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「がんばろうね!ユキメノコ!」
「ユーキィ!」
ユキメノコは進化した、その姿を大きく変えた。小さかったその体が、とても綺麗に育ってくれた。いや前の姿も可愛くて大好きだが。
とても嬉しいのだが、しかし問題もあった。体が変わりすぎて、玲とのコンビネーションが悪くなったのだ。
共に歩んできた日々、彼女と笑顔で過ごしてきた時間。無駄になったとは言わない、しかしやり直さなければいけなくなったのだ。
頑張った、彼女と一緒に乗り越えてきた。時には友人達と踊りを見せあい、互いに意見を交す。そんな数々の日々を共に過ごし、彼女と想いを重ね合わせ。以前よりも強くなって、ここに立っているのだ。
目の前には数々の強者、頼もしきその背中。地面に引かれた白い路、今から彼ら彼女らと共に行く。我らの勇姿を篤と見せてくれようぞ。
『選手、入場―――』
今日は待ちに待った運動会、ユキメノコの可愛い姿を見せるのだ。
目のずっと先を見る、上級生が白い旗を持って歩き出した。これから自分達も、彼らに合わせて歩いていく。
周りでは親御さん達が、我が子の勇姿を見守っている。うちの両親も来てくれている、今から自分の姿を見てもらうのだ。
ユキメノコの白い手を握る、彼女も握り返してくれた。想いは通じ合っている、不安に思う事など何もない。今生で初めての運動会が今始まる。
「今日もいっぱいきてるね」
「ユキメノコはすごいからね」
上級生に合わせて行進していると、近くにいた紗更が話しかけてきた。彼女の視線の先にはスーツ姿の人たち、運動会には少し不自然な恰好。彼らは進化したユキメノコを見に来ているのだ。
玲はユキメノコに進化石を使った、しかしこの石を持っていたことは黙っている。持っていた理由を説明できなかったからだ。
ユキワラシは特別な要因もなく、突然変異でユキメノコに進化したと思われているのだろう。
彼らは調べに来ているのだ、何か理由があって進化したのだろうと。しかし直接こちらには来ていない。
ユキメノコを怒らせて子供に何かあったら大問題だ、その危険性を無視はできないだろう。ポケモンは不思議な生き物なのだ、今も世界中で新しい情報が出てきているだろう。不思議な事が一つ追加されたくらいで危険を冒していられない。研究者の皆さんごめんなさい。
しかし無理のない範囲でなら調べることは出来る、運動会の観戦もその一つだ。学校の授業で見に来ることもあった。
『次はプログラム三番、いっしょに走ろうの時間です―――』
どうやら順番が来たようだ、ユキメノコと一緒に集合場所に向かう。家族のみんなが応援してくれている、良いところを見てもらわなければ。
今日はなんとポニータも応援してくれている。ボールの中からだが、家族と一緒だから怖くないようだ。他の子もボールの中で家族と一緒に観戦だ、一緒に居たかったので少し残念。
選手はボール一つだけ持って戦う、二つ以上持つ子も置いて来る決まりだ。
ユキメノコと手を繋ぎながら開始位置に向かえば、そこには既にほかの選手達がいる。どうやら自分達が最後のようだ、遅くなってしまい申し訳ない。代わりに一番早くゴールしてやる、玲は気合を入れた。
『位置について、よーい―――』
開始位置に立ち、ユキメノコと一緒に棒を持つ。このまま離れた場所にあるコーンを回りゴールまで走るのだ。
教師のピストルを持つ手が上がる、緊張感があたりに漂う
そしていよいよ、その時が。
『――ドンッ!』
きた。
合図と同時に走り出す、ユキメノコも浮かんで続く。周囲を走るは真剣な顔の子供達、ここに勝負の火蓋が切られた。
横を走るは憎きあいつ、隣のクラスの相田君。あの子にだけは負けられない、回転数を上げていく。主人の想いを感じ取り、頼れるあの子がスピード上げる。いいぞ速いぞユキメノコ、そのままあの子を振り切って!
