誤字・脱字報告もありがとうございます、いつも助かっています
これからもよろしくお願いします
「ヒカリちゃん、がんばって!」
「だいじょうぶよ、ヒーちゃん。こわくないわ」
「カニャ、カニャン」
先日とうとう姫光が五歳になった、これで妹はポケモンを捕まえることが出来るようになったのだ。今日はそんな妹の初めてのポケモンを迎えるために、家族のみんなで小田原のふれあい公園まで来ている。
お目当ての子の名前はニャスパー、ふわふわした灰色の毛をもつ二頭身で二足歩行の猫型ポケモンだ。無表情なのだがその見た目は愛くるしく、姫光が家族に迎えたがるのも激しくうなずける。
しかしそんなニャスパーはとても珍しい子のようで、なかなか見つけられなかった。運よく比較的近いこの小田原に生息していたが、本来もっと自然豊かな場所にいるポケモンのようだ。
午前中いっぱいかけて、ようやく果樹園でお食事中の子を見つけたが、ポケモンのみんなと一緒に探してそれなのだ。原作のように雌雄厳選なんてとんでもない、性別がどうだろうが絶対にこの子を捕まえる。大丈夫、姫光ちゃんはどちらでも可愛がってくれるはずだ。
目の前では母からバウちゃんを預かっている姫光が、ニャスパーと対峙して可愛く気合を入れている。
こういうのでいいんだよ。タブレットから出したポケモンに、お願いしてボールに入ってもらうのが異常なのだ。学校で習っているとはいえ、その新鮮な状況には感動だ。大事な子達に不満はないのだが、原作のように戦って捕まえるのにも憧れてはいるのだ。
「ばうちゃ、いって!」
「ばわぉ!」
そしていよいよ姫光の初バトルが始まった。彼女のかわいいお願いにバウちゃんが応え、ニャスパーに走り寄りそのまま肉球パンチ!
『わざ』ではないが許してほしい。火傷をさせたくないし、毛が燃えて苦しんでいる姿を見せるのは姫光の教育に悪い。噛みついたり砕いたりはもっと悪い、妹が泣いてしまう。
それに普通に『わざ』を出しては倒してしまう。バウちゃんは何気に強いのだ、母が子供の頃から育てているのだから。
芝の上に倒れ頭を肉球で抑えられているニャスパー。どうやら降参のようで、目を瞑って大人しく手足を伸ばしている。
一瞬で終わってしまったが、この子を悪く言わないであげて欲しい。周りでポケモンの家族達みんなが姫光の初バトルを見守っているのだ、彼女達がいては頑張ったところでどうにもならない。
マイペースな子ではないようだし、怖気づいてしまっても仕方がない。
ニャスパーはエスパータイプのポケモンで、強力なサイコパワーを持っているのだ。野生のポケモンは何をしてきてもおかしくはない、家族を危険な目にあわせるわけにはいかないのだ。
そのため何があっても何時でも飛び出せるように、ポケモンのみんなには見守ってもらっていたのだ。
「がんばったね、ヒカリちゃん」
「ねこさん、いたくない?」
「ニャウ、ニャー…」
「まって、ヒカリちゃん、まだダメだよ」
「おにーちゃ…?」
痛い思いをしていないか心配した姫光がニャスパーに近づくが、今はまだ危ないので急いで止める。諦めているように見えても野生なのだ、何があるか分からない。捕獲が終わるまでは安心できないのだ。
悲しそうな表情に心が痛むが、心を鬼にして姫光に言い聞かせる。
「ポケモンは強いんだよ。ヒカリちゃんは痛い痛いしたらイヤだよね?」
「うん…」
「あの子をボールに入れて、痛いの治してあげようね」
「うんっ!おにーちゃ、なげればいいの?」
「そうだよ。がんばってね、ヒカリちゃん」
確実に当たるように両手で押し出すようにボールを投げる姫光。彼女の可愛らしい投げ方につい微笑んでしまうが、何があってもいいようにボールの行方はしっかり目で追う。
だが心配する必要はなかったみたいだ。そのボールは外れたりすることもなくニャスパーを内に入れ、心臓が鼓動するかのように震えだした。
この世界でもモンスターボールの動作はそんなに変わらない。原作で何度も味わった心臓に悪いあれで、設計者の方にはもう少し何とかしてほしかった。とても焦れったい、早く終わってくれ、時間が過ぎるのが遅く感じる。
しかしやがてボールの鼓動は収まりだし、遂には動かなくなる。そしてその結果は―――
―――やったー!ニャスパーを、捕まえたぞ!
