これからもよろしくお願いします
―――入学式から一か月。
ついにやって来た、玲の初めてのポケモンバトル。こちらが出すのは勿論あの子。紛らわしいのはご勘弁、ユキワラシのユキメノコ。
玲はこの日を待ちわびていた、授業でポケモンを出せる日を。今までは出せていなかったのだ、言うことを聞くか分からないからと。
出会ったばかりのパートナー、しかも小さい子同士。ある程度慣れてからでないと、授業中に暴れる可能性がある。
だからポケモンに慣れるための期間が必要なのだ。入学前にポケモンを貰ったのも、時間があるうちに仲良くなってもらう思惑があったのだろう。
今までやって来た授業は、普通の学校であるような読み書きや算数に道徳など。義務教育なのだから仕方がないが、とても退屈な時間だった。
ポケモンの授業があったとしても基礎の基礎、ポケモンとの付き合い方等の座学でのお勉強だけだったのだ。
そしてこの学校、ポケモンの学校なのは間違いない。しかしどこでもポケモンを出せるわけではないのだ。
それはそうだ、全校生徒が何時でも何処でも出していたら収拾がつかなくなる。
出せるのは自分の教室や体育館にグラウンド、その他専用の場所でだけで、それも許可印を持たないものは教師がいるときだけ。廊下などの授業に使わない場所では出すことが出来ないのだ。ちなみに食堂でも出すことが出来る。
今まで玲たちは危ないからと、学校でポケモンを出せなかったのだ。入学式は例外で、解禁されるまで新入生はポケモンを出せないのだ。
上級生が出しているのを見ているだけ、それはそれで楽しい。しかしユキメノコを出せないのはつらかった。
目の前にいるポケモンを見る。どんぐりのような体に、大きなおめめがとっても可愛い。
タネボー、その子がユキメノコの前に立っている。主人と一緒に戦えるのが嬉しいのか、笑顔で体を左右に振っている。
その子の後ろには、あの時の子供。体育館で争って、初日に教室で仲良くなった高貴。玲の初バトルの相手は高貴だったのだ。
どうやら相棒との仲は良好なようだ、玲は嬉しくなった。
「レイくん!まけないからな!」
「ユキメノコがかつよ」
玲は勝つ、これは確定した未来だ。この一か月ユキメノコには頑張ってもらった、もちの日々だったのだ。
食後のデザート代わりに、一日に二個。それをほぼ毎日続けていたのだ。彼女は喜んでいたからよかったが、玲だったら絶対飽きる。
原作での狂気を思いだし罪悪感がわく、一日に五十個は駄目だろう。あの仕打ちに彼女達はどう思っているのかと見たが、特に何も思っていなさそうでほっとした。
ちなみに『ハネ』も使った。
玲はポケモン達にゲームのどうぐを使うか迷っていた、危険がないか分からなかったからだ。
相棒たちと同じようにゲームからこちらに来たものだが、それでも安全かは分からない
しかしそんな風に迷っていた玲の背中を、マスカーニャが押してくれた。彼女は原作で何十回とどうぐを使ってきた、玲からそれを奪い取って迷わず口に入れたのだ。黒色のとてもあやしい『もち』を。
マスカーニャに詰め寄った、吐き出させようともした。しかし彼女は聞かなかった、玲に向け微笑んでいた。大丈夫だと、とても美味しかったと。そう言うように、優しく微笑んでいたのだ。
それから何日も経って、しかし何も問題なかった。マスカーニャの具合が悪くなることもなく、健康なままだった。それで玲は決めたのだ、どうぐを使っていくことを。マスカーニャがせっかく頑張ってくれたのだ、それを無かった事にしたくなかったのだ。
そして現在がある。目の前にいるユキメノコは、相手を睨んで歯をむき出しにしている。とっても元気だ、健康に問題はなさそうだった。
玲たちの間には担任のハルハルセンセーがいて、試合開始の合図を出そうとしている。玲は気合を入れた、ユキメノコの頑張りを見せてやると。
