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いよいよ始まるダンスの時間、ユキメノコと鍛えた舞を見せる時。応援席には家族達がいる、彼らにいいところを見せるのだ。周りには頼もしき仲間たちがいる、恐れることは何もない。
そうだろう皆と隣を見ると、そこでは紗更が緊張に顔を強張らせていた。相棒のピーちゃんが心配して見ているが、彼女は気付いていないようだった。
ユキメノコが体操服を握って、不安そうにこちらを見ている。大丈夫だよ任せてと彼女に頷き紗更に近づく。
「ササラちゃん、手みせて」
「えっ?てー?いいよー」
玲はあれをやることにした、手のひらに云々のやつである。紗更に緊張を解いてもらうために、手を出してもらう。
手を取り指をその上に置く、そのまま動かし始める玲。あれれ?なんかおかしいぞ、縦横無尽に動き回っているよ。女子小学生の手のひらの柔らかに、ついやってしまったのである。
何たる失態、これは彼女に詫びを入れねば、どうやって謝るか考えながら、恐る恐る彼女を見れば。
「ふふっ、んふっ。レイくん、くすぐったいよー」
ところが彼女は楽しそうに笑っていた、どうやら怒っていないようだ。玲は誤魔化すことにした。
「ササラちゃん、顔がギューってしてたよ?」
「えー?」
「しっぱいしたくないよね、こわいよね」
「むー…、うん…」
「だいじょうぶだよ、いっしょにいるから」
「うん…、いっしょねー、レイくん」
紗更の手を両手で握り、フニフニしながら目を見て言う。変なことしてませんよ、心配していただけなんです。
どうやら上手くいったようで、紗更は手をニギニギと握り返してくれた。何故か気に入ったようで、とても楽しそうにしている。右足を見れば、ピーちゃんが抱き着いていた。嬉しそうに鳴いていて、どうやらお礼を言っているようだ。
よかった、嫌われずに済んだ。彼女達に嫌われていたら、消えて無くなりたくなっていた。
そうやって手を握りながら笑いあっていると、ついに始まるようでアナウンスが流れてきた
『可愛らしいポーズには注目です。ぜひご家族で見守ってください』
「ササラちゃん、ピーちゃん!一緒にがんばろうね!」
「うん!」
「プクプク!」
「あっ…まってー…」
紗更の手を放し、踊るためにユキメノコと一緒に少し離れる。しかしそこで待ったがかかる、何か忘れ物があったのだろうか。不思議に思い振り返る。
「どうしたの、ササラちゃん?」
「あのね…もう一回いい?」
「て?いいよー」
まだ少し不安だった様だ、手を握って欲しいらしい。少し恥ずかしいが問題ない、信頼してくれているようでとても嬉しい。
もう一回手をニギニギしあって、今度こそ離れる。彼女は少し恥ずかしそうだったが、嬉しそうに笑っていた。
待たせてごめんねユキメノコ、がんばろうね。可愛い姿を、みんなに見てもらおうね。
『しっぽをフリフリ、ぴかぴかチャー!』
『みんないっしょに歌おうよ。みんないっしょに踊ろうよ』
『あたしね、みんなのことが大好きなの。いっしょにいて欲しいの。笑ってほしいの』
『だからね、あたしのことツカマエテ』
歌おうよ、ペカー!踊ろうよ、ペカー!輝く笑顔に手のひら添えて、おしりをクイッとはいポーズ。
子供達の楽しそうな踊りをみて、親御さん達はニコニコだ。隣で躍る紗更の姿をみて、玲の心臓はドキドキだ。
ポケモン達もとっても可愛い、今日はとってもいい日だな。
『ドンドンたったん、ドンドンたったん、ドンドンたったん』
とっても可愛いこのダンスも、とうとう終わりがやって来た。楽しく踊っていたのだが残念だ、親御さん達も心なしか残念がっている。
『とってもかわいい踊りを、どうもありがとう。それでは次は―――』
「ササラちゃん、よかったよ!」
「レイくんもうまかったねー!」
「ユーキィ」
「ピンプックー」
「みんなも可愛かったよ、すごくね!」
「ねー、かわいかったねー」
級友たちと一緒に、クラスの応援席に歩いていく。
家族のみんなは喜んでくれたようだ。母は妹を抱きながら一緒に笑っていたし、父はカメラを熱心に撮っていた。渡邊さんは口をムニムニ動かしていたし、祖父は満足そうに腕を組んで頷いていた。
「おわっちゃったねー」
「プクー…」
「まだリレーがあるよ。ササラちゃん、ピーちゃん」
「でも、うちだれもでないよー…」
「おにいちゃんがでる…」
「そうなのスダくん?白組?」
「うん…」
「ミルル」
「おうえんしないと!な、な!?」
高貴が応援しようと言う、玲はそれに頷いた。須田に兄がいるとは知らなかったが、彼とは友達なのだから応援はしたい。他の皆も笑顔で頷いている、これは決定だ。
須田は兄と仲がいいのだろう、応援してもらえると知って嬉しそうだ。彼の相棒も嬉しそうに鳴いている。
「でてきたよー」
「どこ!スダーン、どこ!?」
「あそこ…おにいちゃん…」
須田はクラスメイトの何人かにスダーンと呼ばれている。彼はその愛称を気に入っているみたいだ、最初呼ばれたとき嬉しそうにしていた。
