誤字・脱字報告もありがとうございます、いつも助かっています
これからもよろしくお願いします
方言に変な所があるかもしれません
技に独自解釈が入っていますが、何卒ご勘弁を
「あー!はんちくたい!」
「あ、あの…?」
「んあぁー!わたし!忙しかったん!です!」
「あ…その、申し訳ありません」
学校の試合用体育館の中、玲は今とても困っていた、視線の先で争う二人に。片方は二十代前半と思われる綺麗な女性、染めているのか白いセミロングで毛先だけ水色だ。
もう一人は正確には分からないが、おそらく二十代後半の男性。黒いかみに黒のスーツの、優しそうな人だ。胃が弱そう。
彼らは玲に用があって来たのだ。正確には玲の手持ち、ユキメノコにだが。彼らはユキメノコの進化を調べるため、学校まで見学しに来たのだ。
といっても深刻な話ではない、軽く戦って様子を見るだけだ。ポケモンは不思議な生き物、このくらいの事で大事にしてはいられない。
何故か片方はすごく怒っているが、玲が気にすることではないはずだ。きっとそのはずだ、少し不安になる。
「わたし、進化とか分かんないですよ!頭悪いですから!」
「いえ、寒河さんには野生との違いを見てもらいたいと…」
「違いが分かるほど見てませんよ!」
「ですが野生と戦えて、こおりタイプに詳しい方は他には…」
いつまで待てばいいのだろうか、ほんとうなら今頃は授業を受けていたのだが。幸いポケモン関係の授業ではない、一年の内容だし聞かなくても問題はないが。
「あの…だいじょうぶですか?」
「あー、ごめんね、怖かったよね。きみが悪いんじゃないから」
「ええ、君は悪くないので、気にしなくていいですよ」
このまま放置は嫌だ、玲は話しかける事にした。
この女性は子供に怒鳴るような事はしないようだ、先程とは違い目線を合わせて優しく話しかけてくれる。男性は子供と話し慣れていないのか口調は硬いが、表情は柔らかくとても優しい雰囲気だ。
どうやら緊張して話す必要はないらしい、そこはよかった。女性は怒ると怖そうなので、話し方に気を付けるが。よし、かわいくていい子の玲くんでいくか。
「わたしはね、寒河深冬(かんかわみふゆ)、よろしくねー」
「山形です、よろしくお願いしますね」
「よろしくおねがいします!みふゆおねえさん、やまがたおにいさん」
「え…めっちゃいい子なんですけど。調子に乗ったクソガキ想像してた」
「…寒河さんっ」
「いや、だって、特別な進化したんですよ?絶対調子乗りますって」
「目の前ですよっ」
「あぁー、メイクくらいしとけばよかった。山形さん、寝ぐせとかないです?」
かわいく振舞ったら、目の色が変わった。この人は間違いなくショタコンだ。気を付けた方がいいか、いやここは学校だ、問題はないだろう。それにクソガキとは思われたくないのだ。
「あの…みふゆおねえさん?」
「だいじょうぶ、きにしないでね」
「はい…あの、ボク白雪玲です。よろしくおねがいします…髪きれいですよ」
「ちょっ、やらしーにほめやーすなっ」
「…寒河さん」
寝ぐせはないので安心してくださいね。さっきまで怒ってた綺麗な女性が、髪を抑えて照れている。玲は変な気持ちになりながらも、このまま続けることにした。
担任から話は聞いていたが、彼らはポケモンバトルをしたいらしい。あの女性はこおりタイプに詳しいらしく、ユキメノコの戦う姿を見て野生との違いを知りたいようだ。
そのバトルも軽く手合わせするだけみたいだ。それくらいなら授業で何時もやっている、何も問題ない。
「ごめんね、玲くん。こわいことはしないからね」
「はい!よろしくお願いしますね、みふゆおねえさん!」
「んーっ、よろしくねー!玲くーん!」
「…それでは、ポケモンを出してください」
寒河がコートの反対側で、嬉しそうに手を振っている。それを見た山形は、胃に手を当てて痛そうにしていた。彼のそんな姿に玲は少し悲しくなる、働くって大変だなと。自分も将来ああなるのかと、今から不安に思ってしまう。
「たのんだよ、ユキメノコ」
「ユキィ、ユーキィー」
「んー、見た目はー…あーわっかんないっ、変わんないんじゃないですか?」
「かわいいよ」
「そうですか…、では少し戦ってみてください」
「りょうかいです。みてねー玲くん、この子がわたしのポケモンだよ」
「デリリー」
デリバード。こおり、ひこうタイプのポケモン。ユキメノコの力を試すためだからか、半減されない子を選んでくれたのかな。
