ポケモンが現れた世界に生まれて   作:ダダダッダ

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十三話

「コネクトで見ていたけど、やっぱり可愛いね!」

「そ、そう…へんじゃない?」

「へんじゃないよ、似合ってる」

「ありがとう…レイ君」

 

 試験場まで、沙織を手を繋いで歩いていく。父は気を使ってくれたのだろう、瀬川さんと車で向かっている。せっかく沙織と会えたので、父の優しさがとても嬉しい。

 

 その沙織は部活帰りで制服を着ている。白いシャツに紺のブレザー、グリーンのリボンとチェックのスカート。普段はズボンを履いているので、スカート姿が新鮮で良い。ポケモンコネクトのビデオ通話で見てはいたが、実際に会って見るとやはり違う。女子中学生の制服姿は心に来るものがある。先程までこの姿の美少女に抱きついていたのか。沙織は嬉しそうにしていたし、何も問題はないな!

 

「手をつなぐの久しぶりだね」

「そ、そうだね…いやじゃない?」

「ううん、すごく嬉しい」

「よかった…わたしもね、…うれしいよ」

 

 なぜ沙織は嫌か聞くのだろう、こちらから頼んだのに。小さい頃に面倒を見てもらっていた時のように、また彼女と手を繋ぎたかったのだ。

 しかしよかった、沙織も喜んでくれて。彼女は優しいから、自分を慕ってくれる可愛いレイ君を拒むことはないと思ってはいた。

 だがさすがに恥ずかしがるかなとは思っていたのだ、彼女は中学一年生、難しいお年頃なのだ。あんなに抱き着いていて今更だが。

 

「えっと…ここ、だよ…」

 

 と、そんな風に沙織の手の柔らかさを堪能していたら、彼女が足を止めた。どうやら目的地に着いたようだ。保志井(ほしい)試験場、沙織の実家に。

 それでは沙織に教えてあげるとしよう、彼女には離れないでいてくれる友達がいるという事を。離れてしまう事に、怯える必要なんてないという事を。

 

「おお!雰囲気あるねー!」

「昼間でもこうだからね…夜だと近寄れないみたい…」

 

 その家を実際に目で見て思った、脱出系ホラー映画に出てきそうだと。これは確かに子供は怖がるかもしれない。

 だがそれがどうした、僕だよ?ポケモンの事を考えた家を怖がることはない。将来マイホームで、ポケモンのみんなと仲良く過ごすことを夢見る僕としては、リスペクトしたい。タイプの違いはあるが、少しでも取り入れていくべきである。

 

 だがオーガポンには辛いだろう、以前みんな一緒に家でホラー映画を見た時は震えていた。今も腰でブルブルしている、ポニータと同じように家で留守番させてあげればよかった。かわいそうなので、寝ていていいよとオーガポンに声をかけてあげる。

 幸い他のみんなは大丈夫なようなので、今日は彼女達に任せよう。

 

「サオリお姉ちゃん、入っていい?」

「え、うん…もちろん、いいけど…」

 

 家族用とは別の入り口から、敷地内に入っていく。

 そこには多くの樹木が生えていて、太陽の光が遮られ、昼間なのにとても暗い。木の配置を上手く考えているのか先が見通せず、何かが出てくるのかもしれないと思わせる。

 日が差さないのと三月の空気で少し肌寒い、周りの雰囲気と合わさりとてもいい感じだ。

 受験者が通る道なので見た目だけで大丈夫だとは思うが、石畳の隙間の苔に足を滑らせないように慎重に進んでいく。

 

「トォーロゥ!ォオオォゥ!」

 

 と、そこで何者かの影が飛び出してくる!その者は目の前に立ち塞がり、腕を広げ道を遮った。

 

「おおっ!?」

「じゅ、ジュジュちゃん!だめなの今は!」

「キレイな葉っぱだねー!目も神秘的で、とっても美人さんだ!」

「…え?」

 

 その子の種族名はオーロット。木の体に根の足を持つ、一つ目のポケモンだ。

 さすがゴーストタイプの試験場、驚かせてくれる。案内係にこのような美人さんを用意するなんて、受験者のテンションを上げるつもりだな。たしかにガイドが綺麗な子だと嬉しい、気分よく進める。どうやら試験のためには手を抜かないようだ。

 

「さおりちゃん、何か不味かったかい?」

「あ、えっと、大丈夫みたいです?」

「もしかして、この子のパートナーさんですか?」

「え?そうだけど」

「すごいキレイな子ですね!葉っぱが瑞々しい!」

「…わかるのかい?」

 

