になるからと言って、勝手に何かをするわけにはいかない。少年だって自分の相棒に許可なく何かされたら怒るだろう、自分だったら怒る。
なので玲は少年に許可をもらうことにした。どうやら上手くいったようで、少年は得意げな顔をして横にずれてくれた。
「だいじょうぶ怖くないよ」
「ポニィ…」
「ボク玲っていうの、この子はユキメノコ」
「ワララッ」
震えているポニータ、あまり近寄っては怖がらせてしまう。少し離れながら、玲は出来るだけ優しく声をかけた。大丈夫だよ、怖い事は何もしないよと。友達になりたいだけなんだよと。
一緒に来てくれたユキメノコも紹介する。どうやら玲の考えている事が分かったのか、ポニータが怖がらないように彼女も合わせてくれている。
ポニータはそんな玲の笑顔を見て、危険がないと分かったのか、近づいてきてくれた。
身振り手振り合わせ話し続ける玲、そんな玲に合わせ鳴くユキメノコ。そうやっているとポニータはとうとう玲に心を許してくれて、頭をこすりつけてくれた。
「ねえ、この子戦いたくないみたいだよ?」
「そんなことない!」
「でも怖がってたし、やめようよ」
不安そうなポニータ、その姿を見て少年も理解したようだ。自分の相棒が戦いたくないと思っている事が。だが認めたくないようだ、声を荒げてしまう。
玲にはその気持ちは分かる。少年は自分にすごい相棒が出来たことが嬉しくて、自慢したかったのだ。戦って相棒の凄さを見せたかったのだ。なのに相棒はそれを嫌がっている、その事実に興奮してしまっているのだ。
もし自分が外見相応の中身だったとしたら、周りの事を気にせずマスカーニャを自慢していただろう。そうは思いたくないが、相棒の気持ちを考えず戦いを挑んだりしたかもしれない。
あの少年はまだ六歳、感情のコントロールが出来なくて当たり前なのだ。
「もういいよ!」
少年は声を荒げ、ポニータにボールを向ける。何を言っても戦うことが出来ないと分かったのだろう、相棒をボールに戻すようだ。
しかしポニータは玲の背に隠れてしまった。体を見えなくするかのように、縮こまって震えている。
「なんだよ!なんでだよ!」
「そこまでにしようね」
少年の泣きそうな顔を見て心が痛む、もう少し上手いやり方があったのではないか。そう考え、玲は落ち込んでしまった。
そんな玲達の元に、教師が二人歩いてきた。どうやらここで終わりの様だ、もう少し早く来てくれればと恨めしく思う。
教師の一人は、少年の肩に手を置いて怒りを落ち着かせている。もう一人は、少年から受け取ったボールをポニータに向けていた。
自分に向けるポニータの寂しそうな瞳に心が落ち込む。
「レイくんだいじょうぶ?ごめんねー」
「ピンプックー」
落ち込んでいる玲の元に紗更達がやってきた、どうやら玲の姿を見て心配してくれたようだ。ピンプクも玲の足に抱き着き、励ましてくれていた。
「へいきだよ。ササラちゃんたちも怖かったよね、だいじょうぶ?」
「だいじょうぶ、レイくんのおかげだよ。ね、ピーちゃん」
「プクプクッ」
「ワラララ」
彼女は玲に感謝してくれているようで、嬉しそうな顔をしている。ピンプクのピーチ、愛称はピーちゃん。彼女も喜んでいてユキメノコと笑いあっている。
その光景に心が癒されるが、今の玲はそれだけでは足りない。この沈んだ心を浮き上がらせるには、もう一つ何かが欲しい。
「ねえササラちゃん、ボクと友達になって」
「えっあ、うん!いいよー、レイくん友達ねー」
「がっこう始まったらいっしょにご飯たべたりしようね」
「うん、たのしみねだねー」
玲の心は見事に浮かび上がった。学校生活への期待に笑顔が輝きだす。彼女達も楽しみにしてくれているのか、その顔に笑みがあふれる。
一緒にお弁を食べたり、放課後お話ししたり。ポケモンバトルをしたり、少し先の未来を話していく。
そんな笑顔であふれた空間に、近づいて来る者たちがいた。
「レーくんごめんね、こわかったわよね」
「へいきだよママッ」
玲と紗更の両親に、先ほどの少年とその父親だった。
母は玲の事がよほど心配だったのか、息子を抱きしめて頭を撫でる。父は息子が頑張る姿が嬉しかったのか、微笑んでいる。少し恥ずかしいが、心配させてしまったのだ受け入れよう。
紗更も両親と笑顔で話している。どちらの家族も仲は良好なのようだ。
「息子が済まなかったね。ほら高貴」
「ごめんなさい…」
少年の目は涙で濡れていて、父親に相当怒られたのだと察せられる。
見れば、両親は静観するつもりのようだ。紗更の親もそれは同じで、もしかしたら親同士で話し合いは終わっているのかもしれない。
「だ、だいじょうぶです。あの…あの子は」
「息子を怖がっていてね、学校に返したのだよ。安心していい、しっかり面倒を見てもらえる」
「あの…はい」
このままでは少年が可哀そうだ、何とかならないかと声をかけようとして気付く。少年が大事そうにボールを持っていることに。どうやら他の子を貰えたようだ。
学校用のポケモンが多いとは思ってたのだが、何かあった時のために多めに連れてきていたようだ。
やはり既定路線だったのだろう、このような事がよくあるのだと思われる。性格の合わない組み合わせなんて、あって当たり前なのだ。
向こうの親子はもう一度頭を下げて去っていった。しかしこのままでは凝りが残る、玲は口を開けた。
「ねえっ、ボク玲!きみは?」
「…こうき」
「コウキくん!こんどは戦おう、その子とつよくなって」
「っ、うん!」
「ボクもがんばってつよくなるからっ」
「うんっ、あの…ごめんねっ、ごべんね!」
もういいんだよ泣かなくて、その子の事は大切にしてあげてね。玲と紗更に泣きながら謝る姿を見て、玲は心の中で少年を応援した。
これから高貴は新しい相棒を大事にしていく、無理に戦わせる事なんてもうしないはずだ。もし戦うことがあったら、その時は相棒と心を通わせているはずだ。玲はその時のことを楽しみに思う。
高貴は歩いて行った。泣きながら、父親に頭を撫でられながら。その胸に大事そうにボールを抱えて。
ユキメノコという名のユキワラシです
紛らわしいですが、しばらくの間このまま行きます