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「おいおい、それ、三回目受かったのか!レイレイおめでとうな!」
「ほんとだー!おめでとー、レイくん!」
「あ、ありがとう、コウキくん、ササラちゃん」
五年生になって初めてのポケモンバトルの授業。紗更と高貴の間に座って、クラスメイトの戦闘を眺めていた。
膝にはユキメノコが頭を乗せていて、とても心癒される時間を味わっている。膝枕である、少し足がしびれてきたが我慢だ。
そんな風にユキメノコに癒されていたら、三回目の認定試験の合格を彼らに祝ってもらえた。どうやらボールホルダーに付けているピンバッジを見つけたようだ。
そしてそんな声を聞きつけて町田と須田もやってくる。
「え?なによユッキー、もう受かったの?おめでとう!」
「おめでとう!でも、もっと早く教えてくれればいいのに」
「そうね、始業式の日に教えてくれればいいのに」
「ごめん、なんか言いにくくて」
二人は早く教えてくれればいいと言うが、三回目の試験を十歳で合格できる人は多くはない、自慢みたいに聞こえると思い言いにくかったのだ。
「そうだね、僕だったら言えなかったかな」
「まあ、そうね。なっつんだったらイラッとして殴ってたかも」
「冗談ですよね?…え!じょうだんだよな!?」
「冗談よ」
どうやら彼女達も分かってくれたようだ、今まで言わなかった理由を。町田も高貴が言ってたら、自慢だと思って殴っていたらしいし。いや、彼女は本当に殴る様な事はしないだろうが。
高貴もそれは分かっているだろうが、それでも不安なのだろう、大声で確認している。
「ユキィー!」
「ご、ごめん…」
しかし高貴のそんな大きな声に、主人の膝を堪能していたユキメノコが怒る。
ごめんねユキメノコ。高貴が煩いかもしれないけど、もう少しだけ横になっててね。急に動かれると足が厳しいんだよ。
「それより、どこで受けたのよ?」
「かくとうだね」
「その子が来たからー?」
「ううん違うよ、ササラちゃん。ルカリオは試験の後」
「タイプ相性も関係ないしね」
ルカリオの事はみんなに紹介している、新しい家族を友達に見せたかったのだ。
残念ながら今は出してあげられない、相田がいるからだ。彼の相棒のセイくんの種族はリオルで、もし相田が進化先のルカリオを見たら、どう反応するか分からなくて怖い。
だがそれでもルカリオは今も腰元にはちゃんと居て、一緒に友人達との会話を楽しんでくれている。
「どの子を出してあげたのー?オーガポンちゃん?」
「ううん、違うよ。ユキメノコが頑張ってくれたんだ」
「ユキィー」
「そっかー、ユキメノコちゃん強いもんねー」
彼女達は授業で見ていて、ユキメノコが強いのを知っている。タイプ相性もあり試験を突破できても不思議ではないと思ってくれたようだ。
「一匹だけで合格したの?」
「試験官が対策してくるから厳しいわよ、きいつくん」
「そ、そうだね、ま…ちださん」
「テブリムも頑張ったんだ」
「て、テブリムちゃん!大丈夫なの!?」
「う、うん…試合だと大丈夫。少し離れてるからね」
「そうなの…よかった…。あ、わたし次みたい。行ってくるね」
膝枕してて動けない。町田の眼光からは、にげられない!しかし相手の方から離れてくれた、ハルハルセンセーありがとう。
試合のために相棒のふわわんちゃんと一緒に歩いていく町田を見送る。
どうやら相手は学級委員長の笠沼のようだ。彼女の相棒はまだ進化していないが、タイプ相性もあり厳しい。これは時間がかかりそうだ。
「あ、あの…白雪くん…」
「ごっちー…」
「ロカちゃん、チルチーちゃん、どうしたの?」
「だいじょうぶー?何かあったのー?」
「ピハー?」
「レイレイ!…何かやった?謝った方がいいよ?」
町田と入れ替わる様にクラスメイトの諸岡が歩いてきた。相棒のゴチムのチルチーちゃんも一緒で、彼女達は少し暗い顔をしている。
紗更はそんな彼女達の顔を見て、何かあったのかと心配そうに声をかける。小さくなって主人の膝の上に座っていたピーちゃんも、お友達のチルチーちゃんに駆け寄り体に手を当てていた。
そして僕は何もやっていません、無実です。