「準備はいい?はじめるわね。バトルスタートッ」
「いけゴウタ!」
「あれだよ、ユキメノコ」
主人の指示にゴウタは走る、ユキメノコも相手へ向かう。ここに最初のバトルが始まる。
かげぶんしん―――
ゴウタの周りを走るユキメノコ、その後ろに影を置き去りにして。
走る勢いそのまま『たいあたり』。しかしそれは偽物、ゴウタの体は幻影を通り抜ける。
「がんばれゴウタ!」
「ユキメノコ」
何が起こった、どうなっている。周りを見れば数多の敵。
分からないが、全部倒せば問題ない。ゴウタは走る、敵に向かって。主人が頑張れと言ってくれるのだから。
こごえるかぜ―――
しかし残念、彼には敵の魔の手が迫る。冷たい風が吹き荒び、ゴウタの動きが鈍っていく。
主人の声援に応え、影に向かって走り続けたゴウタ。しかし耐えきれずついには倒れてしまった。
―――終了。
「ゴウター!」
「がんばったねユキメノコ」
よかった、言う事を聞いてくれた。家での様子から大丈夫だとは思っていたのだが、試験も受けていないし不安もあったのだ。
ユキメノコを胸に抱き、頑張ったねと頭を撫でる。ユキメノコは嬉しそうに胸に頭をこすり付けていた。
高貴はゴウタの入ったボールを見つめている、その瞳は涙で濡れていた。
玲は思った、やりすぎたと。努力値は無駄にしたくなかった、だから『もち』はいい。しかし『けいけんアメ』まで使う必要はなかった。小さいものとはいえ、止めておけばよかったか。
最初のバトルなのだ、相手に合わせた内容でいくべきだ。ネモを見習え、恥を知れ。
「おめでとーレイくん、すごかったよー」
「プクプクー」
「ありがとうササラちゃん、ピーちゃん」
紗更とピーちゃんが玲の勝利を祝ってくれた。二人はとても喜んでくれていて、玲は嬉しくなった。
そう、ピーちゃんはボールから出て応援してくれていたのだ。他の子供のポケモンもボールから出て試合を見ていた。
本来はバトルスタートと同時にボールから出す。しかし、この授業はポケモンとの交流も目的としている。そのため全員、ボールから出しているのだ。
初めての試合で仕方がないのだが、早く終わってしまい少し残念に思っていた。しかし他のみんなには刺激が強すぎたようだ。
見れば先ほどの試合で怖くなったのか、主人の足にしがみ付いている子がいる。他にも不安そうにしていたり、ボールに戻りたがっている子もいる。
「白雪くん、ユキメノコちゃん、よく頑張りました。つぎは須田くん―――」
だが残念これは授業、容赦なく次の順番が来る。先生が次の須田を呼ぶ。
彼も今の試合が怖かったのか、彼の相棒と一緒に不安そうな顔をしていた。頑張って欲しい、彼ともいつか仲良く戦いたいのだから。
「つぎはまけない…」
「タタタ…」
紗更達と話していたら高貴が近づいてきた。どうやら回復は終わっているようで、ゴウタくんも一緒だ。
高貴は先ほどの試合が悔しかったのか、しかめっ面をしていた。ゴウタくんは回復したとはいえ疲れているらしく、玲達の近くに座った高貴の膝の上で寝てしまった。
おやすみゴウタくん、よく寝て疲れをとってね。またよろしくね。
その後も試合は続いていく。やはり初めての試合という事で、みんな同じ攻撃技のごり押しだ。
短期間ではそんなに育てられないだろうし、それも当然だ。玲が異常なのだ。
だがそんな試合でも、実際に見れるという事でとても楽しい。ポケモンが頑張っている姿に、こちらまで熱くなる。どうやらポケモンとの信頼は築けているようで、どの子も主人の言う事を聞いている。
そんな風に興奮しながらも、玲はみんなと試合を観戦していた。だがそんな楽しい時間ももうすぐ終わる。三時間、それだけあっても短く感じてしまう。
「それでは、午前中の授業はこれでおわりです。みんなポケモンをちゃんと休ませるのよ」
「きりーつ、きをつけー、れいっ」
