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渡邊さんは硬かったがとても暖かかった。いい匂いもする、男は精一杯鼻から息を吸い込んだ。
とても気持ち悪い。だが顔はとても可愛らしいので、いい印象は持ってもらえたようだ。嬉しそうにあやしてくれていた。
男は渡邊さんの体温と匂いを味わい、眠気を覚えながらも情報収集は続けた。
どうやらここは現代の地球かそれに近い世界のようだ。
ポケモン世界のどこかの地方に生まれたのだろうと思っていたのだが、周りを見るにどうやら違うようだ。
目に入るのは漢字にひらがな、カタカナに英語。それからアラビア数字。ポケモン世界特有の文字はどこにもなくて、そのことに少し安心する。
全てではないが原作を知ってはいる、だが不思議な常識があふれている世界で生きることに不安を覚えていたのだ。
気づいたら世界が滅びかけているとか普通にありそうで、そんなの困ってしまう。
平和に生きていきたいのだ。
ガーディのバウちゃんが尻尾を振る姿を見る、伝説はいるのだろうか。安心するのは少し早いか。
父は渡邊さんが連絡してからすぐに帰ってきてくれた。急いだからかスーツやネクタイはよれていて、髪型も崩れていた。
泣いたのか目元も赤くなっていて、眼鏡がずれていても気付いていない。
どれだけ家族のことを思っていたのかを感じ嬉しくなった。
夫婦の目元に涙が浮かぶ、嬉しそうに笑っている。渡邊さんも微笑んでいて、バウちゃんの尻尾はゆれている。男は目を細めた。
それからのことは覚えていない。赤ん坊だから仕方ないのかもしれないが眠気を堪えることができなかったのだ。気づいたら眠っていたようだ。
寝てる間に病院に行ったらしい。両親の話を聞いて分かったのだが、体に異常はなかった。栄養もこれから補っていけばいいそうだ。
安心した、自分が原因で体に異常が起こっているのではないかと思っていたのだ。
なぜ眠ったままだったのかは未だにわからないらしい。もしかしてその原因が自分なのかもしれないとは思うが、確かめることはできないし、原因究明は医者に任せることしかできないので考えないことにする。
ちなみに名前は
父の名は白雪
家のテーブルに置かれた診断書の名前欄を見て少し恥ずかしくなった。
しかし玲は、親や自分の名前を恥ずかしがるなんてと自分を叱責する。
それにこの世界ではこういう名前が一般的なのかもしれない。慣れよう。
「おいしいですかーレーくん、いっぱいゴクゴクしましょうねぇ」
病院から帰ってきて、現在母の胸を吸っている、授乳だ。おっぱいだ。
最初は恥ずかしかった、今は赤ん坊だとしても前世があるのだ。いくつまで生きたかははっきりと覚えてはいないが、それでも成人男性としてそれなりに生きた記憶がある。
だがそんな羞恥心は吹っ飛んだ。胸に吸い付いた瞬間、頭の中に渦巻いていた葛藤のすべてが意味のないことの様に思えた。
ぼくは赤ちゃん、それでいいではないか。ばぶぅ。
「父さん達は玲の誕生日まで来れないみたい」
「そう…元気な姿を見せてあげたかったのに残念だわ」
「とても悔しがってたよ、誕生日にはプレゼントを持って絶対に行くだって」
「こっちもお誕生日会には来るって言ってたわ」
(っは…寝てた?おっぱいすげぇ、抗えなかった…)
「あ、起きたみたいだよ」
玲は父の腕の中で眠っていた、母から受け渡されていたようだ。頭をなでる手の心地よさに目を細める。
周りを見るとカーテンが閉まっていた、光が漏れていない。住み込みではないのか渡邊さんも帰ったようで見当たらないし、あれから大分時間が経ったようだ。
(顔面600族!)
細めていたまぶたを開き父の顔を見上げ思わず震える、驚くほどに顔が整っている。初めて見た時から整った顔だとは思っていた、だがそれだけだったのだ。髪も服も乱れ、焦りで顔が強張っていたため震えるほどでなかった。
だが今は違う。部屋着に着替え髪も整え、こちらに向かって柔らかに微笑んでいる。男の自分が思わず見惚れてしまいそうな顔立ちのイケメンさんだった。
玲は歓喜した、将来の自分の容姿への期待に。
周りを見渡し心が軽くなる。広いリビングに高そうな家具、我が家の経済状況に不安はない。
ペットのバウちゃん(ガーディ)が楽しそうにしっぽを振っている。とってもかわいい。
家族がこちらに微笑んでいる、自分への惜しみない愛情を感じ、喜びがあふれだす。
スタートダッシュはばっちりだ、不安を覚える必要なんてないさと自分を鼓舞する。
未来はバラ色だ。