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玲は今、学校のグラウンドで笑顔で腰を振っている。別に変な意味ではない、運動会に向けてダンスの練習だ。みんなで楽しくに踊るのだ。ピカッチちゃんと鍛えた我が舞、とくとご覧あれ。
横を見れば、ユキメノコが笑顔で踊っている。すごく楽しそうに体をフリフリ、その姿を見て玲の感情は高ぶってきた。
腰の切れをよくしながら玲は思う。今この時を全力で楽しもう、ユキメノコのこの姿での楽しい思い出を心に刻もうと。
ユキメノコは進化したがった。みんなみたいに動けるようになりたかったのだろう、飛び跳ねて喜んでいた。
しかし彼女には少し待ってもらっている、ただの我儘で彼女には悪いと思っている。だが今の彼女との思い出をもう少し増やしておきたかったのだ。
運動会が終わるまで、それが終わったら進化させる。だからそれまでは、今の姿を可愛がらせてほしい。
彼女はそれを受け入れてくれた。今も自分に喜んでもらうためだろう、こちらを見上げ笑顔で踊っている。その気持ちが嬉しい、心が温かくなってくる。こちらも想いが伝わるように、彼女に笑顔を向ける。
「ユキメノコ、たのしいね!」
「ワララッ」
「はい、一回休憩しましょうね」
そうやってユキメノコと踊っていると、先生がみんなに聞こえるように声を出す。休憩を入れてくれるのはありがたい、六歳の体力では長時間の踊りは大変なのだ。
ユキメノコと一緒に校舎の近くまで歩いていく。今は日陰になっていて休憩にちょうどいい、ここなら落ち着けると彼女と一緒に地面に座った。
「ワララ…」
「かわいかったよ、ユキメノコ。だいじょうぶだよ」
ユキメノコが落ち込んでいる、どうやら上手く踊れなかったと思っているようだ。たしかに少しぎこちない所があった、だがそれは仕方がないのだ。踊りの練習はまだ始まったばかり、完璧になんて出来っこない。それにダンスの振り付けにも問題があった。
一年生に踊りを決めるのは難しい、いくつかの候補から選んだのだ。だがそれは全てのポケモンに合うものではない、そんなもの用意できるはずがない。種族も性格も違うのだから。とっても可愛いのは間違いないのだが。
しかし、それだけが理由ではないのだろう。おそらく自分の体が小さいから上手く踊れないと思っている。クラスには進化していなくても大きな子もいる、その子の動きと比べているのだ。
「おいで、ユキメノコ」
「ワラ」
ユキメノコに膝の間に入ってもらい正面から抱き合う、この子はこの体勢が好きなのだ。頭を撫でながら考える、このままでいいのかを。
玲は今の姿での思い出を作りたいとは思っていたが、それはユキメノコの悲しんでいる姿ではない。自分の我儘のせいでこの子が悲しむ、そんなことあってはならないのだ。
このままの姿ではユキメノコが悲しむ。進化できるという希望が見えたことで、余計つらくなっているのだろう。彼女にとって何が幸せかを考える、そして玲は決心した。
「ユキメノコ、しんかしようか」
「ワラ?」
「いいんだ、大きくなってもユキメノコだから。だいすきだよ」
「ワラー、ワララッ」
大きくなってもこの子はこの子、大好きなユキメノコなのだ。どんな姿でも大事にすると決めているのだ。
今の言葉が嬉しかったのだろう、抱き着いたまま頭を擦りつけてくる。そんな彼女を抱き返しながら、玲は先を想い微笑んだ。
「いっしょにがんばろうな!」
「タタッ」
「ぼくもがんばる。でもすこしつかれちゃったね…」
甘えるユキメノコを撫でていると、同級生達が近づいてきた。
高貴とその相棒、タネボーのゴウタくん。それともう一人、同じくクラスメイトの須田。
ユキメノコが落ち込んでるのを気にしてくれていたようだ。パートナーが励ましていたので様子を見てくれていたが、ユキメノコが元気になったことで来てくれたのだろう。
「ミル」
「ワララ」
クルミルのハミルくん、須田の相棒だ。彼は今ユキメノコに向け頭をふりふりしている、クラスメイトは苦手なようだがとってもいい子だ。須田との仲は良好なようで、彼に抱きついている姿をよく見る。
須田はポケモンを貰う場で最後まで決められなかった、どの子にしていいか分からなかったのだろう。それでも最後には自分で決めたのだ、相棒をとても可愛がっている。
「はやくおわらないかな…」
「つまんないよな!もっとカッコいいのがいい!」
高貴は体力が有り余っているようだ、かっこいいダンスが踊りたいらしい。玲は深く深く頷いた、ポケモン達がかっこよく踊る姿を想像すると胸がドキドキする。しかしこれだけは言わなければいけない。
「コウキくん、かわいいは重要だよ」
「え?」
「重要だよ」
