これからもよろしくお願いします
―――四月某日。
この日の玲は、ポケモンのみんなとソファーで寛いでいた。午前中は庭で遊んでいたのだが、疲れてしまったのだ。
ポニータが我が家に慣れてきて元気に走り回るようになり、他のポケモンも一緒に走り回る。玲も頑張って走ったのだが、ポケモンにはとても対抗できない。ついには疲れ果て、庭に大の字で寝てしまったのだ。
ポケモンのみんなと一緒に、昼ご飯に呼ばれるまで眠っていたようで。渡邊さんに起こされたときは、マスカーニャに抱き着かれていた。他のみんなも近くで丸まっていて、その姿を見てとても癒された。
しかしその至福の時間とご飯だけでは、体力を回復させることは出来なかった。それで現在、リビングで休んでいるという訳なのだ
「バースゥ」
「ワラァ」
玲は今、エースバーンに胸に抱かれソファーに寝転がっている。午前中はマスカーニャと一緒に寝たので、午後からは彼女という事らしい。とても幸せそうに眠っていて、寝息を聞いていると心が温かくなる。
午前中も寝ていたのに、また眠っている。夜は大丈夫かと少し心配になった。
隣ではユキメノコが、マスカーニャの膝の上で同じく眠っていて。頭を撫でられて、幸せそうに寝息を立てていた。オーガポンとバウちゃんは元気なようで、カーペットの上に置いたポニータのボールを撫でている。
そんな風にまったりとした時間を過ごしていると、渡邊さんがリビングにやって来た。手には大きな平たい箱を持っていて、どうやらそれを玲に見せに来たようだ。
母が手にカメラを持ち、後ろから歩いて来ている、その顔は輝いていてとても楽しそうだ。その楽しい空気に気付いたのか、エースバーンとユキメノコが目を覚ます。
「レーくん、がっこうの制服よ」
「こちらです、お坊ちゃん」
どうやら小学校の制服が出来たようだ、玲に着せて写真を撮りたいのだろう。問題ない、玲は頷く。息子の制服姿だ、写真に残したい母の気持ちは理解できる。玲に娘がいたとしたら、絶対に見たいし写真も撮りたくなる。
それにポケモンのみんなと一緒に撮ってもくれるだろう、絶対にデータに残してタブレットに入れておきたい。
「きてくるね」
「てつだうわ、レーくん」
「だいじょうぶ、ひとりでできるよ」
それは困る。初めての制服で、子供が戸惑うと思っているのかもしれないが。成人男性だったのだから、こんな事ぐらい問題あるわけない。いつまでも母に着替えを手伝ってもらうのは恥ずかしい。
何故か残念そうにしている渡邊さんから制服を受け取る。
寂しそうな母の視線に罪悪感を覚えながら、玲は寝室に向かい歩いていく。
マスカーニャが玲を追う、それにつられたエースバーンも後に続く。オーガポンが楽しそうに、ユキメノコを抱えて付いて来る。
ちょっと待ってほしい、いくら何でも来すぎでしょう。そんなに気になる?