―――おつかれさまでした―――
―――十二時十分。
玲は今、翔星小学校の食堂に来ていた。この日からようやく、我がクラスは相棒と一緒に食事をすることが出来るようになったのだ。
周りでは様々な学年の子供と、その相棒達がいる。大きな子は出さないよう自粛しているようなので、小さなポケモンばかりだ。だがそれでも玲はこの光景が大好きだった。今日からここにユキメノコも加わるのだ、その事実に興奮してしまう。
今日からポケモンを出す授業が始まった、なのでここでもユキメノコを出せるのだ。
ようやく学校でポケモンとお弁当を楽しめる。今までは先生と子供達だけで、普通の学校のような状態で食べていた。ユキメノコにはボールの中で食べてもらっていて、寂しい思いをさせていたのだ。
紗更ちゃんと隣同士で椅子に座る。目の前にある長テーブルはとても大きく、反対側に人が来ても、離れているから気にならないだろう。
玲の右隣にはもちろんユキメノコ、紗更ちゃんの左隣にはピーちゃんがいる。友達とのお弁当の時間だ。
「レイくんのお弁当おいしそうだねー」
「プックー」
「ママががんばって作ってくれたんだ」
食事はいつも渡邊さんが作るのだが、弁当は母が頑張って作ってくれているのだ。
今日のお弁当はなんとキャラ弁、エースバーンのニコニコ顔が表現されている。ウインナーや卵焼き、ご飯にノリで笑顔を作っている。
キャラ弁の本を何冊も買って、勉強してくれている母の姿。玲はとても嬉しかった。
お弁当を崩すのは心苦しいが、母がせっかく作ってくれたのだ。その愛情を味わいつくそうと、卵焼きを口に入れる。美味しいよママ、いつもありがとう。
「ユキメノコ、ふきふきだよ」
「ワララッ」
隣で可愛らしくお口をモグモグさせているユキメノコ、その口元にポケモンフーズの欠片が一つ。それをハンカチで取ってあげる。目を細めて顔を突き出す彼女がとても可愛い、ドキドキしてしまう。
そんな風に心臓を高鳴らせていた時、隣から紗更の可愛らしい唸り声が聞こえてきた。どうやら嫌いな食べ物があったらしい。
「んーっ、むーん…」
「きらいなのあったの?」
「…うん」
「たべてあげよっか」
小学一年生だ、好き嫌いが多少あってもいい。嫌いな食べ物でも、頑張って食べようとしていて立派ではないか。しかし困っている紗更は可愛いが、いつまでもそのままなのは心が痛む。紗更母には少し悪いが、玲は手助けすることにした。
「…いいの?」
「ササラちゃんのお母さんにはひみつね」
「ありがとー、レイくん!あーん」
紗更の弁当箱からそれを貰おうと、箸を手にする玲。しかしそこで想定外が、玲は綺麗に微笑んだまま固まってしまった。
箸でつかんだピーマンの肉詰め、笑顔でそれをこちらに向ける紗更。これはあれか、伝説のあれなのか。美少女のあーん、食べてしまっていいのだろうか。何かの罠か、玲は迷ってしまった。
しかしここで食わねば男が廃る、玲は決死の覚悟で口を開く
「あーん、―――おいしいよ」
「…ほんと?」
「ほんとうだよ、ササラちゃんありがとう!」
正直、味は分からなかった。紗更の笑顔が眩しくて、味わってる暇がなかったのだ。しかしそれをいう訳にはいかない、笑顔でお礼を言う。
どうやら彼女は信じてくれたようで、嬉しそうに笑いかけてくれた。
そんな美少女の笑顔を見て玲の腹は決まった、己の腕に力を籠める。素敵な贈り物を貰ったのだ、返さないのは失礼だよね。
しかし何を返せばいいだろうか、いや迷う必要はない。あんなに素晴らしい笑顔をくれたのだ、この最高をお返ししたい。
「ササラちゃんも、あーん」
「いいのー?あーん」
「―――」
「おいしー、レイくんありがとー!」
ママありがとう、最高の卵焼きだったよ。
明日は一話多く投稿する予定です
一話目は昼頃、もう一つはいつも通りの時間で
よろしければ見てください