ちなみに彼の相棒はクルミルのハミルくん、ハミルスダーンくんだ。
そのスダーンがある一人の人物を指で差す、彼は小学生にしては大きくて筋肉もありそうだった。
「でっけー!」
「すごい強そうだね」
「ねー、すごいねー」
「あしもはやいんだよ…」
「ミルッ」
須田が誇らし気に言う、いつもの雰囲気とは違いその表情は明るかった。
話していたら時間が来たようだ、第一走者達が並び始めた。どうやら須田兄はアンカーの様で、それらしき場所に座っている。
地面に手を付ける者、立っているだけの者。それぞれ違うが、みんな真剣な顔をしている。緊張感に空気が引き締まり、その時が近いのを知らせる。玲達は勝負が始まるのを今か今かと待ち侘びた。
その空気に耐えられなくなり、誰かが声を漏らしかけたところで、とうとう教師がピストル掲げ。今勝負が、始まった―――
上級生が走り出す、みんな真剣な表情だ。実力差はあまりないらしく、まだ横並びだ。だが、すぐにそれも開いていく。白いハチマキが先頭に飛び出る、どうやら我が白組が優勢なようだ。
「がんばれー、がんばれー」
「プクプクー」
「いけー、そこだー、がんばれー」
「ユーキィー」
そしてそのまま走り抜け、つぎの走者にバトンが渡る。差はそのままで進んでいく、白ハチマキが先頭のまま。
しかし第三で後ろが近づく、差がどんどん縮まっていく。いよいよそれが僅かになった時、とうとう我らが須田兄だ。
「スダーンの兄ちゃんがんばれー!スダーンにーちゃん!」
「おにいちゃーんっ」
「ミルミル!」
「スダーニーチャ!スダーニーチャ!」
「タタッタ!」
須田の兄がバトンをつかんで、全力疾走、猛然と走る。後ろが近づく、近寄らせるな。ラストスパート、走り抜けろ。
そしていよいよ、その時が来る。ゴールゲートを駆け抜けた。完全燃焼、地面に転がる。勝負の行方はどうなった!?
「か、かったよな!な!」
「ぜったいかったよ…」
「ミルゥ…」
「んー、むーんっ」
「勝ってるよみんな。だいじょうぶだよ」
『ただいまの結果は、一着―――六年一組、須田くん』
「やったっ!やったーっ!」
「かったよーレイくん、かったよー」
「うん、勝ったね!やったねスダくん」
「うんっ、うん!ありがとーみんなっ」
勝負の結果をみんなで喜ぶ、人もポケモンも全員笑顔だ。須田とハミルくんは抱き合って、兄の勝利を祝っていた。
どうやら彼らは待っていられなかったようだ、ハミル君を胸に抱き兄の元に走っていった。あんなに喜んでくれる弟がいるなんて、須田兄は幸せだなと玲は思った。
『本日は大変お忙しい中、運動会にお集まりいただきありがとうございました』
「レイくん、つかれたねー」
「そうだねササラちゃん、でも楽しかったよ」
楽しかった運動会もついに終わってしまった。クラスでの挨拶も終わり、あとは家に帰るだけ。片付けなどは上級生がやってくれる、一年生の特権だ。ユキメノコ達はボールに戻している、学校が終わったので出しておけないのだ。
少しの寂しさを感じながら、紗更と一緒に家族の元まで歩いていく。
「レイくん、きょうはありがとねー」
「んー?なにがー?」
「て、ギュってしてくれたよー」
その時の事を思い出し、玲は顔をこわばらせる。喜んでくれていたが、それは誤魔化しが上手くいっただけ。おてての柔らかさを思い出し、罪悪感がわく。
「うまくおどれて、ママよろこんでたのー」
「そっそう、よかったねササラちゃん」
「うん、だからありがとー、レイくん」
しかし紗更は本当に嬉しそうに笑ってくれていて、玲はその気持ちを素直に受け取ることにした。
結果論だが紗更は緊張をほぐせて、上手く踊ることが出来たのだ。それで母に褒められたと嬉しそうにしている、ならそれでいいではないか。
そう結論付けている玲の手を、紗更が急につかんできた。
「え!?どうしたの、ササラちゃん!?」
「ねー、レイくん!もういっかいギュってしてー」
笑顔を浮かべながらのその提案に玲は慄いた。して欲しいなら喜んでする、だが本当にいいのだろうか。冗談の可能性もあり、玲は紗更の顔をうかがう。
しかし紗更は本気らしい、今も手をニギニギ握りその返事を待っている。
「え、えっと…それじゃちょっとだけ」
「んふー、これすきー!」
やめて下さい、心臓が持ちません。紗更の好きという言葉に、そういう意味ではないと分かってはいても、ドキドキしてしまう。
紗更はおててニギニギが相当好きなようで、握るのをやめる度に笑顔で催促してくる。
玲は考えるのをやめた、全てを受け入れた。紗更は笑顔なのだから、何も問題なんてないのだ。
「あ、ママがきたよー、レイくんいこー」
「うん、そうだねー、いこうかー」
家族のみんなは手を振っていた、紗更の母も横にいる。みんな微笑んでいて、玲は心が温かくなる。
紗更はどうだろうと見て見れば、彼女もこちらを見ていたようだ。そのことに二人で笑いあい、家族の元に手を繋ぎ歩いて行った。