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「コンビニでいいの?」
「うん、夕飯はご馳走でしょ?軽めにしてお腹すかせておかないと」
今日は三月十八日、玲の誕生日。ついに認定試験を受ける事が出来るのだ。
合格は確定している、なにせ大事な家族がついているのだから。彼女達がいて落ちるような最初の試験なんて他の誰も受からない。それに一回目の試験は簡単だと調べて分かっている、落ちることはあり得ないのだ。
なので誕生日と試験の合格が合わさって今日の夕飯は豪勢になる。昼ご飯は少なめにしてお腹を空かせて置かないと、ご馳走が食べられなくなってしまうのだ。
「腹が減ってはいく…まあ大丈夫か」
「うん、あ…ごめんなさい、瀬川さん…コンビニで」
「大丈夫ですよ、玲様。コンビニ弁当も好きですので」
どうやら瀬川さんは食に拘りはないらしい、特に気にした素振りも見せない。だがそういう事ならお言葉に甘えよう、昼食で腹がいっぱいになりご馳走が食べられないなんて御免なのだ。
「すみません瀬川さん。試験場の近くにありますか?」
「―――はい、旦那様。少し外れますが一店あったはずです」
「それではそこでお願いします」
瀬川さんの運転する車に乗って、休日で混んでいる道を目的地に向かい進む。対向車に目を向ければ、休みだけあって家族連れらしき人たちが乗っている。みんな笑顔で楽しそうな雰囲気だ、少し羨ましい。
今日は自分達だけで母と妹、それから渡邊さんは来ていない。姫光は来たがったのだが父が止めたのだ、怖がってしまうかもしれないと。
「ヒカリちゃん見たがってたのに、少し残念だなー…」
「いやー…、姫光ちゃんには…少し怖いかもしれないね」
「えー…まあ、そうだね」
たしかにこれから行くのはゴーストタイプの試験場、姫光には多少刺激が強いかもしれない、妹はまだ五歳なのだから。残念だが仕方がない、成長したら推してあげよう。
と、そんな話をしていたらコンビニの近くまで来たらしい、瀬川さんが声をかけてくれた。
「けっこう混んでるね」
「土曜の昼だからね。近くに学校があるみたいだし、部活帰りの子達もいるだろうから」
車の中からでも分かるくらいの混みようだ。駐車場には土曜でも仕事があるのかトラックも駐まっている、作業者の人達もいるのだろう。これは時間がかかりそうだ。
何とか空きを見つけ駐めた車から降り、三人で店内に向かう。店の中に入ればやはり混んでいて、店員が忙しそうに働いていた。
「お父さんが買っておくから、選んだら外で待っててね」
「うん、ありがとう、お父さん」
店の中は人でいっぱいなのだ、子供で小さいとはいえ何時までも残っていては周りに迷惑だろう。父の好意に甘え、買うものを選んだら外で待たせてもらおう。
パンと飲み物一つずつ。さすがに少し足りないか、おにぎりを一つ追加して、父に頼んで店の外に出る。
混んでいる店内から出た開放感がすごい、三月なのに人が多すぎて暑かったのだ。
そういえばボールの中の温度はどうなっているのだろうか。快適な作りになっているとは知っているのだが、もしかして外の温度が中にまで影響しているのかもしれない。何たる不覚、本の内容を鵜吞みにして彼女達の住環境に思い至っていなかったとは、なんと詫びを入れればよいものか。
「大丈夫?ボールのなかは暑くない?」
「―――」
ボールに触れて聞いてみれば優しく震えてくれている、どうやら彼女達は特に不快には思っていないようだ。もしかしたら温度調節機能が付いているのかもしれない。おそらく湿度も問題ないのだろう、それは大変喜ばしい。
彼女達の環境に満足したところで店の中を見てみれば、レジには人がまだまだ並んでいて、これは時間が掛かりそうだなとため息をつく。幸い予約は二時からなのでまだ時間はある、余裕を持って決めていて本当によかった。
