ポケモンが現れた世界に生まれて   作:ダダダッダ

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二十一話

「おはよう、わたなべさん…」

「おはようございます、お坊ちゃん」

 

 春休みもあと僅か、来週からは新学期が始まる。この一日中のんびりと過ごせる時間がもうすぐ終わる。

 今から少し憂鬱だ。友達とも会えるし、決して学校が嫌という訳ではないのだが、家の居心地が良すぎるのだ。

その功労者が目の前にいる、ついつい甘えたくなってしまうではないか。

 

「どうかしましたか、お坊ちゃん?」

 

 昨晩の光景を思い出す、自分の事を母と同じように呼ぶ彼女の姿。

 嫌がることは絶対にないだろう、渡邊さんは受け入れてくれるはず。こんな事、大きくなったら出来はしない。今の許してもらえる子供のうちに、精一杯甘えさせてもらおう。寝惚けていたと言い訳も出来る、突き進むのだ。

 

「わたなべさん…」

「ッ、…お坊ちゃん?」

 

 渡邊さんに正面から抱き着く。彼女は少し驚きはしたが、その暖かな手を優しく背中に回してくれる。嫌がられることはないとは思っていたが、受け入れてもらえてとても嬉しい。

 

「まだ眠いのですね」

「うん…。ジャマしてごめんなさい…」

「問題ありません。もう少しこのままでも構いませんので」

 

 自分は春休みでゆっくり出来るが、仕事中の彼女は朝は忙しい。邪魔してしまい申し訳ないと思い渡邊さんに謝るが、彼女は問題ないと言う。

 そう言ってくれるなら、もう少しだけ抱き着いたままでいさせてもらおう。彼女の温かさを、もっと堪能させてもらいたかったのだ。

 

「あったかいね、わたなべさん」

「お坊ちゃんも温かいですよ」

 

 顔に当たる二つの丘、小さくてもしっかりと愛が詰まっている。母なる大地の様に硬くて暖かい、そんな優しさに包まれて、このまま眠ってしまいたくなる。

 しかしこんな素晴らしい時間を、寝て過ごすなんて事はしたくない。眠気に抗うように渡邊さんの二つの愛に、己の顔をグリグリと擦りつける。そんな子供の蛮行を、彼女は嫌がることはなく受け入れてくれて、優しく頭を撫でてくれた。

 

「わたなべさん、だいすき」

「私も大好きで御座いますよ」

 

 とてもいい匂いがする。暖かいしこのまま離れたくない。

 仕事の邪魔をして申し訳ないが、あと三分、いや五分。それで終わりにするので、もう少しだけこのまま願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 とても名残惜しいが何時までも甘え続けている訳にはいかない、断腸の思いで渡邊さんの温もりから離れたのだった。

 そして現在は起きている皆と朝ご飯を食べ終え、リビングでのんびりしているところ。今日は特にやることがないのだ。

 

 さて誰と遊ぼうかと考えるが、今ここにいるのは数匹だけ。一緒に寝ていたオーガポンは一階に降りてくる様子がないので、まだベッドで寝ているのだろう。

 他の皆はボールラックの上、揺れていないので恐らくおやすみ中。

 起きているのはルカリオとユキメノコの二匹。いや、一応はバウちゃんもか。テレビの前でウトウトして半分寝ているので、起きているといっていいのか怪しいが。無理しないで寝ていていいんだよ。

 ルカリオとユキメノコは渡邊さんと食器のお片付け中、邪魔をしちゃいけない。ちなみに手伝おうとすると遠慮される。

 だがそうだな、これはどうやら決まったようだ。ターゲットは眠そうなあの子だ。ヘイ!カノジョ、一緒に寝ない?

 

「レーくん、何かいい事あったの?」

「そうかな?普通だと思うけど」

「すごく楽しそうよ?」

 

 普通にしていたつもりなのだが、どうやら母には分かってしまうらしい、息子のテンションが高くなっていると。朝の件が嬉しすぎて、感情の制御が甘くなっていたようだ。

 これは話した方がいいか、変に隠していた方がいらぬ誤解を与える。渡邊さんのおっぱいは嬉しかったが、厭らしい目的であのような事をしたつもりはない、彼女も自分をそんな目で見ている訳ではないだろう。

 

「そうなの、それで渡邊さんも嬉しそうにしてたのね。よかったわね、レーくん」

「その…奥様、申し訳ありません」

「いいのよ、渡邊さん。レーくんを大事に想ってくれて嬉しいわ。渡邊さんなら安心だもの」

「あ…ありがとうございますッ、奥様」

「これからもレーくんをお願いね」

「はいッ、奥様ッ。全身全霊でお坊ちゃんを大事にしますッ」

 

 どうやら母も、渡邊さんが息子に何かするとは思っていないようで、疑う事をしもしない。二人は長い付き合いらしいので、信頼しているのだろう。

 これからも渡邊さんに抱きついていいようだし、彼女も全力で可愛がってくれるだろう、これで一件落着だ。

 

「レーくん」

 

 だがどうやら母は羨ましいようで、横に座っている息子をチラチラ見ている。母に何もしていない訳ではない、風呂などで十分甘えていると思うのだが、それだけでは足りないのだろうか。

 別に嫌なわけではない。母の体は柔らかいし良い匂いがする、嬉しいので甘える事に問題はない。そういう事なら思う存分に堪能させてもらうとしよう。

 

「お母さん、頭乗せていい?」

「もちろんよ、レーくん」

 