ニャスパーはボールから飛び出る事もなく、大人しく姫光に捕まえられた。これで妹にも大切な相棒が出来た、お兄ちゃんとしてはとても嬉しい。姫光には兄のように、相棒と信頼し合えるような仲になって欲しい。兄とマスカーニャのように!
現在、ふれあい公園内のクラフトコーナーにいる。家族が増えた記念にという事で、みんなで何か作れたらと思いここに来ているのだ。
家族が増えたことを一番喜んでいる姫光は、相棒のニャスパーと仲良く隣同士で座っている。
ニャスパーの反対隣にはテブリムが座っていて、ニャスパーの面倒を見ている。
ニャスパーはエスパータイプなのだが、サイコパワーを上手く扱えない、定期的に開放しないと暴発してしまうのだ。そんな力の解放を危険のないように手伝ってもらい、あわよくば力の制御の訓練にもなったらいいなと、テブリムに面倒を見てもらっているのだ。
どうやら試みは上手くいっているようで、ニャスパーが少し嬉しそうに笑っている。この子の無表情は頑張って力を抑えていたからのもので、今は無理していないようで何よりだ。
ニャスパーは大人しい性格なので、テブリムも一緒にいて辛くないようだし、このまま彼女達には仲良くなってもらいたい。
「みーにゃ、できる?」
「ニャウ、ニャー」
この子の名前は、ミーニャちゃんだ。どうやら姫光は兄に影響されているようで、猫型ポケモンのマスカーニャのように、自分の相棒の名前にもニャを付けたかったらしい。そんな彼女がとっても可愛い、妹もミーニャちゃんもどちらも抱きしめたい。
それとこの子は女の子だ。自分で確かめたわけではない、ポケモンにもセクハラは良くない。マスカーニャに聞いたのだ、彼女なら猫同士だから分かるだろうと。頷いてくれてよかった、本猫に聞くのは失礼だ。貴方は女の子ですか、怒られてしまう。
「みて、おにーちゃ」
「うまいよ、ヒカリちゃん、ミーニャちゃん」
「ニャー」
頑張ってくれているテブリムの頭を撫でていると、姫光とミーニャちゃんが手作りのペンダントらしき物を見せてくれた。それは彼女達の合作で、その可愛らしい初めての共同作業に、心が温かくなってくる。
「ニャウ」
ついミーニャちゃんを撫でてしまったが、彼女は嫌がっていないみたいだ。テブリムが頑張ってくれているから、その主人の事も受け入れてくれているのだろうか。危ない所だった、馴れ馴れしすぎて妹の相棒に嫌われるなんて御免だ、テブリムさまさまだ。
だがこの分なら、ミーニャちゃんの我が家での居場所は大丈夫だろう。姫光との相性もいいようだし、テブリムという仲良くなれそうな家族もいる。サイコパワーの問題も目途が立った。もちろんしばらくは様子を見るが、そこまで不安に思う事はないようだ。
「カニャーン」
「ニャニャウ、ニャウ」
それに我が家にはマスカーニャがいる。ミーニャちゃんも猫の上位者と敵対したくはないようで、椅子の上に立ち上がり鳴き声を上げて挨拶している。
そんなミーニャちゃんの従順な態度に、マスカーニャも満足げに微笑んでいる。上下関係は完全に決まっていた。いや別に我が家のポケモンに上も下もないのだが、彼女もミーニャちゃんに何かを強要するようなこともないだろうし。
「ユキィー」
「ニャウ」
今まで我が家のみんなの妹だったユキメノコも、姉としてミーニャちゃんの面倒を見てくれるようだ。同じく末妹のポニータもきっと仲良くしてくれるはず。
他のみんなも、テブリムの邪魔にならないように今は離れた場所に座っているが、特に嫌そうな顔はしていない。
「よかったね、ヒカリちゃん、みんなミーニャちゃんが大好きだって」
「うん!ひかりもね、みーにゃだいすき!」
「ニャウ、ニャー」
なにより本猫のミーニャちゃんが、無表情だった顔で嬉しそうに微笑んでいるのだ。
まだ捕まえたばかりで信頼関係はない。それでもこの子が、我が家の家族と少しでも一緒にいたいと思ってくれるなら、多少の問題なんて皆でどうにかしてみせる。
我が家へようこそ!ミーニャちゃん!