 残念ながら専門家ではないので、詳しくはない、だがそれでも分かることはある。この綺麗な葉っぱと怪しい光を放つ目を見れば一目瞭然だ。これは間違いなく特殊な方向を目指し育てられている。

 お爺ちゃんから貰ったポケモン図鑑に載っている子。あの子は得意なものを伸ばしていて、筋骨隆々、逞しい樹皮と根をしていた。

 しかしこちらは、普通の体だ。いや、言い方が悪いな。均整の取れた綺麗な体つきをしている。おそらく敢えてそうしているのだ、体に関してはあまり伸ばさない方針なのだろう。

 その代わりに特殊な方向に舵を切っている。瑞々しい葉っぱをしているし、あの瞳も怪しくも美しく揺らめいて、見つめていると心が変化させられてしまいそうだ。

 

「そんなに分かってくれているんだね…」

「トーロットォ」

 

 得意な方向に育てた方が強いのは間違いない。しかしポケモンは戦う事がすべてではないのだ、このように育ててあげてもいいではないか。こんなに幸せそうに笑っているのだから。

 嬉しそうに鳴き声を上げて、こちらに甘えてくるオーロットを見て、玲はそう思った。

 

「私は田所、この子はジュジュ、君の名前を教えてもらえないかな」

「白雪です。よろしくお願いします、田所さん、ジュジュちゃん」

 

 田所さんと固い握手をし、ジュジュちゃんと熱い抱擁を交わす。どうやら良い印象を持ってもらえたようだ、こちらを見る目が優しい。

 

「それで白雪くんは何回目の試験なのかな?」

「あ、初めての試験です」

「え?あんなに詳しいのに?それは申し訳なかったね…」

「何がですか?」

「田所さんは、うちで働いてるの」

 

 どうやらこの人はここで副試験官をしているようで、試験を受けに来た自分を試しに来たようだ。原作で言うとジムテスト担当のトレーナーか。

 ちなみにこの方はおそらく五十代の男性だ。木の管理などのため、庭師を雇っているのかと思っていたが違ったようだ。

 申し訳なさそうにしているのは、一回目の試験にジムテストは必要ないからだ。公共の場でポケモンを安全に管理できるか確認するだけで、それは試験官の沙織の父が直接みるのだから。

 

「ふつう一回目の試験でうちは選ばないからね…」

「そ、そうだね…ハハハ、ちゃんと確認しておけばよかったよ、ごめんね白雪くん…」

「ジュジュちゃんと会えて嬉しいので大丈夫です」

「トーロォ」

「でも手間をかけさせたからねえ…時間は、二時からだったよね?」

「まだ少しあるので大丈夫です」

 

 ジュジュちゃんと会えたのだから何も問題なんてないのだ。だが確かに少し時間は掛かっている、そろそろ行くとしよう、父と瀬川さんも家の中で待っているだろうし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごいね、サオリお姉ちゃん。あれって?」

「うん…演出だよ…」

 

 玲達は今、沙織の家のエントランスホールにいる。もちろん試験用の建物の中に、似せて作られているだけの物だが。だが偽物でもさすがゴーストタイプの試験場、雰囲気がすごい。

 

 壁の中からはコンコン音が鳴り、高い天井では何かが這いずっているのが見える。奥に見える柱の後ろで、何かの影が動いたり、時おり目の前に飾られている絵画の婦人が笑う。

 照明が切れかかってチカチカ瞬いているし、それら周りの光景に何か異常が起きているのだと感じさせる。

 しかしどうやらこれらが全部、演出で行われている事のようだ。沙織が疲れた顔をしている。

 

「他の試験場もそうなんだけど…ここまでするんだね…」

「えっと、さっきの家で過ごしているんだよね?」

「う、うん!ここでは生活できないよ」

 

 さすがにここには住んでいないか、普通の家も見ているので、分かってはいたが。

 玲達は田所と別れた後、試験場とは別の建物で父達と合流していたのだ。その建物は今いる洋館風の物とは違い、雰囲気はあるが普通の一軒家だった。そこで時間になるまで皆で歓談してから、試験のためにこの建物にやって来て、現在の状況になっているという訳だ。

 

「ポケモンの皆は楽しんでるから、ここでもいいんじゃない?」

「いいわけないでしょ!お父さんのバカ!…あ」

 

 そしてここで重大な事実に気付く。沙織の家を怖がっていない、嫌いになる事はなかった、ここに契約は果たされた!

