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とってもいい匂いだ、玲の今の正直な感想である。
隣には紗更がいて、ニコニコしながら座っている。膝の上には紗更の相棒、ピーちゃんが笑顔で抱き着いてきている。二人の少女はとても暖かく、そしてとても柔らかい。その心地よさと甘い香りに、玲は眠ってしまいそうになっていた。
「ありがとうね、レイくん!ピーちゃんも、すごい喜んでるよー!」
「プックー、ピンプックー!」
そんな風に玲が眠りそうになっていると、紗更が話しかけてきた。
今日は紗更の誕生日、彼女が十歳になる日だ。玲は彼女にお呼ばれして、彼女の家に祝いに来たのだ。玲は彼女に誕生日を祝ってもらった、こちらも盛大に祝いたい。なので彼女達に喜んでもらうため、プレゼントを持ってやって来たのだ。
プレゼントを何にするかは迷った、九歳の子供なので高いものは贈れない。だからと言って安すぎる物は、他のプレゼントで霞む。今はまだ居ないがこの後いつもの友人達が来るのだ、みんなと一緒に選んだプレゼントもある。せっかく渡すのだから、思い出に残してもらいたい。
何がいいか悩んでいた時、そこで思い出したのだ、彼女のその言葉を。
『ピーちゃん進化しないのかな…』
もちろん玲は知っている、彼女の相棒が進化できることを。とても強い子に進化することを。
この世界の野生のピンプクは、自然界にある丁度いい大きさの石をお腹に入れて進化するらしい。
特別な石を必要としないのはいいのだが、探すのに時間がかかるのが問題だ。紗更は普段学校がある、探す時間は休みの日しかない。平日にいける範囲にそんな都合よくお腹に合う石はないだろう。探しているあいだ紗更の悲しむ姿を見る事になる、そんなの耐えられそうにない
そこで探す時間をなくすために、『まんまるいし』をプレゼントすると決めたのだ。原作で全てのピンプクに使えるのだ、ピーちゃんも進化できるだろう。
『まんまるいし』は見た目はただの丸い石、これを使って進化しても変には思われないだろう。何で持っているかと聞かれても、本で調べて探していたで言い訳はバッチリだ。
紗更はピーちゃんの進化方法は、強くなることだと思ってたようなのだ。彼女の周りで進化したポケモンは全員そうだった。思い込んでしまったのだろう、調べることはしなかったのだ。まだ小学生低学年だったのだから、それも仕方がない。
そして紗更にもプレゼントはもちろんある。石は喜んでくれると思うが、それはピーちゃんへの贈り物だ。
『しんぴのしずく』、それが彼女への贈り物。これなら思い出に残るだろうし、お小遣いをためて買ったで通じそうだし問題ないだろう。自分では使わないし、必要になってもタブレットの中にまだある。死蔵しているのも勿体ないのだ。
「プククー」
「んふー!どう?へんじゃない?」
そして現在、彼女達にくっつかれているのだ。
ピーちゃんは膝の上で抱き付き、可愛い目でこちらを見上げている。紗更はこちらに身を寄せて、バッグに付けた『しんぴのしずく』を見せてくる。
「今度おれいするねー!」
「え?ササラちゃんからプレゼントもらったよ?」
「みんなであげたんだよー、二つもらったしねー」
「そう?それじゃ期待してるね」
「まかせといてー」
美少女達にくっ付かれているのは、十分ご褒美ですが。くれるというなら嬉しいし期待しておこう。
そしてそろそろ彼女を出してあげてもいいだろうか、先程からボールが震えている。紗更達にプレゼントを渡してから、くっつかれ続けたので言い出せなかったのだ。
「ササラちゃん、ユキメノコ出してあげていいかな?」
「あ、うん!いいよー、出してあげてー」
「ありがとー。出ておいで、ユキメノコ」
「ユーキィー」
ユキメノコが出てきた瞬間、紗更の反対側に飛びついてきた。どうやら寂しかったようだ、頬を合わせスリスリしてくる。
ユキメノコとピーちゃんは張り合うかのように甘えてくる。険悪な感じではないのは良かった、彼女達は仲良しなので心配はしていなかったが。
他の子は出さない方がいいだろう、人の家で何匹も出すのは遠慮した方がいい。
「んふふー、あったかーい!」
「ユキー」
「プクー」
美少女三人にくっ付かれるのはとても嬉しいのだが、紗更母の視線が温かくて恥ずかしい。紗更父がまだ帰って来てなくてよかった、大切な娘さんのこんな姿見せられない。
そんな風に美少女たちと戯れていると来客を知らせる音が鳴る、どうやら友人達が来たようだ。
「あ、みんな来たみたいだねー」
「みんなを迎えに行こう!」
「あー…」
「ユキー…」
彼らを迎えるため、ピーちゃんを抱いたまま立ち上がる。離れる事になった紗更とユキメノコが残念そうにしているが、このような姿はさすがに恥ずかしい、みんなには見せられないのだ。
紗更を促し先頭にして、みんなを迎えに玄関まで歩いて行った。
「みんな、ありがとー!今日はたのしかったー!」
「僕も楽しかったよ、ササラちゃん」
