一般家庭ではポケモンを十匹、二十匹と飼えないのです…
いずれ増えていくので
―――――ハァッピバァースデーィトゥーユゥー――――
三月十八日の午後六時、玲の誕生日会が始まった。
美味しそうな料理に、高そうな飲み物。赤ん坊は口に出来ないので自分には関係ないのが少し悔しい。
玲は母の胸に抱かれて祝われていた。周りにはたくさんの人、皆こちらを微笑んで見ている。
父、母、バウちゃんに、両祖父母、渡邊さんに、ほかにもどういう関係か分からないが大勢の人に祝われた。
入れ替わり立ち代わり人が来て自分の誕生日と健康を祝ってくれる。
渡邊さんは忙しそうに動いていて、とても大変そうだ。
人が多すぎて目が回る。舐めていた、ちょっとしたホームパーティーを想像していた。
家の大きさでかなりの金持ちだとは思っていたが、想像以上だ。
あまり長居しないのでリビングが人で埋まるということがないのが幸いだが、その代わりにプレゼントが積み上がり一区画が埋まっていく。
玲はプレゼントの山を見る。
さすがポケモンのいる世界、ポケモングッズのバリエーションがすごく多い。
お絵描き帖やクレヨン、ベビー服など自分のことを考えてくれているプレゼントを見て嬉しくなる。
だが悪いとは思うが、滑り台やジャングルジム等、子供の誕生日プレゼントにしては高すぎて少し引いてしまった。これらをプレゼントする関係性がわからない。会話から親族ではなさそうだったが、どういう人なのだろうか。
金持ちとはこういうものなのだろうか、いつか自分も染まっていくのだろうか。
誰かの誕生祝いで車をプレゼントしている自分を想像し怖くなった。
「こんな時間だしもう誰も来んだろう、玲が寝てしまう前にワシも渡さんとな」
「最後まで待ってるなんて父さんらしいね」
「真打は最後にやってくるもんだ。ほら晶、見せてあげなさい」
時間も遅くなってきて、人の流れも無くなってきたころ祖父が言い出した。
まだプレゼントを出していなかったらしい。数が多すぎて、誰が何をくれたのか覚えていない。
父は祖父から大きな四角いプレゼントを受け取る。
玲は父が包装紙を剥がしていくのを固唾を呑んで見守る。
あれほどまでのドヤ顔で真打とまで言うくらいだ、相当な物なのだろう。
先ほどまでのプレゼントの猛攻に食傷気味だったが、とても気になってしまう。
包装紙がゆっくり開いていく、とてもじれったい。
お願いだ、早くしてくれ。心の中で父を急かしていると、とうとうそれが顔を出す。
それを見て玲の鼓動が早くなる。
包装紙の中から出てきたのは箱に入った五冊の本だった。
豪華な装丁で、箱にも安っぽさがないとても高そうな本だった。
父が箱から本を一冊取り出して開く。
図鑑だった、ポケモンが写っていた。この世界のポケモン図鑑だ。
想像ではない、生きたポケモンの写真が一ページに何枚も載っている。
隣のページには名前や生態が書かれていた。
こんな物は見たことない、あるわけがない。
この世界特有のものだ。
玲は歓声をあげた、最高のプレゼントだった。
祖父を見て、両手を振り上げる。自分に出来る最高の笑顔を贈る。
想いよ届けと心をこめる、おじいちゃん大好き。
孫の喜ぶ姿を見た祖父は、大きく鼻を膨らませていた。
(両生綱無尾目小玉種、ニホンオオデンキガエルってなんだよ…)
祖父からもらったポケモン図鑑のハラバリーの説明文である。
「カエルさんよレーくん、ゴロゴロするのよぉ」
「おぉー、おぉー」
「ゴロゴロー」
「バオー」
誕生日の翌日、玲は母のひざの上に座り図鑑を開いてもらっていた。
現実に生きているポケモンの姿を見るのは楽しいし、母の嬉しそう声を聴いて癒されてはいる。しかし、玲はそれを見て頭を抱えていた。
考えてみたら当たり前の話だった、現実に存在している生物の名前が原作の名前と同じになるわけがない。自分の未来を想像してみる。
ゆけっ!ニホンオオデンキガエル―――ぜったい噛む。ポケモンを捕まえることが出来たら、愛称は必須だ。
(モンスターボール的なものはあるみたいだけど…)
図鑑の小玉種という文字を見る。他のページにもあったし、おそらくポケモンは全部これで括られていて、モンスターボールのような玉があり中に入ることが出来ると予想できる。
バウちゃんのボールは見ていないが家のどこかにはあるのだろう、ポケモンと人間の関係の違いは少ないのかなと少々の安心を得る。
