ポケモンが現れた世界に生まれて   作:ダダダッダ

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十九話

 商店街の一画にある小さな公園のトイレの陰、沙織とのデートの途中で目を付けていた場所だ。今からここでタブレットからポケモンを出す。

 新しい家族を迎える場所としては、ムードも何もありはしないが。他にいい場所はなかったので、あの子には後で誠心誠意をもって謝ろう。

 

「エースバーン、準備はいい?」

「バースッ!」

 

 エースバーンにはもう出てもらっている。ここは公園で、許可看板が出ている。ポケモンを出しても問題はないのだ。

 その彼女は今、新しい家族、それも同郷の者が来るとあってとても気合が入っている様子。この分なら何があっても大丈夫だろう。

 あの子の事を危ないと思っている訳ではないが、実際には会ったことがないので用心は大事だ。

 

「始めるよ」

「バスッ」 

 

 公園内に人影はなし、今なら出しても大丈夫だろう。そろそろ始めよう、あまり遅くなると瀬川さんが迎えに来てしまう。

 タブレットを鞄から出し、電源を入れる。アプリを起動し、目当ての子の名前を探し出し指で触れる。

 

 画面から光が溢れ出し、そこから飛び出る一つの影。その影は自分の前にある気配に目を鋭くさせ身構える。

 しかし目の前にいるのが誰かを知ったその者は、段々とその表情に驚愕を表し。遂には構えを解きゆっくりとこちらに近づいてきた。

 危険がないと確信した玲は、タブレットを鞄に入れその子に向かっていく。

 

「久しぶりだね、ルカリオ…待たせてごめんね」

「…カオンッ」

 

 その子の名前はルカリオ、犬の獣人のような姿をしたポケモンの女の子だ。

 先程までは凛々しかったその表情を歪め、目を潤ませるその顔を見てどれだけ自分の事を想っているかを知る。

 

「会いたかったよ…ルカリオ。また僕と一緒にいて欲しいんだ…」

「カオン!」

「…え!?」

 

 その子の想いに嬉しくなり更に近づいたその時、ルカリオが急に身をかがめ地面に膝をつく。

 テレビで見た事のあるその姿はあれだ、忠誠を誓うポーズ。

 

「る、ルカリオ!いいんだよ、膝をつかなくても!汚れちゃうよ!」

「カ、カオン!」

「そんなに喜んでくれるんだね、僕も嬉しいよ。でも膝はつかなくていいから!」

 

 地面に片膝をつけ立ち上がろうとしないルカリオ、そんな彼女に抱きついて無理やり立たせる。

 土で汚れた膝を手で払うと、それに感動したらしい彼女が更に泣き出す。

 慌ててハンカチを取り出し涙を優しくぬぐう。次から次に溢れ出す涙に、どう対応すればいいのか誰か教えて欲しい。

 

 そうやってしばらく彼女の目元にハンカチを当て、涙が止まるのを待っていると。ようやく感情が収まって来たのか、ルカリオは泣くのを止めてくれた

 

「ルカリオ…落ち着いた…?」

「カオン…」

「そっか…落ち着いたんだね。大丈夫、怒ってないよ。僕もすごく嬉しいから」

「カオンッ」

 

 また少し泣きそうになるルカリオ。だが彼女はこれ以上は迷惑をかけると思ったのか、自分の腕で眼元を拭い、瞳を閉じて無理やり涙を止めていた。

 感動の再会に泣いてくれるのは、こちらとしてもとても嬉しい。出来ればもう少し彼女と一緒に喜び合いたい。

 だがあまり時間を掛け過ぎると、瀬川さんが駅に着いてしまう。申し訳ないが家でいっぱい可愛がってあげるので、今は少し急がせてもらう。

 

「ルカリオ、一緒にいて欲しいんだけど、来てくれる?」

「カオンッ」

「ありがとうルカリオ、嬉しいよ。これね、大事な家族に入ってもらうボールなんだ」

「カ、カオーンッ!」

「うん、嬉しいんだね!それじゃいくよ!」

 