主人と一緒に手を振って、こちらに笑顔を向けてくれている。赤いカラダで白い顔の、サンタの恰好をしたペンギンのようなその姿。とっても可愛くて、首周りの毛をモフモフしたくなる。
玲の熱い視線に主従そろって照れている。ユキメノコはそんな主人に焼きもちを焼いたのか、抱き着いて頭をグリグリ擦りつけてきた。うちの子達にも向けている視線なのだが、よその子には嫌みたいだ。
「おぉー、すっごい懐いてますねー、これが原因じゃないですか?」
「いえ、他の方でも懐いている子は…いや女の子だから…でも他にも…」
男の子が好きでも仕事で来ている自覚はあったのか、寒河は真面目に意見していた。山形はぶつぶつ呟いて、ユキメノコを見ている。そんなユキメノコは山形の視線が怖いのか、玲の後ろに隠れてしまう。背中に頭を擦りつけている彼女はとても可愛い。
少し構うくらいいいだろう、彼らもユキメノコを見たいようだし、こんなに怯えてて可哀そうだ、放って置く事なんて出来っこない。
怖かったよねユキメノコ、一緒にいるからもう大丈夫だよ。ギューってしてあげるね、ユキメノコはこれが大好きだもんね。いい子いい子してあげるからね。
「まだ一年生ですよね?貰ったばかりでここまで懐くって、あまり無くないですか?」
「育成期間と性別になつき…関係ありそうですね、あとは強さも知りたいので…寒河さん」
「りょうかいです。玲くん、だいじょうぶ?」
「―――はい、ユキメノコ、いける?」
「ユキッユキィー」
どうやらユキメノコは元気が出たようだ、嬉しそうに頭を胸にこすり付けてくる。この子はもう大丈夫だろう、怖がらずに戦ってくれるはずだ。向こうもそろそろ始めたいようだし、ユキメノコに前に出てもらおう。
デリバードも前に出てきて、手を振って待っている。その姿は可愛いが、余裕そうなその表情。そんな彼に、ユキメノコの強さを見せてあげねば。この子はすごく可愛いいが、とても強いんだと。
「それでは試合―――開始」
「おねがい、ユキメノコ」
「与助、いってらっしゃい」
ここに勝負の幕が開く。
かげぶんしん―――
最初に動くはユキメノコ、縦横無尽に飛び回る。影を置き去り相手を惑わす、これで相手はどう出るか。
しかし与助は余裕の表情。余裕綽々、泰然自若。己が何かする必要はなし、慌てず騒がず悠々と往く。
「おー、はやいねー」
「つぎだよ、ユキメノコ」
相手は強い、そんなの分かっていたことだ。こんなので相手が慌てふためく筈がない。これはただの小手調べ、次の手が重要なのだ。手加減なんかしたことを後悔させてやる。
相手の周りを飛び続けるユキメノコ、そんな彼女に次のお願い。
あやしいひかり―――
ユキメノコからの不気味な光に、与助の目には動揺の色。
相手はひよっこ、その筈なのだが、間違っていたのだろうか。周りの影が動き出す、こんな技など見たことない。
どうなっている、これは幻影、動く道理はないではないか。こちらに迫る数多の敵に、与助の顔に汗が流れる。
このままではいけない、それは分かる。しかしいったいどうすればいい。辺りは暗くあの人もいない、己はここに一匹なのか。
「ユキメノコ、い―――」
玲はここで気付いた、一つの可能性に。
不思議に思ってはいたのだ、デリバードが出てきたことに。最初はこちらを試すために、タイプを考慮したのかと思った。しかし、それでもおかしいと思ったのだ。彼が悪いわけではない、この世界だからこそ覚えた疑問だ。
デリバードは技を二つしか自力で覚えない、他は技マシンとタマゴ技だけだ。そのうち一つはギャンブル技、こちらを試すには向かない。残り一つの技だけで何を知れる、ユキメノコの何を試すことが出来るのか。
タマゴ技を覚えているなら問題ない、こちらが考え過ぎていただけだ、回避も積んでいるし怖くはない。怖いのはみちづれにされる事だけ、力を試すためにそんな技は使わないだろう。
しかしもし彼が他の技を覚えているのなら、このまま進むと不味いことになる。現チャンピオンの相棒も、DVDを見て覚えたらしい。何が出てきても不思議ではない。
「ごめんユキメノコ!あれお願い!」
「与助ぇ!きよったよ!」
遠くから響くその声に、与助の瞳に光が戻った。
己は孤独ではなかったのだ!頼りになるあの人はいてくれたのだ!主人の声が聞こえた与助、その指示に疑いはなし!