 だが今は沙織父がいる、大事な娘さんとそのような約束をしているなどと知られる訳にはいかない、この事は後にすべきだろう。

 

「ハハッ、お友達の前じゃ恥ずかしいか。それじゃあ玲君、始めようか」

「…がんばってね、レイ君」

 

 今は試験が先だ、気合を入れるとしよう。

 どの子を出すかは決めている、ユキメノコだ。ポケモンに指示をだす試験、彼女でないと駄目なのだ。他の子も以前からの信頼で言う事は聞いてくれる、だがそれではいけない。この世界でまっさらな状態から信頼関係を築いてきたユキメノコ。彼女と一緒に合格しないと意味がないのだ。

 

「おねがい、ユキメノコ」

「ユキィー!」

「お、ゴーストタイプ!いいねー」

 

 よかった、どうやらユキメノコはこの場所を怖がっていないようだ。今は寝ているオーガポンのように震えてはいなかったので、大丈夫だとは思ってはいたのだが、少し不安にも思ってはいたのだ。

 

「今から文字の書かれたカードを出すから、その通りに指示を出してね」

「わかりました」

「あ、言葉だけでね。動いて指示をしてはいけないよ」

 

 動きを真似させるのは駄目なのか。それもそうか、そんな事をしていては咄嗟に指示を出せない。

 

「それじゃあ始めるよ―――」

 

 

 

 

 簡単だった。右にくるっと一回転、前に進んで左を向く。そのまま後ろに下がり最後に主人の元へ戻る、これだけで終わりだ。

 いや、簡単だと調べて分かってはいたが、想像以上だ。

 

「おめでとう、玲君」

「…ありがとうございます」

「それで次だけど…本当にいいの?」

 

 今日は一回目の試験だけで終わりではない、次の試験も一緒に受けるつもりで来ている。

 認定印は一人につき最大八個、その最初の一個は何処で受けても同じものが貰える。二個目からは各タイプを象った印を受け取ることになるのだ。

 つまり最初の試験場では、二回試験を受けることが出来るということだ。

 ちなみに複数のタイプの試験場もあるみたいで、その場合は合格することが出来れば、受かった分の印を受け取れる

 

「はい、お願いします。あ、テスト受けてないですけど…」

「それは大丈夫、田所さんのお墨付きが出てるからね」

 

 よかった、田所さんに認められていたようで、テストは合格扱いのようだ。ジュジュちゃんとも話せたし、今日は良い事ばかりだ。

 

「それよりも辛くない?初めての試験で自分が思うよりも疲れているのもだよ」

「大丈夫そうです」

 

 確かに緊張のせいで、疲れてても気付かない事はあるだろう。だが問題ない、今は本当に疲れていないのだ。緊張する要素がなかったのだから。ユキメノコとはもう四年近いのだ、そんな彼女がいて不安に思う事などない。

 

「無理そうなら棄権もあるからね?」

「わかりました」

「それじゃあ…始めようか」

 

 さて、二回目の試験を始めよう。この世界での本当の意味での最初の試験、出すのはユキメノコではない。マスカーニャ、始まりは彼女がいいのだ。

 原作でもこちらの世界でも、一番長く一緒にいるマスカーニャ。本当の始まりは彼女と一緒に乗り越えたいのだ。

 

「マスカーニャ、一緒に戦ってくれる?」

「―――」

 

 マスカーニャのボールが優しく震える、どうやら想いは伝わっているようだ。

 彼女は強すぎて蹂躙のようになってしまうが、それは他の子でも同じこと。それなら強さを気にする必要はない。相手の子が可哀そうだが、それはもうどうしようもない、せめて半減される子が出てきてくれたらと思う。

 

「たのんだよ」

「デナァー」

「あ」

 

 シロデスナ。ゴーストじめんタイプで、砂の城のような体を持ったポケモンだ。この子が出る可能性も考えてはいたが、室内だし大丈夫だろうと思っていた。試験用の建物だし関係なかったか、この子には悪い事をしてしまった。いや、まだこれからなのだが。

 

  トリックフラワーは痛いだろう、はたきおとすもそれは同じ。かわらわりは効果がない。これはもう一回の威力が弱いトリプルアクセルで、少ない回数になる事を祈るしかない。他の技も一応使えはするのだが、精度の低いものになってしまう。それは手加減をするようなもので、あの子に失礼だ。幸い硬い子なので、もしかしたら痛くないかも…いや、ないか。あの子がどれくらい育っているかは分からないが、耐えられるとは思えない。マスカーニャは強いし、『へんげんじざい』なのだ。