 鳴き声を上げるルカリオに、急いでボールを当てる。彼女は一回だけ震え、すんなりとボールに収まった。

 よかった、少し思っていた展開と違ったが、彼女が家族になってくれた。

 

 だがそこで急にボールが震えだす、安心した瞬間だったのでとても驚いた。

 何か問題があったのだろうか、不具合か何かで彼女が苦しんでいたら大変だ、何かを訴えているのであろう彼女を急いでボールから出してあげる。

 

「カオォーン」

「そ、そうなんだね。そんなに喜んでくれて僕も嬉しいよ」

 

 しかしどうやら彼女は、住み心地のいいボールに入れてくれた事への感謝を伝えたかっただけらしい。

 いや、喜んでくれるのは嬉しい。だが心臓に悪いので、あの緩急をつけた震え方は出来れば止めて欲しい。

 

「…大丈夫みたいだよ、エースバーン」

「バス…」

「ありがとうね。エースバーンのおかげで安心できたよ」

「エバース」

 

 何事もないようでよかった、安心したのでエースバーンをボールに戻してあげる。空気のようになってしまっていた彼女に申し訳ない、あとでいっぱいナデナデしてあげよう。

 だが今は、ルカリオをボールに戻して急いで駅に戻らなければ。これ以上遅くなっては、瀬川さんが来るまでに間に合わなくなってしまう。

 

「よかったな!ポケモンゲットおめでとう!」

「でもバトルはダメだよ!ここ公園だよ!?」

 

 しかしそんな急いでいる時に、兄弟らしき小学生の二人の声に、動きを止められる。

 どうやら彼らはルカリオをボールに入れた瞬間を見ていたようで、祝いの言葉をこちらに送ってくる。

 彼らの様子から、タブレットから出すところを見られた訳ではないようで安心した。

 

「それは駄目だな!見なかった事にしてやるから、そいつくれよ」

「なんで?」

「いま言ったよ!バトルダメだよ!」

 

 それは聞こえている。商店街のあまり大きくない公園だ、バトルを禁止されていても不思議はない。ポケモンを出す許可看板はあるが、それは出すことだけを許可するというものだ。

 しかしこの状況には問題はない。

 

「知ってるよ、定められた場所以外での戦闘は禁ず」

「なら分かるよな?」

「でもそれは、生命の危機の恐れがある時は除外されている」

「は?」

「つまり野生のポケモンを相手にする時は、生命を守る目的で戦う事に問題はないんだよ」

 

 特殊な形で大事な家族を出すのだ、法に抵触しないようにしっかりと調べてきている。ルカリオをボールに入れる事に、何の問題もない。

 ボールに入っていなかったため野生扱いで、生命の危機と認められる。それに実際にはバトルもしていないのだから。

 

「だから別に見なかった事にしてくれなくてもいいから。誰にでも言っていいよ」

「にいちゃん…」

「それと仮に、この子を渡したとしても意味はないよ」

「え?」

 

 ルカリオは今の状況を見ているのだ。人から無理矢理ポケモンを奪うような人に、彼女が付いて行く訳がない。

 ポケモンは出ようと思えばボールから出る事ができる。大人しく入ってくれているのは主人を想ってくれているからだ。

 

 どうやら彼らは、ポケモンの事を何も知らないらしい。恐らく家族の誰も、ポケモンを一匹も連れていないのだろう。

 もしいたら最初に教わっているはずだ、危ない時はポケモンを頼れと。そうでなければ野生のポケモンと戦ってはいけないなんて思うはずがない。

 信頼が無くなれば逃げる事だって、家族がポケモンを連れていれば教わるだろう。

 

「だから無理矢理ボールを奪ってもすぐに逃げるよ。残念だったね」

「…おまえ!」

「カオン」

「な、なんだよ」

 

 兄の方が殴りかかろうと走り寄ってくるが、ルカリオが間に入り主人を守ってくれる。そんな彼女の顔は険しくなっていて、あの子供に対し強い苛立ちを感じているようだ。

 このままでは不味い。ルカリオは自分から殴りかかるような事はしないだろうが、向こうからの攻撃は受け流しはするだろう。

 もしそれに苛立ちから力が入りすぎてしまったら、相手は怪我をするかもしれない。怒ってくれるのは嬉しいが、怪我をさせるのは駄目だ。

 