「―――え?サオリお姉ちゃん…だよね…」
父達を待ちボーっとしていたら、コンビニの敷地の外に沙織らしき人物を見つけた。どうやら彼女は部活帰りらしく制服に鞄を背負い、左の方向へ歩いていく。
沙織の家に試験を受けに行くので、もしかしたら会えるのではと思ってはいたが、本当に彼女だとしたらとても嬉しい。これは急いで確認をしなければ。
その女性に向かい駆けだそうとして、しかしそこで気付く。なにやら道路の反対側を、学生の集団が彼女をチラチラ見ながら急いで歩いている。遠くてよくは見えないのだが、嗤ったりしているわけではないので、イジメではないと思う。なにやら怖がっている様なのだ。
彼女もそれには気付いているようで、努めて無表情を保ち、気にしないようにしている。おそらくいつもの事なのだろう、慣れた感じで彼らが通り過ぎるのをゆっくりと歩いて待っている。これは放ってはおけないと玲は駆けだす。
「サオリお姉ちゃん」
「―――え?レイ君?」
女性に走り寄り声をかければ、驚いた表情の沙織の顔、やはりこの女性は沙織だった。ならば遠慮はしない、別人の可能性があったので止めていたのだ。沙織の腰に抱き付き、会えてうれしいのだと思いを込めて挨拶をする。
「こんにちわ、サオリお姉ちゃん!」
「え、あ…レイ君、あの…こんにちわ」
「話しはしてたけど、会うのは久しぶりだね!」
「そ、そうだね…ひさしぶり…あの、レイ君、これ」
「いやだった?」
無邪気な少年ということで許してはくれないだろうか、エロガキではないですよ。さすがに十歳では厳しいか、いやまだいけるはず。沙織に嫌われたくないので、無理そうなら離れるが。
「えっと…い、いやじゃ…ない、よ」
「ほんと?よかったー。会えて嬉しいよ、サオリお姉ちゃん」
「うん…わたしも嬉しい…レイ君」
どうやら沙織も嫌がっていないようで、背中に手を当ててくれている。よかった、本当はもう少し抱き着いていたかったのだ。
暖かくて柔らかいし、とてもいい匂いがする。部活帰りでシャワーを浴びたのか髪が少し湿っていて、なんだか心臓がドキドキしてきた。
だがさすがにもう止めておいた方がいいか、人通りがあるのだから。沙織も学校の生徒に見られて、変な噂が立っても困るだろう、名残惜しいが離れよう。
「ごめんね、サオリお姉ちゃん…みんなに見られるよね」
「え?―――平気だよ、何も言われないと思う…」
「サオリお姉ちゃん?」
「あ、ごめんね…なんでもないの」
先ほどまでは嬉しそうに微笑んでくれていたのに、急に暗い顔をしてしまった。間違いなく先程の学生関係だろう。学校とは関係のない自分だが、何か聞いてあげることは出来ないだろうか。
もちろん彼女にも言いたくない事はあるだろう、あまり無理に聞き出すつもりはない。それでもせっかく仲良くなった沙織をこのままにはしておきたくない。
「言いにくいこと?」
「えっとね、レイ君が嫌な気分になっちゃうから…」
「僕はへいきだよ、お姉ちゃんがイヤじゃなかったら教えてほしいな」
「んーと、それじゃ…ちょっとだけね」
よかった、どうやら沙織は話してくれるようだ。自分には何も出来ないかもしれないが、それでも話を聞くことぐらいは出来る。少しでも心を軽くしてくれたらいい。
沙織と一緒に駐車場の端に行く、ここなら周りから見えにくいし、他の人の邪魔にもならないだろう。
「あのね…前に大会でね…勝ったんだけど」
「うん」
「それが、ちょっと…怖かったみたいで…話してくれなくて」
沙織は以前、この近くで開かれた小さなポケモンの大会に出たようだ。そこでの勝ち方に問題があって、周りの生徒に怖がられているらしい。
沙織の相棒のムミちゃん、その種族名はムウマだ。怖がられているという事は、おそらく以前のユキメノコと同じような戦法で戦ったと思われる。『こんらん』からの『たたりめ』だ、周りの人はポケモンがのた打ち回っている姿を見る事になる