「だな!料理もうまかったし、また呼んでくれ!」
「ちょっと、夜なんだから静かにしなさいよ。さらさら、また学校でね」
「また明日ね、音瀬さん」
紗更の誕生会も終わり、あとはもう帰るだけ。これから瀬川さんの運転する車に乗り、みんなを家まで送っていくのだ。いつもありがとう瀬川さん。
お別れの挨拶も終わり、さあ帰るかと玄関を出る。空を見上げれば日も完全に落ち、暗い夜空が一面に広がっていた。
もう十月、夜は冷える。早く車に乗って温まろうと速足で歩く。
そんな時、紗更から呼び止める声が上がった。
「あ、ちょっとまって」
「んあ、どした、さらさら」
「え、と…レイくん…ね」
「須田くん、先に行ってようか。ほら、あんたもよ!」
「うえぇ!?さらさら、なにかあるんじゃ!?」
「いいから!さらさら、ゆっくりでいいからね」
「うん、ありがとーママちゃん」
何やら話したいことがある様なのだが、他のみんなには聞かせられないようだ、言いにくそうに俯いてしまっている。彼女のそんな様子に、町田がみんなを促して車に乗り込む。高貴は良く分かっていなくてもそれに従い、須田も後に続く。
このような形で呼び止めるとは、何か重大な事なのだろう。玲は紗更の話を聞くために彼女の家に戻った
紗更母が玄関に居続ける娘を心配して来たが、その様子を見て戻っていった。きっと父親も来ないようにしてくれているだろう。
そうして二人きりになったタイミングで、紗更が話し始める。
「あのね…試験、受かるかな…?」
「だいじょうぶ、ササラちゃんとピーちゃんなら受かるよ」
どうやら彼女は認定試験に受かるか心配なようだ。それなら安心してほしい、一つ目の試験はポケモンが指示に従うかだ、彼女達が落ちることはまずないだろう。だが少し不安な事もあるので、分かっているとは思うが一応言っておく。
「進化は待った方がいいかもね、体が大きくなると上手く動けないかもしれないから」
「そ、そうだね!わかったー」
ピーちゃんは進化すると体が大きくなる、今までとは体の動かし方が変わるだろう。主人の指示は聞くが体が上手く動かない、そんな理由で落ちるなんて可哀そうだ。
どうやら紗更はピーちゃんが進化できると浮かれていて忘れていたようだ。言っておいてよかった、初めての試験なのだそういう事もあるだろう。だがこれで彼女は大丈夫なはずだ、試験には受かるだろう。彼女の不安を解消できたようでよかった。
だがどうやら彼女の話はまだ終わっていなかったようだ、何やら申し訳なさそうにしている。
「あのね…ありがとうねー」
「ん?あー、石の事?お礼はちゃんと聞いたよ」
「すごく嬉しかったから…、話してたの、同じクラスなれないかもって…」
おそらく町田と話してたのだろう、来年から同じクラスになれないかもと。
クラスは実力準に分けられていると噂されている。彼女達の相棒はまだ進化できていない、それで不安に思っていたのだろう。
町田の相棒はピーちゃんより強い、クラスでもまだ上の方だ。助言しているのもあって、順位を保てている。来年も一組のままだろう。
しかしピーちゃんの種族はこのままだと厳しいのだ、いくら助言しても順位を保つのは難しい。他の子が進化してきているので、来年のクラスは別になっていたかもしれない。
だが『まんまるいし』を貰ったことで、進化できるようになった。それで不安が無くなり、こんなに喜んでくれているのだろう。
「だからね、ありがとー…いつもありがとうねー」
「ササラちゃん…」
紗更が右手を掴んでくる。今までの事を思い出しているのだろう、掴んだ手のひらを何度も握っている。
下心あっての事だった、美少女との触れあいに喜んでいただけだった。それでもこんなに喜んでくれていたと知り、とても嬉しくなってくる。
「あのねー、わたし迷惑かけてばっかだから、…いやかも、だけどね…」
「僕はササラちゃんと一緒がいいな」
「ほんとー?…いやじゃない?」
「嫌じゃないよ、本当だよ」
紗更はこう言うが、迷惑に思ったことなど一度もないのだ。嫌なわけがない、紗更とはこれからも一緒にいたい。最初は不安そうだった彼女も、手を握り続けることで、どうやら元気が出てきたようだ。その顔に笑顔が戻ってくる。
「んふー、ちょっと恥ずかしくなってきちゃったー」
そう言って照れくさそうに笑う彼女だったが、それでも手は離そうとせず、掴んだ手を握り続けている。
そんな彼女の可愛さと手の温かさに、こちらも照れ臭くなってくる。だがそれでも離したくなくて、こちらも握り返し続ける。
しかし何時までも握り続けている訳にもいかない。紗更の手は名残惜しいが、さすがにこれ以上遅くなるのは不味いだろう、みんな待ちくたびれているはずだ。
「レイくん、あのねー、これからもよろしくねー!」
「こちらこそよろしくね!ササラちゃん!」
他のみんなを送らなくてはいけない、そろそろ帰ることにする。そう伝えた時の彼女の顔は少し寂しそうだったけど、それでもしっかりと笑顔で見送ってくれた。