「ルカリオ、この子を怒らないであげてね」

「カオン?」

「ルカリオが美人さんだから、…惚れちゃったんだよ」

「カ、カオォン…」

「にいちゃん?」

「ち、ちがう!ふざけんなよ、お前!」

 

 ルカリオが照れている、主人に美人と言ってもらえたことが嬉しいようだ。だがそれで彼女も分かってくれたようだ、少年の淡い恋心に。仕方のない子ね、とでも言うように優しい目をしている。

 

「違うからな!こんなダサい奴!ぜったい弱いし!」

「カオッ」

「ダメだよ?好きな子だからって意地悪しちゃ」

「にいちゃん?」

「ちげぇよ!ちげぇからな!」

「大丈夫、ルカリオは可愛くて綺麗だよ。強い事も知ってる。僕は大好きだからね」

「カオォーン…」

 

 ルカリオを抱きしめて頭を撫でる。胸にトゲがあって抱きしめにくいな、後ろからの方が密着度が増していいだろうか。要相談だな。

 とそこでタブレットから音が鳴る、画面を見れば瀬川さんの表示。思ったより時間が経っていたようだ、待たせてしまい申し訳ない。

 

「ルカリオ、ちょっとだけ止めておいてね」

「カオンッ」

「あ、そこのキミ。女の子を殴るのはカッコ悪いからね!好きな子は大事にしないとだよ?」

「にいちゃん…」

「ちげぇー!」

 

 叫ぶ少年を置いておいて瀬川さんと連絡を取り、今の場所とここから動けない事を伝える。

 瀬川さんに頼ってしまい申し訳ないが、あの興奮した少年が逃がしてくれるとは思えない。大人の力を使わせてもらおう。

 

「ありがとうね、ルカリオ」

「カオッ」

「おい、お前!ふざけんなよ!」

「え、なに?好きなんでしょ?」

「違う!何回も言わせんな!」

「じゃあ、もういいよね。さよなら」

「いいわけねえだろ!」

「え?ルカリオの事はもういいんじゃないの?やっぱり好きなの?」

 

 瀬川さんを頼ると決めたとはいえ、出来る事なら自分で彼らを追い払っておきたい。しかし彼らは帰るつもりはないらしく、目の前から退こうとしなかった。

 

「迎えも来るから、あと少ししかいられないよ?」

「は?何してんだよ!大人呼んだのか!?」

「え?それは呼ぶよ。もう暗くなったから帰らないとだし、退いてくれないから」

「男だろ!?ケンカだろ!?ダセェ!ふつう呼ぶか!?」

 

 残念だけど喧嘩ではない、無理矢理な理由で恐喝されているだけだ。この状況なら普通は誰か大人に頼る、何処にも問題は見当たらない。

 

「もう遅いから、君たちも早く帰った方がいいよ?商店街の子?ご両親は近くにいる?」

「にいちゃん、おとなはダメだよ…」

「く、そ…覚えてろよ!」

 

 どうやら帰ってくれたようだ。よかった、これで瀬川さんに面倒を押し付けずに済む。大人の力を頼ったことには間違いないのだが。

 

「守ってくれてありがとうね、ルカリオ」

「カ!カオォンッ!」

「ダメだった?イヤだったら言ってね」

「カオッ…」

 

 目の前で守ってくれていたルカリオを、後ろから抱きしめ頭を撫でる。やはりこちらの方がいい、身長的にも撫でやすいし、この子も嫌がっていないので問題ないだろう。

 あとは家族に紹介してどうなるかだ。みんないい子だし、大丈夫だとは思うが。

 

「玲様?」

「あ、瀬川さん!見て、新しい家族が出来たんだよ!」

「カオォン…」

 

 まずは目の前にいる瀬川さんに紹介しよう、新しい大事な家族を。

 

 

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