沙織の学校の生徒たちは、あまりポケモンに詳しくないのだろう。
この世界にはポケモンを連れていない人も大勢いる。沙織が通うのも普通の学校で、その生徒の大半はポケモンを連れていないだろう。連れている人は大抵各地にあるポケモンの学校に通っているはず。
つまり沙織の学校の生徒は、ポケモンの知識をあまり持っていない。そこに苦しみコンボを見せられたら怖がるのも仕方がないのだ。
「あとは…うちが、その…ゴーストタイプの…試験場だから」
「え?試験場だと怖いの?」
「…そうだね…えっと、これ見て」
沙織が見せてくれたのは、試験場の施設紹介の画像だった。しかしそれなら何度も見ている。たしかに少し怖いのも分かるが、だからと言って沙織を避ける理由になるとまでは思えない。こんなに綺麗で可愛い子なのだから、お近づきになりたいと思うはずなのだが。
「これなら何度もみたよ?試験受けに来たんだからね」
「あ、そうか…それでレイ君がここにいたんだ…びっくりしたよ」
「驚かせたくて内緒にしてたからね」
驚いた顔は可愛くてよかったが、今したいのはその話ではない。なんでこの試験場だと避けられるのかが知りたいのだ。
「それより、なんでこれが駄目なの?」
「ダメっていうか…え?レイ君、これ怖くないの?」
「怖くないけど…」
「…写真だと控えめだからね…あ、でも、見られちゃうのか…え!どうしよ!」
友人が家に来るという事に今気づいたのか、沙織が急に慌てだす。おそらく家を見られることで、せっかく出来た友人に嫌われるとでも思っているのだろう。
だがそんな必要はないのだ、それくらいで嫌う訳がない、これは彼女に教えてあげねばならないようだ。覚悟するがいい、この僕を甘く見たことを。
「サオリお姉ちゃん」
「れ、レイ君?」
「大丈夫だよ、見ても嫌いになんてならないよ」
「見ないと分からないよ…」
先程と同じように正面から抱き着く、沙織は思ってもいなかった友人の行動に驚いて逆に冷静になったようだ。
これならしっかり聞いてくれるはず、抱き着いたまま話しをしよう。背中に手を回してくれているのだし、嫌がられてはいないはず。嫌ではないなら何も問題はないのだ。
「ポケモンが住みやすい家でしょ?」
「え、たぶん…気持ちよさそうに寝てるし、そうだと思う」
「なら絶対に好きになるよ」
やはりそうだった、ポケモンの事を考えた家だった。施設紹介を見た時からそうだと思ってたのだ。小さい娘さんがいる家を、意味もなくホラーチックにする訳がない。
「嫌いにならないから安心して、絶対にサオリお姉ちゃんから離れないから」
「もし、嫌いになったら…?」
「サオリお姉ちゃんの言うこと、何でも聞く!」
「え!…ほんとう?約束できる?」
「いいよ、約束する。そのかわり嫌いにならなかったら、お姉ちゃんもお願い聞いてね!」
「…う、うん!…いいよ、約束ね…!」
流れで言ってみたら成功してしまった、伝説のあれが。いや、もちろん不埒な真似はしませんが。だがこれで沙織も少しは安心してくれるだろう、友人が自分から離れる事はないと。
沙織がこれだけ恐れるのだ、おそらく以前にも友人がいなくなった事でもあったのだろう。もう認めるしかない、ゴーストタイプは恐れられているのだと。
ゴーストタイプのポケモンの事を考えた家なんてすごいと思うのだが、普通の人は住みにくいし恐ろしいのも分かる。自分があの子達を可愛いと思うのも、原作で可愛らしい姿を見ているからだ。知らない人が怖がるのも仕方がない。
「それで、その…レイ君…ちょっと、恥ずかしいかな…」
「あ、ごめんね、お姉ちゃん…いやだったよね?」
「嫌じゃないの、ほんとうに!ほんとうだよ!」
(顔に押し付けられると…さすがに、その…恥ずかしい)