「う、うん…わかった!」
分かってくれたようだ。玲はユキメノコを胸に抱き、頭を撫でながら微笑んだ。
学校から帰って来て、寝室に入り数時間。玲は今ユキメノコと一緒にベットに座っていた。
膝の間で抱きついてこちらを見上げるユキメノコ、その表情は決意に満ちている。玲は右手に持つそれに目を向ける、とても綺麗なエメラルドグリーンのその石。めざめいし、ユキメノコの進化石だ。
「遅くなってごめんねユキメノコ」
「ワララ」
彼女は体を振って否定してくれる、悪くなんてないと。信じてくれているのだ、我儘で待たせたこんな自分のことを。玲は抱きしめる力を強くする。彼女の気持ちに応えたい、この信頼を裏切りたくない。
「ユキメノコ、はじめるね」
「ワラッ」
右手に持った『めざめいし』、中心から光を放っていてとても綺麗だ。使い方は分からない、だがなんとなく彼女に持ってもらった。
どうやらそれでよかったらしい、石におでこを当てていたユキメノコが光りだしたのだ。彼女の進化を見ていたかったが、至近距離から発した光に目を開けていられない。まぶたの裏が暗くなってきたころ、ようやく目を開くと。そこには大きな変化を遂げた姿の彼女がいた。
氷のような二本角に白い仮面みたいな頭、赤い帯に真っ白な振袖のような体。白い腕で抱きついて、こちらを見つめている。ユキメノコがその名前本来の姿でそこに居て、嬉しそうに笑っていた。
その姿を見て思った、綺麗だと。知ってはいた、だが違った。目の前にいる彼女は、自分の思い描いていた姿より綺麗だった。
自分に抱き着いているその体を、想いを込めて抱きしめ返す。強く優しく力を込めて。
「これからもよろしくね、ユキメノコ」
「ユーキィー」
想いが伝わったのか、彼女は嬉しそうに頬を擦り合わせてくる。彼女の体はそのタイプとは違い不思議なことに暖かく、いつまでも抱き着いていたいと思うくらい心地よかった。
「こう変わるのか…」
「パパ…あの、ダメだった?」
「ん?あっいや、駄目ではないよ」
ユキメノコを家族に紹介したら父が驚いていた。彼女の進化した姿が意外だったのだろう、玲は心の中で頷く。彼女は石を使わなかったら別の姿になっていた、父はその姿を想像していたのだろう、その姿と違っていて驚いたのだ。
「この姿の子は見つかってはいたんだけど、進化前は分からなかったんだ。玲くんはすごいね」
「なんですごいの?」
「他の子はみんな違う姿になってたんだ、玲くんが頑張ったからこの姿になったんだよ」
ユキメノコは別の進化系統だと思われていたのか。それでユキワラシの進化先はオニゴーリだけだと思われていたと。進化先が分かっているポケモンだ、わざわざ他の方法は試しはしなかったのだろう。
「すごい進化ってなにがあるの?」
「うん?なついた子と、…あとは石かな…」
「いし?いしで進化するの?」
「何年か前に分かってね。たまにいるんだ、進化する子が」
この世界にも進化石はあった、やはりユキワラシは進化石を試していないだけだった。数年で全てのポケモンに試すなんて無理だろうし、自分が初めてになってもおかしくないか。
「玲くんが好きだからこの姿になったんだ、大事にするんだよ」
「うん、大事にする!ボクもユキメノコだいすき!」
「ユキッ、ユキー!」
今の言葉が嬉しかったのだろう、ユキメノコが抱き着いて来る。今までと違う感触に少し恥ずかしくなるが、それ以上に嬉しくて彼女を抱きしめ返す。
抱き着きながら周りを見れば、他の子達がこちらを見ている。みんな笑顔でどうやら彼女の進化を祝ってくれているようだ。
学校から帰ってきた時、みんなには彼女が進化すると伝えていた。ポニータとバウちゃんには言えなかったが、彼女達もユキメノコの表情に何かあったのだと察したのだろう、とても心配していた。
ここに戻ってくるまでリビングで大人しく待っていてくれたし、戻って来た時も彼女の姿を見てとても喜んでくれた。今も優しく見守ってくれている、みんなの優しさがとても嬉しい。
だがどうやらもう我慢出来なくなったようだ、マスカーニャが近寄ってきた。それにつられてエースバーンもやってくる。
二匹がソファーの両側に来たことで、ユキメノコが膝に乗ってきた。彼女が少し浮いてくれていてよかった、六歳児にはこの子はおも―――いや女の子に重いは失礼か。
ユキメノコはこの姿になっても抱き合う形が好きなようだ、頬を擦りつけ甘えてくる。進化してもこの子は変わらない、以前と同じく自分に甘えてくれる。そのことがすごく嬉しい。
「ユキメノコ、これからもよろしくね」
ユキメノコは暖かいんです
人と暮らした子がいたくらいですからね
冷たかったら怪しまれます
何度でも言います、ユキメノコは暖かいんだ!