「えっと、ちがうの…何かあったとかじゃないんだけど…」
「そうなのー?」
「うん…白雪くんに、ちょっと…お願いがあって」
「ごっちーむ…」
「え、お願いって?僕に出来ることならいいけど」
「ごめんね、レイレイ」
よかった、どうやら彼女達に何かあった訳ではないようだ。紗更達も諸岡の言葉を聞き安心したのか、表情を和らげている。
あと高貴は絶対に許さない、ジュース一本だ。
「あの…白雪くん試験に受かったでしょ?」
「え、うん。さっきの話、聞こえてた?」
「ご、ごめんなさい…」
「あ、いやいや!怒ってるんじゃないよ。コウキくんの声!うるさいもんね!しょうがないよ」
「大きいもんねー、聞こえちゃうよー」
「ごめんね、レイレイ」
高貴の声は大きいので聞こえてしまっても仕方がない。それに聞かれて困る話でもないのだし、そんなに気にしなくてもいいのだ。
「その、それで…すごいなって思って…あの、出来たらなんだけど」
「うん」
「嫌じゃなかったらでいいんだけど…お、教えて欲しいな…って」
「いいよいいよ、全然いいよ!なんだそのことか、何かと思った!」
「ねー、びっくりしたよー!」
「ユキィー」
以前から言っているのだ、聞きたいことがあったら何時でも来てと。なのにあんなに深刻そうな顔をしているから、何を言われるか分からなかったのだ。
静かに事の成り行きを見守ってくれていたユキメノコは、嬉しそうに頬をすり合わせてくれる。信じてくれてありがとうねユキメノコ、大好きだよ。
「友達は信じないと駄目だよ、こうきくん」
「そうだよね、スダーンくん」
「コウキくん、雪解けサイダーね」
「おう!」
須田もきっと信じてくれていたのだろう、何も言わずに見ていてくれたのだから。
高貴も反省してくれているようだし、この辺でいいだろう。
「前にも言ったのに、いつでも聞きに来てって」
「う、うん…でも、いっかい断ったから、悪いかなって…」
「そんなの気にしなくていいのに、自分の相棒だから自分で考えてあげたかったんだよね?」
「うん…、でも最近勝てなくなってきたから…この後も相田くんが相手みたいだし…」
「そっか、それじゃ…まずは相田君に勝とうか」
「…勝てるかな?」
「絶対じゃないけど多分いけるよ、チルチーちゃんならね」
春休み前に見た相田の相棒、リオルのセイくんの技の構成。先制わざの『でんこうせっか』と、メインウェポンで『メタルクロー』を使う。『カウンター』もあるが、チルチーちゃんには意味がない。遠距離技として『しんくうは』を採用しているようだが、セイくんのなら痛くはないので問題なし。
この短期間では新しい技を覚えることは出来ないはず。タイプ相性もあるし、戦い方を考えれば負けはしないだろう。
「え、本当?光線みたいなのじゃないよね?」
「う、うん…光線ではなかった…と思う…けど、だめだった…?」
「だめじゃないよ、それ使っていこう。あとは―――」
よかった、諸岡はチルチーちゃんがあの技を使える事を知っていた。ポケモンが技を使えても主人がそれを知らない事もあるのだが、そのパターンは回避された。後はあの技を使っていけば問題はないだろう。
「あの、そんな事してて…いいのかな?バトルの授業なのに…」
「大丈夫、ちゃんとした技だよ。あ、でも…チルチーちゃんは恥ずかしいかな?」
「えっと…チルチー、出来る?」
「ごち!ごっちーむ!」
「やるって…」
チルチーちゃんは可愛らしく胸を張って、高らかに鳴き声を上げている。どうやら彼女は、勝つためなら少しくらいの恥ずかしい事は出来るようだ。
「この様子なら大丈夫そうだね、チルチーちゃん」
「ごっちーむ!」
「あ、…順番きたみたい…」
「最高のタイミングだよ。ロカちゃん、チルチーちゃん、頑張ってね」
「がんばってねー、ロカちゃん、チルチーちゃん」
「まけるなよ!ロカちゃん!」
「がんばってね」
諸岡がチルチーちゃんを伴い、担任と相田の待つコートに歩いて行く。それをいつもの友達と一緒に、彼女達の勝利を信じて見送った。
「勝っちゃった…」
「ごち…」
相田との勝負に勝った諸岡が、チルチーちゃんと一緒に戻ってくる。彼女達は勝てたことが信じられないのか、唖然とした顔をしていた。
しかし段々とその事実に気付き、顔に喜びが溢れてくる。