しかしここで種族の差が出る、主人の足では追いつけない。いくらこの子が速くても、共に征かねば意味はない
このまま付いていけなくなるか、大事なこの子の邪魔になるのか。いいやそんな訳にはいかない、中間地点で挽回するのだ。
家族の大声援を背に、走り続けてついに来る。いよいよここで折り返し、勝負の時は今ここだ。
外に流れた相田君、今この時だと内に入る。ユキメノコを外にコーンを回る、己は小さい歩幅で進め。ここを回ればとうとうその時、今こそ力を解き放つのだ。そして遂には先頭に出る、横を見ても敵の陰なし。
行け!進め!駆け抜けろ!そして結果はッ―――
『―――一等賞、一年一組、白雪くん。』
大歓声。勝利の喜びに、ユキメノコに抱きつき頭を撫でる。彼女も嬉しそうに笑って、背中を撫で返してくれた。
このまま抱き合っていたいが、そういう訳にはいかない。手を繋ぎながら一緒に、クラスメイトの元に向かい歩く。家族に目を向ければ、嬉しそうに手を叩いてくれていた。
「レイくんすごい!いちばんだよ!」
「すごいな!れいくん!つぎはボクだな!」
「おめでとうっ」
「みんなっ、ありがとう!」
家族に手を振りながらクラスに戻ると、紗更達が駆け寄って来て勝利を祝ってくれた。普段の言動がいいからだろう、他のクラスメイトも笑顔で喜んでくれている。とてもいい気分だ。
そこで玲はその視線に気づく、隣のクラスの相田くんがこちらを睨んでいた。
高貴もそれに気付いたのか睨み返す。そして胸を張り渾身のどや顔、自分がやられていたらと思うとイラッとする顔だ。他の皆も胸を張って誇らし気にしている、彼のクラスとは犬猿の仲なのだ。
おいおいみんな、仲良くしないと駄目じゃないか。勝負が終わったらノーサイド、お互いの健闘を称え合おうじゃないか。
ニッコリ笑顔のサムズアップ。玲は隣のクラスの相田くんの健闘を称えた。
「おめでとうレーくん、すごいわ」
「おめでとう、頑張ったね」
「ワシの孫なんだ、当然の結果だ」
家族のもとに戻ってきたら、みんなに祝ってもらえた。両親はもちろん、妹も母に抱かれながら元気に笑っている。祖父も来てくれて、今も鼻の穴を広げて喜んでくれている。
ポケモンのみんなは、今は出ることが出来ない。生徒の相棒一匹だけ、それが決まりだ。だがボールの中で見ていてくれたようで、元気に震えて祝ってくれていた。
「レイくん、いっしょにたべよー」
「プクプクー」
「いらっしゃい、ササラちゃん、ピーちゃん」
今日の昼ご飯は音瀬家と一緒だ、もちろん家族には伝えてある。紗更とピーちゃんに、その後ろから付いて来ていた紗更母のために、シートを空けてくれている。どうやら今日は彼女一人で、父親は来ていないようだ。
彼女達は空けてもらったスペースに座り、挨拶をしていた。白雪家は好印象のようで、彼女達の表情は柔らかい。娘のトモダチとして認められたようだ、玲は心の中でガッツポーズをした。彼女達とは今後も付き合っていきたいのだ、これからもいい子の玲君でいこう。
「玲くんはすごいのね、速くておどろいたわ」
「そうなのママ!レイくんすごいの!」
「プクッ、ピンプックー!」
「あの…ありがとうございます」
紗更母、名前は
娘さんは可愛く母は美しい、ピーちゃんはとても愛らしい。そんな彼女達に笑顔で褒められては照れてしまう。
そんな風に玲が照れている間も話は弾んでいる、ポケモン達も玲の膝の上でご機嫌だ。ポニータも彼女達のことは怖がっておらず、ゆらゆら揺れている。玲は安心した、楽しそうな空気なら学校でも問題ないようだ。最悪タブレットの中に避難させることも考えていたのだ。
ポニータのボールを撫でる、嬉しそうに震えだした。かわいい。
そんな風に玲が悶えていると、間が悪いことに一人の少年がやって来た。高貴だ、彼は気まずそうにこちらを見ていた。
「コウキくん、どうしたの?」
「あ、と…あのね…」
ポニータのボールが、先程とは違った震え方をする。玲は大丈夫だと言うように、ボールを優しく手で包む。
それで少しは落ち着いたのか、震えはなくなった。だが今度は全く動かなくなってしまった、怖いだろうから仕方がないか。他の子も様子を見るためだろう、ピクリとも動かない。
高貴の視線を追う、どうやらこの子達を見ているようだ。間違いなくポニータだろう、この子がうちにいることは軽くだが話している。彼には伝えておきたかったのだ、ポニータは元気に育っていると。どのボールに入っているか分からなくて、視線は動いているが。
「コウキくん!」
「えっ?な、なに…?」
「ちょっとあっち行こうか」
周りに人がいる所では話しにくいだろう、高貴を別の場所に連れていく事にする。ポニータだけだと怖がる、他のみんなも一緒にホルダーに入れて腰につけた。
高貴を連れて体育館裏に歩いていく、彼は素直について来てくれる。ポニータもどうやら今は大丈夫なようだ、家族がいるからか震えていない。
「あの、ね…う…」
体育館裏は思ったより静かだった、グラウンドは賑やかだったがここまで音は響いてこない。
玲が周りを見渡していると、高貴が話し出した。
ポケモン達は動かない、彼の様子を見守っている。これから彼が話すことが大切な事だと分かっているのだろう、だから動かないで彼の言葉を待っている。
「ごめ、んね…ごめんねっ」
彼はその言葉を絞り出した、下を向いて声を震わせながら。
ポニータも震える、しっかり聞いていたようだ。何回も、何回も。今も謝り続ける彼の言葉を、聞いているようだ。
「ごめんね…それだけ…」
「コウキくん!」
背を向けて歩き出した高貴を呼び止める、このまま何も言わないなんて駄目だ。ポニータのボールを手のひらに乗せ彼に話しかける。
「だいじょうぶだよ!ポニータはゆるしてくれてるよ!」
「あ、う…ほんとう?」
「ほんとうだよ、みて!」
手のひらの上に載せたポニータのボールはゆらゆらと揺れていた。もういいよ、あやまらなくていいよ。そう言っているかのように、横に揺れていた。
「あっありがとうっ、も…もどるね!」
その揺れを見て嬉しかったのか、それとも恥ずかしかったのか。彼は顔を赤くして走っていった。
ポニータは彼を許した、もう必要以上に恐れることはないだろう。近くにいても怖くて震えるなんてことはないと思う。
学校にはまだ早いだろう、大勢の子供の声に吃驚してしまう。自分でもうるさいと思う声量なのだ、間違いなく怖がる。
それでも少しずつなら連れてきてもいいかもしれない。ポケモンのみんなが近くにいる、安心してくれるだろう。
ポニータとの学校生活を想い、玲は微笑んだ。