まもる――――――
―――かげぶんしん
「なっ―――え…?」
「今だ、ユキメノコー!」
「よ、与助!」
守りを固める与助は笑う、来れば居場所が知れる罠。如何に影が多くとも、常に答えはただ一つ。どこに隠れていようとも、これで貴様はおしまいよ。さあ何時でも来るがいい、心を決めて其の時を待つ。
しかしそこに来るものはなし、思惑外れ守りが崩れる。慌てた主人の次の指示は、しかし一手遅かった。
たたりめ―――
辺りが歪む、何も分からぬ、周りの闇が己に迫る。上下左右全てが回る、一体ここは何処なのだ。足元に腕が伸びる、空からは血が降ってくる。迫る闇が己を蝕む、そして遂にはくずおれる。
静かな空間そこに一つ、誰かの唾を飲む音がなる。しかし動くものはなし、ここに勝負の幕は下りた。
「ありがとう、ユキメノコ。がんばったね」
ユキメノコをボールに戻し、寒河の元へ向かう。思う事はあるが、今は彼女にお礼を言わなければ。
「いっぱつかぁ…」
「お疲れ様です」
「ありがとうございました」
「あー、玲くんすごいねー、びっくりしちゃったよ」
玲は寒河に褒められたが、素直に喜ぶことが出来なかった。
もし罠にかかっていたら、ユキメノコは居場所を知られていた。来ることが分かっている与助と、受けられると思っていなかったユキメノコ。与助は罠にかかった敵に容赦はしないだろう。たとえ混乱していたとしても、相手は経験が違う。そのまま押し切られていただろう。
「玲くん、そんな顔しなくていいんだよ。すごかったんだから」
「ええ、想定外の結果でしたね」
「山形さん、これ強さ関係してません?進化に」
「貰われる前は、普通の強さだったらしいのですが」
「かわいい男の子に育てられるんですよ?乙女パワーで強くなりますよ。わたしならなります」
「…寒河さん?」
彼らは褒めてくれるが、まだ自分を強いとは言い切れない。手加減されていたのだ、最初の方は何もしないでいてくれたし。
しかしそれでは駄目なのかもしれない、自分のために頑張ったユキメノコにも悪い。少しは胸を張っていいのかもしれない、自分はこの子を勝たせてあげられたのだと。
「みふゆおねえさん、さっきのヒヤッとしました」
「失敗しちゃったけどね。ビックリしてくれたなら、覚えさせて良かったかな」
「どうやって覚えたんですか?」
「ん?動画を見せたのよ」
「どうが?それでおぼえるんですか?」
「時間がかかったけどね。チャンピオンが言ってたから、真似してみたの」
成功した人がいる、チャンピオンの決勝時の話は本当だったのだ。多くの技を使えるポケモンがいる、それはとても嬉しい。
玲は多くの技から取捨選択した、この世界ならではの戦術で、ポケモンバトルをしたいのだ。
この世界はゲームとは違う、技の情報なんて目で見れないのだ。そのポケモンがどの技を使えて、何を覚えることが出来るのか、それはポケモン自身が使って初めて分かる。つまり技マシンの技は覚えない、使える技が少ないのだ。
この世界にも技マシンはあるのかもしれない、しかし少なくとも今のところは見たことない。調べてみたことはあるが見つけられなかった、ないと思っておいた方がいい。
しかし、マシン技を覚えたポケモンはここにいた。二匹もいたのだ、他にも何かの媒体で技を覚えたポケモンはいるだろう。未来に希望が湧いてきた。
だがそれは先の話で、今そのようなポケモンを連れているのは、自分以外では二人しか知らない。そのうちの一人をここで逃してなるものか、玲は媚びを売ることにした。
「みふゆおねえさん、また会ってくれますか?」
「えっ、どうしたの玲くん?」
「おねえさんカッコよかった!また会いたいの!」
「―――いっしょにいこまい?」
「いこまい?……!寒河さんっ!それは駄目ですよ!」
全力で媚びを売る玲、そんな玲の笑顔に苦しむ寒河。寒河は山形に止められて、玲の腰ではボールたちが震えている。
そんな賑やかなやり取りの中、授業終了の鐘が響いていた。
明日からも続きは投稿しますが、これで第一章は終わりです
次の話は少し時間が飛びます