ポケモンが現れた世界に生まれて   作:ダダダッダ

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新章突入です


二章
一話


 楽し気な生徒の笑い声が響く、日の光で明るい教室。玲は自分の席に座り、開いたままのドアから見えるネームプレートを見る。

 

 三年一組。

 とうとう玲は三年生になったのだ。といっても今は二月、もう少しで四年生になる。

 時間が流れるのは早いものだ、そんなことを考えているとそこに誰かがやって来る。どうやら後ろの席の須田が登校してきたようだ。

 

「おはよう、れいくん」

「おはよう、キーツくん」

 

 須田季逸、彼とは一年生のときから同じクラスだ。紗更と高貴もずっと同じクラスで、みんなで喜び合ったものだ。

 どうやら二年からは、実力準にクラスが決められているらしい。みんなとはこれからも一緒だろう、彼らは強いのだ。この話を聞いて、玲はみんなにアドバイスしていたのだ。

 

「嬉しそうだね、もしかしてもらえた?」

「ち、違うよ…そうじゃなくて、えっと…」

 

 今日は二月十四日、バレンタインデーだ。嬉しそうなので貰えたのかと思ったのだが、どうやら違うようだ。何やらこちらに気を使っているようで、言いにくそうにしている。

 だがそれを見て玲は気付いた、須田の誕生日が来るのだと。

 

「あぁ、大丈夫。気にしないでいいよ」

「う、うん」

「もうすぐだもんね。頑張ってね、応援してるよ」

「ありがとー、がんばるね」

 

 四月三日、彼はとうとう十歳になる。つまり認定試験を受けることの出来る年齢になるのだ。早すぎる気がしたが、何かで思い出して嬉しくなったのだろう。とてもよく分かる、それに受かればポケモンを外でも出せるようになるのだから。彼の腰にあるボールホルダーで相棒のハミルくんも嬉しそうに震えている。

 

 須田が言いにくそうにしていたのは、玲の誕生日が三月だからだ。来月でやっと九歳、認定試験はまだまだ先なのだ。

 来年まで受けることが出来ない、確かにそれは悲しい、悔し涙を流したものだ。しかしもう受け入れた、決まりなのだから仕方ない。それにいつまでも悲しんでいては可愛いポケモン達が気にしてしまう。

 それに嬉しいことが一つ、手持ちを増やしていいと家族からお許しが出た。悲しんでる玲を見かねたようだ、心配かけて家族には申し訳ない。

 

 そういうわけで来月の誕生日の後には新しい子がやってくる、とても気分がいいので須田が気にする必要はないのだ。

 そんな話をしていたら、女子が一人玲達に近づいてきた。彼女は須田の机をたたき言った。

 

「あのさ…これ、あんたにあげる。甘いもの好きでしょ…」

「え…どうだろ?そんなでも…あ、いやっ、ありがとうっ」

 

 どうやら彼女は須田にチョコをあげたかったようだ、手の下に可愛く包装された箱がある。彼は結構モテるのだ、かわいい系男子なのだ。

 

 須田は彼女の力強さに震えて、最初はチョコだと気づかなかったようだ。しかし恥ずかしそうにしている彼女を見て気付いたようで、次第に赤くなりだした。よきかな、よきかな。

 

 そんな風に小学生の青春にほっこりしていると、彼女が話しかけてくる。彼女の目は先程とは違い、鋭いものに変わっていた。ちょっと変わり過ぎではありませんか?

 

「ちょっと白雪くんさ、こっち来てよ」

「え…な、なんでしょう…町田さん…?」

 

 町田勝美(まちだまさみ)、愛称ママちゃん。彼女の眼光の力強さに、玲は九歳の女子にブルってしまった。

 彼女は自分に何の用があるのだろうか、間違いなく浮いた話ではないだろう。あれは先ほどの乙女顔ではない、誰かを殺しそうな目だ。出来れば付いていきたくない、命は惜しいのだ。

 だが断ったら何をされるか分からない、今の彼女はそれだけの空気を放っている。

 いやいい子なんだけどね、たぶん乙女特有の何かが暴走しているのだろう。ポケモン達もそれを分かっているからか大人しい。

 

「え?えってなに?いやなの?」

「い、いえ。ついていきます」

 

 付いて行かない選択肢あるんです?見えませんよ。

 

 

 

 