「おめでとう!上手くいったね」
「よかったねー!ロカちゃん!」
「ありがとうっ、本当に勝てた!あ、えっと…ごめんね、疑ってたわけじゃ…ないんだけど」
「いいよいいよ、大丈夫。怒んないよ」
彼女は疑っていたことを謝るが、別にそんなことで怒りはしない。今まで何回やっても勝てなかった相手だ、信じられなくても仕方がない。
「でも…どうして勝てたのかな…?」
「力が抜けてたからだよ」
諸岡に教えたのは、まずは『あまえる』でリオルくんの攻撃力を下げて耐えられるようにし、その次に『くすぐる』で防御力も一緒に落としていく。あとは力の抜けた体に『サイコショック』を打ち込む、たったそれだけの事だ。
普通に戦えば、彼女達が相田に負け続ける事なんてあるはずがない。育成状況に差があったとしても、タイプ相性があるのだから。その差も学生同士でそこまで大きなものではない。
なのに彼女は今まで相田に勝てなかった。
この世界の人は、自分とは違い全ての技を把握している訳ではない。ポケモン自身に教えてもらって、初めてその技の存在を知るのだ。
だがそんな教えてもらった技も、効果の全てが目で見えるわけではない、技と認識できないものもある。
つまり『あまえる』や『くすぐる』、他にも『あくび』等は、その見た目で多くの者に技だと思われていないようなのだ。
もちろん知っている者もいるだろうが、それも実際に戦いで何回も使用して、差を実感してきた人だけだ。見ているだけの者では、なかなか分からない。
学生たちも授業で習ってはいる。しかしその内容と、自分のポケモンが遊びでやっているものの区別が付けられない。
学校で教わってはいるが本当に効果があるのか疑わしい技より、少しでも早く相手を倒すことを優先して、攻撃技を使っているようなのだ。
「力の抜けた体に、強い衝撃がくれば耐えられないからね」
「甘えるだけでそんなに違うんだ…」
どうやら彼女に技の有用さを知って貰えたようだ、相田に負け続けるなんて事はもうないはずだ。
「ユキィー」
「ごっちー」
ユキメノコが主人に抱き付き、チルチーちゃんに見せ付けている。どうやら主人を自慢しているようだ。
だがチルチーちゃんは嬉しそうに鳴いていて、そんな彼女の笑顔にユキメノコも嬉しそうに笑い、なにやらここに友情が築かれたようだった。
「かわいいなー、ユキメノコ。自慢してくれて、ありがとうね」
「ユキー!」
「チルチーちゃんも、この子と仲良くしてくれて、ありがとうね」
「ごっちーむ!」
ユキメノコに抱きつかれながら、チルチーちゃんに手を伸ばす。彼女はこちらの意図に気付いたのか、頭を出してくれる。その可愛い頭を優しく撫でると、嬉しそうに鳴いてくれた。
やった、ついに心を開いてくれた。頭を撫でることが出来たのだ。少し前までだったら怖がられて、この様な事は出来なかっただろう。主人のクラスメイトというだけの関係なのだから仕方がないが。
その遠い関係故に情動を抑えていたのだが、今なら出来るはずだと勇気を振り絞ってよかった。ユキメノコとチルチーちゃんという新しいコラボに、心が熱くなってくる。
「相田くん大丈夫かしらね」
「勝てると思ってた相手だからね」
とそんな風に、ポケモン達と和気藹々としていると、友人達の会話が聞こえてくる。見れば相田は壁際で胡坐をかいて俯いており、そんな彼の姿に相棒のセイくんが申し訳なさそうに佇んでいる。
「セイに当たってなくてよかったな…」
「セイくんは頑張ってたからね」
「相田くんも分かってるんだと思うよ」
「でも無視はだめよ」
「うん、あんなに謝ってるのにねー」
相田も分かっているのだろう、セイくんが頑張って戦っていたと。タイプ相性の悪い相手でも、勝利を諦めなかったのだと。だから彼もセイくんを言葉で殴りつける様なことはしない。
それでも今まで負ける事のなかった相手に、勝てなかったのが悔しくて、あのような態度を取っているのだ。相棒を無視するのは駄目だが。
「―――」
ルカリオのモンスターボールが、腰の横で静かに震えていた。
セイくんの技の構成を、『いわくだき』から『メタルクロー』に変更しました。
前のままではユキメノコに対して何も出来ないので。
申し訳ありませんが、ご了承お願いします。