 

「玲君、ポケモンを出してね」

「あの…はい。お願い、マスカーニャ」

「カニャーン!」

 

 マスカーニャは張り切っている!これは少ない回数は期待できない、全て命中してしまいそうな勢いだ。よほど試験に出られることが嬉しいのだろう、とてもいい笑顔でこちらにポーズを向けている。とっても可愛い、抱きしめてほっぺたスリスリしたい。

 

「それでは、…はじめ!」

 

 主人の嬉しそうな顔に満足し、気合十分なマスカーニャは相手を睨む。それで準備完了と判断したのだろう、沙織父が開始の合図を両者に出した。

 

「マスカーニャ!あれお願い!」

「カニャ!」

 

 主人の指示に頷きマスカーニャは走る。瞬間移動かと思うようなスピードで相手の前に到達し、反応しきれていない敵の目前で体を捻り、その溜めた力を解放し反対方向に回る。

 それはとても美しい三回転で、その鋭い足刀の連撃は全て相手に当たり―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――目の前には苦笑いした沙織父が立っている。

 

「こんなに強い子に指示を聞いてもらえるなんてね…」

「とってもいい子ですよ?ねー、マスカーニャ!」

「カニャーン!」

 

 どうやら沙織父に、マスカーニャの強さを怪しまれているようだ。それはそうだ、十歳には不釣り合いだろう、本来ならこのような子を連れていられる訳がない。だがもう気にしない事に決めたのだ。これからも皆と一緒にやっていくのだし、相手の反応を気にして彼女達を出さないなんて馬鹿らしい。

 しかしこれは二回目の試験だ。言うことを聞かせられないと思われて、不合格にされそうで少し怖い。

 

「…まあいいか。おめでとう玲君」

 

 だが沙織父は、マスカーニャの懐きようを見て気にするのを止めたようだ。笑顔で主人と頬を合わせている彼女を見て、指示を聞かないとは思わないだろう。

 

 そんな沙織父がファイルから一枚の紙を出す、何か注意事項でも書かれているのであろうか。認定証ではないだろう、友人達に実物を見せてもらっているのだ、このような紙ではなかった。

 それを見て父が近くにやってくる、息子だけでは判断できないと思ったのだろう。それはそうだ、まだ十歳の子供なのだから。

 

「白雪さん、こちら玲君の仮認定証です」

「はい、ありがとうございます、保志井さん」

「仮認定…」

 

 なるほど、この場では認定証を受け取れないのか。おそらく必要書類を提出しなければいけないのだろう。今は十五時ちょっと、これは急いで市役所に届けに行かねば。

 

「あー、玲くん…今日は土曜だから…」

「市役所は開いていないんだ。大丈夫、これがあればポケモンは出せるからね」

「…え?月曜まで受け取れないの?そんなぁ…」

「カニャー…」

 

 今日は土曜日、市役所は開いていない!

 ポケモンを出せるのはいいのだが、実物を早く見たいのだ。だがそれも月曜まで、いや、学校があるからその放課後まで受け取れない。

 学校が終わり、瀬川さんに家まで送ってもらい、母と一緒に市役所に行く。時間は足りるのか、窓口は開いているのか。経験がないので時間計算が上手く出来ない。

 

「大丈夫だよ、玲くん。お母さんがきっと行ってくれるから」

「ハハッ、放課後が楽しみだね」

「はい…」

 

 保護者が代わりに受け取れるものなのか、それは良かった。それでも放課後まで待たなくてはいけないのが辛いが。

 土曜に試験を受けなければよかった。いや、出来るだけ早く合格したかったのだ。一人で放課後に受けに来る事も出来ないし、これはもう仕方がない。沙織と会えて嬉しかったのだし、もう納得しよう。

 

「それとこれもね」

 

 手のひらに乗せられる二つのピンバッジ。白いボールと、幽霊を象ったマークの物が一つずつ。これはとても嬉しい。

 これがあれば何かが出来るという事はない、資格を示す物としては認定証だけで事足りる。しかしこれを貰えた事の方が、仮認定証を貰うよりも嬉しかった。

 

「嬉しそうだね。実は…シールなんかもあるんだけど…買うかい?」

「ほ、ほしい!お父さん、お願い!」

 

 商売上手なんだから!

 

 




なまえ:マスカーニャ  とくせい:へんげんじざい

 わざ:トリックフラワー はたきおとす
    トリプルアクセル かわらわり
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