楽しそうに付いて来るみんなに、玲は心の中で頭を抱える。来たがる理由が分からない、あとで見ることが出来るのに。
みんなに来ないように言おうとして、しかしやめる。気にしない事にした。
みんなに悪気がある訳ではない、着替えを覗くという考えはないだろう。それなら怒るほどのことでもない。別に彼女達に見られても、嫌な気持ちになるわけではないし。
ポケモンが着替えを手伝ってくれるなんて、よく考えればとても微笑ましい。この機会に楽しもう。
寝室に入り箱を床に置き、みんなが見守る前で蓋を開ける。中を取り出して見てみると、込み上げてくるものがある。写真で見てはいたが、実際に見るとやはり違うようだ。
水色のシャツに紺色の上下、五分丈のズボンが少し恥ずかしい。オーガポンが嬉しそうにシャツを掲げている。
他のみんなも手には何かしらを持っている。玲は戦慄した、この状況で着替えるのかと。
楽しそうなみんなに見られながら、鏡の前で着替えていく。紺色のリボンの向きを確認、くるりと回り完成だ
不思議な状況に変な気分になりながらも、鏡に自分の姿を映し心の中で深く頷く。
ママ、かっこかわいくに生んでくれてありがとう。お姉さま方垂涎の姿に玲は大満足だ。
鏡の中の自分の姿をクルクル回って見ていると、オーガポンも近寄って来て玲と一緒に回りだす。マスカーニャが手を叩き、エースバーンとユキメノコが躍っている。なんか楽しくなってきた―――
―――渡邊さんのドアをノックする音で、玲は正気を取り戻した。
みんなと一緒に踊るのが楽しくて、時間が経っているのに気づかなかったようだ。部屋まで呼びに来てくれた渡邊さんに悪いので、急いでみんなに声をかける。
楽しい時間が終わってしまった事に残念そうだ。だがそんな顔する必要なんてない、なぜなら。
「みんなっ、しゃしんのじかんだよ!」
お楽しみはまだまだこれからだ。
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とうとうやって来た入学式、現在玲は両親と体育館にいた。
とても広い空間の中、何十人もの子供が座っている。その足元にはポケモンがいて、主人同様不安そうに周りを見ていた。
両親達はその周りで、子供の晴れ姿を見守っている。とても微笑ましそうな眼をしていた。
玲は思った、広すぎだろうと。前回の体育館も広かったが、ここはそれ以上だ。子供と親、ポケモン達。教師もいるのにそれでも余裕があるほどの、とても広い建物だった。
どうやらここは、ポケモンバトルもする場所らしい。テープがコート状に三面分張られていた。どうりで広いわけだ。対戦、観戦もするのだ、広さは必要だろう。
玲は心配になった、この床は大丈夫なのかと。ポケモンの力で踏み抜かれたりしないかと。軽くけった感じでは、特別な素材で出来ている感じはしなかった。
だが玲は気にしない事にした、今考えても仕方がない。学校生活を送っていれば、いつか分かるはずだと。そんな物よりも重要な者を目の先にとらえたのだ。少し離れてはいるがあの時の少女を見つけたのだ。
紗更、妄想から出てきたような美少女。そんな美少女が可愛らしい制服を着ている、その姿を目に焼き付けなければいけない。
彼女も玲に気付いたのかこちらに手を振っている。玲も彼女に手を振り返す、己に出来る最大限の微笑みで。
ユキメノコもピンプクのピーちゃんを見つけたのか、椅子の隙間から手を振っている。
覚えてくれていてよかった。ないとは思ってたが、忘れられていたら泣いてしまう。幼馴染イベントはばっちりだったのだ。
そうこうしていたら時間が来たようで、壇上に人が立っていた。入学式がいよいよ始まるようだ。子供達は不安なようで落ち着きがない。それはポケモン達も同じで、周りを見渡していた。
大丈夫だよみんな落ち着いて、怖い事はなにもないから。何か集中できることを探すといいよ。
こんな風にポケモンの可愛らしい姿を見ていれば、あ―――
―――っという間に終わるから。
とてもいい話でしたね、感動したなー。
玲は今、教室で担任の話を聞いていた。ポケモンを選ぶ場で話しかけてきた女性、その人が玲の担任だったのだ。名前は