「あのー…もうすぐチャイムが…」

「だいじょうぶ。そんなに時間かかんないよ、たぶん」

 

 多分って何です、はっきりして欲しい。一瞬でキメてくれるのか、長く苦しむことになるのか、分からないのがとても怖い。もう少し遅く登校しておけばよかった、そうすればこの時間はなかったのに。

 

 玲はいつも父と一緒に瀬川さんの運転で学校に来る、会社の時間に合わせているのだ。なので学校には早くついてしまう。

 しかし問題はなかったのだ、教室でボールを撫でているだけで癒されていたから。彼女達と戯れる時間を楽しんでいたのだ。

 だが今日は己の選択を後悔していた。もう少し遅く教室に入ればよかった、どこかで時間をつぶすことも出来たのにと。

 

「あ、レイくん!おはよー!」

「ササラちゃん、おはよう!」

「連れてきたよ、さらさら」

「え?」

 

 玲がそんな風に後悔していると、紗更が挨拶してきた。落ち込んだ心には、その輝く笑顔がとても嬉しい。先程まで静かだった腰のボールたちも、震えて喜んでいる。

 彼女は靴箱から遠い人気のない場所にいた。彼女と一緒にここでお話しでもしていれば、苦しまなかったのかなと思ってしまう。

 しかしそこで、町田が聞き捨てならない事を言う。どういうことだ、紗更が町田に頼んで自分を来させたのだろうか。

 

「ママちゃん、ほんとうに呼んでくれたんだー」

「ウソなんか言わないよ」

「え…ササラちゃんが呼んだの?」

「うん、そうだよー。あ、ごめんね…やだった…?」

「そんな訳ないでしょ、よろこんで来てくれたよ」

 

 彼女は何を言っているのだろうか、あのようなオーラを出しておいて。

 しかし悲しそうな紗更を見て、来たくなかったなどと言えるはずもない。紗更は何も悪くないようだし、この件は水に流そう。

 

「うん、ササラちゃんが呼んでるなら来るよ…知ってれば」

「あれ?言わなかったっけ?ごめんね」

「…いいよいいよ、次は忘れないでね」

「うん、気を付ける。そんじゃね、さらさら、がんばって」

「ありがとねー、ママちゃん」

 

 最後に玲の肩に手を置き射殺すような目を向けて、町田は手を振って教室に戻っていった。

 和やかに終わるかと思っていたのに、最後にこの仕打ち。一体彼女は何をしたいのだろうか。

 

「だいじょうぶ?なみだ出てるよー?」

「ちょっと目にゴミが入ったみたい」

「いたくなーい?」

 

 やめて下さい、優しさで涙がこぼれてしまいます。

 ハンカチを手に目元をのぞき込む紗更に、玲は泣き出してしまいそうになる。町田と紗更の緩急に、玲の情緒は不安定だ。

 

「ササラちゃん、何か用があったの?」

「えー?ママちゃんから聞いてないのー?」

「…聞いてないけど」

「そうなんだ…え、っとね…あのね…」

 

 何やら紗更が恥ずかしそうに俯いている、モジモジしていてとても可愛い。しかしこの空気は、こちらまで恥ずかしくなってしまう。

 空気に耐えられなくなり、何か言おうかと口を開こうとする。だがそこで決心がついたのか、紗更が先に口を開いた。

 

「これ、ね…」

「あ…これって、あれ?」

「その、チョコね…美味し、から…喜んでもらえる…かなって」

「もらっていいの…?」

「うん…やじゃなかったら」

「嫌じゃないよ、すごく嬉しい。ササラちゃん、ありがとう」

 

 紗更からその四角い箱を受け取る。白い包装でピンクのリボン、一生懸命選んでくれたそのチョコを。受け取って貰えたことが嬉しいのだろう、笑顔が輝いていた。開けていいか紗更に聞くと、ニコニコしながら頷いてくれる。

 中には様々な形の包装されたチョコレート、その色はカラフルで目を楽しませる。それを一つ取って紗更に顔を向けると、自信ありげな顔で頷いた。

 どうやらすごいものを選んでくれたようだ、期待感に胸が弾ませながら包装を剥がし口に入れた。

 

「おいしーよ、ササラちゃん!」

「そーでしょー、これわたしも好きー!」

 

 そのチョコレートは美味しかった、己の乏しい語彙力では表せない程の味だった。そんな玲の表情を見て喜んでもらえたと知り、紗更の笑顔が輝いた。

 玲の腕をつかむ紗更、至近距離からの笑顔で玲の心臓はドキドキだ。

 