 膝枕、ソファーに座る母の太ももに頭を乗せる。上を向き、大きなおっぱいに隠れた母の顔を見る。大事な息子を見るその優しい眼差し、とても嬉しくなってくる。

 そうだな、今はそういう時間にしよう。もうすぐ春休みも終わって新しい学年になる。そんな時に昔を思い出すのは大事だと思う。

 

「バウちゃん」

「ボワオ…?」

「おいでー」

「わんおっ」

 

 必死に眠気を我慢していたバウちゃん。彼女を呼ぶと、こちらの意図に気付いたのか、嬉しそうにソファーに駆け寄ってきた。彼女を持ち上げ抱き締めて、横になり母の膝枕を堪能する。

 ルカリオとユキメノコが羨ましそうに見ているが、今はそういう時間と決めているのだ。後でいっぱい可愛がってあげるので、少しだけ許してほしい。

 

「バウちゃん、あったかい…」

「バォ…」

 

 母とバウちゃんとの三者だけの時間、とても懐かしい。体が大きくなって色々変わったが、この温かさは変わらない。

 髪を優しく撫でる母の手の感触と、バウちゃんの鼓動を感じる、この時間が昔から大好きだ。

  

「レーくん」

「なにー?お母さん?」

「レーくんはバウちゃんが進化したら嬉しい?」

 

 と、そんな時、母が急にそんな質問をしてくる。

 バウちゃんが進化した姿は知っている、原作で見てきているのだから。とても可愛いし格好いい、昔から大好きなポケモンだ。だがバウちゃんがその姿になるというのは、少し考えてしまう。

 

「…進化させるの?」

「まだ決めてないの」

 

 どうやら母は、進化させると決めたわけではないようだ。家族の意見を聞きたかっただけなのだろう、この様な質問をされるとは思っていなかったので吃驚した。

 

「何年か前にね、方法が見つかっていたみたいなの」

「そうなんだ…」

 

 バウちゃんの種族名はガーディ、進化に必要な物は『ほのおのいし』だ。あんな見た目の石なのだから、ほのおタイプの彼女の進化方法は分かりやすかっただろう。

 理由は分からないが、今まで情報が出回っていなかったのは、確定していなくて発表されていなかったのであろうか。

 

「えっと…お母さん」

「レーくんは今のままがいい?」

「…うん」 

 

 もちろん進化してもバウちゃんな事には変わらない。変わっても大好きなままだと、確信を持って言える。それでも今のままのバウちゃんの方がいいと、そう思ってしまうのだ。

 進化すれば大きさが倍以上になる、重さなんて百五十キロだ。今のようにソファーの上で抱き合うなんて出来なくなってしまう。

 

「出来たらこのまま、バウちゃんと抱き合って、お母さんとソファーでのんびりしたい」

「わんお」

「でも…、バウちゃんが大きくなりたいなら、そっちの方がいいよね…」

 

 大きなバウちゃんに抱きつくのも気持ちいいだろうし、それに惹かれる気持ちもある。だけど母とバウちゃんとソファーの上で過ごす、大好きなこの時間を無くしたくない。

 だがそれはただの我儘だ、彼女の進化したいという気持ちを無視してはいけない。

 

「だいじょうぶよ、レーくん。進化させるつもりはないから」

「ボワオッ」

「バウちゃんも心配するなって言ってるわ」

「…いいの?」

「ええ。お母さんもバウちゃんも、いっしょに仲良くお昼寝したいもの」

「ボウ」

 

 よかった、母はバウちゃんを進化させるつもりはなかったようだ。

 だがそれならどうして聞いたのだろう、確認は必要ないはずだ。父にもバウちゃんと一緒に戦わないと言ってあるのだから。わざわざ母に席を外してもらってまでした大事な話、伝えていないなんて事はないと思うのだが。

 

「お母さん、進化させないなら、どうして聞いたの?」

「バウちゃんがね、レーくんのために頑張りたいって」

「わんおッ」

 

 やはり伝わっていないなんて事はなかった。それでも聞いたのは、バウちゃんの想いを感じ取ったからなのだろう。 

 バウちゃんの気持ちは嬉しい、だけど困ってしまった。彼女は母の手持ちだ、原作の不思議アイテムで育てるという訳にもいかない。

 これからどんどん強い子達が来る予定なので、せっかく進化してくれても試合に出してあげられないかもしれない。それはいくら何でもひどすぎる。

 だが断るのも彼女の想いを無下にしてしまう様なもの、どう答えればいいのだろう。

 

「あ、えっと…」

「大丈夫よ、バウちゃんも分かってくれてるわ」

「…ごめんね、バウちゃん。自分で育てた子達と一緒に戦いたんだ…」

「わんお」

「バウちゃんがキライで連れて行かないんじゃないんだよ…」

 

 しかしバウちゃんは、心配するなと言うかのように頬を舐めてくれる。彼女は分かってくれているようだ、嫌いで一緒に連れて行かない訳ではないと。それどころか悩む姿を見て励ましてくれた。

 そんな彼女の優しさがとても嬉しい、抱きしめる力が強くなる。

 こんなに自分を想ってくれるのだ、一緒に戦っていく事は出来ないが、それでもバウちゃんの想いには応えよう。これからも家族として大事にしていこう。

 

「あら、レーくん。バウちゃんの大好きのチューよ」

「ぼわお、わおん」

「大事にしてあげなくちゃね」

 

 と、そんな時、母が嬉しそうに微笑みながらそのような事を言う。

 大事にするとは決めたのだが、そう言われると照れてしまうではないか。こういう場合は何て言えばいいのだろう。

 

「えっと…。僕も大好きだよ、バウちゃん!」

「わんお!」

 

 バウちゃんさんを幸せにします!

 

 

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