黒髪短髪のソバカスがチャーミングな、二十代後半の女性だ。この先生は玲の事を覚えてくれていたようで、挨拶したら嬉しそうに微笑んでくれた。変な印象を与えていなくてよかった。
周りの子供はお行儀よく座っている、さすが私立の学校だ。泣いてしまう子もいると予想していたのだが、みんな真剣に話を聞いている。
玲は幼稚園にも行っていない、もし前世がなかったら、初めての集団生活に泣いていたかもしれない。
担任の話はそんなに長くなかった。しっかりしていても小学一年生、長話はつらいだろう。明日からのことを軽く話して、プリントを親に渡すように言って終わりだ。
「それでは皆さん、おつかれさまでした」
―――おつかれさまでした―――
初めての挨拶だ、ばらばらで揃っていない。それでもみんな元気よく、笑顔で挨拶していた。そんな子供達の挨拶に、ご両親は皆微笑んでいる。
多くの家族が帰ってしまい、人の少なくなった教室で、玲は紗更と話していた。紗更は笑顔で、玲との再会を喜んでくれてるようだ。残念ながら今はポケモンを出せないが、腰のボールは嬉しそうに震えていた。
ポケモンの学校とはいえ、教師が見ていないと出すことは出来ないようだ。早く許可印が欲しい。
「ササラちゃん元気だった?」
「うん、げんきだよー。レイくんは?」
「ボクも元気っ、おなじ教室でよかったね」
「ねー、いっしょにお勉強できるねー」
紗更と同じ教室になれたことに玲は喜ぶ、彼女もそれは同じようで笑顔だった。見れば向こうのご両親も嬉しそうにしている、しっかりした優しい玲君と印象付けられたようだ。
「あ、あの…ね、ねぇ!」
と、そこで。玲達に話しかける子供が一人、どうやら話しかけるタイミングを伺っていたようだ。彼の後ろにはその父親が、うちの両親に挨拶をしていた。
その子供は高貴、先日の体育館での少年だった。彼は話しかけたはいいものの、気まずいのか俯いていた。
「コウキくん!この教室なの?」
「うっうん…」
「一緒にべんきょうできるね、その子もね!」
「っうん!あのね、ゴウタっていうの!」
「ゴウタくんっ、よろしくね」
子供がいつまでも落ち込み続けているのは忍びない、玲は笑顔で話しかけた。
高貴は最初こそ俯いていたものの、その言葉が嬉しかったのか次第に笑顔になっていく。彼の腰にいるゴウタくん、どんなポケモンなのかは分からない。だが嬉しそうに震えているし、高貴も笑顔で紹介してくれた。きっといい関係を築けていけるのだろう、早く会ってみたかった。
紗更は少し怖いのか、玲の後ろに隠れている。だがそれも仕方がない、いつか慣れるだろう。服を握ってくれているのが可愛らしいし、玲的には問題ない。もっと握ってていいんだよ。
出来たら高貴とは仲良くしていきたい、楽しく戦える相手が欲しいのだ。同性の方が戦いを挑みやすいのもあるし、紗更はピーちゃんの事を考えると楽しめるかは怪しい。
もちろん先日のような事は勘弁だが。あんなに泣いて謝っていたのだ、きっともうしないだろう。楽しく戦えたらいいと思う。
「コウキくん、またあしたね」
「うん!あしたね!」
「…またね」
高貴は玲達に手を振って、その父親は軽く頭を下げて。二人仲良く帰っていった。
紗更ちゃんは苦手な相手でも、しっかり手を振って挨拶をしている。その姿に彼女の両親は満足顔だった。
どうやら親同士の会話も、悪い雰囲気ではなかったようだ。穏やかな表情をして、玲達に近づいてきた。
「レーくん、ごはん食べに行かない?」
「君も一緒にどうかな?」
どうやら今日の昼は外食のようだ、向こうの家族も同席するのか後ろからついて来ていた。玲の返事はもちろん快諾だ。紗更とはこれから仲良くしていきたいのだから、こういうイベントは逃したくない。期待に紗更に目を向ける。
紗更は一緒に行っていいのか不安なようだったが、自分の両親が頷いているのを見て笑顔で返事していた。
「ササラちゃん、一緒に行こうか」
「うん、レイくん」
紗更に笑顔で左手をだす、紗更は嬉しそうに握ってくれた。躊躇いなく手を出してくれた彼女に、玲の心は温かくなる。玲は握られた手に優しく力を返し、二人仲良く歩きだした。
両親達の顔は微笑まし気で、どうやら親公認のお友達になれたようだ。
入学前の出来事で不安があったが、どうやら学校生活は上手くやっていけそうだった。
『あれ』も一つの戦術です
そう思うのです