「ね、ね、もっと食べていいんだよー」

「うん食べるよ、だけどもうすぐチャイムが鳴るから」

「えー…むーん、わかったー…」

 

 彼女といるのは楽しいし、チョコは美味しい。もう少しここに居たいのは確かなのだが、チャイムが鳴ってしまうので、そういう訳にはいかないのだ。

 紗更を促して教室に戻ろうとする、しかし何故か彼女はそこを動かない。彼女の我儘は珍しいと思い、どうしたのだろうと見ていると。

 

「んふー、レイくんおねがーい!」

「―――いいよ、はいササラちゃん」

 

 一年生の運動会から始まった、彼女のお気に入り。おててニギニギ、時おり彼女はこれをして欲しがるのだ。彼女の手を握りながら思う、なんでこんなに気に入っているのだろうと。

 最初はただの誤魔化しからだった、取り繕う目的でしたことだった。それが何故か何度もねだられ、いつの間にか習慣化していたのだ。

 

 手を繋ぎながら教室に向かう、彼女は満足するまでこれを止めないのだ。最初のころは恥ずかしかった、しかし長い間続けていると慣れてくる。今ではこの姿を見ても誰も何も言わない、言ったら町田の目が鋭くなるのだ。

 

 教師たちも、微笑ましいものを見る目を向けてくるだけだ。自分が彼らの立場でも同じような目を向けると思うのでそれは分かるが。

 

「ササラちゃん、チャイム鳴ったよ!」

「走ろー、レイくん!」

 

 微笑ましくても遅れたら怒られてしまう、私立の学校は厳しいのだ。急がなくてはと紗更を促す、彼女はしっかりと頷いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「よかったね、さらさら。なんだって?」

「おいしいって!喜んでくれたのー!」

「いいじゃん、いいじゃん。サイコーよ、白雪くん」

「うん、いや…痛いよ、町田さん」

 

 背中をバシバシ叩いてくる町田さん、彼女に悪気は無いのは分かっている。だが衝撃がすごいのだ、力を抑えて欲しい。

 

 どうやら彼女は紗更を応援していただけらしい、気迫がすごすぎて恐ろしいオーラが出ていたが。彼女は紗更と自分を重ねていたのだろう、町田は須田にチョコを貰ってもらえた、だから紗更にも上手くいってほしかったのだ。

 彼女の眼光はすごく怖いので、出来れば抑えて欲しいが。ついでに力も強いので、そちらもお抑えて欲しい。

 

「お、おい!ママちゃん!レイレイが痛がって、いるから…や、やめない…?」

「は?何言ってんのあんた。だいじょうぶ?」

 

 大親友の高貴くん!大親友の高貴くんではないか!もっと言ってやって欲しい。怖がっている彼には申し訳ないが、そろそろ背中が赤くなっていそうなのだ。

 彼は町田の眼光に瞳が潤んでいるが、意を決したのだろう、震えながらも彼女にその言葉を放つ。

 

「こ、これを見ろぉ!」

「は、えッ?ちょっとあんた、それッ!」

「お父さんにもらったんだ!オレは行かないからな!誰かいらないかなぁ!?」

「ちょ、ちょうだい!」

「よしきたー!」

 

 さすが大親友の高貴くん!

 彼の作戦のおかげで、町田は玲から気を逸らす。高貴が手に取るそれを受け取りに、彼に向かい離れていった。

 

「なによー、夏木くん!いいとこあるじゃない!」

 

 彼女が両手で持ち嬉しそうに見ているそれ、限定スイーツのチケット。彼女はスイーツが大好きなのだ、作るのも食べるのも大好きな可愛い女の子なのだ。相棒のマホミルの『ふわわん』ちゃんと一緒に、よくお菓子を作っているらしい。

 

「これ四人までだ…お父さんこないよね…さらさら、一緒に行かない?」

「それいつのー?あ…ごめんねー、その日ダメなのー…」

「そっかー、おっけおっけ、お母さんと行くから大丈夫」

「あ、キーツくん誘ったらー?」

「ぼ、ぼく!?え…と、町田さんが嫌なんじゃ…ないかな?」

「な、なに言ってんのよ…その、あー…いく?いっしょに?」

 

 がんばってね、キーツくん!

 

 

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