(これってお約束のあれかなぁ)
図鑑を眺めていたら気付いた、ゲームの知識と図鑑の内容の違いが分かりすぎることに。
転生特典、チート、言い方はいろいろあるがどうやら原作知識は全て頭に入っているようだ。
玲のゲーム履歴は初代、剣盾、SVだけだ、アニメや映画も初期は見ていたが途中から見なくなって知らない。なのに図鑑に載っている自分が知らないはずのポケモンの事まで分かってしまう。
代わりに他の記憶は虫食い状態になっている、誰と知り合い何をして生きていたかが分からない。普通に生活する分の知識はありそうだが少し悲しい。
何を忘れているのか分からないこと、それが少し悲しいだけで済んでしまっていることが怖い。
「あうぁー」
「バオッ」
「レーくんはバウちゃんがだいすきなのねぇー」
癒しが必要だった、こっちに来てくれバウちゃんと小さな友達にうったえる。
母の膝の上に手を乗のせたバウちゃんの首に抱き着く。
母と愛犬に挟まれながら、玲はおもむろにバウちゃんの体に鼻を近づけた。
スウゥゥゥゥゥ
犬吸いである。
幸福が体中に巡り、力が抜けてくる。玲は考えるのをやめた。
危険なものではありません、合法です。
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「レーくんさむくなぁい?」
「あぁぅ」
誕生日から何か月がしたころ、玲の公園デビューの日がやってきた。
栄養がしっかりと取れるようになり、体も大きくなってきた。太い髪も生えそろってきて、かわいらしい自分の姿に大満足であった。
どうやら自分は母親似らしい。薄いブラウンのふわふわした髪で、優し気でぱっちりした目元。
さすが顔面600族のサラブレッドだと自画自賛した。
ちなみに父親は黒髪短髪、優しげな目もとに眼鏡をかけているイケメンさんだ。
母はストレスから解放されて目元の隈も消え、肉付きもよくなってきている。ふわふわロングが風に揺れ、すれ違う人が皆振り返るほどの美人さんで玲は自慢したくなった。
公園までの道を誕生日にもらったベビーカーに乗っていく。こちらの世界でも大人気らしい黄色と黒のあの子エディション。
可愛い自分の可愛らしい姿、綺麗な母とのツーショット。見惚れるがいいとベビーカーの上で、玲は胸を張った。
誇らし気な玲と微笑む母は、ゆっくりと公園までの道を進む。
塀の上でニャースが寝ていたり、ココガラが空を飛んでいる。
暖かな陽気とのどかな光景に玲のまぶたは落ちていった。
「かぁいーねー」
「ねぇねぇ、このこなんてゆーの、なんてゆーの」
「レーくんっていうの、みんなよろしくね」
「よろしくねぇー」
「よろしくねっ、よろしくねっ」
目を覚ましたら子供に囲まれていた。
どうやら公園に着いたようだ、母は玲を胸に抱きベンチに座っている。
同じベンチに子供の母親らしき人たちが座っている。いやそうな顔はしていない、ママ友は出来そうだ。
お約束の幼馴染イベント。少し年は離れているが、自分も頑張るかと気合を入れる。
しかし自分に向かって笑顔を振りまく子供達を見ると、顔がニマニマしてしまう。
そんな自分を見てひとりの子供がなにか思いついたようだ。
「ママッママッ、チョー太だしてチョー太だして」
「れい君こわがらない?」
「レーくんポケモンが大好きだからよろこぶわ」
「れぇくん、わらってるぅ」
どうやらポケモンを出してくれるらしい。
何が出てくるのだろう、チョー太という名前からは想像がつかない。
期待に玲の顔に笑みがあふれる。
子供のお母さんがボールを出す、まっしろの飾り気のない玉。プレミアムボールに似ているが、それとは違い白一色。もしかしてこの世界では、これがスタンダードなのだろうか。
ゲームと同じものが出てくるとは思っていなかったが、予想以上にシンプルだ。
ボールの色に気持ちが落ち込みかけるが、中のポケモンには関係ない。気持ちを上向かせチョー太君の登場を見守る。光に包まれ飛び出してくる、その姿は―――
「チィ、チチィ」
(オタチだああああああ)
「れぇくん、すごいわらってるぅ」
つぶらな瞳にプリティーなしっぽ、まあるいお腹をポンポンしたい。
ウサギのように飛び出た耳を、抱き着きながらはむはむしたい。
愛嬌を振りまくその姿を見た瞬間、感情が振り切れた。
玲の心の中は、気持ち悪いことになっていた。
図鑑の内容や鳴き声は適当です